遺言執行者を解任する方法|解任できる事由と家庭裁判所への請求の流れ
10秒でわかる この記事の要約
- 遺言執行者の解任は、相続人どうしの話し合いではできず、利害関係人が家庭裁判所に請求する(民法第1019条第1項)。
- 解任の事由は「任務を怠ったときその他正当な事由があるとき」。執行が進まない・報告がない・公平性を欠くなどの事情が判断材料になる。
- 執行者みずから辞める「辞任」は、正当な事由+家庭裁判所の許可が必要(民法第1019条第2項)。円満な交代なら辞任の形をとれることもある。
- 解任請求の代理は弁護士、裁判所提出書類の作成は司法書士の業務。行政書士法人は解任請求を代理できないため、当法人は連携弁護士の紹介と、これから作る遺言での執行者設計(予防)を担当する。
遺言執行者の解任とは、執行者が任務を怠ったときその他正当な事由があるときに、利害関係人の請求にもとづいて家庭裁判所が執行者を職から外す手続きのことです(民法第1019条第1項)。 「執行者がまったく動いてくれない」「報告を求めても返事がない」という場面で検討される手段ですが、相続人の多数決や話し合いだけで解任することはできません。
本記事では、相続を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、解任が認められうる事由、手続きの流れ、辞任との違い、そしてそもそも解任騒ぎにならない遺言の作り方を解説します。なお、解任請求などの家庭裁判所手続きの代理は弁護士の業務のため、具体的な紛争対応は提携弁護士と連携してご案内します。
解任は家庭裁判所への請求が必要
民法第1019条第1項は、次のとおり定めています。
遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。(民法第1019条第1項)
ポイントは2つです。第一に、解任を求められるのは利害関係人(相続人・受遺者など)であること。第二に、家庭裁判所への請求が必須であることです。相続人全員が「辞めてほしい」と一致していても、裁判所の手続きを経ずに執行者の地位を奪うことはできません。
遺言執行者には、遺言の内容を実現するための包括的な権利義務が認められており(民法第1012条)、相続人は遺言執行を妨げる行為ができない立場にあります。だからこそ、執行者を外すには裁判所の関与が必要とされているのです。
解任が認められうる事由
条文上の要件は「任務を怠ったときその他正当な事由があるとき」です。実務で問題になりやすいのは、次のような事情です。
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 任務の懈怠 | 就任後、相続人への通知(民法第1007条第2項)や財産目録の交付(民法第1011条)をしない。長期間、執行がまったく進まない |
| 報告義務違反 | 相続人・受遺者から執行状況や財産管理状況の説明を求められても、合理的な理由なく応じない(遺言執行者には民法第1012条第3項により委任の規定が準用され、受任者の報告義務を定める民法第645条が問題になります) |
| 公平性への疑い | 特定の相続人の利益に偏った行動をとる、利益相反のある立場で執行を続ける |
| 執行の継続が困難 | 長期の病気など、客観的に任務の遂行が難しい事情 |
ただし、これらに当てはまれば必ず解任されるわけではなく、認められるかどうかは個別の事情に対する家庭裁判所の判断によります。「進め方が気に入らない」という不満だけでは認められにくいため、どの行為が任務懈怠に当たるのかの整理を含め、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
なお、相続人や受遺者が遺言執行者に指定されていること自体は、当然に解任事由になるわけではありません。実際に任務の懈怠・不適切な財産管理・報告の拒否・明確な利益相反行為などがあるかを、個別の事情にもとづいて判断します。
解任請求の流れと依頼先(業際の整理)
解任請求は、家庭裁判所への申立てによって行います。おおまかな流れは次のとおりです。
- 執行状況の記録を整理する(通知や報告の有無、財産目録の交付状況、執行の経過)
- 利害関係人が家庭裁判所へ解任を請求する
- 家庭裁判所が事情を確認し、審判を行う
- 解任が認められた場合、必要に応じて新しい遺言執行者の選任を請求する(民法第1010条)
申立先は、原則として遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立てにあたっては、遺言書、利害関係を示す資料、解任を求める理由を裏付ける資料(執行者とのやり取りの記録、通知・報告・財産目録の交付状況がわかるものなど)を整理しておくと、判断がスムーズになります。具体的な主張の構成や代理対応は弁護士の業務です。
ここで重要なのが依頼先の整理です。解任請求は法律事件としての性格をもつ家庭裁判所の手続きのため、申立ての代理は弁護士の業務、裁判所提出書類の作成は司法書士の業務です。行政書士法人である当法人は、解任請求の代理・書類作成を行えません。執行者とのトラブルがすでに生じている場合は、提携弁護士をご紹介します。
解任ではなく「辞任」で解決できる場合
執行者の側に「続けられない事情」がある場合は、解任を争うのではなく、辞任という出口もあります。遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て任務を辞することができます(民法第1019条第2項)。
高齢や病気で対応が難しくなった、相続人との関係がこじれて中立的な執行が難しい——こうした事情があるときは、執行者本人が辞任し、あらためて家庭裁判所に新しい執行者の選任を求める流れの方が、対立を深めずに執行体制を立て直せることがあります。
執行が止まると何に影響するか
執行者をめぐる対立で執行が止まると、困るのは相続人・受遺者自身です。
- 遺言に基づく遺贈の履行や、遺言執行者の権限に属する預貯金・不動産・有価証券等の手続きが進まない(遺言執行者がある場合、遺贈の履行は遺言執行者のみが行えるため、執行体制の停滞は受遺者への財産移転にも影響します。民法第1012条第2項)
- 相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月)は、執行の停滞を待ってくれません
- 不動産の売却・分配が予定されている遺言では、時間の経過とともに財産価値や管理負担が変動します
解任・選任の手続きと並行して、期限のある手続きの段取りを整えておくことが重要です。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):申告期限までに遺産分割が決まらない場合の未分割申告
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
解任騒ぎを防ぐ遺言の作り方(予防がいちばんの対策)
解任のトラブルは、多くの場合遺言を作る段階の執行者選びに原因があります。これから遺言を作る方は、次の設計を検討してください。
利害関係のない専門家・法人を執行者にする
特定の相続人を執行者にすると、他の相続人から「自分に有利に進めているのでは」という不信を招きやすくなります。利害関係のない行政書士法人などを執行者に指定すれば、中立的な立場で執行でき、報告も組織として継続できます。
予備の執行者を定めておく
執行者が先に亡くなったり、対応できなくなったりした場合に備え、予備的に第2順位の執行者を遺言で定めておくと、執行体制の空白を防げます。
報告の仕方を決めておく
「執行の状況を相続人・受遺者に定期的に報告する」ことを前提にした執行者を選ぶと、疑心暗鬼からの対立を避けやすくなります。当法人が遺言執行者に就任する場合は、就任通知・財産目録の交付(民法第1007条・第1011条)から完了報告まで、法令に沿った執行と報告を行います。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):【遺言執行者が必要な場合はどんな時?】遺言執行者を選任するメリット
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺言執行者は誰が解任できますか?
A. 相続人や受遺者などの利害関係人が、家庭裁判所に解任を請求できます(民法第1019条第1項)。相続人どうしの話し合いだけで一方的に解任することはできず、家庭裁判所の判断を経る必要があります。
Q2. どんな場合に解任が認められますか?
A. 民法第1019条第1項は「任務を怠ったときその他正当な事由があるとき」と定めています。就任通知や財産目録の交付をしない、長期間執行が進まない、報告を求めても応じない、特定の相続人に偏った行動をとるといった事情が、判断の材料になり得ます。認められるかは個別の事情によるため、まず弁護士への相談をおすすめします。
Q3. 相続人全員が反対すれば、裁判所を通さずに解任できますか?
A. できません。遺言執行者の解任は家庭裁判所への請求によることが法律で定められています(民法第1019条第1項)。相続人全員の意向が一致していても、解任には家庭裁判所の手続きが必要です。
Q4. 解任と辞任はどう違いますか?
A. 解任は利害関係人が家庭裁判所に請求して辞めさせる手続き、辞任は遺言執行者みずからが正当な事由を理由に家庭裁判所の許可を得て辞める手続きです(民法第1019条第2項)。執行者本人が続けられない事情を抱えている場合は、辞任の形で円満に交代できることもあります。
Q5. 解任された後、遺言の執行は誰がするのですか?
A. 利害関係人の請求により、家庭裁判所に新しい遺言執行者の選任を求めることができます(民法第1010条)。執行者が不在のまま放置すると、預貯金の解約や名義変更が進まず、相続税の申告期限などに影響するおそれがあるため、解任と並行して後任の検討を進めることが大切です。
Q6. 解任を求めている間、執行は止められますか?
A. 解任の審判が出るまで執行者の権限は当然には失われません。執行を止める必要がある場合の保全的な対応を含め、具体的な手段の選択は法律事件としての判断になるため、弁護士に相談して進めることになります。
Q7. 解任の手続きは行政書士に依頼できますか?
A. 解任請求は家庭裁判所の手続きであり、申立ての代理は弁護士の業務、裁判所提出書類の作成は司法書士の業務です。行政書士法人である当法人は解任請求そのものを代理できないため、連携弁護士をご紹介します。当法人がお手伝いできるのは、これから作る遺言で執行者選びのトラブルを予防する設計の部分です。
Q8. そもそも執行者でもめないためには、どうやって選べばよいですか?
A. 特定の相続人を執行者にすると、他の相続人との利害対立から不信感が生まれやすくなります。利害関係のない専門家や法人を執行者に指定する、執行者が対応できない場合に備えて予備の執行者を定めておく、といった設計が予防策になります。当法人では遺言の文案整理とあわせて執行者の設計をサポートしています。
まとめ
遺言執行者の解任は、「任務を怠ったときその他正当な事由」を理由に、利害関係人が家庭裁判所へ請求する手続きです(民法第1019条)。話し合いだけでは解任できず、紛争性のある対応は弁護士の領域になります。一方で、解任騒ぎの多くは遺言作成時の執行者選びで予防できます。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、執行者設計を含めた公正証書遺言の作成をサポートしています。すでに執行者とのトラブルが生じている場合は、提携弁護士をご紹介しますので、状況の整理からご相談ください。
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遺言の執行が止まった場合の相続税申告など、税務面については、グループの税理士法人トゥモローズの解説記事もご参照ください(相続税の試算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します)。
根拠法令・公的資料
- 民法第645条(受任者の報告義務。民法第1012条第3項により遺言執行者に準用)
- 民法第1007条(遺言執行者の任務の開始・通知)
- 民法第1010条(遺言執行者の選任)
- 民法第1011条(相続財産の目録の作成)
- 民法第1012条(遺言執行者の権利義務)
- 民法第1013条(遺言の執行を妨げる行為の禁止)
- 民法第1019条(遺言執行者の解任及び辞任)
- 弁護士法第72条(紛争性のある手続きの代理は弁護士の業務)
- 司法書士法第3条・第73条(裁判所提出書類の作成は司法書士の業務)
