遺言執行者がいない・断られたときの対処法|選任の申立て・就任拒否・辞任
10秒でわかる この記事の要約
- 遺言執行者がいないケースは主に3つ。①遺言で指定されていない②指定された人が就任を断った③就任後に死亡・辞任・解任で欠けた。
- いない・欠けたときは、家庭裁判所に選任を申し立てられる(民法第1010条・利害関係人が請求)。
- 遺言で指定されても、就任を断ることはできる(就任義務はない)。ただし相続人その他の利害関係人からの催告に期間内に返事をしないと承諾とみなされる。承諾後にやめるには家裁の許可を得た辞任が必要。
- 家裁への申立書の作成は司法書士、申立ての代理・争いは弁護士。行政書士は遺言作成時の執行者条項の設計や、選任後の相続手続きを支援。
「遺言書に遺言執行者の記載がない」「執行者に指定された人に断られてしまった」。遺言の手続きを進めようとして、こうした壁にぶつかることがあります。遺言執行者がいないと、預貯金の解約や名義変更などが進めにくく、とくに遺言による認知や相続人の廃除は、執行者がいなければ手続きそのものができません。
本記事では、遺言を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、遺言執行者がいない・断られたときの対処、家庭裁判所への選任申立て、就任を断れるのか、辞任の手続きまでを整理します。
遺言執行者とは・必要になるケース
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理や名義変更などの手続きを行う人のことです。遺言執行者は、就職を承諾したときは直ちに任務を開始し、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知する必要があります(民法第1007条)。そして、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持ちます(民法第1012条)。就任後は、相続財産の目録を作成して相続人に交付する義務もあります(民法第1011条)。
遺言執行者は、すべての遺言に必須というわけではありません。しかし、次の手続きは遺言執行者でなければできないため、これらを内容とする遺言では必ず必要になります。
- 遺言による認知(婚外子を遺言で認知する場合)
- 相続人の廃除・その取消し(特定の相続人の相続権を失わせる/取り消す場合)
遺言による認知は法律上認められており(民法第781条第2項)、遺言執行者が就職の日から10日以内に認知の届出をします(戸籍法第64条)。また、遺言による推定相続人の廃除・その取消しでは、遺言執行者が遺言の効力発生後、遅滞なく家庭裁判所へ廃除(取消し)を請求します(民法第893条・第894条)。そのため、これらを内容とする遺言では、遺言執行者の指定または家庭裁判所による選任が欠かせません。
これら以外でも、預貯金の解約・払戻し、不動産の名義変更などを円滑に進めるために、遺言執行者を定めておくと実務がスムーズです。どんなときに遺言執行者を置くべきかは、税理士法人トゥモローズの解説もあわせてご覧ください。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):遺言執行者が必要な場合はどんな時?遺言執行者を選任するメリット
なお、遺言による認知の詳しい手続きは、遺言による認知とはで解説しています。
「遺言執行者がいない」3つのパターン
ひとくちに「遺言執行者がいない」といっても、状況は分かれます。大きく次の3つです。
| パターン | 状況 | 対処の方向 |
|---|---|---|
| ① 指定がない | 遺言書に遺言執行者の記載がない | 必要なら家庭裁判所へ選任を申し立てる |
| ② 就任を断られた | 指定された人が就任を承諾しない(辞退) | 家庭裁判所へ選任を申し立てる |
| ③ 就任後に欠けた | 就任した執行者が死亡・辞任・解任で不在に | 家庭裁判所へ選任(再選任)を申し立てる |
いずれのパターンでも、共通する対処は家庭裁判所への選任の申立てです。遺言執行者が「いないとき」または「なくなったとき」は、家庭裁判所が利害関係人の請求によって選任できると定められています(民法第1010条)。
なお、③のうち「解任」は、執行者が任務を怠ったときなどに家庭裁判所へ請求して行うもので、手続きが異なります。解任については、遺言執行者を解任する方法で詳しく解説しています。
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いないとき:家庭裁判所への選任申立て
遺言執行者がいない・欠けた場合、必要であれば、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てます(民法第1010条)。
- 申し立てられる人:相続人、受遺者、相続債権者などの利害関係人
- 申立先:亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 申立費用:執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(額は家庭裁判所により異なるため申立先へ確認)
- 主な必要書類:申立書、被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本、遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票、遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し、利害関係を証する資料など。公正証書遺言や法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は検認が不要で、検認が必要な自筆証書遺言は検認を済ませてから申し立てます。書類は家庭裁判所により異なるため事前に確認します
- 候補者:申立ての際に候補者を挙げることはできますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します
ここで注意したいのが、専門家の役割分担(業際)です。家庭裁判所へ提出する申立書そのものの作成は司法書士の業務であり、申立ての代理や、相続人間に争いがある場合の対応は弁護士の業務です。行政書士は、これらの裁判所提出書類の作成や代理は行いません。行政書士が担うのは、遺言書の確認、戸籍の収集や相続人の整理、選任後の預貯金解約・名義変更といった相続手続きのサポートです。状況に応じて、提携する司法書士・弁護士と連携して進めます。
指定された人は断れる?(就任の承諾・辞退・辞任)
「遺言で執行者に指定されたが、引き受けたくない」という場合はどうなるのでしょうか。
結論として、指定されても就任を断ることができます。遺言執行者への就任を承諾する義務はなく、辞退できます。ただし、いつまでも態度を決めないままだと、相続手続きが進みません。そこで、相続人などの利害関係人は、執行者に指定された人に対し、相当の期間を定めて、就任を承諾するかどうかの返事を求めることができます(就職の催告・民法第1008条)。
注意すべきは、この期間内に返事をしないと、就任を承諾したものとみなされることです。「黙っていれば断ったことになる」わけではないので、引き受けない場合は、期間内にはっきり辞退の意思を伝える必要があります。
一方、いったん就任を承諾した後にやめたい場合は、自由には辞められません。正当な事由があるときに、家庭裁判所の許可を得て辞任することになります(民法第1019条第2項)。また、執行者が任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人が家庭裁判所に解任を請求できます(同条第1項)。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 就任前に断る | 就任義務はなく辞退できる。ただし催告期間内に無返答だと承諾とみなされる |
| 就任後にやめる(辞任) | 正当な事由+家庭裁判所の許可が必要(民法1019条2項) |
| 執行者を辞めさせる(解任) | 任務懈怠等の正当な事由があるとき、利害関係人が家裁に請求(民法1019条1項) |
執行者を頼まれた・指定したい人へ
遺言執行者をめぐるトラブルの多くは、遺言を作る段階で備えておけば防げます。
これから遺言を作る方は、遺言執行者を遺言書のなかで指定しておくことをおすすめします。指定がなければ、相続人が家庭裁判所への選任申立てという手間を負うことになります。指定する相手は、信頼できる家族のほか、相続手続きに詳しい専門家(行政書士・弁護士など)や法人を選ぶこともできます。専門家や法人を執行者にしておくと、「指定した人が先に亡くなる」「高齢で対応できない」といったリスクを避けやすくなります。
ただし、誰でも遺言執行者になれるわけではありません。未成年者と破産者は、遺言執行者になることができません(民法第1009条)。相続人や受遺者を執行者に指定すること自体は可能ですが、利害関係が強く争いが予想される場合は、中立性や実務対応力の観点から専門家・法人を選ぶことも検討します。
| 候補者 | 執行者になれるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続人 | なれる | 利害対立があるとトラブルになりやすい |
| 受遺者 | なれる | 他の相続人との関係に注意 |
| 未成年者 | なれない | 民法1009条 |
| 破産者 | なれない | 民法1009条 |
| 行政書士・弁護士などの専門家 | なれる | 守秘・実務対応力・報酬を確認 |
| 法人 | なれる | 継続性がある。報酬・業務範囲を事前に確認 |
専門家や法人を執行者に指定する場合は、遺言のなかで報酬の定め、予備の遺言執行者、複数名指定の要否などを整理しておくと、相続開始後の混乱を減らせます。なお、就任後の辞任には、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要です。
また、執行者が欠けたときに備えて、予備の遺言執行者を定めておく方法もあります。遺言の作成と執行者の設計はセットで考えると安心です。遺言作成を依頼するときの流れは、遺言書作成を行政書士に依頼するメリットもあわせてご覧ください。
すでに「執行者になってほしい」と頼まれている方は、引き受けるかどうかを慎重に判断しましょう。遺言執行者は、財産目録の作成、預貯金の解約、名義変更など、実務的な負担があります。就任後の流れは、遺言執行業務の流れで確認できます。
誰に相談すればよいか
遺言執行者をめぐる問題は、内容によって相談先が分かれます。
- 行政書士:遺言作成時の遺言執行者条項の設計、専門家・法人としての執行者の引き受け、選任後の戸籍収集・財産目録・預貯金解約・名義変更などの相続手続きのサポート
- 司法書士:家庭裁判所へ提出する選任申立書などの書類作成、不動産の相続登記
- 弁護士:選任申立ての代理、相続人間に争いがある場合の交渉・代理
- 税理士:相続税の試算・申告(相続税が見込まれる場合)
「執行者がいなくて手続きが止まっている」「自分が指定されたがどうすべきか」という段階で相談すると、選任申立てが必要かどうかも含めて整理できます。費用は依頼する範囲・内容で変わるため、見積もりで確認しましょう。
遺言執行や遺言作成については、こちらもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺言執行者は、必ず必要ですか?
A. すべての遺言に必須というわけではありません。ただし、遺言による認知や、相続人の廃除・その取消しは、遺言執行者でなければできない手続きのため、これらを行う遺言では必ず必要です。それ以外でも、預貯金の解約や不動産の名義変更などを円滑に進めるため、遺言執行者を定めておくと実務上スムーズです。いない場合は家庭裁判所に選任を申し立てられます。
Q2. 遺言で執行者に指定された人は、断ることができますか?
A. 断れます。遺言で指定されても、就任を承諾する義務はなく、辞退できます。相続人などは、相当の期間を定めて就任するかどうかの返事を求めることができ(催告)、その期間内に返事がないと、承諾したものとみなされる点には注意が必要です。なお、いったん就任を承諾した後にやめるには、正当な事由があるときに家庭裁判所の許可を得て辞任する必要があります。
Q3. 遺言執行者がいない場合、誰が選任を申し立てるのですか?
A. 相続人や受遺者など、利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てます(民法1010条)。申立先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立てにあたっては、遺言書の写し、検認が必要な自筆証書遺言の場合は検認調書謄本の写し、戸籍などの書類が必要です。公正証書遺言や法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は検認不要です。候補者を立てることもできますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。
Q4. 遺言執行者の選任を申し立てる書類は、行政書士に頼めますか?
A. 家庭裁判所へ提出する申立書そのものの作成は司法書士、申立ての代理や相続人間の争いへの対応は弁護士の業務です。行政書士は、その前提となる遺言書の確認、戸籍の収集や相続人の整理、選任後の預貯金解約・名義変更といった相続手続きのサポートを担います。状況に応じて、提携する専門家と連携してご案内します。
Q5. 遺言執行者に指定した人が亡くなったら、遺言は無効になりますか?
A. 無効にはなりません。遺言の内容そのものは有効なまま残ります。執行者がいなくなっただけなので、必要であれば家庭裁判所に新たな遺言執行者の選任を申し立てれば、遺言の内容を実現できます。心配な場合は、遺言を作る段階で、予備の執行者を定めたり、法人を執行者に指定したりして、執行者が欠けるリスクに備えておく方法もあります。
Q6. 誰でも遺言執行者になれますか?
A. 誰でもなれるわけではありません。法律上、未成年者と破産している人は執行者の資格がありません(民法1009条)。逆に、財産を受け取る相続人や受遺者を執行者にすること自体は禁止されていません。ただし、もらう側が執行も担うと不公平に見えたり対立を招いたりするため、もめそうなケースでは、第三者である専門家や法人を選ぶのが無難です。
まとめ
遺言執行者がいないケースは、①遺言で指定されていない②指定された人が就任を断った③就任後に死亡・辞任・解任で欠けたの3つに大きく分かれます。いずれも、必要であれば家庭裁判所に選任を申し立てられます(民法第1010条・利害関係人が請求)。
遺言で執行者に指定されても、就任を断ることはできますが、相続人その他の利害関係人からの催告に期間内に返事をしないと承諾したものとみなされます(民法第1008条)。いったん就任した後にやめるには、正当な事由を要件とする家庭裁判所の許可を得た辞任が必要です(民法第1019条第2項)。家庭裁判所への申立書の作成は司法書士、申立ての代理・争いは弁護士の業務で、行政書士は遺言作成時の執行者条項の設計や、選任後の相続手続きを支援します。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)を拠点に、首都圏とオンライン(Google Meet・全国対応)で、遺言の作成・執行のご相談に対応しています。選任申立てや争いがある場合は提携司法書士・弁護士、相続税は税理士法人トゥモローズと連携します。
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遺言執行者をどんなときに置くべきか、報酬の決め方については、グループの税理士法人トゥモローズの解説記事もご参照ください(相続税の試算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します)。
根拠法令・公的資料
- 民法第1006条(遺言執行者の指定・第三者への指定の委託)
- 民法第1007条(遺言執行者の任務の開始・相続人への通知)
- 民法第1008条(遺言執行者に対する就職の催告。期間内に確答しないと承諾とみなす)
- 民法第1009条(遺言執行者の欠格事由=未成年者・破産者)
- 民法第1010条(遺言執行者がないとき・なくなったときの家庭裁判所による選任)
- 民法第1011条(財産目録の作成・交付)・第1012条(遺言執行者の権利義務)・第1015条(遺言執行者の行為の効果)
- 民法第1019条(遺言執行者の解任・辞任)
- 民法第781条第2項(遺言による認知)・戸籍法第64条(遺言認知の届出は就職の日から10日以内)
- 民法第893条・第894条(遺言による推定相続人の廃除・その取消し)
- 司法書士法第3条(登記申請の代理、裁判所提出書類の作成等)/弁護士法第72条(代理等)
- 税理士法第2条・第52条(相続税の計算・申告は税理士の業務)
- 行政書士法第1条の3(業務)・第1条の4(相談等)。他の法律で制限された業務を除く
