遺言書の銀行名・口座番号・不動産の表示が古い場合でも手続きできる?記載と実際が違うときの対処法
10秒でわかる この記事の要約
- 何年も前に書かれた遺言書を確認したら、銀行が合併して名前が変わっていた、支店が統廃合されていた、口座番号が実際と違っていた——。遺言の執行の現場では、こうした「記載と実際のずれ」が頻繁に起こります。
- 記載が古い・不正確というだけで遺言が当然に無効になることはありません。重要なのは、遺言書全体や作成時の事情から「どの財産を指しているか合理的に特定できるか」です。特定できると考えられる場合でも、金融機関や登記手続で追加資料を求められることがあります。
- 一方、遺言に書かれた財産が処分・換価・買い替えられている場合は、単なる表示のずれではなく、遺言の文言が「遺贈する」か「相続させる」かで整理が変わります。特定遺贈なら物上代位(民法999条・1001条)、「相続させる」遺言なら撤回みなし(民法1023条2項)や遺言の解釈を個別に検討する必要があります。
- 本記事では、遺言書の確認の順序(種類・検認・「相続させる/遺贈する」の別)から、銀行名・口座番号・不動産の表示・財産の消滅というケース別の対処、これから書く方の注意点まで、相続を専門に扱う行政書士が解説します。
「遺言書には『甲銀行○○支店の預金を長女に相続させる』とあるのに、甲銀行は数年前に乙銀行と合併して、○○支店ももうない」「不動産の地番が今の登記と違う」——。遺言書は書いた時点の情報で固定されるため、いざ手続きするときには世の中の方が変わってしまっていることがよくあります。
こうしたずれを前に、「この遺言はもう使えないのか」「遺産分割協議をやり直すしかないのか」と不安になる方は少なくありません。本記事では、記載と実際が違うパターンを①銀行名・支店名の変更、②口座番号などの記載相違、③不動産の表示の相違、④財産がすでに存在しない場合に分けて、それぞれの見極め方と対処、そしてこれから遺言を書く方が同じ問題を防ぐための書き方まで整理します。
なお、遺言の解釈・効力を巡って相続人・受遺者の間に争いがある場合の対応は弁護士、不動産の相続登記は司法書士、税務は税理士の領域です。行政書士は、争いのない事案について、遺言書と通帳・登記事項証明書等の照合、必要資料の収集、金融機関への事務的な事前照会、所定書類の作成・提出を支援し、権利帰属や法的請求・交渉に争いがある場合は弁護士へ引き継ぎます。
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手続きの前に——遺言書の「種類」と「文言」を最初に確認する
記載のずれに対処する前に、まず遺言書そのものについて2つの確認をします。
確認1:遺言書の種類と検認の要否——封印は自分で開けない
自宅などで見つかった自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所の検認が必要です(民法1004条)。特に封印のある遺言書は、その場で開封せず、封をしたまま家庭裁判所に提出してください。家庭裁判所外で開封すると過料の対象になり得ます(民法1005条)。一方、公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言は検認が不要です。なお、検認は遺言の有効・無効を判断する手続きではなく、内容や状態を確認・保全するものです。自筆証書遺言書保管制度の概要は、関連解説(税理士法人トゥモローズ)「自筆証書遺言の保管制度をわかりやすく徹底解説」も参考になります。
確認2:「相続させる」か「遺贈する」か
遺言の文言によって、帰属・登記手続・遺言執行者の権限・課税関係などの扱いが変わります。混同しないことが大切です。
| 遺言の文言 | 主な対象者 | 主な法的整理 |
|---|---|---|
| 「長男に相続させる」 | 相続人 | 特定財産承継遺言 |
| 「Aに遺贈する」 | 相続人・相続人以外 | 遺贈(特定遺贈) |
| 「全財産をAに遺贈する」 | 包括受遺者 | 包括遺贈 |
| 「その他一切を妻に相続させる」 | 相続人 | 包括的な財産承継 |
判断は「解釈」「効力」「手続」の3段階で分けて考える
記載が古い遺言の可否は、次の3段階に分けて考えると整理できます。
| 段階 | 確認すること |
|---|---|
| ①遺言の解釈 | 遺言全体・作成時の事情から、対象財産を合理的に特定できるか |
| ②遺言の効力 | 方式・遺言能力・撤回・受遺者の先死亡などに問題がないか |
| ③実際の手続 | 金融機関・法務局が求める補足資料を用意できるか |
重要な要素は、遺言書全体の記載・作成時の事情・遺言者の状況から対象財産を合理的に特定できるかです。ただし、特定できると考えられる場合でも、金融機関や登記手続で追加資料を求められることがあり、相続人・受遺者間に解釈の争いがある場合は弁護士への相談が必要です。「記載が古いから使えない」と自己判断で遺産分割協議を始めると、後で覆るリスクがあるため、まずは遺言書と財産資料の照合から始めましょう。
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ケース1:銀行名・支店名が合併や統廃合で変わっている
銀行業界は合併・統合が繰り返されており、10年前の遺言に書かれた銀行名がそのまま残っている方が珍しいほどです。
預金は承継先の銀行に引き継がれている
銀行が合併しても、預金債権は承継先の銀行に引き継がれています。「遺言書に書かれた銀行がもう存在しない=預金が消えた」ではありません。旧○○銀行の口座は、現在の承継銀行の口座として管理されています。
手続きは承継銀行の相続窓口へ——ただし審査は各行の運用による
遺言書に旧銀行名で書かれていても、他の記載や銀行の内部記録から対象口座を一つに特定できる場合は、手続きできる可能性があります。ただし、審査方法・必要書類は金融機関ごとに異なり、旧銀行と承継銀行の関係資料、旧支店と現支店の対応資料、旧口座番号から新口座番号への移行の確認、遺言作成時点の通帳などを求められることがあります。窓口では「旧○○銀行○○支店の口座について」と伝え、必要書類を確認しながら進めます。
どの銀行に承継されたか分からないとき
合併の歴史が複雑で承継先が分からない場合は、金融庁や各銀行の沿革ページ、全国銀行協会の資料などで合併の系譜を調べられます。信用金庫・信用組合も、承継先の金庫・組合が引き継いでいます。
古い通帳しかなくても口座の有無を照会できる
遺言書に書かれた口座が今も残っているかは、承継銀行への口座の有無の照会(金融機関により「現存調査」「全店照会」などと呼ばれます)で確認します。これは金融機関共通の法定制度ではなく、名称・申請できる人・必要書類・回答範囲は金融機関ごとに異なります。被相続人の死亡と、請求者が相続人・遺言執行者であることを示す戸籍等を提出して照会します。銀行の相続手続き全体の流れは、銀行預金の相続手続きの記事で詳しく解説しています。
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ケース2:口座番号・支店名・預金種別の記載が実際と違う
「口座番号の記載が実際と1桁違う」「普通預金と書かれているが実際は定期預金」といった記載相違のケースです。
他の記載から一つに特定できれば、手続きできる可能性がある
口座番号などの記載に誤りがあっても、名義人・銀行名・支店名など他の記載や金融機関の記録から対象口座を一つに特定できる場合は、手続きできる可能性があります。ただし、遺言として有効であることと、金融機関がその書類だけで受け付けることは別です。被相続人がその支店に口座を1つしか持っていない場合でも、金融機関の判断で追加の確認資料を求められることがあります。
「その銀行のすべての預金」型の記載なら、番号のずれは起きにくい
遺言に「○○銀行に対する一切の預金債権を長女に相続させる」のように書かれていれば、口座番号の記載自体がないため、番号のずれは問題になりにくくなります。また、末尾に「その他一切の財産を妻に相続させる」といった包括条項があれば、個別記載で拾えなかった財産もこの条項でカバーされることがあります。遺言書の末尾まで必ず確認しましょう。
複数の口座があって絞れない場合
同じ支店に複数の口座があり、記載された番号がどれとも一致しない場合は、特定を巡って解釈が分かれ得ます。遺言書の他の記載(金額の目安・預金種別・作成時期の残高など)から遺言者の意思を推し量ることになりますが、相続人・受遺者の間で見解が対立するなら、それは遺言の解釈を巡る紛争であり、弁護士に相談すべき場面です。
事前照会で門前払いを防ぐ
書類一式を持ち込む前に、金融機関の相続センターに遺言書の記載内容を伝えて取り扱いを事前照会すると、不足書類や追加確認の有無を把握でき、手続きが一度で済みやすくなります。こうした金融機関への事務的な事前照会は、行政書士が支援できます。
ケース3:不動産の表示(地番・家屋番号)が現在の登記と違う
不動産の記載齟齬は、預金より慎重な確認が必要です。相続登記に使えるかどうかは、最終的に法務局(登記官)が判断するからです。
よくあるずれのパターン
- 住所(住居表示)で書かれている:登記上の「地番」は住居表示と別物のため、住居表示で書かれた記載は登記の表示と一致しない
- 地番変更・区画整理(換地):遺言作成後に土地区画整理や地番変更があり、旧地番で書かれている
- 合筆・分筆:遺言作成後に土地が合筆・分筆され、遺言記載の地番の土地が形式上存在しない
- 建物の増改築・建替え:家屋番号や床面積が現況と異なる
同一性を資料で確認できれば、登記が認められる可能性がある
遺言記載の不動産と現在の登記記録との同一性を資料上確認できる場合は、遺言を原因とする登記が認められる可能性があります。確認には、現在事項証明書・閉鎖事項証明書・公図・地積測量図・建物図面・換地の資料・分筆合筆の履歴・住居表示と地番の対照資料・名寄帳・遺言作成当時の登記事項証明書などが使われます。ただし、どの程度のずれまで許容されるか、どの補完書類が必要かは案件ごとに異なり、最終的な受理判断は登記官が行います。不動産の記載に齟齬があるケースは自己判断せず、申請前に司法書士を通じて法務局へ相談してください。行政書士は、戸籍収集や関係資料の整理で連携します。
建替え後の建物は「別の財産」とは限らない
建替えで建物が新しくなっている場合、一律に撤回(後述)として扱うのではなく、遺言の文言、土地建物を一体として承継させる意思、建替えの経緯などから判断します。判断が難しい場合は、次の見出しの「財産の消滅・変動」の問題として、司法書士・弁護士に確認します。
ケース4:遺言後に財産が消滅・変動した場合|撤回みなしと物上代位
財産が処分・換価・買い替えられている場合は、単なる表示のずれではなく、遺言の撤回みなし・物上代位・解釈が問題になります。財産の変動によって論点が変わるため、まず全体像を整理します。
まず押さえたいのは、民法999条・1001条の物上代位は、条文上は「遺贈」を対象とした規定で、第三者への「遺贈する」遺言(特定遺贈)には直接適用されるが、相続人への「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)には当然には直接適用されない、という点です。
| 財産の変動 | 主な論点 |
|---|---|
| 遺言者による任意の売却・贈与 | 民法1023条2項の撤回みなし |
| 火災・収用などによる補償金・保険金請求権 | 民法999条の物上代位(特定遺贈の場合) |
| 遺贈された債権の払戻し | 民法1001条の物上代位(特定遺贈の場合) |
| 「相続させる」遺言の対象財産の処分 | 遺言の解釈・民法1023条2項・物上代位規定の類推の可否を個別に検討 |
| 銀行合併・支店統廃合 | 同一債権の表示変更(撤回ではない) |
| 定期預金の自動継続 | 同一の預金債権と評価できるか(規定・番号を確認) |
| 建物の取壊し・建替え | 新旧建物は原則別の不動産。遺言解釈で例外の余地 |
| 売却代金で別の資産を購入 | 原則は別財産だが遺言全体を確認 |
遺言者が任意に処分した場合は「撤回」とみなされ得る
民法1023条2項により、遺言者が遺言を書いた後に、その遺言と抵触する処分(対象財産の売却・贈与など)を生前に行った場合、抵触した部分は遺言を撤回したものとみなされます。
特定遺贈された財産なら「解約=即失効」とは限らない(物上代位)
財産が処分・換価された場合の法的整理は、遺言の文言が「遺贈する」か「相続させる」かで異なります。
- 特定遺贈の場合:遺贈の目的物が滅失・変造したり、火災・収用で補償金・保険金の請求権が生じたときは、民法999条により、遺言者が受け取るべき代償が遺贈の対象と推定されます。さらに、債権(預金など)を遺贈していた場合、民法1001条により、遺言者が生前に払戻しを受けても、受け取った物や金額が遺贈の対象と推定され、金銭債権については、相続財産中に同額の現金が残っていなくてもその金額が遺贈の目的と推定されます(1001条2項)。つまり、費消・混同していても直ちに遺贈が消えるわけではありません。
- 「相続させる」遺言の場合:これらの物上代位規定は直接には適用されないため、遺言の解釈や民法1023条2項による撤回みなし、規定の類推の可否などを個別に検討します。
銀行都合の形式的な変動は撤回ではない
銀行合併による口座の付け替え・支店統廃合・定期預金の自動継続のような、遺言者の処分行為によらない形式的な変動は、遺言者が財産を手放したわけではないため、撤回みなしの問題にはならず、遺言はそのまま使える方向で考えます。
判断が微妙なケースは専門家へ
「定期預金を解約して普通預金に移した」「株式を売却して投資信託に買い替えた」のように判断が分かれるケースでは、取引履歴で資金の流れを整理したうえで、解釈に争いが生じそうなら弁護士に、登記が絡むなら司法書士に、税務は税理士に確認します。行政書士は、争いのない範囲で資料の収集・整理を支援します。
遺言でカバーできない部分が出たら——執行と遺産分割の使い分け
照合の結果、「遺言で執行できる部分」と「できない部分」が仕分けられたら、次のように進めます。
使える部分は遺言どおり執行する——遺言執行者の権限には条件がある
特定できた財産は、遺言に従って名義変更・解約を進めます。特定の相続人に預貯金を相続させる特定財産承継遺言があり、就職した遺言執行者に民法1014条3項の権限が認められる場合には、遺言執行者が単独で払戻しを請求できます。ただし、この権限にはいくつかの条件があります。
- 特定財産承継遺言であること(「相続させる」旨)
- 対象が預貯金債権であること
- 遺言執行者が就職していること
- 遺言者が別段の意思を表示していないこと
- 契約の解約まで請求できるのは、その預貯金債権の全部が遺言の目的である場合に限られること
遺贈の場合や他の財産については、同じ扱いになるとは限りません。また、遺言執行者が就職を断った・死亡した・辞任したなどで不在のときは、利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てられます。遺言執行者は、任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条2項。受遺者への連絡が実務上必要な場合はありますが、これは法定の通知義務とは別です)。遺言執行者がいない・断られたときの進め方は、遺言執行者がいない・断られたときの記事で解説しています。
カバーされない財産だけ遺産分割協議
撤回みなしで効力を失った部分や、遺言に記載がなく包括条項もない財産は、その財産についてだけ相続人全員で遺産分割協議を行います。遺言が使える部分まで協議し直す必要はありません。協議書の作成は、遺産分割協議書の記事で解説しています。
「遺言と異なる分割」ができるかは場合による
現状に合わせて分け直したい場合、相続人全員の合意で遺言と異なる内容の遺産分割をすることも実務上行われていますが、常にできるわけではありません。受遺者がいる場合は、その立場によって扱いが変わります。
- 包括受遺者:相続人と同一の権利義務を持ち(民法990条)、相続人と同様に遺産分割に参加します
- 相続人以外の特定受遺者:その財産は原則として遺産分割の対象ではないため、単に「同意する」で済むのではなく、遺贈を放棄するのか、いったん取得したうえで移転するのかを区別する必要があります(放棄・移転で相続税・贈与税・所得税の扱いが変わります)
そのほか、遺言執行者がいる場合の扱い、遺言者が分割を禁止している場合、すでに遺言執行が完了している場合などでも、そのままでは行えないことがあります。また、誰が何を取得するかで課税関係(相続税・贈与税)が変わり得ます。相続人だけの場合と、相続人以外の受遺者がいる場合の課税関係の違いは、関連解説(税理士法人トゥモローズ)「遺言と異なる遺産分割の問題点や遺言がある場合の未分割申告の可否」で詳しく解説されています。
もめたら弁護士へ
遺言の解釈や「遺言と異なる分割」への同意を巡って相続人間の意見が割れた場合、交渉・調停の代理は弁護士の領域です。行政書士は争いのない範囲の書類作成・手続きを担い、紛争性が出た時点で弁護士へ引き継ぎます。
これから遺言を書く方へ——記載齟齬を防ぐ書き方
本記事のようなトラブルを将来起こさないための書き方を整理します。
1. 財産は「原本資料のとおり」に書く
不動産は登記事項証明書の記載どおり(所在・地番・家屋番号・地積等)、預金は通帳の表紙どおり(金融機関名・支店名・種別・口座番号)に書き写します。記憶や住所表示で書くのが齟齬の大きな原因です。
2. 包括条項と予備的遺言を検討する
書き漏れや将来取得する財産に備えて、「本遺言に記載のない一切の財産は○○に相続させる」という包括条項を設ける方法があります。「○○銀行に対する一切の預金債権」のように銀行単位で書くと口座番号の変更などに強くなりますが、遺言後に新しく開設した口座や、想定していなかった高額預金まで含まれる可能性があります。個別口座の記載と、銀行単位または残余財産の包括条項を組み合わせ、想定外の高額財産が見つかった場合の公平性、遺留分、受遺者の先死亡、海外財産、事業用財産、税負担などを考えて取得者を設計してください。受け取る側が先に亡くなる変化に備える予備的遺言とあわせて検討してください。予備的遺言の書き方は予備的遺言の記事をご覧ください。
3. 自筆証書遺言は「財産目録」を別紙にする
自筆証書遺言でも、財産目録はパソコン作成や通帳コピー・登記事項証明書の添付で代用できます(民法968条2項)。現行法では、目録の各頁に署名・押印が必要です。原本資料をそのまま目録にすれば、転記ミスを根本から防げます。
【2026年の法改正について】2026年6月24日に公布された民法等改正(令和8年法律第45号)により、将来、自筆証書遺言などの押印要件の廃止や、法務局が保管する新たな方式の「保管証書遺言」(一定の要件のもとで電磁的記録等を用いた作成が可能となる予定)の創設が予定されています。一般の電子メールや任意の電子ファイルだけで有効な遺言を作れる制度ではありません。押印廃止は公布から1年以内、保管証書遺言は公布から3年以内の政令指定日に施行予定で、2026年7月時点では未施行です。現時点で作成する遺言には現行法(署名・押印が必要)が適用されます。
4. 数年ごとに見直し、変わったら書き直す
遺言は何度でも書き直せます(民法1022条・1023条1項。抵触部分は新しい遺言が優先)。金融機関の統廃合や財産の入れ替わりは避けられないため、3〜5年に一度は遺言と財産の照合を行い、ずれが大きくなったら作り直すのが確実です。公正証書遺言にしておけば、原本または電磁的記録が公証制度上保管され、相続開始後は遺言の有無を検索して正本・謄本等の交付を受けられます。自筆証書遺言と比べて、方式不備による無効リスクを大幅に抑えられます(遺言能力を巡る争いなど、方式以外の無効原因は別に残ります)。
よくある質問(FAQ)
Q1. 封印されている自筆証書遺言を、自分で開封してもよいですか?
A. いいえ。封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立会いのもとに開封する必要があり、勝手に開封してはいけません(民法1004条3項)。家庭裁判所外で開封すると過料の対象になり得ます(民法1005条)。封をしたまま家庭裁判所に提出し、検認の手続きの中で開封します。なお、検認は遺言の有効・無効を判断するものではなく、内容と状態を確認・保全する手続きです。公正証書遺言と、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は検認・開封の手続きが不要です。
Q2. 遺言執行者に指定された人が、就職(就任)を断った場合はどうなりますか?
A. 遺言執行者は就職を断ることができ、断った場合や、死亡・辞任などで不在になった場合は、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てられます。遺言執行者がいなくても遺言自体が無効になるわけではなく、選任された執行者、または(執行者を要しない手続では)相続人が手続きを進めます。就職の可否の確認や選任申立ての要否は、遺言の内容によって変わるため、遺言執行者がいない・断られたときの記事もあわせてご確認ください。
Q3. 遺言書の受取人の名前が旧姓のままです。手続きできますか?
A. 戸籍をたどって、遺言書に書かれた人物と同一人であることを証明できれば、氏名が結婚などで変わっていても遺言の効力に影響はありません。金融機関や法務局には、氏名の変遷が分かる戸籍謄本を追加で提出します。生年月日や続柄が遺言書に併記されていれば、同一性の証明はより簡単になります。ただし、必要書類や確認方法は提出先ごとに異なるため、事前に確認しておくとスムーズです。
Q4. 遺言後に自宅を建て替えました。新しい建物も遺言の対象になりますか?
A. 原則として、旧建物と建替え後の新建物は別の不動産(登記上も別物)であり、旧建物を対象とした遺言が当然に新建物へ及ぶわけではありません。旧建物の取壊しは遺言と抵触する処分として撤回みなし(民法1023条2項)が問題にもなり得ます。ただし、遺言書全体の文言や作成当時の事情から、土地とその上の自宅を一体として承継させる明確な意思が認められる場合には、例外的に新建物への適用が争点となることがあります。最終的な登記の受理は登記官の判断のため、建替えが絡む不動産は司法書士を通じて法務局へ相談し、争いがあれば弁護士に確認してください。
Q5. 口座番号が違うことを理由に、銀行が手続きを断りました。どうすればよいですか?
A. まず、他の記載(名義人・銀行名・支店名・預金種別など)から対象口座を一つに特定できることを、資料をそろえて相続センターに事前照会してください。担当者レベルの定型対応であれば、専門部署への確認で解決することがあります。それでも折り合わない場合は、遺言の解釈の問題として弁護士に相談する必要が出てきます。行政書士は、争いのない範囲での資料整理や金融機関への事務的な事前照会を支援できますが、金融機関への法的請求や解釈上の交渉は弁護士の領域です。
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
遺言書の記載が古くても、当然に無効になるわけではありません。まず遺言書の種類(検認の要否・封印は開けない)と文言(「相続させる」か「遺贈する」か)を確認し、「解釈できるか」「効力に問題はないか」「手続に必要な資料をそろえられるか」の3段階で見極めます。銀行の合併・支店統廃合や口座番号のずれは、他の記載から一つに特定できれば手続きできる可能性がありますが、審査方法・必要書類は金融機関ごとに異なります。不動産の表示のずれは、同一性を資料で確認できれば登記が認められる可能性がありますが、受理判断は登記官が行うため司法書士を通じて法務局へ相談します。
財産が処分・換価・買い替えられている場合は、単なる表示のずれではなく、遺言の文言が「遺贈する」か「相続させる」かで整理が変わります。特定遺贈なら物上代位(民法999条・1001条)で代償や金額が遺贈の対象と推定され(金銭債権は同額の現金が残っていなくても推定・1001条2項)、「相続させる」遺言なら撤回みなし(民法1023条2項)や遺言の解釈を個別に検討します。「解約=即失効」とは限りません。
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本記事は、記載が古い遺言書の取り扱いを、相続を専門に扱う行政書士の実務目線でまとめたものです。遺言と異なる遺産分割をする場合の課税関係(相続人だけの場合と、相続人以外の受遺者がいる場合とで扱いが異なります)については、税理士法人トゥモローズが公開している以下の記事もあわせてご確認ください。
根拠法令・公的資料
- 民法968条(自筆証書遺言・財産目録の方式)
- 民法990条(包括受遺者は相続人と同一の権利義務)
- 民法999条(遺贈の物上代位・目的物の滅失等による代償)・1001条(債権の遺贈の物上代位。2項=金銭債権は同額の現金がなくても推定)
- 民法1004条(遺言書の検認)・1005条(検認を怠った場合等の過料)
- 民法1007条2項(遺言執行者の任務開始と相続人への遺言内容の通知)
- 民法1012条・1014条(遺言執行者の権利義務・特定財産承継遺言における預貯金の払戻し等)
- 民法1022条・1023条(遺言の撤回・前の遺言との抵触及び生前処分による撤回みなし)
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号・2026年6月公布/自筆証書遺言の押印要件廃止等。2026年7月時点で未施行)
