相続コラム

ホーム相続コラム任意後見契約とは?認知症に備える終活の重要契約

任意後見契約とは?認知症に備える終活の重要契約

最終更新:

おひとりさま終活

アバター画像

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)

大塚 英司




10秒でわかる この記事の要約

  • 任意後見契約は公正証書での作成が必須で、私文書では成立せず、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で効力が生じる
  • 後見人を家庭裁判所が選ぶ法定後見と異なり、任意後見は信頼できる人や法人を本人が自ら指定でき、業務範囲も法律の趣旨に反しない範囲で代理権目録により設計できる
  • 任意後見契約は判断能力があることが大前提のため、認知症が進行してからでは契約できず、その場合は法定後見の申立てに移行するしかない
  • 判断能力低下に誰が気づくかが課題のため、見守り契約・財産管理委任契約とセットで結ぶ移行型が、おひとりさまにとって有力な選択肢になる

任意後見契約とは、判断能力が十分なうちに、将来の支援者(任意後見人)を本人があらかじめ指定し、判断能力が低下した時点から財産管理・身上監護を任せる契約のことです。 任意後見契約に関する法律第2条第1号に定義され、同法第3条により公正証書による作成が必須で、同法第4条に基づき家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から効力が発生します。

「もし自分が認知症になったら、誰がお金や生活の管理をしてくれるのか」——おひとりさまの方が最も不安に感じるテーマです。高齢になるほど判断能力の低下は誰にでも起こりうるため、決して他人事ではありません。

任意後見契約は、判断能力が十分なうちに、将来の支援者をご自身で選んでおく制度です。本記事では、相続を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、任意後見契約の仕組みと実務を解説します。


任意後見契約とは

制度の概要

任意後見契約は、判断能力が十分なうちに、将来の支援者(任意後見人)と契約を結び、判断能力が低下した時点から支援を受ける制度です。任意後見契約に関する法律に基づきます。

法的根拠

任意後見契約に関する法律第2条第1号
任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。

公正証書での作成が必須

任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によって作成する必要があります(任意後見契約に関する法律第3条)。私文書では、任意後見契約としての効力は生じません。


法定後見との違い

比較項目 任意後見 法定後見
利用開始 判断能力低下後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時 判断能力低下後、家庭裁判所が後見・保佐・補助開始の審判をした時
支援者の選択 本人が任意後見受任者をあらかじめ選ぶ 家庭裁判所が選任するため、希望どおりとは限らない
権限の内容 契約・代理権目録で定めた範囲(法律の趣旨に反しない範囲で設計可能) 後見・保佐・補助の類型と審判内容による
取消権 なし 類型により取消権・同意権の範囲が異なる
監督 任意後見監督人(必須) 家庭裁判所が監督し、必要に応じ成年後見監督人等が選任される
公正証書 必須 不要

おひとりさまの場合、信頼できる人や法人をあらかじめ自ら選べるため、任意後見契約は有力な選択肢になります。 法定後見では、希望した人が後見人に選任されるとは限りません。


任意後見人ができること・できないこと

できること

  • 預貯金口座の管理・出金
  • 不動産の管理・処分(代理権目録に定め、本人の利益に反しない範囲で可能。重要な財産の処分は任意後見監督人と協議しながら慎重に判断します)
  • 介護契約・施設入所契約の締結
  • 医療機関との契約・連絡調整
  • 行政手続きの代行
  • 生活費・医療費等の支払い

できないこと

  • 結婚・養子縁組などの身分行為
  • 遺言書の作成代理
  • 医療行為への包括的な同意(本人意思の確認・伝達は別途準備)
  • 日常的な介護・看護行為(業者契約は可能)

契約締結から発効までの流れ

任意後見契約 締結〜発効までの流れ

STEP 1 契約書案の作成(行政書士サポート)
STEP 2 公証役場で公正証書として作成
STEP 3 公証人の嘱託により東京法務局で任意後見契約が登記される
STEP 4 〔判断能力低下〕家庭裁判所に監督人選任申立
STEP 5 監督人選任 → 契約発効・後見業務開始

公正証書作成にかかる費用

任意後見契約公正証書の作成には、公証役場の基本手数料1契約13,000円、登記嘱託手数料1,600円、登記所に納付する印紙代2,600円、正本・謄本代、郵送料などが必要です。受任者が複数になる場合や、財産管理等委任契約をあわせて作成する場合は、手数料が加算されることがあります。

なお、契約締結時の登記は公証人の嘱託により行われるため、ご自身で登記を申請する必要はありません。


3つの契約形態(即効・将来・移行)

形態 特徴
即効型 判断能力に既に若干の不安がある段階で、すぐに発効を目指す
将来型 現在は判断能力が十分。将来の備えとして契約のみ結ぶ
移行型 財産管理委任契約と組み合わせ、段階的に移行する

おひとりさまには移行型が有力な選択肢です。判断能力低下前から財産管理サポートを受けられ、低下後はそのまま任意後見へ移行できます。なお移行型では、財産管理委任契約と任意後見契約の権限の重複を避け、判断能力が不十分になったときは速やかに任意後見監督人の選任を申し立てることが重要とされています(消費者庁「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」参照)。


見守り契約とセットで結ぶ意義

任意後見契約は、判断能力低下が確認されてはじめて発効します。しかし、おひとりさまの場合、判断能力低下に誰が気づくかが問題です。

見守り契約を併用することで、受任者が定期的に接点を持ち、判断能力低下のサインを早期に察知できます。これにより、任意後見契約のスムーズな発効が可能となります。

【実務上のポイント】

おひとりさまの場合、任意後見契約は見守り契約・財産管理委任契約とセットで結ぶ設計が有効です。判断能力低下前から後まで切れ目なくサポートできる体制を整えることで、発効までの空白期間の不安を減らせます。


おひとりさまの終活、
お悩みではありませんか?

死後事務委任を中心に、
必要な契約だけ選べる終活サポート。
大きな預託金不要で、
相続専門の士業が人生の最期まで一貫対応。

03-6280-5188

平日 9:00〜21:00 土日祝 応相談


おひとりさまにとっての必要性

ご家族がいる場合は、判断能力低下時に家族が代行・サポートしてくれることが多いですが、おひとりさまにはそれがありません。任意後見契約を結んでおかないと、選択肢は法定後見しかなくなります

法定後見では、後見人を選ぶのは家庭裁判所であり、ご本人の希望どおりになるとは限りません。費用は事案により異なります。判断能力が十分なうちに、信頼できる支援者を自ら選んでおけることが、任意後見契約の大きな利点です。


任意後見の発効後の実際

任意後見監督人の選任プロセス

判断能力低下後、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行います(任意後見契約に関する法律第4条)。家庭裁判所は本人の事理弁識能力の状況を確認し、必要に応じて医師の鑑定を経て、弁護士・司法書士などの専門職等から監督人を選任します。申立てから選任までの期間は、事案や家庭裁判所、鑑定の有無により異なりますが、数か月程度かかることがあります

任意後見人の業務日報・財産目録

発効後、任意後見人は契約に基づき業務を行い、任意後見監督人の指示に従い、定期的に業務報告と財産目録を提出します。当法人では、業務日報をクラウド上で管理し、監督人・指定された家族にも適宜共有する運用としています(共有の相手・範囲は、契約時にご本人の同意を得て明確にします)。

家庭裁判所への報告

任意後見監督人は、家庭裁判所に対して任意後見人の業務状況を定期報告する義務を負います。この三層構造(任意後見人 → 監督人 → 家裁)により、本人の利益を多重に守る設計となっています。

終了時の手続き

任意後見契約は、①本人の死亡、②契約解除、③任意後見人の死亡・破産・解任などで終了します。なお、契約の解除は、任意後見監督人の選任前であれば公証人の認証を受けた書面でいつでも行えますが、選任後は正当な事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て行います(任意後見契約に関する法律第9条)。終了時には東京法務局への終了登記の申請等(後見登記の手続き)・最終財産目録の提出・相続人への引継ぎが必要となります。


任意後見契約の実務的論点

「代理権目録」の作成ポイント

任意後見契約では、本契約とセットで「代理権目録」を作成します。受任者にどこまでの代理権を授与するかを具体的に列挙する重要書類で、預貯金の管理・不動産処分・各種契約締結・行政手続き・介護契約など、必要な権限を漏れなく記載します。記載が抜けていると、判断能力低下後にその権限を行使できず、追加で家庭裁判所の許可を取る必要が生じます。

「身上監護」の具体的内容

身上監護とは、本人の生活・医療・介護に関する事務をいいます。任意後見人は、本人を代理して施設入所契約・医療契約・介護契約を締結できます。ただし、医療同意権(手術等への同意)は本人固有の権利であり、任意後見人にも代行権限はありません。事前にリビングウィルを準備しておくのが現実的な対応です。

受任者の交代・追加

契約締結後、ご本人の判断能力があるうちであれば、受任者の変更・追加が可能です。法人受任への変更(個人士業の引退・移行に伴う措置)、予備受任者の追加(万一の受任者死亡への備え)などが実例です。契約更新の手続きは公証役場で改めて行う必要があり、手数料が再度発生します。

任意後見契約と相続税の関係

任意後見契約自体に、直ちに相続税・贈与税の課税関係が生じるわけではありません。ただし、任意後見人が本人の財産を処分したり、贈与を検討したりする場合は、本人の生活・療養看護・財産管理という任意後見の目的、代理権目録の範囲、任意後見監督人の監督、税務上の影響を総合的に確認する必要があります。特に、相続人の相続税対策を主目的とする生前贈与は、本人の利益との関係で慎重な判断が必要です。税務判断はグループの税理士法人トゥモローズが連携して対応します。

▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):相続人に認知症患者がいる場合の相続税申告の留意点


任意後見契約の設計の幅

受任者は複数指定・予備指定もできる

任意後見人を1名ではなく複数指定することも可能です。「財産管理は法人受任者、身上監護は親族受任者」のように分担する設計や、第1順位の受任者が対応できないときに備えた予備受任者の指定など、ご状況に応じた柔軟な構造が組めます。

代理権の範囲は絞ることもできる

「不動産管理を含める/含めない」など、授与する代理権の範囲は代理権目録で調整できます。本人の自己決定を尊重しつつ、必要な範囲で支援を受ける設計が可能です。ただし範囲が狭すぎると、判断能力低下後に必要な行為ができず、追加で家庭裁判所の手続きが必要になる点に注意します。

遺言は任意後見人が代理できない

遺言は本人固有の行為であり、任意後見人が本人に代わって遺言を作成・変更することはできません(民法第960条以下)。遺言を残すなら、判断能力があるうちに公正証書遺言を作成しておくことが、終活全体の前提となります。

医療同意は本人の権利

任意後見人には手術等への医療同意権がありません。判断能力低下後に備え、リビングウィル(事前指示書)や人生会議(ACP)を生前に整理しておくと、本人の意思が尊重されやすくなります。

おひとりさま終活サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。

おひとりさまの不安に、確かな備えを。行政書士法人トゥモローズのおひとりさま終活サポート

よくある質問(FAQ)

Q1. 任意後見契約はいつ効力を発揮しますか?

A. 判断能力が低下した時点で、受任者または関係者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、選任されると契約が発効します。

Q2. 任意後見契約を結ぶには公正証書が必要ですか?

A. はい、任意後見契約に関する法律により、公正証書での作成が義務付けられています。任意後見契約としては公正証書で作成する必要があります。

Q3. 任意後見人になれる人に資格はありますか?

A. 特別な資格は不要で、未成年者などの欠格事由がなければ誰でもなれます。ただし、長期にわたる責任を担うため、信頼性と継続性のある人や法人を選ぶことが重要です。

Q4. 任意後見人の報酬はどのくらいですか?

A. 契約で定めます。親族が無報酬で受任する例もあれば、専門職や法人が受任する場合は月額報酬を定めるのが一般的で、金額は業務の範囲により異なります。任意後見監督人にも別途報酬が発生し、家庭裁判所が決定します。

Q5. 認知症が進んでからでも契約できますか?

A. 任意後見契約は判断能力があることが大前提のため、進行した認知症の場合は契約できません。その場合は法定後見の申立てに移行します。

Q6. 任意後見契約を結んだだけで、すぐ財産管理を任せられますか?

A. いいえ。任意後見契約の効力が生じるのは、判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点からです。判断能力が十分なうちから財産管理を任せたい場合は、財産管理委任契約を併用する「移行型」の設計を検討します。

Q7. 任意後見人は医療行為に同意できますか?

A. できません。手術などの医療行為への同意は本人固有の権利であり、任意後見人に代行権限はありません。判断能力低下後に備えて、リビングウィル(事前指示書)や人生会議(ACP)で本人の意思を整理しておくことが現実的な対応です。

Q8. 任意後見契約の受任者は後から変更できますか?

A. ご本人の判断能力があるうちであれば、受任者の変更・追加が可能です。公証役場で改めて契約をやり直す必要があり、手数料が再度発生します。

Q9. 財産管理委任契約と任意後見契約はどう違いますか?

A. 財産管理委任契約は判断能力が十分なうちから効力をもつ契約で、任意後見契約は判断能力低下後に任意後見監督人が選任されてから効力が生じます。移行型では両者を組み合わせますが、権限の重複を避け、判断能力が不十分になったときは速やかに監督人選任を申し立てる設計が重要です。

Q10. 任意後見契約は解除できますか?

A. できます。任意後見監督人が選任される前は、公証人の認証を受けた書面によりいつでも解除できます。監督人選任後は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除できます(任意後見契約に関する法律第9条)。

Q11. 任意後見人と死後事務の受任者は同じ法人にできますか?

A. 可能です。任意後見契約は生前の財産管理・身上監護を、死後事務委任契約は亡くなった後の事務をカバーする契約で、同じ法人が受任すれば判断能力低下前から死後まで切れ目のない支援体制を設計できます。


まとめ

任意後見契約は、判断能力が十分なうちにしか結べない契約です。認知症の症状が出てからでは間に合いません。おひとりさまにとっては、生前のうちに信頼できる人や法人を後見人として指定できる、唯一の制度的手段です。

行政書士法人トゥモローズでは、見守り契約・財産管理委任契約と組み合わせた移行型任意後見の設計をご提案しています。


 

おひとりさまの終活、
お悩みではありませんか?

死後事務委任を中心に、
必要な契約だけ選べる終活サポート。
大きな預託金不要で、
相続専門の士業が人生の最期まで一貫対応。

03-6280-5188

平日 9:00〜21:00 土日祝 応相談


関連記事


根拠法令・公的資料

  • 任意後見契約に関する法律 第2条(定義)
  • 任意後見契約に関する法律 第3条(公正証書による作成)
  • 任意後見契約に関する法律 第4条(任意後見監督人の選任)
  • 任意後見契約に関する法律 第9条(任意後見契約の解除)
  • 民法第7条(後見開始の審判)

公的機関・根拠リンク

アバター画像

この記事の執筆者:大塚 英司

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)
税理士(東京税理士会新宿支部 登録番号 117702)

相続を専門に取り扱う行政書士・税理士。相続手続き・遺言・おひとりさま終活の実務に幅広く従事し、戸籍収集や遺産分割協議書の作成から、死後事務委任契約・任意後見契約といった生前対策の設計まで、ご相談者お一人おひとりの状況に応じて丁寧にサポートしている。