おひとりさまの相続トラブル7選|遺言なし・預金凍結・国庫帰属への備え
10秒でわかる この記事の要約
- おひとりさまの相続トラブルの多くは、公正証書遺言・死後事務委任契約・任意後見契約・財産管理委任契約などを生前に組み合わせて整えておくことで、回避または軽減できる可能性が高まる。
- 預金口座は金融機関が死亡を確認すると凍結され、相続手続き完了まで原則引き出せない。死後事務委任契約で葬儀費用などの支払い方法を定めておけば、関係者の立替負担を抑えられる。
- 遺言書がないと、お世話になった人へ「遺贈」として確実に財産を承継させることはできず、相続人がいない場合は最終的に国庫に帰属し得る。自筆証書遺言は形式不備で無効になるリスクがある。
- サブスク・SNS等のデジタル遺品は、解約手続きをしない限り死後も請求・課金が続くことがあるため、サービス一覧を整理し、死後事務委任契約に「停止・解約」を含めておくとよい。
おひとりさまの相続トラブルとは、生前の備えが不足したまま相続が発生したときに生じる、ご本人の希望が反映されない事態・関係者への過大な負担・財産の散逸などの問題のことです。 多くは「公正証書遺言・死後事務委任契約・任意後見契約・財産管理委任契約」などを生前に組み合わせて整備しておくことで、回避または軽減できた可能性のある事例です。それぞれの契約には役割があり、財産の承継先を決めるのは遺言、死後の事務は死後事務委任、判断能力低下後の財産管理は任意後見、生前の支払い・契約管理は財産管理委任が担います。
「自分は身寄りがないから、何も準備しなくても誰にも迷惑をかけない」——これは注意が必要な誤解です。おひとりさまだからこそ、準備不足のしわ寄せが関係者・近隣・自治体に及ぶことがあります。
なお、本記事の「おひとりさま」には、相続人がまったくいない方だけでなく、兄弟姉妹・甥姪などの相続人はいるものの、死後の手続きや財産管理を頼みにくい方も含めています。本記事では、おひとりさまの相続で起きやすいトラブルを7つのケースに整理してご紹介します。共通するのは、いずれも生前に少しの準備をしておけば回避できたという点です(事例は特定の個人を示すものではなく、一般化したものです)。
【早見表】7つのトラブルと予防策
| ケース | 起きるトラブル | 主な予防策 |
|---|---|---|
| 葬儀をする人がいない | 希望する葬儀・納骨ができない | 死後事務委任契約 |
| 預金が凍結される | 葬儀費用・施設費を親族が立替 | 支払原資の設計、死後事務委任 |
| 賃貸住宅が放置される | 家賃・原状回復・遺品整理が停滞 | 死後事務委任、相続財産清算人への備え |
| ペットの行き先がない | 一時保護・飼育者不在 | 引取先の合意、負担付遺贈等 |
| 遺言がない | 希望する人へ財産を承継できない | 公正証書遺言 |
| 疎遠な親族間で紛争 | 遺産分割が長期化 | 公正証書遺言、遺言執行者の指定 |
| デジタル遺品が残る | サブスク課金・SNS放置 | サービス一覧、死後事務委任 |
ケース① 葬儀をする人がいなかった
何が起きやすいか
身寄りのない方が亡くなり、兄弟姉妹はすでに他界、甥姪とは長年連絡がない——こうした状況では、葬儀の手配を行う人が誰もおらず、自治体の対応に委ねられることがあります。生前に希望していた葬儀の形や納骨先が叶わないまま送られてしまうこともあります。
回避策
死後事務委任契約により、希望する葬儀社・葬儀形式・納骨先までを生前に指定しておくと、ご自身の希望に沿った対応につながります。なお、実際に希望どおりに実現できるかは、費用の確保、宗教法人・墓地・霊園の規約、受け入れ可否などによって変わるため、支払原資や受け入れ先も含めて事前に確認しておくことが重要です。
ケース② 預金が凍結されて葬儀費用が払えない
何が起きやすいか
おひとりさまの方が亡くなり、唯一の親族である甥や姪が葬儀を手配したものの、故人の預金口座は金融機関が死亡を確認すると凍結され、相続手続きが完了するまで引き出せません。その結果、葬儀費用や施設の精算金を、親族が一時的に立て替える事態が生じます。
【実務上のポイント】
2019年7月施行の民法改正により「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」(民法第909条の2)が新設され、家庭裁判所の判断を経ずに一定額(相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分、同一金融機関あたり150万円が上限)を引き出せるようになりました。ただし、これは原則として「相続人」が利用する制度であり、死後事務委任契約の受任者が当然に故人の預金を引き出せるわけではありません。また上限があるため、葬儀費用・施設精算金・原状回復費のすべてを賄えるとは限りません。そのため、葬儀費用等は遺産からの精算だけでなく、事前預託金・生前の葬儀契約・生命保険金など、支払原資を事前に確認しておくことが重要です。
回避策
死後事務委任契約で、葬儀費用などの実費の支払い方法・支払原資(遺産からの精算、事前預託金、生前の葬儀契約、生命保険金など)まで定めておく。遺産から精算する設計でも、死亡直後に預金をすぐ使えるとは限らないため、支払原資を事前に確認しておく。なお、生命保険金は受取人固有の財産になり得るため、葬儀費用等に充てる場合は、保険金受取人が誰か・充当の合意があるか・税務上の取扱いを事前に確認しておく必要があります。
ケース③ 賃貸住宅が長期間放置された
何が起きやすいか
賃貸住宅で一人暮らしの方が亡くなり、相続人がいない場合、家財・遺品の処分を行う人がおらず、貸主(大家)が困ることがあります。家庭裁判所による相続財産清算人の選任申立てまでに時間がかかり、その間も家賃が発生し続けます。
回避策
死後事務委任契約に「賃貸住宅の明渡し・原状回復・遺品整理業者の手配方針」を定めておく。ただし、現金・貴金属・有価証券・契約書類・重要書類など財産的価値のあるものは相続財産にあたるため、死後事務受任者が単独で処分できるとは限りません。相続人がいる場合は相続人、遺言があれば遺言執行者、相続人不存在なら相続財産清算人との権限関係を整理したうえで対応する必要があります。生前に管理会社・貸主へ契約内容を共有しておくと、よりスムーズに進みます。
ケース④ ペットの行き先がなかった
何が起きやすいか
ペットと暮らす方が急逝し、引き取り先が決まっていなかったために、保護施設への収容が検討される——そうした事態も起こり得ます。引き取り先が決まるまでの間、ペットが不安な状態で過ごすことになります。
回避策
ペットは法律上の権利主体ではないため、ペット自身に財産を遺すことはできません。引き取り先となる人・団体を生前に決め、その人に飼育を依頼する設計が必要です。方法としては、負担付遺贈、死因贈与契約、ペットの一時保護を含む死後事務委任契約などがあります。飼育費・引渡し方法・緊急時の一時預け先まで決めておくことが重要です。
ケース⑤ 遺言書がなく財産が国庫帰属
何が起きやすいか
長年お世話になった近隣の方に財産を遺したいと話していても、遺言書を作成していなければ、その希望どおりに承継されるとは限りません。相続人がいない場合でも、財産が直ちに国庫へ帰属するわけではなく、家庭裁判所により相続財産清算人が選任され、債権者・受遺者への弁済、相続人の捜索、特別縁故者への財産分与(民法第958条の2)などの手続きを経て、なお残った財産が最終的に国庫へ帰属します(民法第959条)。お世話になった方が特別縁故者として分与を申し立てることもできますが、認められるかは家庭裁判所の判断によります。
回避策
お世話になった方に確実に財産を承継させたい場合は、公正証書遺言で遺贈先を指定しておくのが基本です。遺言がない場合、その方が特別縁故者として財産分与を申し立てられる可能性はありますが、認められるかは家庭裁判所の判断に委ねられます。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):特別縁故者の相続税とは?基礎控除・計算方法・申告まで徹底解説
ケース⑥ 疎遠な親族間で紛争に発展
何が起きやすいか
おひとりさまの方が亡くなり、長年連絡を取っていなかった甥姪が相続人として登場。自筆証書遺言があっても形式不備で無効となると、相続人間で財産分割をめぐる協議が難航することがあります。話し合いが調わず、弁護士を介して解決まで長期化するケースもあります。
回避策
公正証書遺言の作成。自筆証書遺言は民法第968条の方式不備で無効になるリスクが残ります。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば紛失・改ざん防止や検認不要のメリットがありますが、遺言内容そのものの有効性まで保証されるわけではないため、おひとりさまには実行可能性の高い公正証書遺言をおすすめします。なお、紛争に発展した場合の交渉・調停・訴訟の代理は弁護士の業務のため、行政書士法人トゥモローズでは提携弁護士をご紹介します。
おひとりさま終活サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
ケース⑦ デジタル遺品が処理されないまま
何が起きやすいか
亡くなった後、有料サブスクリプション・ECサイトの定期購入・SNSアカウントなどが放置され、解約手続きをしない限りクレジットカードから毎月課金が続くことがあります(カードの失効等で止まることもあります)。家族が気づくまでに時間がかかり、その間も引き落としが続きます。
回避策
生前に、利用サービス名・契約先・登録メールアドレス・支払方法・解約窓口を一覧化しておきます。パスワードや暗証番号をそのまま記載・共有するのではなく、正式な解約手続きに必要な情報を整理するのが重要です(規約や不正アクセス禁止法との関係から、本人になりすましてログインする運用は避けます)。死後事務委任契約には、サブスクリプション・携帯電話・インターネット・SNS等の停止・解約手続きを明記しておきます。
全ケース共通の予防策
7つのトラブルに共通する根本原因と予防策を整理しました。
| 根本原因 | 予防策 |
|---|---|
| 死後の事務を実行する人がいない | 死後事務委任契約の締結 |
| 財産の承継先が指定されていない | 公正証書遺言の作成 |
| 判断能力低下時の備えがない | 任意後見契約・財産管理委任契約 |
| 緊急時の連絡先が共有されていない | エンディングノートの整備・身元保証契約 |
| 葬儀・埋葬の希望が伝わっていない | 死後事務委任契約への記載 |
今すぐできる3ステップ
- 緊急連絡先リストを作成し、目立つ場所(玄関・冷蔵庫)に貼る
- 公正証書遺言と死後事務委任契約の初回相談を予約する
- サブスク・SNS・口座の棚卸しを始める
トラブルが家族にしわ寄せされやすい場面
葬儀費用の立替が長期化する
預金が凍結されている期間中、葬儀費用・施設費・賃貸の原状回復費などは、誰かが立て替えることになります。遠方に住む親族が立て替え、相続手続き完了まで回収できない、というご相談は珍しくありません。死後事務委任契約で支払い方法・支払原資まで定めておけば、こうした立替負担を抑えられます。
相続放棄せざるを得ない場合がある
借金があるか不明な状態で相続が発生すると、3か月の熟慮期間内に財産調査が間に合わず、念のため相続放棄を選ぶご家族もいます。生前のうちに財産目録(借入を含む)が整備されていれば、判断がしやすくなります。遺品の中から借入の請求書が後で見つかり、困るケースもあります。
SNS・サブスクの「死後課金」
クレジットカード払いのサブスクリプションは、解約手続きをしない限り自動引き落としが続きます。家族が気付かないまま放置され、累計の引き落としが大きくなることもあります。死後事務委任契約に「デジタル遺品の解約」を盛り込んでおけば、受任者が各サービスの規約に従って停止・解約手続きを進めやすくなります。
トラブル防止のための「3つの備え」
第1の備え: 緊急時の連絡体制
突然の体調変化・事故の際、誰に最初に連絡が行くかを明確にしておきます。冷蔵庫や玄関に「緊急連絡カード」を掲示し、医療機関・救急隊員が見つけやすい状態にしておくのが基本です。医療機関は、身元保証人がいないことのみを理由に入院を拒否することは不適当とされています(厚生労働省通知)。ただし実務上は、緊急連絡先・入退院の手続き・費用精算・死亡時対応などを求められる場面があります。身元保証・死後事務・日常生活支援を含む終身サポートは長期契約になりやすく、費用・預託金・解約時の返金・事業者の継続性をめぐるトラブルが起きやすい分野です(消費者庁も注意点を公表しています)。身元保証契約を検討する場合は、サービス範囲・保証範囲・費用負担の上限・預託金の分別管理・解約時の返金条件・報告体制・事業継続体制、24時間対応の有無、医療同意は代行できないことを契約書で確認しておく必要があります。
第2の備え: 判断能力低下への対応
判断能力が低下した場合の備えとして、任意後見契約・財産管理委任契約が機能します。任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。元気なうちに契約だけ結んでおき、必要になった段階で発効させる仕組みです。
第3の備え: 死後事務の確実な実行
最後の局面では、死後事務委任契約により葬儀・各種解約・遺品整理が実行されます。費用の支払い方法まで契約で定めておけば、遺族や受任者の立替を抑えられます。デジタル遺品の解約は契約書に明記しておきます。
同じ受任者で一貫設計するメリット
3つの備えがバラバラだと、引き継ぎの隙間が生まれます。同一の法人が窓口となって設計することで、契約間の連携はスムーズになります。一方で、任意後見・財産管理・身元保証・死後事務を同一または近接する関係者が担う場合は、利益相反、預託金の分別管理、報告体制、担当者変更時の引継ぎ方法を確認しておくことが重要です。行政書士法人トゥモローズでは、必要な契約を組み合わせて、おひとりさまの備えを整えるお手伝いをしています。
自分でできるトラブル予防チェック
「もし今日亡くなったら」を想定する
年に一度、誕生日や年末などに、「もし今日自分が亡くなったら、何が必要になるか」を整理します。葬儀・各種届出・解約・遺品整理など、必要な対応を箇条書きにし、現状の備えで対応できるかを確認します。
連絡できる人を把握しておく
緊急時に連絡できる人・遠方の親族・親しい友人をリスト化します。「いざという時に連絡できる人がいない」と気づくことも多く、身元保証契約などの活用を検討するきっかけになります。
財産を一覧にする
預貯金・有価証券・不動産・保険など、全財産の一覧を作成し、定期的に更新します。財産状況を客観的に把握することで、必要な終活契約の範囲が明確になります。
医療への希望を書面で残す
延命治療・尊厳死・臓器提供への希望は、生前のうちに書面で残しておきます。尊厳死宣言の公正証書化や、医療・ケアの方針を関係者と話し合っておく取り組み(人生会議/ACP)の活用も有効です。
相続税が関わる場合は税理士法人と連携
おひとりさまの場合でも、遺言により受遺者が財産を取得する場合、特別縁故者が相続財産法人から財産分与を受ける場合、生命保険金の受取人がいる場合などには、相続税の検討が必要になることがあります(財産を取得する人がいない国庫帰属だけで終わる場合は、通常、相続税の納税者は出ません)。また、遺贈寄付を予定している場合は、寄付先や財産の種類によって相続税・所得税の取扱いが変わることがあります。
これらの税務判断は税理士の業務です。行政書士法人トゥモローズでは、グループの税理士法人トゥモローズと連携し、契約設計の段階から税務面の見通しもあわせてご案内します。具体的な相続税の計算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):相続税の基礎控除とは?計算方法と非課税ラインを早見表付きで解説【2026年】
よくある質問(FAQ)
Q1. トラブルを未然に防ぐために最も重要な準備は何ですか?
A. 公正証書遺言と死後事務委任契約が基本です。あわせて、判断能力低下に備える任意後見契約・財産管理委任契約、入院や施設入所に備える身元保証契約も組み合わせることで、本記事のトラブルの多くを回避または軽減できる可能性が高まります。
Q2. 親族とは疎遠ですが連絡は取っておくべきですか?
A. 最低限の連絡先共有は重要です。あわせて、トラブル回避のために契約による備えを並行して行うことをおすすめします。
Q3. 葬儀の希望はどこに書けばよいですか?
A. エンディングノートと死後事務委任契約の両方に記載することをおすすめします。エンディングノートだけでは法的拘束力がないため、契約で確実に実行されるよう設計します。
Q4. 預金が凍結されたらどうなりますか?
A. 金融機関が死亡を確認すると口座は凍結され、相続手続きが完了するまで原則として引き出せません。民法909条の2の払戻し制度は原則として相続人が利用する制度で、死後事務委任契約の受任者が当然に引き出せるわけではありません。葬儀費用等は、遺産からの精算だけでなく事前預託金・生前の葬儀契約・生命保険金など支払原資を事前に確認しておくことが重要です(生命保険金は受取人固有の財産になり得るため、充当には受取人の同意・税務確認が必要です)。
Q5. 親族間でもめないか心配です。
A. 遺言書がない、または内容が不明確だと、もめるリスクが高まります。公正証書遺言を作成し、財産の承継先を明確にすることで予防につながります。
まとめ
おひとりさまの相続トラブルは、準備不足から発生するパターンが多いものです。葬儀ができない、預金が凍結される、財産が国庫帰属する、デジタル遺品が放置される——いずれも生前に必要な契約を組み合わせて整えておくことで、回避または軽減できる可能性が高まります。
行政書士法人トゥモローズでは、相続専門の知見を活かし、必要な契約を組み合わせておひとりさまの終活をサポートしています。初回相談は無料です。
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相続人がいない場合の手続きや相続税の取扱いについては、グループの税理士法人トゥモローズの解説記事もご参照ください(相続税の試算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します)。
根拠法令・参考
- 民法第643条(委任)・第653条(委任の終了事由)・第656条(準委任)
- 民法第909条の2(遺産分割前の預貯金債権の行使)
- 民法第960条以下(遺言の方式)・第968条(自筆証書遺言)
- 民法第952条(相続財産清算人の選任・公告)・第958条の2(特別縁故者への分与)・第959条(残余財産の国庫への帰属)
