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遺言能力が問題になるケース|認知症の方が遺言を残す方法

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遺言書作成

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行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)

大塚 英司


10秒でわかる この記事の要約

  • 遺言能力は診断名で一律に判断されるものではなく、認知症と診断されていても、遺言作成時点で財産内容・承継先・遺言の法的効果を理解して判断できる状態であれば、有効な遺言を作成できる可能性がある。
  • 民法第963条は遺言の時点で遺言能力があることを有効性の前提とし、第973条は成年被後見人でも医師2人以上の立会いの下で一時的に判断能力が回復していれば遺言できると定めている。
  • 一般に、遺言内容が単純で本人の従前の意向と整合的なら遺言能力は認められやすく、複雑な内容や特定の相続人に極端に偏った内容は無効リスクが高まる。
  • 無効リスクを下げるには、判断能力があるうちの早期作成・公正証書遺言・主治医の診断書取得・作成時の記録を組み合わせるのが有効である。

遺言能力とは、遺言者が遺言作成時点で、自分の財産の概要、誰に何を残すのか、その法的効果を理解して判断できる能力(意思能力の一種)のことです。 認知症と診断されていても、診断名だけで直ちに遺言が無効になるわけではありません。遺言の有効性は、遺言作成時の判断能力、遺言内容の複雑さ、作成経緯、医療記録、本人の従前の意向などを総合して判断されます。民法第963条により、遺言者は遺言をする時においてその能力を有しなければならないとされ、民法第973条は、成年被後見人について「事理を弁識する能力を一時回復した時、医師2人以上の立会いの下」での遺言を例外的に認めています。

「本人が遺言を残したいと希望しているが、認知症の診断を受けており、有効に作成できるか不安」「親が以前から遺言を希望していたが、最近物忘れが進み、今から作成してもよいか確認したい」。遺言の有効性は、遺言能力の有無で大きく左右されます。大切なのは、ご本人自身が遺言作成を望んでいることです。家族が主導して遺言を「書かせる」かたちは、後日、本人の真意や作成経緯を疑われ、遺言無効の主張につながりやすくなります。

本記事では、相続を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、遺言能力の法的要件と、認知症が進行している場合の対応を解説します。なお、遺言の有効性をめぐる紛争(遺言無効確認訴訟など)は弁護士の業務のため、提携弁護士が対応します。


遺言能力とは

法的な位置づけ

遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その効果を判断できる能力で、意思能力の一種と理解されています。

遺言能力の目安

  • 自分の財産の概要を把握できる
  • 遺言で誰に何を遺すかを理解できる
  • 遺言の効果(自分の死後に生じること)を理解できる

これらが満たされない場合、遺言は無効となるおそれがあります。


民法上の規定(961条・963条・973条)

条文内容
民法第961条15歳に達した者は、遺言をすることができる
民法第963条遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない
民法第973条成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時においては、医師2人以上の立会いがあれば遺言できる(立ち会った医師は、遺言者が遺言の時に精神上の障害により事理弁識能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して署名押印する)

認知症の進行段階別の考え方

軽度認知障害(MCI)

日常生活に支障はないが軽い物忘れがある段階。遺言能力は通常保たれているが、進行に備えて早期の作成が望ましい。

軽度の認知症

日常生活に若干の支障が出る段階。遺言能力は内容によるが、単純な内容であれば作成できる場合がある。専門家の関与が重要。

中等度の認知症

遺言能力に疑義が生じやすく、遺言内容・医療記録・作成時の意思確認が特に重要になる段階。単純な内容でも、専門家・医師・公証人との慎重な確認が必要。

重度の認知症

財産内容や遺言の効果を理解することが困難な場合が多く、新規作成は極めて難しい。発症前の遺言がある場合は、その有効性や保管状況を確認しておく。

【実務上のポイント】

認知症が疑われる方の遺言作成では、主治医の診断書の取得・公正証書遺言・作成時の状況の記録を組み合わせることが有効です。無効リスクを下げるため、専門家の関与が重要になります。


成年被後見人の遺言(民法973条)

例外的な作成の可能性

民法第973条は、成年被後見人でも、「事理を弁識する能力を一時回復した時」には、医師2人以上の立会いの下で遺言できると定めています。立ち会った医師は、遺言の時に判断能力を欠く状態でなかった旨を遺言書に付記して署名押印します。

実務上のハードル

  • 「一時回復」しているかの判断が難しい
  • 医師2人の立会いを確保しにくい
  • 立ち会った医師による付記が必要となる
  • 後日に有効性が争われるリスクは残る

このように、事理弁識能力の一時回復を医師2人以上の立会いの下で確認し、医師による付記・署名押印まで必要となるため、成年後見開始後に新たな遺言を作成するのは例外中の例外です。現実には、判断能力が十分な段階で公正証書遺言を作成しておくことが重要です。


遺言の有効性が争われやすい典型ケース

典型ケース争われやすい論点
認知症の診断後の作成遺言能力の有無
内容が極端に偏っている特定の相続人による誘導の有無
自筆証書の形式不備方式違反
遺留分を侵害している遺留分侵害額請求
複数の遺言が存在する後の遺言による前の遺言の撤回

遺言の有効性をめぐる紛争(遺言無効確認訴訟など)は弁護士の業務のため、紛争に発展した場合は提携弁護士が対応します。


遺言無効リスク・相続紛争リスクを下げる5つの準備

無効リスク・紛争リスクを下げる準備5項目

  1. 判断能力があるうちに早期に作成する
  2. 公正証書遺言を選ぶ
  3. 作成時期に近い診断書・診療記録を残す
  4. 本人の意思確認の経緯を記録する
  5. 遺留分・従前の意向・家族関係に配慮し、後日の紛争を予防する

公正証書遺言は、作成時に公証人が本人の意思を確認するため、自筆証書遺言と比べて方式の不備や意思確認をめぐる無効リスクを下げやすい方式です。ただし、公証人は医師ではないため、公正証書遺言であっても遺言能力が当然に保証されるわけではありません。判断能力に不安がある場合は、作成時期に近い診断書、診療記録、検査結果、面談記録を組み合わせて証拠化することが重要です。また、公正証書遺言では証人2名の立会いが必要で、推定相続人・受遺者やその配偶者・直系血族は証人になれないため、証人の選定も慎重に行います。

なお、遺留分への配慮は、遺言能力による無効リスクを直接下げるものではありません。遺留分を侵害していても遺言が当然に無効になるわけではなく、問題になるのは遺留分権利者からの遺留分侵害額請求です。ただし、特定の相続人に極端に偏った内容は、本人の真意や作成経緯を疑われやすく、遺言無効主張や遺留分侵害額請求などの紛争につながることがあるため、遺言能力対策とは別に、紛争予防策として遺留分への配慮を検討します。


遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。

残された家族を守る、公正証書遺言。行政書士法人トゥモローズの遺言作成サポート

遺言能力の判断で考慮されやすい要素

裁判所は、遺言能力の有無を診断名だけで決めるのではなく、遺言の時点での具体的な判断能力から個別に判断します。一般的な傾向として、次のような要素が考慮されます。

  • 遺言の内容が単純か複雑か(特定の人に特定の財産を遺すなど、単純な内容は能力が認められやすい)
  • 遺言の動機が合理的に説明できるか
  • 本人の従前の意向と整合しているか
  • 医師の診断・記録や、作成時の意思確認の状況

逆に、複雑な財産処分や、特定の相続人に極端に偏った内容で、本人の従前の言動と矛盾するような遺言は、無効と判断されるリスクが高まります。なお、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)などの検査結果は判断の一資料となり得ますが、特定の点数だけで遺言能力の有無が決まるわけではありません。


遺言能力を保全する実務的な工夫

主治医の診断・検査結果の記録

遺言作成の前後に主治医の診察を受け、診断書や検査結果を残しておくと、遺言能力を検討する際の資料になります。なお、診断書は、遺言作成日から離れた時期のものでは証拠力が弱くなることがあります。可能であれば、遺言作成時期に近い診察記録、HDS-R・MMSEなどの認知機能検査結果、診療録、専門家との面談記録を組み合わせて残しておくことが重要です。ただし、前述のとおり検査の点数だけで結論が決まるわけではなく、遺言内容・作成経緯・意思確認の状況などを総合して判断されます。

公正証書遺言の作成と意思確認の記録

公証人は遺言作成時に本人と直接面談し、意思を確認します。認知症が進行傾向にある方の場合、公証人との事前の打合せから本人を含めて丁寧に進めることで、本人の意思を確認しやすくなります。

▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):【公正証書遺言費用の目安は?】公正証書遺言にかかる手数料を徹底解説!

作成時の状況を動画で残す場合は、本人が自分の財産、遺言の内容、誰に何を残すのか、その理由を自分の言葉で説明していることが重要です。受益者となる相続人が質問を誘導している動画や、本人が「はい」とだけ答えている動画は、かえって遺言無効主張の材料になることがあります。動画を残す場合も、公証人・専門家・医師と相談し、本人の自由な意思確認を妨げない方法(利害関係のある相続人は同席しない等)で行う必要があります。

判断能力があるうちの早期作成

最も確実なのは、判断能力が十分なうちに遺言を作成しておくことです。先延ばしにせず、思い立った段階で専門家に相談することをおすすめします。


遺言能力に不安がある場合の備え

任意後見契約

判断能力が低下した後の財産管理・身上監護に備えるため、任意後見契約を併用する方法があります。任意後見契約は公正証書で作成し、効力が生じるのは家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点からです。ただし、任意後見契約は生前の財産管理・身上保護に備える制度であり、死亡後の財産承継を直接決める制度ではありません。死亡後に誰へ財産を承継させるかは、遺言や信託など別の仕組みで設計する必要があります。

家族信託

家族信託は、判断能力が低下する前に、特定の財産を信託財産として受託者に管理してもらう仕組みです。判断能力低下後の財産管理対策として有効な場合がありますが、管理・承継の対象は信託財産に組み入れた財産に限られ、遺言の完全な代替になるわけではありません。また、不動産登記、税務、遺留分、受託者の負担などの検討が必要になるため、専門家と設計する必要があります。

生前贈与

生前贈与は、判断能力があるうちに財産を移転する方法ですが、贈与契約時の意思能力のほか、贈与税、相続開始前贈与加算、相続時精算課税、特別受益、遺留分への影響を検討する必要があります。税務判断は税理士の業務のため、税理士法人トゥモローズが連携して確認します。

▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):生前贈与がある場合の相続税申告


よくある質問(FAQ)

Q1. 認知症と診断されたら遺言は作れませんか?

A. 診断名だけで一律に判断されるわけではありません。遺言の内容を理解し意思表示できる遺言能力があれば作成できますが、無効リスクを下げるため、軽度の段階での作成が現実的です。

Q2. 遺言能力の有無は誰が判断しますか?

A. 遺言の有効性が争われた場合は、最終的に裁判所が判断します。公正証書遺言では作成時に公証人が本人の意思を確認します。実務上は主治医の診断書や作成時の記録が証拠として重要です。

Q3. 成年被後見人でも遺言を作れますか?

A. 民法第973条に基づき、事理を弁識する能力を一時回復した時に、医師2人以上の立会いがあれば作成できます。立ち会った医師は、その旨を遺言書に付記して署名押印します。実務上のハードルは高く、判断能力が低下する前の作成が現実的です。

Q4. 遺言能力が争われやすいのはどんな場合ですか?

A. 認知症の診断後の作成、内容が不自然に偏っている場合、特定の相続人に極端に有利な場合などです。遺言無効の訴えに発展することもあります。

Q5. 無効リスクを下げる準備方法は?

A. 判断能力があるうちの早期作成、公正証書遺言の利用、作成時期に近い診断書・診療記録の取得、本人の意思確認の経緯の記録などを組み合わせる方法があります。

Q6. 長谷川式認知症スケールが何点なら遺言できますか?

A. 特定の点数だけで遺言能力の有無が決まるわけではありません。検査結果は判断の一資料にすぎず、遺言内容の複雑さ、作成経緯、医療記録、本人の従前の意向などを総合して判断されます。

Q7. 診断書があれば遺言は必ず有効ですか?

A. 必ず有効になるわけではありません。診断書は重要な資料ですが、遺言作成時点の判断能力、内容の理解、本人の意思が総合的に判断されます。作成時期に近い診断書・診療記録・意思確認の記録を組み合わせることが大切です。

Q8. 遺言作成時に家族が同席してもよいですか?

A. 受遺者となる相続人など利害関係のある家族の同席は、誘導を疑われる原因になるため慎重にすべきです。公正証書遺言の作成時は、本人が自分の言葉で真意を述べられるよう、利害関係人には席を外してもらう運用が一般的です。

Q9. 公証役場に行けない場合はどうしますか?

A. 公証人が病院・自宅・老人ホーム・介護施設等に出張して遺言公正証書を作成する方法があります。ご本人が施設・病院にいる場合も、出張作成を含めて検討できます。


まとめ

遺言能力は、遺言の有効性を左右する重要な要素です。認知症の発症後の作成は無効リスクが高まるため、判断能力があるうちの早期作成が大切です。遺言能力は診断名だけで決まるものではありませんが、後日の紛争を避けるためには、公正証書遺言・作成時期に近い診断書・意思確認の記録を組み合わせて備えておくことが大切です。

東京・中央区八丁堀の行政書士法人トゥモローズでは、判断能力に不安がある方の公正証書遺言について、公証役場との調整、医師の診断書取得の進め方、証人手配、遺言執行者の設計までサポートしています。ご本人が施設・病院にいる場合も、公証人の出張作成を含めて検討できます。紛争性のある場合は提携弁護士、税務は税理士法人トゥモローズと連携して対応します。


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根拠法令・参考情報

  • 民法第961条(遺言能力)
  • 民法第963条(遺言能力)
  • 民法第973条(成年被後見人の遺言)
  • 民法第974条(証人の欠格事由)
  • 任意後見契約に関する法律
  • 信託法

公的機関・根拠リンク

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この記事の執筆者:大塚 英司

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)
税理士(東京税理士会新宿支部 登録番号 117702)

相続を専門に取り扱う行政書士・税理士。相続手続き・遺言・おひとりさま終活の実務に幅広く従事し、戸籍収集や遺産分割協議書の作成から、死後事務委任契約・任意後見契約といった生前対策の設計まで、ご相談者お一人おひとりの状況に応じて丁寧にサポートしている。