遺言で生命保険金の受取人を変更する方法|保険法44条の手続きと注意点
10秒でわかる この記事の要約
- 生命保険金の受取人は、生前の手続きだけでなく、遺言によっても変更できる(保険法第44条第1項)。
- ただし遺言による変更は、遺言の効力が生じた後、契約者の相続人が保険会社へ通知しないと、保険会社に対抗できない(保険法第44条第2項)。
- 死亡保険契約では、受取人変更に被保険者の同意が必要(保険法第45条)。契約者と被保険者が異なる契約は特に注意。
- 遺言の種類は問わないが、民法上有効な遺言であることが前提。約款上、受取人変更や受取人の範囲が制限されることもある。
- 被相続人が保険料を負担した死亡保険金は相続税の対象。保険料負担者・受取人の組み合わせで所得税・贈与税になることもあり、受取人で税額が変わる。
生命保険金の受取人は、契約後でも変更できます。多くは生前に保険会社で手続きしますが、実は「遺言」によっても変更できます(保険法第44条)。 ほかの遺言内容とあわせて最終意思を残したい場合や、生前に手続きできない事情がある場合の選択肢になります。
ただし、遺言による受取人変更には、被保険者の同意(保険法第45条)や死亡後の通知など、通常の保険会社での手続きとは異なる重要な注意点があります。本記事では、遺言を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、保険法にもとづく遺言での受取人変更の方法・効果・注意点を、死亡保険金の課税関係まで含めて整理します。
遺言で生命保険金の受取人を変更できる(保険法第44条)
生命保険の保険金受取人は、契約者が生前に保険会社で変更手続きをするのが一般的です。しかし、保険法は、これとは別に遺言によっても受取人を変更できると定めています(保険法第44条第1項)。
たとえば、「保険金の受取人を、配偶者から長女に変更する」といった内容を遺言に書いておくことで、死亡後にその変更の効果を生じさせることができます。生前に保険会社へ届け出ることなく意思を残せる点が特徴です。離婚・再婚や、特定の相続人に多く遺したいといった事情があるとき、ほかの遺言内容とあわせて受取人の変更を定めておく、という使い方ができます。
もっとも、遺言で受取人を変更できるのは、保険契約者に受取人変更権があり、契約・約款上も変更が認められる場合です。受取人の範囲が親族等に制限されている保険もあり、約款によっては希望どおりに変更できないことがあります。また、保険金受取人の変更は、本来は保険事故が発生するまでに保険者への意思表示によって行うもので(保険法第43条)、遺言による変更はその例外的な方法という位置づけです。確実に変更したいだけであれば、生前に保険会社で手続きするほうがシンプルです。遺言で変更するのは、事情があって生前に動けない場合や、遺言全体と一体で設計したい場合の選択肢と考えるとよいでしょう。まずは保険証券・約款・契約内容を確認してから検討します。
遺言による変更で気をつける「相続人の通知」(第44条第2項)
遺言で受取人を変更する場合、最大の注意点が「保険会社への通知」です。
保険法第44条第2項は、遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険会社へ通知しなければ、保険会社に対抗することができないと定めています。つまり、遺言に「受取人を変更する」と書いてあっても、保険会社がその事実を知らないまま旧受取人へ保険金を支払ってしまうと、新しい受取人は変更を主張しにくくなるのです。
そのため、遺言で受取人を変更したときは、相続人が、遺言の内容を保険会社へ速やかに通知することが欠かせません。通知の際は、次のような資料を準備します。
| 準備するもの | 内容 |
|---|---|
| 保険証券・証券番号 | 対象契約の特定 |
| 遺言書(公正証書の正本・謄本/自筆証書) | 受取人変更の記載確認。自筆証書で法務局保管制度を使っていない場合は検認済証明書も |
| 契約者の死亡が分かる書類 | 死亡診断書、戸籍など |
| 相続人であることが分かる書類 | 通知権限の確認 |
| 保険会社所定の請求書・変更届 | 保険会社の実務に従う |
通知が遅れて保険会社が旧受取人へ支払ってしまうと、新受取人は変更を対抗できず、旧受取人との間で紛争になるおそれがあります。スムーズに通知できるよう、遺言では遺言執行者を指定し、保険証券の保管場所を家族に伝えておくと安心です。相続開始後はできるだけ早く保険会社へ連絡します。
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確実に変更するための書き方と方式
遺言による受取人変更は、自筆証書・公正証書など遺言の種類は問いませんが、民法上有効な遺言であることが前提です。方式不備があれば、遺言自体が無効となり変更も生じません。効果を確実にするため、次の点に注意します。
- 保険契約を特定する:保険会社名・証券番号・契約者・被保険者・保険種類など、どの契約かが分かるように書く
- 新しい受取人を特定する:氏名・続柄・生年月日など、誰が受取人かを特定できるように書く。複数人なら割合まで明記する
- 方式の不備をなくす:自筆証書遺言は、全文・日付・氏名の自書と押印などの要件を満たす必要がある
【文例(単独の場合)】「私は、下記生命保険契約の死亡保険金受取人を長女○○○○(昭和○年○月○日生)に変更する。保険会社:○○生命保険株式会社/証券番号:第○○○○号/契約者・被保険者:遺言者/保険種類:終身保険」。複数人に分けるなら「死亡保険金受取人を、長男○○に2分の1、長女○○に2分の1の割合で変更する」のように割合を書きます。実際の文案は、約款・受取人変更の可否を確認したうえで作成します。
自筆証書遺言は、方式不備や紛失・改ざんのリスクがあり、法務局の保管制度を使わない自筆証書遺言は家庭裁判所の検認も必要です。確実性を重視するなら、公証人が関与する公正証書遺言が安心です。
契約者と被保険者が違う場合は被保険者の同意が必要
見落としやすいのが、被保険者の同意です。死亡保険契約の保険金受取人の変更は、被保険者の同意がなければ効力を生じません(保険法第45条)。契約者と被保険者が同じ場合は問題になりにくいですが、契約者と被保険者が異なる契約(たとえば夫が契約者で妻が被保険者など)では、遺言で受取人変更を書いても、被保険者の同意がなければ効力が生じない可能性があります。この場合は、保険証券・約款を確認し、被保険者同意の要否・取得方法・保険会社の実務を事前に確認します。
死亡保険金と相続税の関係
受取人を変更する際は、相続税の扱いもあわせて確認しておくと安心です。
まず、死亡保険金は常に相続税の対象になるわけではありません。保険料負担者・被保険者・受取人の組み合わせで、相続税・所得税・贈与税のいずれになるかが変わります(国税庁No.1750)。
| 被保険者 | 保険料負担者 | 受取人 | 税の種類 |
|---|---|---|---|
| 被相続人 | 被相続人 | 相続人・第三者 | 相続税 |
| 被相続人 | 受取人 | 受取人 | 所得税 |
| 被相続人 | 別の人 | 受取人 | 贈与税 |
相続税の対象になるのは、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金です。これには「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がありますが、使えるのは死亡保険金を取得した人が相続人である場合に限られます。相続放棄をした人や相続権を失った人が受け取った保険金には、非課税枠は適用されません(ただし、非課税限度額の計算上の「法定相続人の数」には、放棄がなかったものとして放棄者も含めます)。
そのため、受取人を法定相続人ではない孫・内縁の配偶者・第三者などに変更すると、その人が受け取る保険金には非課税枠が使えません(孫でも代襲相続人や養子として法定相続人に当たる場合は扱いが変わります)。さらに、受取人が被相続人の一親等の血族および配偶者以外の場合は、相続税額の2割加算の対象になることもあります。誰を受取人にするかは税額に大きく影響するため、変更の前に税務面を確認しておくことが大切です。相続税の判断は税理士の業務のため、税理士法人トゥモローズと連携して確認します。
なお、生命保険金は受取人固有の権利で、原則として遺産分割の対象にはなりません。ただし、特定の相続人に多額の保険金を集中させると、ほかの相続人との不公平が著しい場合に、特別受益に準じて持戻しの対象とされる余地があるとした最高裁判例(平成16年10月29日決定)もあります。保険金額が遺産全体に比べて大きい場合は、遺言内容・保険金額・遺留分を一体で検討します。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):相続税における生命保険金(死亡保険金)と保険金受取人の関係を徹底解説
相続発生後の保険金の請求手続きは、こちらもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺言で受取人を変更したことは、保険会社にどう伝わりますか?
A. 自動では伝わりません。遺言による受取人変更は、遺言の効力が生じた後(契約者の死亡後)に、契約者の相続人が保険会社へその旨を通知しなければ、保険会社に対抗できません(保険法第44条第2項)。通知がないまま保険会社が旧受取人へ支払うと、変更を主張しにくくなるため、相続人が早めに保険会社へ連絡することが大切です。
Q2. 生前に保険会社で変更するのと、遺言で変更するのは何が違いますか?
A. 生前に保険会社で変更手続きをすれば、保険会社の実務に沿って受取人変更を反映できます。遺言による変更は、遺言全体と一体で最終意思を残せる一方、死亡後に相続人から保険会社への通知が必要で、通知が遅れると旧受取人へ支払われるリスクがあります。確実性を重視するなら、原則として生前の変更手続きが優先です。
Q3. 受取人を変更すると相続税の扱いは変わりますか?
A. 死亡保険金は常に相続税ではなく、保険料負担者・被保険者・受取人の組み合わせで、相続税・所得税・贈与税のいずれかになります(国税庁No.1750)。相続税の対象になるのは被相続人が保険料を負担していた場合で、非課税枠(500万円×法定相続人の数)は相続人が受け取る場合に限られます(相続放棄者・相続権喪失者には適用なし。ただし非課税枠の計算上の法定相続人の数には放棄者も含めます)。孫・第三者などは2割加算の対象になることもあるため、変更前に税理士法人トゥモローズと確認するのが安全です。
Q4. 契約者と被保険者が違う契約でも、遺言で受取人を変更できますか?
A. 注意が必要です。死亡保険契約の受取人変更には、被保険者の同意がなければ効力が生じません(保険法第45条)。契約者と被保険者が同じならあまり問題になりませんが、契約者と被保険者が異なる契約では、遺言で受取人変更を書いても、被保険者の同意がないと効力が生じない可能性があります。保険証券・約款を確認し、被保険者同意の要否・取得方法を事前に保険会社へ確認します。
Q5. 変更後の受取人が先に亡くなっていた場合はどうなりますか?
A. 保険法では、受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その受取人の相続人全員が受取人になります(保険法第46条)。意図しない人が受け取ることになりかねないため、受取人候補が高齢などの場合は、次順位の受取人を定めておくことも考えられます。ただし、予備的な定めが置けるか、その効力は保険会社・約款上の取扱いによるため、事前に保険会社へ確認します。
まとめ
生命保険金の受取人は、生前の手続きだけでなく遺言でも変更できます(保険法第44条第1項)。ただし、遺言による変更は、効力発生後に契約者の相続人が保険会社へ通知しないと保険会社に対抗できず(保険法第44条第2項)、通知が遅れると旧受取人へ支払われるリスクがあります。遺言の種類は問いませんが民法上有効な遺言であることが前提で、契約・受取人を正確に特定する必要があり、確実性を重視するなら公正証書遺言が安心です。死亡保険契約では被保険者の同意が必要な場合があります(保険法第45条)。被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は相続税の対象ですが、保険料負担者・受取人の組み合わせで所得税・贈与税になることもあり、非課税枠は相続人が受け取る場合のみ(放棄者・相続権喪失者には適用なし)のため、受取人の選び方は税額にも影響します。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)を拠点に、首都圏とオンライン(Google Meet・全国対応)で、遺言作成のご相談に対応しています。死亡保険金の相続税は税理士法人トゥモローズと連携して確認できます。
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死亡保険金の相続税もあわせてご確認ください
被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の対象になり、非課税枠は相続人が受け取る場合に適用されます(保険料負担者・受取人の組み合わせで所得税・贈与税になることもあります)。受取人と相続税の関係については、グループの税理士法人トゥモローズの解説記事もご参照ください(相続税の試算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します)。
根拠法令・公的資料
- 保険法第43条(保険金受取人の変更。保険者への意思表示)
- 保険法第44条(遺言による保険金受取人の変更。第2項=相続人の通知が対抗要件)
- 保険法第45条(死亡保険契約の受取人変更における被保険者の同意)
- 保険法第46条(保険金受取人の死亡。受取人の相続人全員が受取人になる)
- 民法第960条・第968条・第969条(遺言の方式)・第1004条(遺言書の検認)・第903条(特別受益)
- 相続税法第3条(死亡保険金のみなし相続財産)・第12条(非課税)・第15条(法定相続人の数)・第18条(2割加算)
- 最高裁平成16年10月29日決定(死亡保険金が著しい不公平の場合に特別受益に準じて持戻しの対象となる余地)
- 税理士法第2条・第52条(死亡保険金の相続税は税理士の業務)
- 行政書士法第1条の3(業務)・第1条の4(相談等)。他の法律で制限された業務を除く
