子が海外に住んでいる人の生前対策|印鑑証明書が取れないときの署名証明と遺言
10秒でわかる この記事の要約
- お子さんが海外で暮らしている。この場合、相続手続きは日本国内だけで完結しません。
- 日本の住民登録を抹消すると印鑑登録も同時に抹消されるため、印鑑証明書を取得できなくなります。海外にいても住民登録が残っていれば取得できます。
- 代わりに使うのが、在外公館が発給する署名証明(サイン証明)です。外務省は、これを日本の印鑑証明に代わるものと説明しています。
- ただし、署名証明は本人が在外公館へ出向く必要があり、代理申請も郵便申請もできません。住所の証明には在留証明を使います。
- 必要な書類は国籍と住民登録で変わります。外国籍のお子さんは、原則として現地の公証人に依頼することになります。
- しかも相続放棄の判断は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月(民法915条1項)、相続税の申告は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月です。
- 連絡が届くまでの時間も含めると、余裕はありません。
- 本記事では、この手間を減らすために元気なうちにできることを整理します。
ご相談で、最近増えている類型です。
「息子がアメリカにいるのですが、何かしておくことはありますか」
あります。しかも、やっておく価値が大きい類型です。
相続手続きが止まる原因は、財産の多さではありません。
書類がそろわないことです。
本記事では、海外在住の相続人がいると何が必要になるのかを確認したうえで、生前にできる手当てを整理します。
なお、被相続人が日本人で、日本法が相続の準拠法となる場合を前提にしています(法の適用に関する通則法36条は、相続は被相続人の本国法によると定めています)。
印鑑証明書が用意できない
遺言がない場合、財産の分け方は遺産分割協議で決めます。
はじめにお断りしておくと、実印や印鑑証明書は、遺産分割協議そのものの民法上の成立要件ではありません。
民法に、協議の方式を定めた規定はないからです。
それでも、実務では求められます。
遺産分割協議書を使って金融機関の払戻しや不動産の相続登記を行う場合には、相続人本人が協議に同意したことと、その押印が本人のものであることを確認するため、遺産分割協議書への実印の押印と印鑑証明書の提出を求められるのが通常です。
ただし、必要な書類は手続きの原因と提出先によって変わります。
遺言に基づく手続きや法定相続分での登記では、必要書類が異なります。
ここで、国内にいる相続人と同じ書類を用意できなくなります。
外務省は、日本での住民登録を抹消して外国に住む方は住民登録の抹消と同時に印鑑登録も抹消されるため、法務局や銀行等が印鑑証明に代わるものとして署名証明の提出を求めている、と説明しています。
逆にいえば、海外にいても日本の住民登録が残っていれば、印鑑証明書を取得できます。
海外転出届を出したかどうかで、用意する書類が変わるということです。
代わりに使うのが、在外公館が出す署名証明(サイン証明)です。
外務省は、署名証明について「日本に住民登録をしていない海外在留者に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続のために発給される」と説明しています。
申請者の署名(および拇印)が、領事の面前でなされたことを証明するものです。
証明の方法は2種類あります。
形式1は、在外公館が発行する証明書と、申請者が領事の面前で署名した私文書をつづり合わせて割り印を行うもの。
形式2は、申請者の署名を単独で証明するものです。
どちらにするかは、提出先の意向で決まります。
在外公館へ行く前に、提出先へ確認しておいてください。
住所については、別に在留証明を使います。
外国に住む日本人が、どこに住所を有しているかを在外公館が証明するものです。
| お子さんの状況 | 署名(押印)の証明 | 住所の証明 |
|---|---|---|
| 日本国籍・日本の住民登録あり | 印鑑登録証明書 | 住民票 |
| 日本国籍・日本の住民登録なし | 在外公館の署名証明 | 在外公館の在留証明 |
| 日本国籍を離脱・喪失した元日本人 | 署名証明が例外的に発給される場合あり | 例外的に「居住証明」で対応する場合あり |
| 外国籍 | 現地の公証人による署名認証など | 現地官公署の住所証明など |
署名証明も在留証明も、原則として日本国籍の方が対象です。
外務省は、既に日本国籍を離脱・喪失した方や、日系人を含む外国籍者は在留証明の発給対象外としています。
お子さんが現地の国籍を取得している場合は、また別の手当てが要ります。
外国籍の相続人がいる場合の手続きは関連解説(税理士法人トゥモローズ)「外国籍の相続人がいる場合の相続手続き完全ガイド」をご確認ください。
ただし、例外があります。
外務省は、日本国籍を離脱した方であっても、失効した旅券や除籍謄本などで日本国籍を有していたことが確認できる場合には、遺産相続手続に係る署名証明を発給できる場合があるとしています。
該当しそうなときは、行く前に管轄の在外公館へ問い合わせてください。
外国籍の方については、現地の公証人による署名認証を使うのが一般的です。
提出先によっては、アポスティーユや日本語訳を求められることもあります。
なお、国籍が変わっても相続人であることは変わりません。
必要になる書類が変わるだけです。
最後に、あまり知られていない点を2つ。
1つは、在外公館でも印鑑証明を取り扱っていることです。
外務省は、希望する場合は必要書類を在外公館へあらかじめ問い合わせるよう案内しています。
もう1つは、領事の署名証明を取得することが困難なときの扱いです。
法務省は、この場合に外国の公証人が作成した署名証明を添付して登記の申請をすることも認められている、としています。
在外公館が遠すぎて行けない、という相談のときに効きます。
ただし、どの書類で受け付けるかは提出先の判断です。先に確認してください。
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
在外公館へ出向く負担を、甘く見ない
書類の名前が分かれば解決、とはいきません。
取りに行くのが大変だからです。
署名証明は、代理申請も郵便申請もできません。
領事の面前で署名する必要があるため、外務省は申請する本人が公館へ出向いて申請することが必要としています。
手数料は1通につき邦貨1,700円相当です。
窓口で申請する場合の支払いは、現地通貨の現金が原則です。
外務省は、「オンライン在留届(ORRネット)」を利用した証明のオンライン申請ではクレジットカードによるオンライン決済も可能としています(一部の証明はオンライン申請の対象外で、対象は在外公館ごとに異なります)。
ただし、決済がオンラインでも、署名証明は本人が出向く必要があります。
そして、実務で必ずお伝えしている注意点があります。
書類に、事前に署名をしていってはいけません。
署名は領事の面前で行う必要があるためです。
事前に署名した文書を持参した場合は、その署名を抹消したうえで、面前で改めて余白に署名し直すことになります。
日本から送った書類に、よかれと思って先に署名してもらうと、二度手間になります。
一方、在留証明は少し扱いが違います。
発給の条件は次のとおりです。
- 日本国籍を有すること(二重国籍者を含む)
- 現地に既に3か月以上滞在し、現在居住していること(申請時に3か月未満でも、今後3か月以上の滞在が見込まれる場合は対象)
- 原則として日本に住民登録がないこと
赴任直後でも、一律に取得できないわけではありません。
外務省は、滞在期間が3か月未満の場合は、今後3か月以上の滞在が確認できるもの(賃貸契約書、公共料金の請求書等)を必要書類として挙げています。
手数料は1通につき邦貨1,200円相当です。
在留証明も本人が公館へ出向くのが原則ですが、本人が来られないやむを得ない事情がある場合は、委任状によって代理申請を行える場合があります。
遠隔地にお住まいの方や病気等の事情で出向くことが困難な場合には、郵便による申請も受け付けています。
ただし、できあがった証明書は手数料の納付後に窓口で渡すため、本人または代理人(委任状が必要)が一度は在外公館へ出向くことになります。
また、「オンライン在留届(ORRネット)」を利用したオンライン申請なら、一定の要件を満たす場合に公館へ出向く必要がないとされています。
署名証明は出向くしかない、在留証明にはオンラインの道がある。
この違いは、現地での段取りを考えるときに効いてきます。
そして、実務でいちばん効くのが次の点です。
署名証明は、提出先ごとに原本を求められることがあります。
銀行がいくつもあれば、そのぶん通数が要ることもあります。
一方で、原本還付を受けられる場合や、形式2の署名証明を複数の手続きで使える場合もあります。
何通必要かは、提出先に聞かないと分かりません。
形式1と形式2のどちらにするか、原本還付ができるかとあわせて、先に金融機関や司法書士へ確認しておいてください。
書類に不備があれば、また在外公館へ行き直すことになります。
国土が広い国、公館が首都にしかない国では、往復で丸一日を超えます。
この往復が、手続き全体を何か月も延ばします。
そして、遺産分割協議は相続人全員がそろわないと成立しません。
1人が海外にいるだけで、日本にいる家族の手続きまで止まります。
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有効な遺言で、協議と署名証明が要る場面を減らせる
ここまでの手間は、遺産分割協議をする前提で発生します。
裏を返せば、協議をしなくてよい状態にしておけば、大部分が消えます。
それが遺言です。
各財産の帰属と、書き漏らした財産の行き先まで定めておけば、遺言の対象となる財産について、相続人が集まって話し合う必要がなくなります。
協議書を作らないので、そこへ添える署名証明も要りません。
逆にいえば、これは遺言の対象になっている財産についての話です。
書き漏らした財産が出てくれば、その分は結局、遺産分割協議になります。
この類型では、次の条件をそろえておいてください。
- 不動産・預貯金などの記載が特定できること
- 書き漏らしに備えて、残りの財産の行き先を書いておくこと
- 受け取る人が先に亡くなった場合の予備的遺言があること
- 手続きを進められる遺言執行者がいること
この類型では、遺言執行者を日本に置くことがとくに効きます。
遺言執行者がいれば、相続人の協力を求めずに進められる手続きが増え、窓口も一本化できます。
海外にいるお子さんが、日本の金融機関と何度もやり取りせずに済みます(遺言執行業務の流れ|就任から完了までの実務スケジュール)。
ただし、遺言ですべてが消えるわけではありません。
海外在住のお子さんが財産を受け取る場面では、金融機関から本人確認の資料を求められることがあります。
受け取り用の日本の口座を維持しているかどうかでも、進み方が変わります。
遺言を作る段階で、次の3点を確認しておいてください。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 子が日本の口座を非居住者として使えるか | 受け取り先がないと、海外送金の手間と手数料が発生する |
| 連絡先(現地住所・電話・メール) | 通知が届かないと、手続きの開始自体が遅れる |
| 誰が遺言執行者になるか | 日本にいる第三者を指定しておくと、現地からの関与を最小化できる |
1つ目は、口座を「残しておけばよい」という話ではありません。
海外へ移った後も日本の口座を使うには、金融機関への届出が要ります。
たとえばゆうちょ銀行は、海外赴任にあたって可能な限り口座を解約するようお願いしたうえで、給与の振込み等で利用する目的があれば非居住者の届出をして保有できる、と案内しています。
払戻しなどは第三者への委任や利用代理人の設定で行う扱いです。
海外転出を届け出ないまま、旧住所で使い続けるのは避けてください。
取引銀行へ、非居住者として口座を維持できるか、相続したお金の受取口座に使えるかを確認します。
使えない場合に備えて、海外送金に必要な情報も控えておいてください。
期限が、思ったより早く来る
この類型では、期限が実際より短く感じられます。
連絡が届くまでに時間がかかるためです。
押さえておく期限は2つあります。
1つ目は、相続放棄の判断です。
民法第915条第1項は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純若しくは限定の承認または放棄をしなければならないとしています。
起算点は、亡くなった日ではなく「知った時」です。
ただし、同項ただし書により、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所がこの期間を伸長することができます。
借金がありそうな場合は、早い段階で伸長を検討してください。
2つ目は、相続税の申告期限です。
国税庁は、申告期限を被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内としています。納税も同じ期限です。
起算点が「知った日」なので、相続人ごとに期限がずれることがあります。
海外にいるお子さんが訃報を知った日が遅ければ、その分だけ後ろにずれます。
ただし、日本にいる相続人の期限は先に進んでいます。
「連絡がつかなかったから全員待ってもらえる」とは考えないでください。
こちらは分割が決まっていなくてもやってきます。
未分割のまま申告すると、使えない特例が出てきます。
海外在住の相続人がいると、書類集めだけで数か月かかることがあるため、早い段階で税理士に相談してください。
なお、相続税については、海外在住の相続人がいると確認する項目が増えます。
国税庁は、財産を取得した人が国内にある財産だけに課税されるのか、国外の財産にも課税されるのかを、日本国籍の有無、死亡日前10年以内に日本国内に住所を有したことがあるか、被相続人がどの区分にあたるかなどで判定するとしています。
「海外に住んでいるから日本の相続税はかからない」とは限りません。
あわせて、次の2つも確認が要ります。
1つは納税管理人です。
日本国内に住所がない相続人が相続税の申告や納税を行う場合、国内で手続きを代わりに行う納税管理人を定めて届け出る仕組みがあります。
もう1つは国外転出(相続)時課税です。
国税庁は、原則として次のすべてにあてはまる場合が対象だとしています。
- 相続開始の時に被相続人が所有等している有価証券等の価額の合計額が1億円以上であること
- 相続開始の日前10年以内に、被相続人が国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超えること
- その対象資産を、非居住者である相続人等が取得すること
あてはまる場合、その時に譲渡があったものとみなして含み益に所得税が課税されます。
相続人にかかる相続税ではなく、被相続人にかかる所得税です。
2つ目の要件があるため、被相続人が長く海外にいた場合は対象にならないこともあります。
この場合の準確定申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までです。
上場株式や投資信託を海外の子へ遺すつもりなら、遺言を作る前に確認してください。
判定と申告は税理士の業務です。当法人はグループの税理士法人と連携して進めます。
遺言があれば、少なくとも「分割が決まらない」という理由での遅れは避けられます。
期限そのものは動かせませんが、間に合わせやすくはなります。
海外にいる子に、何を遺すか
配分を決めるときにも、この類型ならではの視点があります。
不動産を海外在住の子に相続させると、後が大変です。
遺産分割協議書や司法書士への委任状に署名するなら、署名証明などを求められます。
必要な書類は、遺産分割・遺言・法定相続のどれに基づく登記かで変わるため、遺言を作る段階で司法書士に確認しておいてください。
登記が終わった後の管理も、現地からになります。
固定資産税の納税通知が届かない、管理会社とやり取りできない、売ろうとしても現地から手続きが要る。
登記の後も、確認することが増えます。
法務省は、令和6年4月1日以降、海外に住所を有する方を所有権の登記名義人とする登記を申請するときは、国内における連絡先となる者の氏名・住所等を申請情報として提供する必要がある、としています。
国内連絡先となる者がいないときは、その旨を申請情報とすることもできる扱いです。
さらに、令和8年4月1日から住所等の変更登記が義務化されました。
不動産登記法第76条の5により、氏名・名称または住所に変更があったときは、変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければなりません。
海外で引っ越すたびに、日本の登記も直す必要があるということです。
固定資産税も同じです。
たとえば東京都は、国外に住む方について、納税に関する事務を処理させるため国内に住む方を納税管理人として定めるようお願いしています。
不動産は、渡した後がむしろ大変です。
将来売却する場合の流れは関連解説(税理士法人トゥモローズ)「海外居住の方が日本の相続不動産を売却する方法・注意点」にまとまっています。
非居住者への売買代金の支払いには源泉徴収が絡むため、先に見ておいてください。
そのため実務では、次のように組み立てることも多くなります。
- 不動産は、日本にいる相続人へ
- 海外にいる子へは、預貯金など動かしやすい財産へ寄せる
- 金額の差が出るなら、生命保険で調整する
もっとも、これは有力な選択肢の1つであって、正解ではありません。
遺留分、相続税、評価額の差を見たうえで決めてください。
目的がないなら、共有は避けるのが無難です。
不動産全体を売るには共有者全員が関わるため、海外にいる共有者について署名の証明、国際郵便、本人確認の手間がそのつど生じます。
一方、賃貸などの管理行為は、民法第252条第1項により各共有者の持分の価格に従いその過半数で決めるものとされています。
同条第4項は、建物なら3年、土地なら5年を超えない賃借権等を設定できるとしています。
つまり、賃貸のたびに必ず全員の署名が要るわけではありません。
それでも、売るときには必ず全員が必要になります。
自宅を空き家のまま持ち続けることになりかねません(相続した実家・空き家をどうする)。
もうひとつ、忘れないでください。
民法第994条第1項は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺贈の効力を生じないと定めています。
民法第995条により、その分は原則として相続人に帰属します。
これは遺贈についての規定です。
お子さんのように相続人へ遺す場合は「相続させる」と書くことが多く、その場合も、特段の事情がない限り、その部分は効力を生じないと解されています。
どちらの書き方でも、結論は同じです。
遺すつもりだった相手が先に亡くなると、行き先が変わるということです。
次に誰へ渡すかまで書いておいてください(予備的遺言とは|受遺者・相続人が先に亡くなった場合に備える書き方)。
なお、遺留分の検討は配分を決める段階で必要になります。
税理士や弁護士とあわせて相談してください。
生前にやっておくこと
最後に、順番をまとめます。
| 順番 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 公正証書遺言を作る | 遺産分割協議を不要にできる。この類型で最も効く |
| 2 | 遺言執行者を日本に置く | 海外からの関与を最小化できる |
| 3 | 財産の一覧を作る | どこに口座があるか分からないと、現地から探せない |
| 4 | 子の現地住所・連絡先を残す | 通知が届かないと手続きが始まらない |
| 5 | 子の取引銀行へ海外転出を届け出て、非居住者として使えるか確認する | 金融機関によって口座の継続や振込が制限されるため |
3番目については、ネット銀行やネット証券がとくに見落とされます。
通帳も郵便物もないため、日本にいる家族でさえ気づきません(ネット銀行・ネット証券の一覧の作り方)。
海外からとなれば、なおさらです。
4番目も軽く見ないでください。
現地の住所は、日本の家族が正確に把握していないことがよくあります。
戸籍の附票をたどっても、海外転出後の住所までは分かりません。
年に一度でよいので、書き留めたものを更新しておいてください。
私見ですが、この類型でいちばん大事なのは、遺言を先に作ることです。
書類の準備や連絡先の整理は、後からでも足せます。
しかし遺言は、判断能力があるうちにしか作れません(民法963条)。
そして遺言が1通あるだけで、海外にいるお子さんの負担は目に見えて減ります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 子が外国籍を取得しました。相続人ではなくなりますか?
A. 相続人であることは変わりません。日本の民法は、相続人になれるかどうかを国籍で区別していないためです。ただし、必要になる書類が変わります。署名証明や在留証明は日本国籍の方が対象なので、外国籍になった場合は現地の公証人による宣誓供述書などで代替することになります。国によって手続きが異なるため、どの書類が使えるかは提出先の金融機関や法務局に確認が必要です。遺言を作っておけば、この確認自体を減らせます。
Q2. 子が帰国したタイミングでまとめて手続きできますか?
A. 日本へ帰国して実際に日本で暮らす場合は、転入届を出したうえで印鑑登録をすれば、印鑑証明書を取得できます。一方、生活の本拠が海外にあるままの短期の一時帰国では、相続手続きのためだけに住民登録を戻すことは想定されていません。その場合は署名証明を使います。なお、在留証明は在外公館でしか発給されず、一時帰国中に日本国内で取得することはできません。帰国前に、必要書類と提出先を洗い出しておいてください。
Q3. 在外公館の証明を取るために、日本から戸籍謄本を送る必要がありますか?
A. 署名証明の必要書類は、日本国籍と本人確認ができる有効な日本国旅券などです。戸籍謄本は、在留証明の「本籍地」欄に都道府県名だけでなく番地まで記載したい場合などに必要になります。外務省は、令和7年3月24日以降、各種証明で必要書類とされている戸籍謄(抄)本を「電子戸籍パス(戸籍電子証明書提供用識別符号)」で代用できるとしています。国際郵便で戸籍を送らずに済む場合があるということです。何が必要かは在外公館ごとに異なるため、事前にお問い合わせください。
Q4. 海外にいる子と連絡が取れません。どうすればよいですか?
A. 状況によって進め方が変わります。住所が分かっていて連絡も取れるなら、通常の遺産分割協議です。住所は分かるが返事をしない、協議に応じないという場合は、家庭裁判所の遺産分割調停などを検討します。従来の住所を去って容易に戻る見込みがなく、財産を管理する人もいない場合には、不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります。裁判所は、不在者財産管理人が遺産分割を行うには家庭裁判所の権限外行為許可を得る必要があるとしています。いずれも時間と費用がかかるため、連絡が取れているうちに遺言を作っておくほうがはるかに現実的です。調停や訴訟の代理は弁護士の業務です。
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
日本の住民登録を抹消した日本国籍のお子さんは、市区町村の印鑑証明書を取得できません。
代わりに、在外公館の署名証明を使います。外務省は、これを日本の印鑑証明に代わるものと説明しています。
住所の証明には在留証明を使い、3か月以上の滞在などの要件があります。
必要な書類は、国籍と住民登録で変わります。
外国籍のお子さんは、在外公館の署名証明も在留証明も対象外です。
そして、署名証明は本人が在外公館へ出向くほかありません。
提出先ごとに原本を求められることがある一方、形式2を使い回せる場合や原本還付を受けられる場合もあります。
必要な通数は、行く前に提出先へ確認してください。
この手間は、遺産分割協議をする前提で発生するものです。
各財産と残りの財産の行き先まで書いた遺言があれば、遺言の対象となる財産について協議が要らなくなります。
ただし、受け取る本人の確認、住所の証明、送金先、相続税の判定まで消えるわけではありません。
遺言執行者を日本に置いておけば、海外からの関与はさらに減ります。
相続放棄の判断は3か月、相続税の申告は10か月。連絡が届く時間を考えると余裕はありません。
遺言を1通作ることが、この類型でいちばん効く備えです。
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税務の観点もあわせてご確認ください
海外在住の相続人がいる場合、必要書類だけでなく、相続税の課税範囲、納税管理人、国外転出(相続)時課税の判定が必要になります。判定と申告は税理士の業務です。税理士法人トゥモローズの解説もあわせてご確認ください。
根拠法令・公的資料
- 民法第915条第1項(相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に承認又は放棄をしなければならない。ただし家庭裁判所において伸長することができる)
- 民法第963条(遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない)
- 民法第994条第1項(遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、遺贈は効力を生じない)・第995条(その場合、受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属する)
- 法の適用に関する通則法第36条(相続は、被相続人の本国法による)
- 外務省「在外公館における証明」署名証明(サイン証明)※日本に住民登録をしていない海外在留者に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続のために発給される。日本国籍を有する方のみ。当法人確認日 2026年8月21日
- 外務省「在外公館における証明」在留証明※日本国籍/現地に既に3か月以上滞在し現在居住していること(申請時3か月未満でも今後3か月以上の滞在が見込まれる場合は対象)/原則として日本に住民登録がないこと。署名証明は領事の面前での署名が必要なため本人が公館へ出向く必要があり、代理申請・郵便申請はできない(手数料1通1,700円相当)。在留証明はやむを得ない事情があれば委任状による代理申請ができる場合があり、ORRネットのオンライン申請なら一定の要件下で出向く必要がない。当法人確認日 2026年8月21日
- 不動産登記法第76条の5(所有権の登記名義人の氏名・名称又は住所に変更があったときは、変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければならない。令和8年4月1日施行)
- 国税庁タックスアンサーNo.4138(相続人が外国に居住しているとき)※日本国籍の有無、死亡日前10年以内に国内に住所を有したことがあるか等で課税される財産の範囲が変わる。当法人確認日 2026年8月21日
- 国税庁タックスアンサーNo.1468(相続又は遺贈により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例=国外転出(相続)時課税)※対象は原則として、①相続開始時に被相続人が所有等する対象資産の価額の合計が1億円以上、②相続開始の日前10年以内に被相続人が国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年超、③対象資産を非居住者である相続人等が取得、のすべてを満たす場合。準確定申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日まで。当法人確認日 2026年8月21日
- 国税庁タックスアンサーNo.4205(相続税の申告と納税)※申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内。納税も同じ期限。当法人確認日 2026年8月22日
- 民法第252条第1項(共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する)・同条第4項(建物の賃借権等は3年、建物以外の土地の賃借権等は5年を超えないものを設定することができる)
- 法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合」※領事が作成した署名証明を取得することが困難なときは、外国の公証人が作成した署名証明を添付して登記の申請をすることも認められている。当法人確認日 2026年8月21日
- ※相続税の計算・納税義務の判定は税理士、登記申請の代理は司法書士、紛争の代理は弁護士の業務です
