相続人と連絡が取れない・音信不通のときの遺産分割|住所調査・手紙・調停の進め方
10秒でわかる この記事の要約
- 遺産分割協議は、相続人全員が参加して合意しなければ成立しません。連絡が取れない相続人を除いて作った遺産分割協議書は無効で、預貯金の解約や不動産の名義変更には使えません。
- 対応は状況の切り分けから始まります。①現実の居所は分かるが返答がない、②戸籍の附票上の住所しか分からず所在がつかめない、③生死そのものが分からない——この3つで、取るべき手続きが変わります。
- ①のケースでは、記録を残しながら手紙で連絡を取り、応じてもらえなければ家庭裁判所の遺産分割調停という順序で進めます。②は所在調査を尽くしたうえで不在者財産管理人、③は失踪宣告の検討に進みます。
- 放置は禁物です。相続登記には申請義務(相続の開始と不動産の取得を知った日から原則3年以内)があり、相続開始から10年が経つと特別受益や寄与分の主張が原則できなくなります(民法904条の3)。本記事で、着手の手順を確認していきましょう。
「父が亡くなったが、腹違いの兄とは一度も会ったことがない」「弟とは20年前に絶縁したきりで、連絡先も知らない」——。相続の現場では、こうした疎遠・音信不通の相続人がいるケースが珍しくありません。
困るのは、遺言書で財産の取得者が具体的に決まっている場合などを除き、遺産分割協議は相続人全員でしなければ無効という大原則があることです。連絡が取れないからといってその人を除外することはできず、かといって放置すれば、預貯金は動かせないまま、不動産の相続登記の期限も迫ってきます。
本記事では、相続人と連絡が取れないときの進め方を、状況の切り分け(判断フロー)・放置するリスク・戸籍の附票による住所の調べ方・最初の手紙の書き方と文例・遺産分割調停・やってはいけないことの順に、相続を専門に扱う行政書士の実務目線で解説します。
なお、協議に応じない相続人との交渉の代理や、家庭裁判所の遺産分割調停・審判は弁護士(裁判所提出書類の作成は司法書士も可)の領域です。行政書士は、その前段階である戸籍の収集による相続人の確定・戸籍の附票による住所確認・財産資料の整理・相続人全員の合意ができた後の遺産分割協議書の作成を、受任した業務の遂行に必要な範囲で担い、紛争性が出た場合は弁護士へ引き継ぎます。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀を拠点に、首都圏および全国からのオンライン相談に対応しています。
遺産分割は「相続人全員」が大前提——連絡が取れない人を除外できない
結論からいえば、連絡が取れない相続人を除いた遺産分割協議は無効であり、連絡を取る努力をするか、裁判所の手続きを使うかのどちらかで全員参加の形を整える必要があります。
一部の相続人を除いた協議書は無効
「連絡が取れないのだから仕方ない」と、音信不通の相続人を除いた残りのメンバーだけで遺産分割協議書を作っても、その協議は無効です(民法907条は相続人間の協議による分割を定めており、共同相続人全員の合意が前提です)。また、協議書を根拠に金融機関や法務局で手続きする場合、実務上、相続人全員の署名と実印の押印(+印鑑登録証明書)を求められるのが一般的で、1人でも欠けた協議書は手続きにも使えません。
「連絡が取れない」ことは協議を省略する理由にならない
疎遠である、仲が悪い、会ったことがない——といった事情があっても、法律上の相続人である以上、その人の相続分は当然には消えません。この前提を受け入れたうえで、後述の手順に沿って進めるのが結局は最短です。
遺言書があれば協議が不要になる範囲がある
有効な遺言によって対象財産の取得者が具体的に指定されている範囲では、原則として遺産分割協議は不要です。ただし、遺言に記載されていない財産がある場合、相続分の割合だけが指定されている場合、財産の帰属が具体的に決まっていない場合などには、その部分について相続人全員による遺産分割協議が必要になることがあります。まずは自宅の保管場所・公証役場(遺言検索システム)・法務局(自筆証書遺言書保管制度)で、遺言書の有無と内容を確認しましょう。遺言で決まっていない部分について、次の見出し以降の手順に進みます。
相続手続きの料金プランとサポート内容の全体像は、こちらにまとめています。
判断フロー——「音信不通」「所在不明」「生死不明」を切り分ける
自分のケースがどの類型かで、使う手続きが変わります。ポイントは、「住民票上の住所が分かる」ことと「現実の所在が分かる」ことは別物だという点です。
3類型と対応の判断フロー
| 状況 | 次の対応 |
|---|---|
| ①本人との電話・メール等の連絡が成立している、または本人の現実の居所・送達先が確認できているが、協議に応じない | 記録を残しながら協議を求める → 応じなければ遺産分割調停 |
| ②附票上の住所は分かるが、本人との連絡が成立せず、郵便が返戻される、または本人の居住・受領を確認できない | 最新の戸籍・附票の再確認等の追加調査 → それでも所在不明なら不在者財産管理人の選任を検討(民法25条) |
| ③生死そのものが長期間分からない | 失踪宣告を検討(普通失踪:生死不明7年/危難失踪:戦争・船舶の沈没・震災などの危難が去った後1年・民法30条) |
①「音信不通」——本記事の中心ケース
当法人にご相談いただくケースで多いのは①です。何十年交流がなくても、戸籍と戸籍の附票をたどれば住民票上の住所は判明することが多いためです。ただし、郵便が返戻されないことや追跡上の「配達完了」だけでは、本人が現実にそこに住んでいることや本人が受け取ったことまでは確認できません。電話・面会などで本人との連絡が成立している、または現実の居所が確認できている場合は、連絡を尽くして協議に招く→応じなければ調停という道筋になります。このように現実の居所が判明していて本人と連絡・送達が可能な相手には、通常、不在者財産管理人の制度は利用できません。
②「所在不明」——調査を尽くしてから不在者財産管理人
附票上の住所に居住実態がない場合は、追加の所在調査(後述)を尽くしたうえで、不在者財産管理人の選任を検討します。選任するかどうかは、調査の資料を踏まえて家庭裁判所が判断します。なお、選任された不在者財産管理人が遺産分割協議に加わるには、通常、家庭裁判所の権限外行為許可が必要で、管理人が決まれば直ちに自由に分割できるわけではありません。制度の詳細は不在者財産管理人の記事をご覧ください。
③「生死不明」——失踪宣告
生死不明の状態が7年間続いた場合(普通失踪)のほか、戦争・船舶の沈没・震災などの危難に遭遇し、危難が去った後1年間生死不明の場合(危難失踪・特別失踪)にも失踪宣告を申し立てられます。詳細は失踪宣告の記事をご覧ください。いずれも家庭裁判所への申立てが必要で、費用・期間の感覚が①とは大きく異なります。
音信不通の相続人がいる相続も、戸籍調査から専門家連携まで丁寧にサポート。
東京・八丁堀の行政書士法人トゥモローズが、疎遠・音信不通の相続人がいる相続手続きについて、戸籍収集による相続人の確定・戸籍の附票による住所確認・財産資料の整理・相続人全員の合意ができた後の遺産分割協議書の作成に対応します(相続人間の交渉・調停は弁護士、未分割申告などの税務は税理士と連携)。ご相談時に、判明している相続人・連絡や返戻の状況・遺言書の有無をお知らせいただければ、行政書士が対応できる範囲と弁護士に依頼すべき範囲を整理してご案内します。初回相談無料。
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音信不通のまま放置するとどうなる——4つのリスク
遺産分割を先送りにすると、時間の経過とともに不利益が積み上がります。主なリスクは次の4つです。
リスク1:預貯金が凍結されたまま動かせない
有効な遺言等がない場合には、原則として、遺産分割協議書(または相続人全員の同意書)なしに被相続人の口座を解約・払い戻しすることはできません。葬儀費用など当面の資金は預貯金の仮払い制度(民法909条の2)で一部を単独で払い戻せますが、上限があります。仮払いの上限額と手続きは預貯金の仮払い制度の記事で解説しています。
リスク2:相続登記の申請義務に間に合わない
相続登記は義務化されており、原則として自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、相続により不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になり得ます(不動産登記法76条の2・164条)。遺産分割がまとまらない間は相続人申告登記(不動産登記法76条の3)で当初の申請義務を簡易に果たせますが、これは所有権移転登記そのものではなく、売却や抵当権設定の前提にはなりません。また、その後に遺産分割が成立したときは、成立日から3年以内に分割内容を反映した登記の申請義務が別途生じます。
リスク3:相続税の申告期限(10か月)に分割が間に合わない
相続税の申告が必要なケースでは、申告期限(原則として、各相続人が自己のために相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月。遺産分割がまとまっていなくても延長されません)までに分割がまとまらないと、分割されていない財産について、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を当初申告で使えない「未分割申告」になり、いったん多額の納税が必要になることがあります(「申告期限後3年以内の分割見込書」を期限内申告書に添付し、所定の期間内に分割すれば、更正の請求等で特例を取り戻せる場合があります)。未分割申告の実務と特例を取り戻す手順は、税理士の領域のため関連解説(税理士法人トゥモローズ)「【相続税】申告期限までに遺産分割が決まらない場合の未分割申告」で詳しく解説されています。
リスク4:10年経過で特別受益・寄与分の主張ができなくなる
2023年4月施行の民法904条の3により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、特別受益(生前贈与の持ち戻し)や寄与分の主張が原則できなくなり、法定相続分(遺言による相続分の指定があるときは指定相続分)が基準になります(10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をしていた場合などの例外があり、相続人全員が合意すれば具体的相続分での分割も可能です)。また、放置している間に相続人の誰かが亡くなると数次相続が発生し、協議に参加すべき人がさらに増えて解決が一段と難しくなります。
ステップ1:戸籍で相続人を確定し、戸籍の附票で住所を調べる
最初の実務は相続人の確定と住所確認です。行政書士は、遺産分割協議書や相続関係説明図の作成といった受任業務の遂行に必要な範囲で、この調査を担えます。
戸籍をたどって相続人全員を確定する
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍)を集めると、前婚の子や認知した子も含め、法律上の相続人が全員判明します。「会ったことのない相続人」の存在がこの段階で初めて分かることもあります。戸籍の集め方と広域交付制度は相続の戸籍収集の記事で詳しく解説しています。
戸籍の附票で住民票上の住所を調べる
連絡先が分からない相続人については、その人の本籍地の市区町村で「戸籍の附票の写し」を請求します。附票にはその戸籍に入っている間の住所の履歴が記録されています(住民基本台帳法20条)。他人の附票は自由には取れず、自己の権利行使(遺産分割協議)のために必要であることを具体的に示し、市区町村が請求理由を相当と認めた場合に取得できます。被相続人の死亡や自分が相続人であることを示す戸籍等のほか、自治体から利用目的を確認する追加資料を求められることもあります。
行政書士の職務上請求は「受任業務に必要な範囲」で
行政書士は、遺産分割協議書・相続関係説明図の作成など適法に受任した業務を遂行するために必要な範囲で、職務上請求により戸籍や戸籍の附票を取得できる場合があります。単なる人探しや住所調査だけを目的として職務上請求を利用することはできません。この範囲を守ることは、依頼者の手続きを確実に進めるうえでも重要です。
附票で分かるのは「住民票上の住所」まで
附票で分かるのはあくまで住民票上の住所で、実際にそこに住んでいるかは、手紙が届くかどうか(返戻の有無)などで確認します。手紙が「宛所に尋ねあたりません」で返ってきた場合も、それだけで所在不明と確定するわけではありません。最新の戸籍・附票の再取得、親族や把握している連絡先への照会、返戻記録の保存といった所在調査を尽くし、それでも所在がつかめないときに、不在者財産管理人の選任申立てを検討します(要件を満たすかは家庭裁判所が資料を踏まえて判断します)。
ステップ2:最初の手紙の書き方・文例——二段階で信頼をつくる
住所が分かったら、いきなり訪問するのではなく、まず手紙で連絡を取るのが実務の定石です。最初の手紙の内容は、その後の協議の進み方に影響します。
二段階方式が基本——第1便に財産の詳細は書かない
附票上の住所に本人が実際に住んでいるか確認できていない段階で、預金額や不動産の明細を送ると、転居先の住人や第三者に相続情報が漏れるおそれがあります。そこで、次の二段階に分けます。
- 第1便:被相続人が亡くなった事実と日付・差出人と被相続人との関係・相続手続きのため連絡した旨・連絡先と回答方法。財産の詳細は「ご連絡をいただけたら改めてご案内します」にとどめる
- 連絡が取れた後:財産目録・相続関係の資料・分割協議に必要な資料を開示し、意向を確認する
本人と連絡がついた後は、財産を隠さず開示する姿勢が信頼につながります。いきなり遺産分割協議書と「実印を押して印鑑登録証明書と返送してください」という依頼だけを送るのは、不信感を招くため避けてください。
第1便の文例(約300字・状況に合わせて調整してください)
突然のお手紙を差し上げる失礼をお許しください。私は○○○○の長男の○○○○と申します。このたび、父・○○○○が令和○年○月○日に永眠いたしました。生前のご縁が薄いままのご連絡となり恐縮ですが、相続の手続きには相続人全員のご協力が必要とされているため、戸籍の記録をもとに○○様のご住所を確認し、お手紙を差し上げた次第です。今後の進め方について、まずは一度ご連絡をいただけないでしょうか。お電話・メール・同封の返信用封筒のいずれでも結構です。勝手ながら○月○日頃までにご一報いただけますと幸いです。相続財産などの詳しい資料は、ご連絡をいただけましたら改めてお送りいたします。
分割案を押し付けず、返答期限も「○月○日頃まで」といった穏当な表現にするのがポイントです。
記録の残し方——郵便の種類を目的で使い分ける
特定記録は、郵便物の引受けを記録し、郵便受箱へ配達するサービスです。配達時に受取人の署名・受領印は取得されないため、名宛人本人が受け取ったことまでは確認できません。配達した事実を証拠として残したい場合は「一般書留+配達証明」を検討します(ただし配達証明が証明するのは郵便物を配達した事実であり、実際の受取人が誰かまでは証明しません)。本人確認を伴う受領が必要なら本人限定受取郵便もありますが、受取人の本人確認書類が必要で負担も大きいため、初回の連絡に一律に使うのではなく目的に応じて選びます。実務としては、初回の穏当な連絡は特定記録、証拠化が必要になった段階で一般書留+配達証明という段階的な使い分けが現実的です。
いずれの場合も、特定記録は封筒の中身までは証明しないため、送付した文書の写し・同封物の一覧・封筒の写し・追跡記録をセットで保存してください。これらは後に調停や不在者財産管理人の申立てに進む場合、「連絡を尽くした」ことを示す資料になります。
紛争の気配が出たら弁護士へ
返答で分割内容への強い不満が示された場合や、相手に弁護士が就いた場合、相続人の間に入って交渉を代理できるのは弁護士だけです。行政書士は紛争になった案件の交渉・代理はできないため、この段階で速やかに弁護士へ引き継ぎます(引き継ぎ用の戸籍・財産資料の整理は行政書士が支援できます)。
ステップ3:返事がない・拒まれたら——家庭裁判所の遺産分割調停へ
連絡を尽くしても応じてもらえない場合、実務上の第一選択となるのが家庭裁判所の遺産分割調停です(民法907条2項。調停によらず審判を申し立てることもできますが、まず調停に付されるのが一般的です)。現実の居所が分かっている相手との協議が進まないケースでは、これが本則のルートになります。
遺産分割調停のしくみ
調停は、裁判官と調停委員が間に入り、相続人それぞれの言い分を聞きながら合意を目指す手続きです。申立先は相手方のうちの1人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所で、申立費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と郵便切手(金額は裁判所ごとに異なります)です。当事者同士が直接顔を合わせずに話せるよう配慮されるため、感情的対立があっても話し合いの土俵に乗せやすいのが特長です。
調停が不成立なら審判へ——ただし前提に争いがあれば別手続きも
調停が不成立になると、原則として審判手続きに移行し(家事事件手続法272条4項)、家庭裁判所が提出された資料や当事者の主張を踏まえて分割方法を判断します。ただし、ある財産が遺産に含まれるか、不動産や預金の権利関係、遺言の有効性、相続人の範囲などに争いがある場合には、別途訴訟等が必要となり、直ちに分割方法が確定しないこともあります。
相手が来ない場合はどうなるか
相手方が欠席を続けたこと自体を理由として、当然に不利な結果になるわけではありません。ただし、出席しなければ本人の意見や資料が調停・審判に十分反映されないまま判断が進む可能性があります。呼出しを無視し続けることは相手方にとっても得策ではないため、調停の申立てが、話し合いに出てきてもらうきっかけになることも少なくありません。
専門家の役割分担
遺産分割調停・審判における代理、相続人との交渉、紛争対応は弁護士の領域です。本人が家庭裁判所へ申し立てる場合の申立書などの裁判所提出書類は、司法書士に作成を依頼することもできますが、司法書士は遺産分割調停・審判の代理人にはなれません。行政書士は、申立ての前提となる戸籍一式・相続関係説明図・財産資料の整理を支援し、弁護士・司法書士と連携します。
やってはいけないこと3つと、次の世代への予防策
最後に、音信不通の相続人がいる場面でやってはいけないことと、同じ問題を次の世代に残さないための予防策を整理します。
NG1:連絡が取れない人を除いて協議書を作る
冒頭のとおり、相続人の一部を除外した遺産分割協議は無効です。後からその相続人が現れれば協議はやり直しになり、すでに済ませた解約・名義変更の巻き戻しを巡って深刻なトラブルになります。
NG2:本人に代わって署名・押印する
「どうせ連絡が取れないのだから」と、家族が代わりに署名して印鑑を押す行為は、私文書偽造等の犯罪に当たり得る絶対にしてはいけない行為です。無効な協議書で登記や解約が済んでしまうと、事後の是正は極めて困難になります。
NG3:協議前に遺産を使ってしまう
協議がまとまらないからといって、一部の相続人が預貯金を引き出して費消すると、使い込みを巡る紛争に発展します。当面の資金需要は前述の仮払い制度の範囲で対応し、遺産はできる限り手を付けずに保全しておくのが原則です。
予防策:取得者を具体的に決めた遺言書を残す
財産ごとの取得者を具体的に指定し、必要に応じて遺言執行者を定めた有効な遺言書を残しておけば、疎遠な相続人を含む遺産分割協議が必要となる範囲を大幅に減らせます。ただし、遺留分への配慮、遺言に記載されていない財産への対応、遺言の有効性を巡る争いの可能性など、遺言だけでは残る課題もあります。前婚の子がいる方や、子がおらず兄弟姉妹・甥姪が推定相続人となる方は、特に遺言書の作成を検討する価値があります。
合意ができたら遺産分割協議書の作成へ
手紙や話し合いの結果、相続人全員の合意ができたら、遺産分割協議書を作成して署名・実印押印を集めます。なお、相続人全員が同じ1枚の協議書に署名する必要はなく、同じ合意内容について各相続人が個別に署名・実印押印する「遺産分割協議証明書」方式も利用できます(相続人が遠方にいる場合などに用いられます)。協議の成立自体には決まった様式はありませんが、金融機関・法務局へ提出する書類としては実印・印鑑登録証明書が求められるのが一般的です。全員合意後の協議書作成は行政書士に依頼できます。書き方・依頼の流れは遺産分割協議書の記事をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 戸籍収集や住所調査を行政書士に依頼すると、費用はどれくらいかかりますか?
A. 実費と報酬に分かれます。実費は戸籍謄本1通450円、除籍・改製原戸籍1通750円、戸籍の附票の写し1通300円前後(市区町村により異なる)と郵送料で、たどる戸籍の数によって総額が変わります。報酬は事務所ごとの料金体系によりますが、遺産分割協議書や相続関係説明図の作成とあわせて、出生から死亡までの戸籍一式の収集をセットで依頼するのが一般的です。なお、行政書士が職務上請求で附票等を取得できるのは受任した業務に必要な範囲に限られ、住所調査だけを目的とした依頼はお受けできません。被相続人の本籍地の移転が多い場合や相続人が多い場合は通数が増えるため、依頼前に見積もりを確認しましょう。
Q2. 連絡が取れた相続人が認知症で、協議の内容を理解できない場合はどうなりますか?
A. 判断能力を欠く相続人は、遺産分割協議に有効に参加できません。この場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、成年後見人が本人に代わって協議に参加します。注意点が2つあります。第一に、成年後見人自身も共同相続人である場合は利益相反となるため、成年後見監督人がいる場合などを除き、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。第二に、成年後見制度は遺産分割のためだけの一時的な制度ではなく、原則として本人の判断能力が回復するか亡くなるまで続きます。なお、後見人は本人の利益を守る立場にあるため、家庭裁判所の実務では本人の法定相続分を確保する内容が基本となりますが、本人の生活・財産状況などに合理的な理由がある場合もあり、具体的な分割案は成年後見人や家庭裁判所へ確認する必要があります。申立て前に司法書士・弁護士へ相談してください。
Q3. 相続人の1人が刑務所に服役中の場合、遺産分割はどう進めますか?
A. 服役中の相続人は所在が明らかなので、不在者財産管理人の対象にはならず、郵送でのやり取りにより協議に参加してもらいます。ただし、受刑中は印鑑登録や印鑑登録証明書の取得が難しいことが多く、遺産分割協議書への押印は、刑事施設の長の証明(奥書)を受ける方法などが利用できる場合があります。この取り扱いは、収容先の刑事施設・提出先の金融機関・法務局のそれぞれで事前確認が必要です。書類を送る前に必ず各窓口へ確認し、司法書士等と相談しながら進めてください。
Q4. 音信不通で親の面倒も見なかった相続人に、遺産を渡さないことはできますか?
A. 他の相続人の意思で相続分を奪うことはできません。相続人の廃除(民法892条)という制度はありますが、対象は被相続人への虐待・重大な侮辱・著しい非行があった場合に限られ、単に疎遠・音信不通というだけでは認められません。また、廃除は被相続人本人が生前に家庭裁判所へ請求するか遺言で意思表示するもので、他の相続人が自らの立場で申し立てることはできません(遺言による廃除の場合は、被相続人の死亡後に遺言執行者が家庭裁判所へ請求します)。渡したくない事情がある場合は、被相続人の生前に、遺留分に配慮しつつ遺言書で分け方を指定しておくのが現実的な対策です。
相続手続きの料金プランとサポート内容の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
相続人と連絡が取れない場合でも、その人を除いた遺産分割協議は無効です。まず「①現実の居所は分かるが返答がない」「②附票上の住所しか分からず所在不明」「③生死不明」を切り分け、①では戸籍の附票で住所を確認し、財産の詳細は本人確認後に送る二段階方式の手紙で連絡を取り、応じてもらえなければ家庭裁判所の遺産分割調停という順序で進めます。②は所在調査を尽くしたうえで不在者財産管理人、③は失踪宣告(普通失踪7年・危難失踪は危難が去って1年)を検討します。
放置すれば、預貯金の凍結が続くだけでなく、相続登記の申請義務(相続の開始と不動産の取得を知った日から原則3年以内。不動産登記法76条の2)、相続税の申告期限、相続開始から10年で特別受益・寄与分の主張ができなくなるルール(民法904条の3)と、不利益が積み上がっていきます。
調停・審判や紛争になった場合の交渉は弁護士(裁判所提出書類の作成は司法書士も可)、未分割申告などの税務は税理士の領域です。行政書士は、受任業務に必要な範囲での戸籍収集・附票による住所確認・財産資料の整理・全員合意後の遺産分割協議書の作成を担い、各専門家と連携して進めます。疎遠な相続人がいる相続こそ、初動の調査と最初の手紙が肝心です。早めに準備に着手しましょう。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、疎遠・音信不通の相続人がいる相続手続きについて、戸籍収集による相続人の確定・戸籍の附票による住所確認・財産資料の整理・相続人全員の合意ができた後の遺産分割協議書の作成に対応しています(相続人間の交渉・調停は弁護士へ引き継ぎます)。ご相談の際は、判明している相続人・最後に連絡が取れた時期・手紙の送付や返戻の状況・遺言書の有無をお知らせいただくと、行政書士が対応できる範囲と弁護士等に依頼すべき範囲を整理してご案内できます。未分割申告などの税務は税理士法人トゥモローズと連携して対応します。
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本記事は、連絡が取れない相続人がいる遺産分割の進め方を、相続を専門に扱う行政書士の実務目線でまとめたものです。遺産分割が相続税の申告期限(10か月)までにまとまらない場合の未分割申告や特例の取り戻しについては、税理士法人トゥモローズが公開している以下の記事もあわせてご確認ください。
根拠法令・公的資料
- 民法907条(遺産の分割の協議又は審判)
- 民法909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使・仮払い)
- 民法904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
- 民法25条(不在者の財産の管理)・28条(管理人の権限外行為許可)
- 民法30条(失踪の宣告・普通失踪7年、危難失踪は危難が去った後1年)
- 民法892条(推定相続人の廃除)
- 家事事件手続法272条4項(調停不成立の場合の審判移行)
- 不動産登記法76条の2(相続登記の申請義務)・76条の3(相続人申告登記)・164条(過料)
- 住民基本台帳法20条(戸籍の附票の写しの交付)
