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親なき後に備える|障害のある子を遺すとき、遺言・後見・お金の仕組みをどう組み合わせるか

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行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)

大塚 英司


10秒でわかる この記事の要約

  • 障害のある子を遺して自分が先に亡くなる。この「親なき後」(親亡き後)の備えは、お金を遺すだけでは足りません。
  • 決めることは3つあります。お金をどう渡すか、誰が本人に代わって決めるか、どこで暮らすかです。
  • よくあるのが、きょうだいに多めに遺して「面倒を見てほしい」と書く形です。
  • ところが民法1002条1項は、負担付遺贈を受けた者は遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ義務を負うと定めています。遺した額を超える世話は、義務になりません。
  • また、任意後見契約は本人に契約を結ぶ能力が必要です。障害の程度によっては選べません。
  • 本記事では、遺言・後見・お金の仕組みを、条文と制度の原典に当たりながら組み立てます。

ご相談でいちばん多いのが、この言葉です。

「この子より1日でも長く生きたい」

気持ちは分かりますが、順番は選べません。

親自身が行う遺言、信託、共済や保険への加入には、意思能力・年齢・健康状態による期限があります。

親が動けなくなった後でも使える制度はありますが、本人の希望や生活の情報を反映しにくくなります。

本記事は、障害のある子がいるご家庭に向けて、親が生前にできる手続きを行政書士の実務目線で整理したものです。

制度の内容は2026年8月20日に公式の資料で確認しています。


決めることは3つある

親なき後の備えは、次の3つに分かれます。

決めること中身主な手段
お金生活費をどう確保し、誰の名義でどう渡すか遺言、特定贈与信託、障害者扶養共済、生命保険
意思決定契約や財産の管理を誰が本人に代わって行うか成年後見(法定後見)、任意後見
暮らしどこで、誰の支援を受けて生活するかグループホーム等の福祉サービス、相談支援専門員

行政書士が直接お手伝いするのは、遺言書・任意後見契約・死後事務委任契約などの書面の設計です。

相続税や贈与税の試算は税理士、家庭裁判所へ提出する後見の申立書は司法書士、紛争の対応は弁護士、信託や保険の商品は金融機関、福祉サービスの計画は相談支援専門員や市区町村と連携します。

3つ目の「暮らし」は福祉の領域で、相談支援専門員や市区町村の障害福祉担当が中心になります。

ただ、実務では3つが絡み合います。

たとえば、施設の利用契約を結ぶには本人か代理人の意思表示が要ります。

お金があっても、契約できる人がいなければ、暮らしは動きません。

逆に、後見人がついても、原資がなければ支払えません。

そのため、順番に片づけるのではなく、3つを見比べながら決めていきます。

なお、ここで扱うのは成人の子を前提にしています。

未成年の子の場合は、遺言で未成年後見人を指定する方法があります(未成年後見人を遺言で指定する方法)。


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「面倒を見てほしい」は、どこまで義務になるのか

いちばん多い設計が、これです。

きょうだいに多めに遺し、その代わりに障害のある子の世話を頼む。

遺言でこれを書く場合、負担付遺贈という形になります。

ここで、条文を確認してください。

民法第1002条第1項は、こう定めています。

負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う

「遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ」。

つまり、金銭1,000万円を渡す負担付遺贈なら、きょうだいが負う履行の責任には、原則として1,000万円相当の上限があります。

それを超える負担まで法的に義務づけられるわけではありません。

ただし、口座から1,000万円を使い終えた日に、当然すべての義務が終わるという意味ではありません。

見守り、通院の同行、福祉機関との連絡といった支援を、いつ、いくらと評価するかは簡単ではないからです。

いずれにせよ、障害のある子の生活は何十年も続きます。

長く続く生活費を、負担付遺贈だけで支える設計は避けてください。

もうひとつ、押さえておく条文があります。

民法第1002条第2項は、受遺者が遺贈を放棄したときは、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となることができるとしています(遺言者が別段の意思を表示したときは、その意思に従います)。

きょうだいが「引き受けられない」と放棄した場合に、障害のある子自身が受け取れる道が残されているということです。

この規定を踏まえて、受遺者が放棄した場合に財産がどこへ行くのかまで、遺言で決めておく必要があります。

そして、もう一つ大きな論点があります。

書けば自動的に履行される仕組みではない、ということです。

民法第1027条は、負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないとき、相続人は相当の期間を定めて履行の催告をすることができ、その期間内に履行がないときは、負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求できると定めています。

ここに、実務上の問題が出ます。

催告や取消しの請求をするのは相続人です。

障害のある子自身がそれを行えない場合、代理する人が必要になります。

つまり、負担付遺贈を使うなら、履行を見る人まで用意しないと機能しません。

ここで、混同しやすい点があります。

遺言で履行を確認する人を決めても、その人が民法1027条の催告や取消しの請求をできるようになるわけではありません。

条文が権限を与えているのは相続人です。

履行を確認して報告を受ける役と、不履行のときに動く役は、分けて決めておいてください。

そのため、遺言には次のことも書いておいてください。

  • 支援の内容・期間・頻度・費用の負担・報告の方法を、書けるところまで具体化する
  • 誰が履行の状況を確認し、誰に報告するか
  • 引き受けられなくなったときに、誰へ引き継ぐか
  • 生活費の柱は、後述する信託や共済など、続く仕組みに置く

負担付遺贈は法的な負担を課す仕組みですが、責任の上限、放棄、不履行のときの手当てに限界があります。

長く続く生活費の唯一の柱にはしないでください。

遺言を書かないとどうなるかも、あわせて見ておいてください。

遺産分割協議になりますが、障害のある子が協議に参加できなければ、後見人等の選任を待つことになります。

しかも、その後見人等が子本人と一緒に共同相続人として協議に加わる場合、利益が相反します。

親やきょうだいが後見人等であるというだけで、当然に相反するわけではありません。

民法860条は、利益相反行為について民法826条を後見人に準用しています。

後見監督人等がいる場合は、監督人等が本人を代理します。

監督人等がいない場合は、遺産分割のために特別代理人(保佐・補助では臨時保佐人・臨時補助人)を家庭裁判所に選んでもらうことになります。

なお、保佐人・補助人については、遺産分割について代理権が付与されている場合の話です。

遺言を作っておけば、この手続きを減らせます。

配分そのものにも、見落としやすい点があります。

相続税の障害者控除は、法定相続人であることに加えて、相続や遺贈で財産を取得したことが要件になっています。

きょうだいに寄せて、障害のある子が相続や遺贈で何も取得しない設計にすると、その子は障害者控除の要件を満たしません。

配分は、遺留分・本人の財産管理・相続税の障害者控除を一体で検討してください。

この部分は税理士と一緒に詰めることになります。


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任意後見が選べないことがある

次に、意思決定の話です。

はじめに、前提を確認させてください。

成人した子について、親に当然の代理権があるわけではありません。

民法818条1項は、親権は成年に達しない子について行使するものと定めています。

窓口へ同行したり書類の記入を手伝ったりはできても、本人に代わって契約や預金の取引、行政の手続きを行うには、本人から与えられた有効な代理権か、後見制度による権限が要ります。

親がこれまで手続きを担ってきた家庭ほど、その実態を法的な仕組みに置き換える必要があります。

ここで多くの方が任意後見を検討されますが、注意点があります。

任意後見は契約です。

任意後見契約に関する法律3条は、公正証書によることを要すると定めています。

公正証書を作るには、子本人が契約の意味を理解して意思表示できることが前提です。

子本人が契約の内容と効果を理解し、自ら契約する意思を示せない場合には使えません。

障害名や等級だけで決まるものではありません。

その場合に検討するのが、法定後見です。

ここで、もう一つ大事な区別があります。

法定後見は「成年後見」だけではありません。

判断能力の程度に応じて、3つの類型があります。

類型子本人の判断能力根拠
後見事理を弁識する能力を欠く常況にある民法7条
保佐事理を弁識する能力が著しく不十分民法11条
補助事理を弁識する能力が不十分民法15条(本人以外の請求によるときは本人の同意が必要・同条2項)

障害があることだけを理由に、当然に後見になるわけではありません。

どの類型になるかは、家庭裁判所が判断します。

いずれも親は四親等内の親族にあたるため、親が申し立てることができます。

親が存命のうちに申し立てておけば、本人の生活の状況、希望、支援機関、財産の内容を、親から家庭裁判所や後見人等へ伝えられます。

ただし、次の点は誤解されがちなので、先にお伝えします。

  • 候補者を書いても、その人が選任されるとは限りません。家庭裁判所が適任と判断した人が選ばれます
  • 親自身が後見人等になった場合、親が亡くなれば後任を選ぶ手続きが必要になります
  • 親の死亡に備えて一時的に付ける制度ではありません。開始すれば家庭裁判所の監督が続きます
  • 専門職が就いた場合は報酬が生じます
  • 後見人等が担うのは財産管理と身上保護の事務で、実際の介護そのものではありません

後見人の権限は条文で決まっています。

民法859条1項は、後見人は被後見人の財産を管理し、財産に関する法律行為について被後見人を代表するとしています。

また民法858条は、成年後見人は本人の意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮しなければならないと定めています。

配慮の対象は、契約を結ぶ瞬間だけではありません。

施設の入所契約や介護サービスの契約を結ぶこと、契約どおりに実施されているかを確認すること、必要なら変更や解除をすること。

こうした身上保護の事務も、後見人等の職務に含まれます。

含まれないのは、食事・入浴・通院同行といった実際の介護そのものです。

そこは福祉サービスや支援機関が担います。

また、成年後見人には原則として広い代理権がありますが、保佐人・補助人の代理権は、家庭裁判所が個別に付与した範囲に限られます。

3つの類型の使い分けについては任意後見と法定後見の違いにまとめました。

なお、成年後見制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律」が令和8年6月24日に公布されていますが、2026年8月時点では施行されていません。

本記事は、現在施行されている後見・保佐・補助の制度を前提にしています。

なお、後見開始の審判の申立書と、その添付書類の作成は、家庭裁判所に提出する書類の作成にあたります。

この部分は行政書士の業務ではありません。司法書士または弁護士に依頼してください。

私たちがお手伝いできるのは、その前の整理と、遺言や契約書の作成の部分です。


お金を継続して渡す2つの仕組み

商品を選ぶ前に、決めることがあります。

いくら必要なのか、です。

保有している財産の額から考えるのではなく、子本人の毎月の収支から逆算します。

生活費、住居費、医療費、福祉サービスの自己負担、日用品費を積み上げます。

そこから、障害年金、就労による収入、各種の手当といった続く収入を差し引きます。

毎月の必要な支出 - 子本人の続く収入 = 毎月の不足額

この不足額に想定する期間を掛け、転居や入院、設備の購入といった予備費を足した金額が、用意する目標になります。

その金額を、次の仕組みでどう確保するかを決めていきます。

まとまったお金をそのまま渡すと、管理と使い切りの問題が出ます。

そこで使われるのが、次の2つです。

特定贈与信託

信託銀行等に財産を信託し、障害のある子へ定期的に給付する仕組みです。

公的な制度ではなく、民間の信託商品に税制上の優遇が設けられたものです。

相続税法第21条の4が「特定障害者に対する贈与税の非課税」として定めています。

信託が受益者である特定障害者が亡くなった日に終了することとされているなど、政令で定める要件を備えたものであることが必要です。

親が生前に財産を信託して子へ贈与する形なので、親が先に亡くなっても、子が亡くなるまで管理と交付が続きます。

一度信託すると、期間を自由に変えることはできません。

親自身の生活費や介護費、他の相続人の遺留分、信託報酬まで見たうえで金額を決めてください。

非課税となる限度額は、国税庁タックスアンサーNo.4405によると、特別障害者で6,000万円、特別障害者以外の特定障害者で3,000万円です。

手続きとしては、障害者非課税信託申告書を受託者の営業所等を経由して提出します。

適用できるかどうかの判断と税額の計算は、税理士の領域です。

障害者手帳があれば一律に使えるわけではありません。子が相続税法上の特定障害者にあたるかを確認する必要があります。

信託銀行の商品として提供されているため、取扱いのある金融機関に確認してください。

障害者扶養共済制度(しょうがい共済)

保護者が掛金を納め、保護者が亡くなったときなどに、障害のある子へ終身にわたって年金を支給する制度です。

実施主体は各都道府県・指定都市です。

項目内容
年金月額1口2万円。2口まで加入でき、2口で月4万円
掛金月額9,300円〜23,300円(2026年4月1日現在。加入時の年齢等による)
加入できる保護者加入時の年度の4月1日時点で満65歳未満で、特別の疾病又は障害がなく、生命保険契約の対象となる健康状態であること
対象となる子知的障害、身体障害者手帳1級から3級、または精神もしくは身体に永続的な障害があり同程度と認められる方で、将来独立自活することが困難と認められる方
加入できる保護者の数障害のある方1人に対して1人
掛金の免除「加入日から20年」と「加入日から、加入者が4月1日時点で満65歳である年度の加入応当日の前日までの期間」の両方に該当した後は、以後の払込みが不要になる
税制掛金は全額が所得控除。年金を受ける権利は相続税・贈与税の対象外。受け取った年金・弔慰金に所得税はかからない

注目していただきたいのは、加入の年齢制限です。

満65歳未満という線があり、健康状態の条件もあります。

「そのうち考えよう」と先送りすると、入れなくなります。

この2つは性格が違います。

特定贈与信託はまとまった財産がある場合の受け皿、しょうがい共済は毎月の掛金で終身の年金を作る仕組みです。

利用できる資格、財産の額、毎月必要な生活費、親の年齢と健康状態によって、一方を選ぶか、両方を使うか、別の手段にするかが変わります。

もう一つ、生命保険にも触れておきます。

親が亡くなったときに、まとまった資金を用意する手段です。

確認していただきたいのは、子本人が保険金を請求し、受け取った後の管理までできるかどうかです。

一括で渡すことが適切でない場合は、信託銀行等が保険金を受け取り、あらかじめ定めた方法で子へ交付する生命保険信託という選択肢もあります。

先ほど触れた相続税の障害者控除は、特定贈与信託の贈与税の非課税とは別の制度です。関連解説(税理士法人トゥモローズ)「相続税の障害者控除をわかりやすく徹底解説!」もあわせてご確認ください。


親が動けなくなる前に、順番をつける

備えは、親の健康状態に左右されます。

先に締め切りが来るものから手をつけてください。

手段使えなくなる主な条件
障害者扶養共済加入時の年度の4月1日時点で満65歳未満まで。健康状態の条件もある
生命保険年齢と健康状態による
遺言親に遺言をする能力があるうち
特定贈与信託財産を信託する親に判断能力があるうち
子の任意後見契約子本人が契約の内容と効果を理解し、自ら意思表示できるうち
子の法定後見の申立て年齢による法的な期限はない。ただし親が情報を整理して動ける時期には限りがある

年齢と健康で切られるものから先に手をつけてください。

共済と保険は年齢と健康で切られます。

遺言と信託は、親がその内容と効果を理解して判断する力を失うと作れなくなります。

親自身の判断能力への備えも、同時に考えておいてください。

ここで、よくある誤解を解いておきます。

認知症の診断が出ただけで、親の遺言が作れなくなるわけではありません。

民法963条は、遺言者は遺言をする時においてその能力を有しなければならないと定めています。

問題になるのは診断名ではなく、遺言をする時点で内容を理解して判断できるかどうかです。

子の後見の申立ても、親ができなくなれば終わりというわけではありません。

本人、配偶者、四親等内の親族、検察官のほか、知的障害や精神障害のある方については、市町村長が福祉を図るため特に必要があると認めるときに申立てをすることができます(知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2)。

ただし、親が本人の希望や生活の情報を伝えられるうちに動くほうが、実務は円滑です(認知症に備える財産管理)。

最後に、混同されやすい2つを分けておきます。

備える対象手段
親の死後の事務親の葬儀・納骨、親名義の契約の解約、遺品の整理親自身の死後事務委任契約
子の支援子の生活費の支払い、施設や福祉サービスの契約、子の財産管理子についての後見等、信託、金融機関の手続き、福祉サービス

親の死後事務委任契約の受任者が、当然に障害のある子の代理人になるわけではありません。

逆に、子に後見人等がついていても、その人が親の葬儀や親名義の契約の解約まで当然に担うわけでもありません。

親の死後の事務は死後事務委任契約とは?できること・できないこと完全解説で、子の支援は後見や信託で、それぞれ別に用意してください。


きょうだいに、何をどう伝えておくか

最後に、いちばん難しい話をします。

きょうだいへの引き継ぎです。

遺言や契約で法的な枠を作っても、実際に動くのは人です。

そして、きょうだいが困るのは、たいてい情報がないことです。

次のものを、書面にして渡しておいてください。

  • 受給している障害年金や手当の種類と、支給日・振込口座
  • 障害者手帳の種類と等級、更新の時期
  • 利用している福祉サービスと、相談支援専門員の連絡先
  • かかりつけ医、服薬の内容、通院の頻度
  • 本人が苦手なこと、落ち着く方法、こだわりのある習慣
  • 加入している共済・保険と、請求の窓口

5つ目は法的な権限を生むものではありませんが、日常の支援を続けるうえで特に効きます。

支援の質は、この情報があるかどうかで変わります。

エンディングノートに書く方法もあります(エンディングノートと遺言書の違い)。

そのうえで、役割を1人に集めないことをおすすめします。

役割誰に頼むか
財産の管理と契約後見人等(家庭裁判所が選任する。希望した候補者が必ず選ばれるとは限らない)
日々の見守りと関係づくりきょうだい、支援機関
遺言の実行遺言執行者

きょうだい1人にすべてを背負わせると、その人の生活が崩れます。

崩れれば、結局は障害のある子の生活も続きません。

遺言執行者を第三者に指定しておけば、遺言の内容を実現する手続きの負担は軽くなります。ただし、相続人としての対応や、障害のある子の日常の支援までなくなるわけではありません(遺言執行業務の流れ)。

私見ですが、親が生きているうちに、きょうだいと支援機関を一度引き合わせておくことが、どの書面よりも効きます。

顔を知っている相手がいるかどうかで、亡くなった後の動き出しが変わるからです。


よくある質問(FAQ)

Q1. 子に判断能力がある場合でも、後見の準備は必要ですか?

A. 必ずしも必要ではありません。本人が契約の意味を理解して意思表示できるなら、任意後見契約を結んで将来に備える選択肢があります。この場合は公正証書で作成することになります(任意後見契約に関する法律3条)。ただし、判断能力の程度は一律ではなく、契約の種類によっても求められる理解の程度が変わります。日常の買い物はできても、施設の利用契約や不動産の手続きは難しいということもあります。どの場面で誰の支えが要るのかを、相談支援専門員や主治医と一緒に整理してから決めてください。

Q2. しょうがい共済に入っていれば、遺言は書かなくてよいですか?

A. 別の話です。しょうがい共済は保護者が亡くなった後に子へ年金を支給する仕組みで、親の財産を誰にどう分けるかを決めるものではありません。遺言がなければ、親の財産は相続人全員の遺産分割協議で決めることになります。障害のある子が協議に参加できない場合、後見人の選任を待つことになり、手続きが長引きます。共済で毎月の生活費を支え、遺言で財産の分け方を決めておく。この2つは役割が違います。共済に加入していることを理由に遺言が不要になるわけではありませんし、共済に加入できない場合でも遺言の必要性は変わりません。親の財産、相続人、子本人の意思決定の状況を踏まえて、それぞれ検討してください。

Q3. 子がグループホームに入っていても、後見人は必要ですか?

A. 施設に入っていることと、法律行為を代われることは別です。グループホームの職員という立場だけでは、本人に代わって預金を動かしたり、契約を結んだり、相続の手続きをしたりする一般的な代理権はありません。親が亡くなったときの相続手続きや、施設との契約の変更・更新の場面で、代われる人が必要になります。すでに支援が安定している場合でも、親が元気なうちに後見の要否を検討しておいてください。

Q4. 遺言で、成人した子の後見人を指定できますか?

A. できません。遺言で後見人を指定できるのは、未成年の子について最後に親権を行う者が未成年後見人を指定する場合です(民法839条1項)。成人した子の法定後見人等は、申立てを受けた家庭裁判所が、本人の状況・財産・候補者との関係などを踏まえて選任します。親が候補者を挙げたり、本人の希望を伝えたりすることはできますが、家庭裁判所の判断を拘束するものではありません。誰に頼みたいかが決まっているなら、その意向を書面に残し、申立ての際に伝えられるようにしておいてください。

Q5. 遺言を作れば、成年後見は不要になりますか?

A. 別の話です。遺言は、親の財産を誰にどう分けるかを決めるものです。障害のある子の預金を動かしたり、施設の利用契約を結んだり、福祉の手続きをしたりする権限を、誰かに与える制度ではありません。遺言があれば遺産分割協議を減らせるという効果はありますが、日々の意思決定を代われる人は別に用意する必要があります。目的が違うので、どちらか一方で足りると考えないでください。

Q6. 親が2人とも高齢です。どちらから備えるべきですか?

A. 年齢と健康状態で締め切りが先に来るほうから進めてください。障害者扶養共済は、加入時の年度の4月1日時点で満65歳未満であることと、生命保険契約の対象となる健康状態であることが条件です。この条件に近いほうを優先します。遺言については、夫婦それぞれが自分の分を作る必要があります。1通の証書に2人以上が遺言をすることはできないためです。あわせて、先に亡くなった場合と後に亡くなった場合の両方を想定して内容を決めてください。


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まとめ

親なき後の備えで決めることは、お金・意思決定・暮らしの3つです。

きょうだいへの負担付遺贈は、民法1002条1項により遺贈の目的の価額を超えない限度でしか義務になりません

遺した額が尽きた後まで、法的に縛ることはできないのです。

だからこそ、続く仕組みを別に用意します。

特定贈与信託はまとまった財産の受け皿、障害者扶養共済は毎月の掛金で終身の年金を作る仕組みです。

意思決定については、任意後見が使えない場合があります。契約を結ぶ能力が要るためです。

その場合は、子本人が必要とする支援の内容に応じて、法定後見の後見・保佐・補助を検討します。親は四親等内の親族として自ら申し立てることができます(民法7条)。

そして、締め切りが早いものから手をつけてください。

障害者扶養共済は満65歳未満、遺言と信託は親に判断能力があるうちです。

最後に、きょうだいには書面で情報を渡し、役割を1人に集めないでください。

行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、障害のあるお子さまを遺す備えとして、遺言書・任意後見契約・死後事務委任契約の設計と、税理士・司法書士との連携までお手伝いしています。


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親なき後・後見のあわせて読みたい記事


根拠法令・公的資料

  • 民法第7条(後見開始の審判の請求権者。本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官)
  • 民法第838条第2号(後見は、後見開始の審判があったときに開始する)
  • 民法第11条(保佐開始の審判)・第15条(補助開始の審判。本人以外の者の請求によるときは本人の同意が必要)
  • 民法第818条第1項(親権は、成年に達しない子について行使する)
  • 民法第826条(利益相反行為と特別代理人)・第860条(後見人への準用。ただし後見監督人がある場合を除く)
  • 民法第963条(遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない)
  • 知的障害者福祉法第28条(市町村長は、知的障害者につき福祉を図るため特に必要があると認めるときは、後見・保佐・補助開始等の審判の請求をすることができる)
  • 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2(市町村長は、精神障害者につき福祉を図るため特に必要があると認めるときは、後見・保佐・補助開始等の審判の請求ができる)
  • 民法第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
  • 民法第859条第1項(後見人による財産の管理及び代表)
  • 民法第1002条第1項(負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う)・第2項(受遺者が放棄したときは、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となることができる)
  • 民法第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し。相続人は相当の期間を定めて履行を催告し、履行がないときは家庭裁判所へ遺言の取消しを請求できる)
  • 民法第839条第1項(未成年後見人の指定は、未成年の子について最後に親権を行う者が遺言でする)
  • 任意後見契約に関する法律第2条第1号(任意後見監督人の選任時から効力が生じる)・第3条(公正証書によることを要する)
  • 相続税法第21条の4(特定障害者に対する贈与税の非課税。特定障害者扶養信託契約)
  • 国税庁タックスアンサーNo.4405(非課税限度額=特別障害者6,000万円/国税庁タックスアンサーNo.4167(相続税の障害者控除。法定相続人であることに加え、相続又は遺贈により財産を取得したことが要件。当法人確認日 2026年8月20日)
  • 特別障害者以外の特定障害者3,000万円。当法人確認日 2026年8月20日)
  • 障害者扶養共済制度(しょうがい共済)独立行政法人福祉医療機構(年金月額1口2万円・2口まで/掛金9,300円〜23,300円=2026年4月1日現在/加入は年度の4月1日時点で満65歳未満。当法人確認日 2026年8月20日)
  • 行政書士法第1条の3(業務)・第1条の4(相談等)※家庭裁判所に提出する後見開始の審判の申立書等の作成は司法書士・弁護士の業務、相続税・贈与税の計算は税理士の業務です

公的機関・根拠リンク

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この記事の執筆者:大塚 英司

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)
税理士(東京税理士会新宿支部 登録番号 117702)

相続を専門に取り扱う行政書士・税理士。相続手続き・遺言・おひとりさま終活の実務に幅広く従事し、戸籍収集や遺産分割協議書の作成から、死後事務委任契約・任意後見契約といった生前対策の設計まで、ご相談者お一人おひとりの状況に応じて丁寧にサポートしている。