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預貯金の仮払い制度とは|遺産分割前に故人の口座からお金を引き出す方法(民法909条の2)

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行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)

大塚 英司


10秒でわかる この記事の要約

  • 故人の口座は死亡が金融機関に伝わると凍結され、原則として遺産分割が終わるまで引き出せない。その救済が預貯金の仮払い制度(民法第909条の2)
  • 各相続人が単独で(他の相続人の同意なしで)引き出せる。上限は「口座ごと・定期預金は明細ごとの相続開始時残高×3分の1×自分の法定相続分」、かつ同一金融機関あたり合計150万円
  • 受け取った額は遺産の一部分割で取得したものとみなされ、後の遺産分割で精算される。葬儀費用や当面の支払いに充てる制度だが、使い道によっては相続放棄に影響するため注意。
  • より多くが必要なときは家庭裁判所の保全処分(仮分割の仮処分)という別ルートもある。
  • 相続放棄を検討中なら、仮払いの請求・費消は慎重に。生活費などに使うと単純承認とみなされ放棄できなくなるおそれがあるため、引き出す前に専門家へ相談を。

「父が亡くなって口座が止まってしまった。でも葬儀費用や当面の支払いはどうすれば……」。故人(被相続人)の預貯金口座は、死亡が金融機関に伝わると凍結され、原則として遺産分割が終わるまで引き出せなくなります。とはいえ、葬儀費用や当面の生活費など、待ったなしの支払いもあります。

そこで設けられているのが、遺産分割前でも一定額を引き出せる「預貯金の仮払い制度」(民法第909条の2、2019年7月施行)です。本記事では、相続を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、いくら引き出せるのか、必要書類、相続放棄との関係や注意点までを整理します。


なぜ仮払い制度ができたのか

そもそも、なぜ「仮払い」という制度が必要なのでしょうか。

かつては、預貯金は相続が起きると当然に法定相続分どおりに分割され、各相続人が自分の取り分を単独で引き出せる、と考えられていた時期がありました。ところが、2016年12月の最高裁の決定で取扱いが変わり、預貯金は遺産分割の対象に含まれることになりました。これにより、遺産分割が終わるまでは、相続人が単独で預貯金を引き出すことが原則としてできなくなったのです。

この判例変更の経緯は、税理士法人トゥモローズの解説が詳しいので、あわせてご覧ください。

▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):預金が遺産分割の対象へ! 最高裁が判例変更

しかし、それでは葬儀費用や当面の生活費に困る相続人が出てしまいます。そこで2018年の相続法改正で、遺産分割の前でも、各相続人が単独で預貯金の一部を引き出せる仮払い制度(民法第909条の2)が新設されました。「凍結された口座から、必要な範囲だけ先に引き出せるようにする」ための制度です。


いくら引き出せる?(上限の計算)

仮払いで引き出せる金額には、2つの上限があり、どちらか低い方が限度になります。

① 計算式による上限(口座ごと・定期預金は明細ごと)

相続開始時の「その口座(明細)」の残高 × 3分の1 × その相続人の法定相続分

この計算は、金融機関全体の残高をまとめて行うのではなく、口座ごと、定期預金は明細ごとに当てはめます。

② 1金融機関あたりの上限額

同一の金融機関につき 150万円(複数支店・複数口座を合計した上限。民法第909条の2の法務省令で定める額)

具体例で見てみましょう(いずれも相続人が子2人=法定相続分は各2分の1)。

前提 計算 引き出せる額
A銀行の普通預金600万円 600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円 100万円(150万円以内なのでそのまま)
A銀行の普通預金1,200万円 1,200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円 → 150万円で頭打ち 150万円(金融機関ごとの上限)
A銀行:普通預金600万円+定期預金300万円 普通 100万円+定期 50万円 = 150万円 150万円(同じ銀行は合計150万円まで)
A銀行600万円・B銀行600万円 各行で 600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円 A・B各100万円(合計200万円)

ポイントは2段階です。まず計算式を口座ごと・定期預金は明細ごとに当てはめ、そのうえで150万円の上限を金融機関ごと(複数支店・複数口座を合算)に判断します。複数の銀行に口座があれば、それぞれの銀行で上限まで引き出せるのが原則です。逆に、同じ銀行に複数の口座があっても、その銀行での合計が150万円までとなります。

なお、この計算は相続人ごとにも判断します。子が2人いれば、それぞれが自分の取り分の範囲で、別々に仮払いを請求できます。


払い戻しの手続き・必要書類

仮払いの請求は、口座のある金融機関の窓口で行います。家庭裁判所を通す必要はありません(後述する保全処分とは別です)。

必要書類は金融機関により異なりますが、一般的には次のものを求められます。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む):相続人の範囲を確定するため
  • 相続人全員を確認できる戸籍謄本
  • 払戻しを受ける相続人の印鑑証明書
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 金融機関所定の請求書

最大のハードルは、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めることです。転籍や婚姻で本籍が変わっていると、複数の市区町村から取り寄せる必要があり、慣れていないと時間がかかります。なお、法定相続情報一覧図を取得しておくと、各金融機関での手続きがスムーズになる場合があります。戸籍の集め方は、戸籍謄本の取り方もあわせてご覧ください。

なお、遺言書がある場合は注意が必要です。亡くなった方が、預貯金を特定の人に取得させる内容の遺言を残していると、金融機関の取扱いによっては、仮払い制度を利用できなかったり、追加の書類が必要になったりすることがあります。遺言書が見つかっている場合は、窓口で請求する前に、その金融機関へ取扱いを確認しましょう。


口座が凍結して困っている方へ|戸籍収集から相続手続きまで初回相談で整理します

「故人の口座が止まって支払いに困る」「戸籍集めが大変」「結局どの口座をどう手続きすればいいか分からない」という方へ。仮払いに必要な戸籍の収集や相続人の確定、各金融機関へ提出する書類の準備は、行政書士が対応できます。通帳・キャッシュカード・本人確認書類があると、必要な手続きをより具体的にご案内できます。相続放棄や相続人間の争いがある場合は提携弁護士、相続税は税理士法人トゥモローズと連携します。

03-6280-5188

平日 9:00〜21:00 土日祝 9:00〜17:00


もっと必要なとき:家庭裁判所の保全処分

金融機関の窓口で行う仮払い(民法第909条の2)には、前述のとおり「150万円」「3分の1×法定相続分」という上限があります。葬儀費用や当面の支払いには足りても、被相続人の債務の弁済や、150万円を超える資金需要があるケースもあります。

このような場合には、家庭裁判所の保全処分(遺産分割前の預貯金債権の仮分割の仮処分)という、もう一つのルートがあります(家事事件手続法第200条第3項)。

特徴

  • 金融機関窓口の仮払いのような150万円・3分の1といった一律の上限はない(必要性に応じて判断される)

満たすべき要件

  • 遺産分割の調停・審判が家庭裁判所に申し立てられていることが前提
  • 預貯金を行使する必要性(葬儀費用、生活費の支弁、債務の弁済など)があること
  • 他の共同相続人の利益を害しないこと(家事事件手続法第200条第3項のただし書き)

単に「多額のお金が必要」というだけで当然に認められるわけではなく、必要性や使途を資料で説明する必要があります。なお、相続税の納付資金は相続人自身の納税という性質もあり、どこまで必要性が認められるかは個別の判断になります。窓口の仮払いより手続きの手間はかかりますが、まとまった資金が必要なときの選択肢です。家庭裁判所の手続きの代理は弁護士の業務になるため、必要に応じて提携弁護士と連携します。


仮払いを使うときの注意点

便利な制度ですが、使う前に知っておきたい注意点があります。

① 相続放棄を検討中なら慎重に

最も注意したいのが、相続放棄との関係です。相続財産を自分のために処分・費消すると、相続を承認したとみなされ(法定単純承認・民法第921条)、相続放棄ができなくなるおそれがあります。社会通念上相当な範囲の葬儀費用への充当は単純承認に当たらないと考えられていますが、これは絶対に安全というわけではなく、金額・内容・支出先によって判断が分かれます。まして生活費や相続人自身の支払いに使うと、放棄できなくなるリスクが高まります。被相続人に借金がある可能性がある場合は、仮払いを請求する前に、まず負債の調査と相続放棄の可否を優先し、専門家へ相談してください(相続の3か月以内にやることもご覧ください)。

② 受け取った分は遺産分割で精算される

仮払いで受け取った額は、遺産の一部分割によって取得したものとみなされます(民法第909条の2後段)。つまり、最終的な遺産分割で、自分の取り分から差し引いて清算します。「もらい得」になるわけではない点を理解しておきましょう。

③ 相続人間のトラブルに注意

単独で引き出せるとはいえ、他の相続人に何の説明もなく多額を引き出すと、不信感やトラブルにつながりがちです。引き出した金額・使途は記録に残し、必要に応じて他の相続人に共有しておくと安心です。


仮払いから相続手続き全体まで、誰に頼む?

預貯金の仮払いや、その後の本格的な相続手続きは、内容によって相談先が分かれます。

  • 行政書士:相続人間に争いがない前提で、相続人を確定するための戸籍の収集、相続関係の整理、金融機関提出書類の作成・準備、遺産分割協議書の作成など。仮払い後の預貯金の名義変更・解約手続きのサポートも対応できます
  • 司法書士:不動産がある場合の相続登記(名義変更)、家庭裁判所へ提出する書類の作成
  • 税理士:相続税の試算・申告(相続税が見込まれる場合)
  • 弁護士:相続人間で争いがある場合の交渉・代理、家庭裁判所の保全処分の代理

仮払いは「とりあえず当面のお金」を確保する制度であり、これで相続手続きが終わるわけではありません。仮払い後には、預貯金の正式な名義変更・解約、不動産の登記、相続税の申告など、本来の相続手続きが続きます。最初の戸籍収集の段階から相談しておくと、仮払いから相続手続き全体までを一つの流れで整理できます。費用は依頼する範囲・内容で変わるため、見積もりで確認しましょう。預貯金そのものの相続手続きの流れは、銀行預金の相続手続きで詳しく解説しています。


口座の凍結や相続手続き全体については、こちらもあわせてご覧ください。

相続手続き、まるごとおまかせ。行政書士法人トゥモローズの相続手続きサポート

よくある質問(FAQ)

Q1. 預貯金の仮払いを受けるのに、他の相続人の同意は必要ですか?

A. 同意は不要です。仮払い制度は、各相続人が単独で、自分の取り分の範囲内で金融機関に払戻しを請求できる仕組みです(民法909条の2)。ただし、後の遺産分割では受け取った分を取得済みとして扱うため、トラブルを避けるなら、引き出す前に他の相続人へ一言伝えておくと安心です。なお、家庭裁判所の保全処分による払戻しは別の手続きです。

Q2. 仮払いで受け取ったお金は、あとで返す必要がありますか?

A. 原則として返す必要はありません。仮払いで受け取った額は、その相続人が遺産の一部分割によって先に取得したものとして扱われます。最終的な遺産分割で、自分の取り分からその額を差し引いて精算するイメージです。受け取った額が最終的な取り分を超えてしまう場合などは、清算が必要になることもあるため、使い道や金額は記録しておきましょう。

Q3. 複数の銀行に口座がある場合、それぞれ150万円まで引き出せますか?

A. 上限の150万円は、金融機関ごとに判断します。A銀行とB銀行に口座があれば、計算上の上限の範囲で、それぞれ最大150万円までが目安です。一方、同じ銀行に複数の口座(普通・定期など)がある場合は、その銀行で合計150万円が上限となります。実際にいくら引き出せるかは、口座残高や法定相続分によって変わるため、各金融機関に確認します。

Q4. 葬儀費用に使うために仮払いを受けると、相続放棄できなくなりますか?

A. 注意が必要なポイントです。相続財産を自分のために使うと、相続を承認したとみなされ(法定単純承認)、相続放棄ができなくなるおそれがあります。社会通念上相当な葬儀費用への充当は単純承認に当たらないと考えられていますが、生活費などに費消すると放棄できなくなるリスクがあります。借金が多く相続放棄を検討している場合は、引き出す前に専門家へ相談してください。

Q5. 仮払いの手続きを行政書士に頼むことはできますか?

A. 戸籍の収集や相続人の確定、金融機関へ提出する書類の準備といったサポートは、行政書士が対応できます。相続人の範囲を確定するための戸籍集めは手間がかかるため、ここを任せるとスムーズです。なお、相続人間で争いがある場合の交渉や、家庭裁判所の手続きの代理は弁護士の領域です。状況に応じて、提携する専門家と連携してご案内します。

Q6. 遺言書がある場合でも、預貯金の仮払い制度は使えますか?

A. 遺言の内容によっては、利用できないことや追加の確認が必要なことがあります。たとえば、亡くなった方が預貯金を特定の人に遺す遺言を残していた場合などは、金融機関の対応が通常と変わることがあります。遺言書が見つかっているときは、窓口に行く前に、金融機関や専門家へ取扱いを確認しておくと安心です。


まとめ

故人の預貯金口座は、死亡が金融機関に伝わると凍結され、原則として遺産分割が終わるまで引き出せません。その救済が、遺産分割前でも各相続人が単独で一定額を引き出せる仮払い制度(民法第909条の2)です。上限は、口座ごと・定期預金は明細ごとの「相続開始時残高×3分の1×自分の法定相続分」と、「同一金融機関あたり合計150万円」のどちらか低い方です。受け取った額は遺産の一部分割で取得したものとみなされ、後の遺産分割で精算されます。

より多額が必要なときは、家庭裁判所の保全処分(仮分割の仮処分)という別ルートもあります。一方で、相続放棄を検討している場合は、引き出して費消すると単純承認とみなされ放棄できなくなるおそれがあるため、慎重な判断が必要です。

行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)を拠点に、首都圏とオンライン(Google Meet・全国対応)で、相続手続きのご相談に対応しています。戸籍収集から預貯金の名義変更まで、相続放棄や争いがある場合は提携弁護士、相続税は税理士法人トゥモローズと連携します。


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根拠法令・公的資料

  • 民法第909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使。債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額、金融機関ごとに法務省令で定める額=150万円を限度)
  • 民法第898条・第899条(相続財産の共有・相続分)/第907条(遺産の分割)
  • 民法第921条(法定単純承認)/第915条(相続の承認・放棄の熟慮期間)
  • 家事事件手続法第200条第3項(遺産分割前の保全処分・仮分割の仮処分)
  • 民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(150万円)
  • 税理士法第2条・第52条(相続税の計算・申告は税理士の業務)/司法書士法第3条(登記申請の代理、裁判所提出書類の作成等)
  • 行政書士法第1条の3(業務)・第1条の4(相談等)。他の法律で制限された業務を除く

公的機関・根拠リンク

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この記事の執筆者:大塚 英司

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)
税理士(東京税理士会新宿支部 登録番号 117702)

相続を専門に取り扱う行政書士・税理士。相続手続き・遺言・おひとりさま終活の実務に幅広く従事し、戸籍収集や遺産分割協議書の作成から、死後事務委任契約・任意後見契約といった生前対策の設計まで、ご相談者お一人おひとりの状況に応じて丁寧にサポートしている。