国外転出時課税制度:資産家が知っておくべき重要ポイント
みなさんこんにちは!相続専門の税理士法人トゥモローズです。
今回は、国外転出時課税制度について詳しく解説します。この制度は、特に資産家の方々にとって重要な税制度ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
- 1 1. 国外転出時課税制度とは
- 2 2. 国外転出時課税制度の手続き
- 3 3. 相続・贈与時の国外転出時課税制度
- 4 4. 課税の取り消しと減額措置
- 5 5. よくある質問(Q&A)
- 5.1 Q1. 対象資産の価額の合計額が1億円以上となるかどうかについては、いつの価額で判定しますか。
- 5.2 Q2. 対象資産の価額の算定方法を教えて下さい。
- 5.3 Q3. 1億円判定に含まれる対象資産について具体的事例で教えて下さい。
- 5.4 Q4. 国外転出時課税は住民税も対象になりますか?
- 5.5 Q5. 国外転出(相続)時課税において、準確定申告期限までに遺産分割が固まっていなかった場合にはどうなりますか?
- 5.6 Q6. 国外転出(相続)時課税において、準確定申告期限までに非居住者である相続人が有価証券を取得しないことが決まった場合には国外転出時課税に関する準確定申告は不要ですか?
- 5.7 Q7. 相続人名義の有価証券で実質的に被相続人が管理している、いわゆる、名義有価証券が存在しますが、国外転出(相続)時課税の対象になりますか?
- 5.8 Q8. 納税猶予制度を利用する場合、どのような手続きが必要ですか?
- 5.9 Q9. 国外転出時課税制度の対象となる資産に仮想通貨(暗号資産)は含まれますか?
- 5.10 Q10. 納税猶予期間中に何か特別な手続きは必要ですか?
- 5.11 Q11. 国外転出時課税制度の対象となる資産の価額が1億円を下回る場合はどうなりますか?
- 5.12 Q12. 国外転出時課税制度の適用を受けた後、日本に帰国した場合はどうなりますか?
- 5.13 Q13. 国外転出(相続)時課税の準確定申告で納税猶予した場合にその猶予税額は相続税の債務控除の対象となりますか?
1. 国外転出時課税制度とは
国外転出時課税制度は、一定以上の資産を保有する日本居住者が海外に転出する際に適用される税制度です。この制度の主な目的は、高額な含み益を持つ有価証券等を保有したまま国外へ転出し、キャピタルゲイン非課税国で売却するような租税回避を防止することにあります。
1.1 適用対象者
この制度の対象となるのは、以下の2つの条件を同時に満たす個人です。
・国外転出時に1億円以上の対象資産を保有している
・国外転出前10年以内に、5年を超えて日本国内に居住していた
1.2 対象となる資産
国外転出時課税制度の対象となる主な資産は以下の通りです。
・株式(上場・非上場)
・投資信託等の有価証券
・匿名組合契約の出資持分
・未決済の信用取引・デリバティブ取引
2. 国外転出時課税制度の手続き
2.1 確定申告
国外転出時課税制度の適用を受ける場合、確定申告が必要となります。納税管理人の届出の有無によって、確定申告の時期が異なります。
・納税管理人の届出あり。転出する年分の確定申告書を期限内(翌年3月15日)に提出
・納税管理人の届出なし。出国時までに確定申告書を提出
2.2 納税猶予制度
国外転出時課税制度には、納税猶予の制度が設けられています。これは、即時の納税が困難な場合に利用できる重要な選択肢です。
・基本的な納税猶予期間は5年間
・一定の条件を満たせば、さらに5年間(合計10年間)の延長が可能
3. 相続・贈与時の国外転出時課税制度
国外転出時課税制度は、個人が海外に転出する場合だけでなく、相続や贈与の場面でも適用されることがあります。これは、国際的な資産移転に関わる重要なポイントです。
3.1 相続時の適用
相続における国外転出時課税制度の適用は、以下のような状況で発生します。
・日本国内の居住者(被相続人)が1億円以上の対象資産を保有している
・その資産を海外に居住している非居住者(相続人)が相続する場合
例えば、日本に住んでいるお父さんが1億円以上の株式を持っていて、海外に住んでいる娘さんがそれを相続する場合が該当します。この場合、相続時に課税が発生する可能性があります。
3.2 贈与時の適用
贈与における国外転出時課税制度の適用は、以下のような状況で発生します。
・日本国内の居住者が1億円以上の対象資産を保有している
・その資産を海外に居住している非居住者に贈与する場合
例えば、日本に住んでいる祖父母が1億円以上の投資信託を持っていて、海外に留学中の孫にそれを贈与する場合が該当します。この場合も、贈与時に課税が発生する可能性があります。
4. 課税の取り消しと減額措置
国外転出時課税制度には、一定の条件下で課税を取り消したり、減額したりできる規定があります。これらの規定は、納税者にとって重要な救済措置となります。
4.1 課税取り消しの条件
以下の条件を満たす場合、課税の取り消しが可能です。
・国外転出から5年以内(猶予期間延長時は10年以内)に日本に帰国
・課税対象となった資産を継続して保持している
・対象資産を日本国内の居住者に贈与した場合
・相続人全員が日本国内の居住者となった場合
例えば、海外に転出して3年後に日本に帰国し、転出時に持っていた株式をそのまま保有している場合、課税を取り消すことができます。
4.2 減額措置の適用
以下のような場合に減額措置が適用されます。
・納税猶予期間中に資産価値が下落した場合
・外国で二重課税が生じた場合
例えば、国外転出時に1億円相当だった株式が、5年後の納税猶予期間終了時に8000万円に下落していた場合、その差額分について課税額が減額されます。
5. よくある質問(Q&A)
Q1. 対象資産の価額の合計額が1億円以上となるかどうかについては、いつの価額で判定しますか。
A. 対象資産の価額の判定時期は下記の通りです。
・国外転出の場合:以下のいずれかの日の時価
(1)国外転出の日以後に確定申告等をする場合:国外転出日
(2)国外転出の日前に確定申告をする場合:国外転出の予定日から起算して3か月前の日
・相続の場合:相続開始日の時価
・贈与の場合:贈与日の時価
Q2. 対象資産の価額の算定方法を教えて下さい。
A. 主な対象資産の価額の算定方法は下記の通りです。
・上場株式:金融商品取引所の公表する最終価格
・非上場株式:所得税基本通達23~35共-9及び59-6の取扱いに準じて求めた価額(いわゆる所得税法上の時価)
・投資信託:財産評価基本評価と同様
・公社債:財産評価基本評価と同様
Q3. 1億円判定に含まれる対象資産について具体的事例で教えて下さい。
A. 1億円判定に含まれるかどうか悩ましい具体例は以下の通りです。
・NISA口座内にある有価証券:対象資産に含まれる
・含み損がある有価証券:対象資産に含まれる
・アマゾン株等の国外財産である有価証券:対象資産に含まれる
・居住者が取得した有価証券:対象資産に含まれる
・特定譲渡制限付株式等で譲渡制限が解除されていないもの:対象資産から除かれる
・一定のストックオプション等:対象資産から除かれる
Q4. 国外転出時課税は住民税も対象になりますか?
A. 住民税は対象外です。
住民税は1月1日に日本に住所を有する者に対して課税される税金です。
したがって、国外転出した者はその翌年の1月1日に日本に住所を有しませんので住民税はかかりません。
国外転出(相続)時課税についても被相続人は翌年の1月1日に日本に住所を有しませんので住民税はかかりません。
国外転出(贈与)時課税については、贈与者は翌年の1月1日に日本に住所を有する可能性はありますが、上記との整合性の観点から住民税はかかりません。
Q5. 国外転出(相続)時課税において、準確定申告期限までに遺産分割が固まっていなかった場合にはどうなりますか?
A. 民法に定める相続分により相続したものとして国外転出時課税の計算をします。
その後、遺産分割が固まってから4ヶ月以内に更正の請求又は修正申告をすることとなります。
Q6. 国外転出(相続)時課税において、準確定申告期限までに非居住者である相続人が有価証券を取得しないことが決まった場合には国外転出時課税に関する準確定申告は不要ですか?
A. 条文を文理解釈すると準確定申告は必要なさそうですが、国税庁から明確な取り扱いは公表されていません。
Q7. 相続人名義の有価証券で実質的に被相続人が管理している、いわゆる、名義有価証券が存在しますが、国外転出(相続)時課税の対象になりますか?
A. 税務は実態で判断するため名義が相続人であっても実質的に被相続人の有価証券と認められる場合には国外転出時課税の対象となります。
Q8. 納税猶予制度を利用する場合、どのような手続きが必要ですか?
A. 納税猶予を受けるためには、以下の手続きが必要です。
・納税管理人の届出(国外転出の時までに(相続の場合には準確定申告期限までに))
・期限内(翌年3月15日まで)に確定申告書の提出
・猶予される所得税額とその利子税に相当する担保の提供
Q9. 国外転出時課税制度の対象となる資産に仮想通貨(暗号資産)は含まれますか?
A. 現時点では、仮想通貨(暗号資産)は国外転出時課税制度の対象資産には含まれていません。ただし、今後の法改正により対象に含まれる可能性もあるため、注意が必要です。
Q10. 納税猶予期間中に何か特別な手続きは必要ですか?
A. 納税猶予期間中は、毎年12月31日時点で所有している対象資産について、継続適用届出書を翌年3月15日までに税務署に提出する必要があります。
また、対象資産を売却した場合や、国外転出の日から5年を経過する日までに帰国した場合なども、それぞれ特別な手続きが必要となります。
具体的には以下のような手続きが求められます。
・対象資産を売却した場合:売却の日から4か月以内にその売却した資産に対応する所得税を利子税と併せて納付、また、「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等に係る納税猶予期限の一部確定事由が生じた場合の適用資産等の明細書」を売却の日から4か月以内に所轄税務署へ提出
・国外転出の日から5年を経過する日までに帰国した場合:帰国の日から4か月以内に更正の請求または修正申告
・納税猶予の期限を延長する場合:期限延長申請書を、当初の納税猶予期限までに提出
これらの手続きを怠ると、納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税金を一括で納付しなければならなくなる可能性があるので注意が必要です。
Q11. 国外転出時課税制度の対象となる資産の価額が1億円を下回る場合はどうなりますか?
A. 対象資産の価額が1億円を下回る場合は、国外転出時課税制度の適用対象とはなりません。
つまり、国外転出時に特別な課税は発生せず、通常の海外転出と同様の扱いとなります。
ただし、以下の点に注意が必要です。
・資産価値の変動により、転出時に1億円を超える可能性がある場合は事前に確認が必要
・複数の資産を保有している場合、それらの合計額が1億円を超えるかどうかで判断される
・1億円未満であっても、将来的に資産価値が上昇する可能性がある場合は注意が必要
Q12. 国外転出時課税制度の適用を受けた後、日本に帰国した場合はどうなりますか?
A. 国外転出から5年以内(猶予期間延長時は10年以内)に日本に帰国し、かつ課税対象となった資産を継続して保持していた場合は、課税の取り消しが可能です。
Q13. 国外転出(相続)時課税の準確定申告で納税猶予した場合にその猶予税額は相続税の債務控除の対象となりますか?
A. 猶予した税額は確実な債務とは認められないため相続税の債務控除の対象にはなりません。
なお、将来的に猶予した税額の全部又は一部を納めることとなった場合には、その税額は債務控除の対象となるため相続税について更正の請求が必要となります。
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相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
税理士法人トゥモローズでは、豊富な申告実績を持った相続専門の税理士が、お客様のご都合に合わせた適切な申告手続きを行います。
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