日本の相続、米国居住者は要注意—アメリカでの報告義務と高額ペナルティ

■アメリカ居住の相続人は、日本の相続で財産を受け取った場合Form3520を翌年4月15日までに提出する必要があります。
■FBAR(FinCEN Form 114)は年間を通じて外国の金融口座の残高が1万ドルを超えた場合、10月15日までの提出が必須です。
■Form 8938は1年間で外国資産が一定額を超えた場合、毎年の税務申告時に提出して報告します。
■Form 3520、FBAR、Form 8938の3つはそれぞれ異なる機関への報告で、すべての要件を満たすことが重要です。
■提出期限を遅れた場合、最大で資産額の25~50%に達する高額なペナルティが課される可能性があります。
アメリカ居住者が日本の被相続人から相続を受けた場合、単に日本での相続手続きを完了するだけでは足りません。
アメリカの税務当局に対しても適切な報告を行う義務が生じます。
これらの報告義務は米国の国内法に基づく義務であり、国際的な脱税防止の枠組みの一部です。
相続人がアメリカに居住している場合、Form 3520、FBAR(FinCEN Form 114)、Form 8938という3つの重要な報告書の提出が求められることがあります。
これらは同じように見えるかもしれませんが、実は報告対象、提出先、期限がすべて異なります。
適切に理解し、期限内に提出しなければ、高額なペナルティが課される可能性があります。
本記事では、それぞれの報告書がどのような役割を持つのか、誰が、どこに、何を、いつまでに提出すべきなのかについて、わかりやすく解説します。
目次
Form 3520とは:外国からの相続・贈与報告書
Form 3520の役割と目的
Form 3520は「Annual Return to Report Transactions with Foreign Trusts and Receipt of Certain Foreign Gifts」の略称で、IRS(アメリカ国税庁)に提出する年間報告書です。
この書類は、米国居住者(連邦所得税上の居住者)が非居住外国人(日本人等)から年間10万ドルを超える贈与や相続による財産移転を受けた場合に報告するために使用されます。
Form 3520の提出要件:誰が提出する必要があるのか
Form 3520を提出すべき相続人の条件は次の通りです。
これは日本の親や親類が亡くなり、アメリカ居住の相続人が日本の資産を相続する場合に該当します。
相続額が基準を超えた場合に報告が必須になります。
2025年の基準は、外国個人または外国の遺産から年間合計100,000ドル以上の相続を受けた場合です。
提出先と提出期限
Form 3520はIRSに提出します。
提出方法は通常、米国の所得税申告書(Form 1040)とは別に提出します。
提出期限は、その年の税務申告期限である翌年4月15日です。
ただし、所得税申告書が延長された場合は、Form 3520も同様に延長されます。
Form 3520での報告内容
Form 3520では以下の情報を報告します。
外国の遺産に関する基本情報(名前、所在地、成立年など)。
相続人自身の個人情報。
受け取った相続資産の名前、説明、公正市場価値(Fair Market Value)。
相続の発生日と受け取った日。
受け取った資産が現金か、不動産か、有価証券か、その他資産かの分類。
各資産の詳細説明。
具体的な書式については、IRS HP Form 3520をご参照ください。
FBAR(FinCEN Form 114):外国金融口座報告書
FBARの概要と適用対象者
FBAR(Foreign Bank Account Report)はFinCEN Form 114とも呼ばれ、米国財務省のFinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)に提出する報告書です。
相続に関連して言うと、アメリカ居住者が日本で相続を受けた際に、日本の金融口座に資金が入金される場合に報告義務が生じます。
Form 3520とは異なり、FBARは個々の金融口座の残高を報告するものです。
相続を受けたお金がどこに保管されるかが重要になります。
FBARの提出要件
米国居住者がアメリカ国外の金融口座を保有し、年間を通じていかなる時点でも口座の合計残高が10,000ドルを超えた場合、FBARの提出義務が生じます。
ここで注意すべき点は、相続を受けてアメリカに送金するまでの間、日本の口座に一時的に置かれた相続金も対象になる、ということです。
10,000ドルを超える相続は、それがいつ発生しても報告対象になります。
提出先と提出期限
FBARはFinCEN(米国財務省)に提出します。
提出方法は電子申請のみで、紙での提出はできません。
提出期限は毎年4月15日ですが、自動で10月15日まで延長されます。
これはForm 3520や通常の所得税申告とは異なるため、混同しないよう注意が必要です。
FBAR報告の具体例
例えば、アメリカ居住のAさんが日本の親から1,000万円(約71,000ドル)の相続を受け、一時的に日本の銀行口座に置いた場合を想定します。
この金額は10,000ドルを大きく超えているため、その年のFBARにこの口座を記載する必要があります。
たとえ、その相続金をアメリカに送金するまでの保管期間が短期間でも、関係ありません。
Form 8938(FATCA):外国資産報告書
Form 8938の目的
Form 8938は「Statement of Specified Foreign Financial Assets」で、FATCA(外国口座税務遵守法)に基づく報告書です。
FBARより高い基準で外国資産全体を報告するものです。
Form 3520が特定の大きな相続や贈与を報告するのに対して、Form 8938はその人が保有している外国資産全体の価値を基準にして報告するか否かが決まります。
Form 8938の提出要件
Form 8938は、外国資産の合計値が一定額を超えた場合に提出義務が生じます。
その基準は居住地と婚姻状況によって異なります。
米国居住のシングルの場合、年末時点で50,000ドル以上、または年間中のいかなる時点でも75,000ドル以上の外国資産がある場合に提出が必須です。
米国居住の既婚者で共同申告の場合、年末時点で100,000ドル以上、または年間中のいかなる時点でも150,000ドル以上です。
Form 8938で報告する外国資産
Form 8938では以下のような外国資産が報告対象になります。
外国の銀行口座
外国の証券口座
外国株や外国債券
外国投資信託
外国法人の株式や出資
外国信託からの配当受取権
これらは相続で受け取った場合、その価値が基準を超えれば報告対象になります。
提出先と提出期限
Form 8938はIRSに提出し、米国の所得税申告書(Form 1040)と一緒に提出します。
提出期限は米国の所得税申告期限である4月15日です。
所得税申告書が延長された場合は、同様に10月15日まで延長されます。
Form 3520、FBAR、Form 8938の違いと関係性
報告基準額、提出先、提出期限の違い
相続人が提出する3つの報告書は、下記の通りそれぞれ異なります。
| 報告書名 | 報告基準額 | 提出先 | 提出期限 |
| Form 3520 | 年間100,000ドル超の相続、贈与 | IRS (アメリカ国税庁) |
4月15日 (所得税申告と同時) |
| FBAR(FinCEN 114) | 海外金融口座の残高が10,000ドル超 | FinCEN (米国財務省) |
10月15日 (自動延長) |
| Form 8938 | 独身者:年末時点で50,000ドル超の国外資産等 既婚者:年末時点で100,000ドル超の国外資産等 |
IRS (アメリカ国税庁) |
4月15日 (所得税申告と同時) |
提出先が異なるということは、IRSとFinCENが別の目的でそれぞれの情報を管理しているということです。
脱税防止という共通目標はありますが、報告するべき内容や基準が異なります。
報告対象資産の違い
Form 3520は相続や贈与という「イベント」を報告するのに対して、Form 8938は相続後に保有する資産の「ストック」を報告します。
また、FBARは金融口座に限定されます。
例えば、日本の親から1,000万円の金融資産と不動産を相続した場合を考えます。
FBAR → 1,000万円を日本の銀行に置いた場合、その銀行口座を報告。
Form 8938 → 相続後に国外で保有している全外国資産(日本の銀行口座、日本法人の株式など)の合計が基準を超えれば報告。
提出漏れ・遅延時のペナルティ
Form 3520未提出時のペナルティ
合理的な理由がなく報告不履行や遅延があった場合には、一般に受領額の5%/月(最大25%)等のペナルティが適用され得ます。
なお、最新情報として2024年10月24日にIRS長官はForm 3520(外国からの贈与・相続報告部分)の自動ペナルティ賦課を停止すると発表しました。
現在、IRSは遅延提出されたForm 3520に対して、ペナルティを自動的に課す前に、納税者が提出した合理的理由の説明を審査します。
ただし、これは法律自体の変更ではなく、運用方針の変更であり、ペナルティの法的根拠(Section 6039F)は依然として有効です。
FBAR(FinCEN Form 114)未提出時のペナルティ
FBARのペナルティは、意図的な違反か過失かによって大きく異なります。
非意図的(Non-Willful)な違反の場合、最大16,536ドル(2025年インフレ調整後)のペナルティが1年ごと、1報告書ごとに課されます。
意図的(Willful)な違反の場合、165,353ドル(2025年インフレ調整後)、またはその時点での口座残高の50%のいずれか大きい方が課されます。
例えば、500,000ドルの日本の口座があり、FBARを意図的に報告しなかった場合、250,000ドル(50%)のペナルティが課される可能性があります。これはかなりの金額です。
Form 8938未提出時のペナルティ
合理的な理由がなく報告不履行や遅延があった場合には、10,000ドルのペナルティが掛かる可能性があります。
通知後も未提出が続くと最大50,000ドルのペナルティとなります。さらに40%の精算不足加算税が課され得ます。
複雑な国際相続対応への専門家相談
相続と国際税務の組み合わせは非常に複雑です。特に複数の国に資産がある場合、提出書類も増えます。
日本での相続税申告と同時にアメリカでの報告書提出を行う必要があります。その際、アメリカ側の税務顧問(CPA または Tax Attorney)のサポートが不可欠です。
相続人がアメリカ居住の場合の実務フロー
相続発生直後~4ヶ月以内にすべきこと
日本の被相続人が亡くなってから、アメリカ側での報告期限までは限られた時間があります。
Step2 → 相続財産の把握と評価。特に日本に所在する資産の公正市場価値を米ドルで計算。
Step3 → 相続金がどこに保管されるかの確認。日本の銀行口座に一時置きされる場合は、その期間と残高を記録。
Step4 → Form 3520の準備開始。相続額が基準を超えるか確認。
翌年3月~4月にすべきこと
Step6 → 4月15日までにForm 3520とForm 8938を提出。
翌年6月~10月にすべきこと
Step8 → すべての提出書類のコピーを保管。税務調査に備える。
よくある質問と回答
Q. 相続がまだ日本で確定していない段階で、アメリカに報告する必要がありますか。
■ 相続税申告の期限が日本で10ヶ月であるのに対して、米国の報告期限(特にForm 3520の4月15日)は、場合によっては日本の相続税申告よりも早い可能性があります。
特に年をまたぐ場合は注意が必要です。
米国報告では、日本で最終確定していなくても、その時点での遺産分割協議の内容に基づいて報告することが多いです。
ただし、後から遺産分割が変わった場合は、修正申告書の提出が必要になります。
Q. 相続した日本の不動産はForm 8938の対象になりますか。
■ いいえ。
直接保有する外国不動産はForm 8938の対象外です。
外国法人・パートナーシップ・信託等を介して保有する場合はその持分が対象になります。
Q. 日本で相続税を払っていれば、アメリカでもう税金を払う必要はありませんか。
■ 米国はForm 3520の報告に対して直接的な相続税を課しません。
これはあくまで報告義務です。
ただし、その後、相続した資産から生じる収入(例えば日本の不動産からの賃料)に対しては、米国でも所得税が課される可能性があります。
日米租税条約により二重課税を避ける仕組みがありますが、適切な申告がないと恩恵を受けられません。
Form 3520だけでなく、その後の継続的な報告も重要になります。
Q. FBARとForm 8938の両方を提出する必要があるケースはありますか。
■ はい、両方が必要なケースはあります。
例えば、日本の銀行口座の残高が10,000ドルを超えてFBAR提出が必須で、かつ、その他の外国資産も含めた合計が、その人の基準額を超える場合です。
FBARは金融口座に限定されるのに対して、Form 8938はより広い範囲の資産を対象にしているため、両方の基準に引っかかることは珍しくありません。
Q. 相続してからアメリカに送金するまでの間、日本の口座の報告はどうなりますか。
■ 日本の口座に一時的に置かれた相続金も、年間を通じて残高が10,000ドルを超えていればFBARの報告対象になります。
「一時的だから」という理由は通用しません。
例えば、相続を受けてから3ヶ月間日本の口座に置いた場合でも、その期間の最高残高がその報告対象年の最高残高に含まれます。
まとめ:相続人がアメリカ居住の場合の報告義務
相続人がアメリカに居住している場合、日本での相続手続きと並行して、米国側での複数の報告義務が発生します。
Form 3520、FBAR、Form 8938は、それぞれ提出先、期限、報告対象が異なるため、一つのチェックリストで管理することが重要です。
Form 3520は相続というイベントを報告し、FBARは金融口座の残高を報告し、Form 8938はより広い範囲の外国資産を報告するという役割分担があります。
これらはすべて米国の脱税防止と資産透明性の枠組みの一部であり、遵守しないと相続額の過半数に及ぶペナルティが課される可能性があります。
複雑な国際相続では、相続人自身が正確に判断することは困難です。
相続が発生したら、米国側の税理士(CPA)と日本側の相続税理士とが連携して対応することが、後々のトラブルや高額なペナルティを防ぐ最善の方法です。
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