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遺贈の放棄とは|特定遺贈・包括遺贈で違う手続きと期限

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行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)

大塚 英司


10秒でわかる この記事の要約

  • 遺言で財産を譲られた受遺者は、遺贈を放棄できる。理由を問わず受け取らない選択ができる。
  • 特定遺贈(特定の財産の遺贈)は、遺言者の死亡後いつでも、遺贈義務者への意思表示で放棄できる(民法第986条)。明確な期限はない。
  • 包括遺贈(割合での遺贈)は相続人と同一の権利義務を持つため(民法第990条)、相続放棄に準じて3か月以内に家庭裁判所へ申述が必要。
  • 「遺贈の放棄」と「相続人としての相続放棄」は別物。包括遺贈の放棄をしても相続放棄まで済むわけではなく、それぞれ分けて確認する。

遺言で財産を譲られても、必ず受け取らなければならないわけではありません。「管理が負担」「ほかの相続人との関係で受け取りにくい」「債務まで引き継ぐ包括遺贈で、むしろ損をする」。こうした事情があれば、受遺者は遺贈を放棄できます。

ただし、遺贈の放棄は、特定遺贈か包括遺贈かによって、手続きと期限がまったく違います。さらに、「遺贈の放棄」と「相続放棄」を混同すると、思わぬ不利益が生じます。本記事では、遺言を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、遺贈の放棄の方法と注意点を整理します。なお、家庭裁判所への申述書類の作成や紛争対応は提携の弁護士・司法書士、相続税は税理士法人トゥモローズと連携します。


特定遺贈と包括遺贈で放棄が違う

まず、自分が受けた遺贈が特定遺贈か包括遺贈かを確認します。

  • 特定遺贈:「自宅を長女に遺贈する」のように、特定の財産を指定して譲る遺贈です。
  • 包括遺贈:「財産の3分の1をAに遺贈する」のように、全部または割合で示して譲る遺贈です。

この区分によって、放棄の手続き・期限が変わります。包括遺贈の受遺者(包括受遺者)は、民法第990条により相続人と同一の権利義務を持つため、プラスの財産だけでなく、割合に応じて債務・義務も承継し得る点が大きな特徴です。そのため放棄も相続放棄に準じた家庭裁判所での手続きになります。まずは遺言の文言から、どちらの遺贈かを見極めることが出発点です。


特定遺贈の放棄(民法第986条)

特定遺贈は、遺言者の死亡後、いつでも放棄できます(民法第986条第1項)。明確な期限はありません。放棄は、相続人や遺言執行者など「遺贈義務者」に対する意思表示で行い、家庭裁判所での手続きは不要です。放棄の効力は、遺言者の死亡の時にさかのぼって生じます(民法第986条第2項)。つまり、はじめから受遺者でなかったものとして扱われます。

通知の相手と証拠化

意思表示の相手は、遺言執行者がいる場合は遺言執行者、いない場合は遺贈の履行義務を負う相続人などです。後日「放棄した・していない」で争いにならないよう、口頭ではなく、内容証明郵便や受領確認が残る書面で放棄の意思を明確にしておくことが実務上安全です。

催告と撤回

いつまでも態度を決めずにいると、遺贈義務者その他の利害関係人は、相当の期間を定めて「遺贈を受けるかどうか返答してほしい」と催告できます(民法第987条)。その期間内に受遺者が返事をしないと、遺贈を承認したものとみなされます。また、いったんした遺贈の承認・放棄は、原則として撤回できません(民法第989条)。放棄するなら、早めに意思を明確に伝えることが大切です。


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包括遺贈の放棄(民法第990条・相続放棄に準じる)

包括遺贈の放棄は、特定遺贈とは大きく異なります。包括受遺者は、民法第990条により相続人と同一の権利義務を持つため、放棄も相続放棄に準じた家庭裁判所での申述手続になります。

具体的には、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ放棄の申述をします。この3か月の期間(熟慮期間)を過ぎると、原則として単純承認となり、包括遺贈に含まれる債務も承継することになります。

申述先・必要書類・費用

申述先は、原則として遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。必要書類としては、申述書、遺言者の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本、遺言書の写し、包括遺贈があったことを示す資料などが問題になります。費用として、収入印紙(申述人1人につき800円分)と連絡用の郵便切手が必要です。

3か月で調べきれないとき(期間の伸長)

財産・債務の調査が3か月で終わらない場合は、熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができます(民法第915条第1項ただし書)。債務が多い包括遺贈をそのままにすると思わぬ負担を負いかねないため、財産と債務の内容を早めに確認し、必要なら期間の伸長も検討します。家庭裁判所への申述書類の作成は弁護士・司法書士の業務のため、提携の専門家と連携してご案内します。


「遺贈の放棄」と「相続放棄」は別物

ここが最も誤解されやすい点です。遺贈の放棄と相続放棄は、別の手続きです。特定遺贈を放棄しても、相続人としての地位(相続分)まで失うわけではありません。逆に、包括遺贈を放棄しても、相続人としての相続放棄まで済むわけではありません。

項目特定遺贈の放棄包括遺贈の放棄相続放棄
対象特定の遺贈財産包括受遺者の地位相続人としての地位
手続き遺贈義務者への意思表示家庭裁判所への申述家庭裁判所への申述
期限明確な期限なし知った時から3か月以内知った時から3か月以内
債務原則、遺贈財産の範囲割合に応じて債務も承継し得る相続債務を承継しない
効果その遺贈を受けない包括受遺者の地位を放棄初めから相続人でなかった扱い

相続人が遺贈も受けている場合は、相続人として相続放棄をするのか、受遺者として遺贈を放棄するのかを、目的(債務を避けたいのか、特定の財産だけ受けたくないのか)に応じて分けて判断します。


受遺者が死亡していた場合

財産を譲る予定の受遺者が亡くなっているケースも整理が必要です。

  • 遺言者より前に受遺者が死亡していた場合:その遺贈は原則として効力を生じません(民法第994条)。受遺者の相続人が代わりに受け取れるわけではないのが原則です。ただし、遺言で別段の意思が示されていれば、その内容に従います。
  • 遺言者の死亡後、受遺者が承認・放棄をしないまま死亡した場合:受遺者の相続人が、自己の相続権の範囲内で遺贈の承認・放棄をすることになります(民法第988条)。

受遺者の先死亡に備えるには、予備の受取人を定める「補充遺贈」(「Aが先に死亡していたときはBに遺贈する」など)を遺言に入れておくと、混乱を減らせます。


放棄した財産の行方と相続税

遺贈が放棄されると、その目的物は原則として相続人に帰属します(民法第995条。遺言に別段の定めがあればそれに従います)。放棄の効力は遺言者の死亡時にさかのぼるため、放棄した受遺者は、はじめから関与しなかったものとして扱われます。

税務面では、遺贈を放棄すると、その人はその財産を取得しないため、その財産について相続税の課税対象にはなりません。一方、その財産を実際に取得した相続人や補充受遺者の側で相続税の課税関係が生じます。

注意したいのは、すでに相続税を申告したあとに放棄で取得者が変わった場合です。取得した人は修正申告、取得しないことになった人は更正の請求が必要になることがあります。包括遺贈の放棄は、課税価格の配分や債務控除にも影響します。放棄により全体の課税関係が変わるため、相続税の判断は税理士法人トゥモローズと連携して確認します。

▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):相続税のかかる財産とかからない財産の一覧【相続税の課税対象の解説】


生命保険金は「遺贈」とは別に扱う

放棄を考えるときに混同しやすいのが、生命保険金です。死亡保険金は遺贈ではなく、原則として保険契約で指定された受取人固有の権利として扱われることが多く、遺贈を放棄しても、保険金の受取権に直ちに影響するとは限りません。

ただし、税務上の扱いは別です。被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税ではみなし相続財産として課税対象になります。そして、相続放棄をした人が死亡保険金を受け取る場合、相続税の生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数)は使えません(国税庁No.4114)。保険金そのものは受け取れても、非課税の優遇は受けられない点に注意が必要です。生命保険金は、遺贈の放棄とは切り分けて確認します。


遺言の作成や、遺贈の設計(補充遺贈・遺言執行者の指定など)については、こちらもあわせてご覧ください。

残された家族を守る、公正証書遺言。行政書士法人トゥモローズの遺言作成サポート

よくある質問(FAQ)

Q1. 特定遺贈の放棄に期限はありますか?どう手続きしますか?

A. 特定遺贈は、遺言者の死亡後であればいつでも放棄でき、明確な期限はありません(民法986条)。放棄は、相続人や遺言執行者など遺贈義務者に対する意思表示で行い、家庭裁判所での手続きは不要です。後日の争いを避けるため、口頭ではなく、内容証明郵便など受領の記録が残る書面で意思を伝えるのが安全です。なお、いったんした放棄は撤回できません。

Q2. 包括遺贈を放棄する場合、どこへ、いつまでに手続きしますか?

A. 包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つため(民法990条)、放棄は相続放棄に準じます。自己のために包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に、原則として遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述します。財産・債務の調査が3か月で終わらないときは、期間(熟慮期間)の伸長を家庭裁判所に申し立てることもできます。期限を過ぎると債務も承継するため、早めの確認が大切です。

Q3. 遺贈を放棄すると、相続放棄したことになりますか?

A. なりません。遺贈の放棄と相続放棄は別の手続きです。特定遺贈を放棄しても、相続人としての地位まで失うわけではなく、相続分は別に残ります。相続人が包括遺贈も受けているような場合は、相続人として相続放棄をするのか、包括受遺者として放棄するのかを分けて確認する必要があります。

Q4. 財産を譲る予定の人が、自分より先に亡くなっていたらどうなりますか?

A. 受遺者が遺言者の死亡以前に亡くなっていた場合、その遺贈は原則として効力を生じません(民法994条)。受遺者の相続人が代わりに受け取れるわけではないのが原則です。ただし、遺言で別段の意思(予備の受取人を定める補充遺贈など)が示されていれば、それに従います。受遺者の先死亡に備えるなら、補充遺贈を入れておくと安心です。

Q5. 遺贈を放棄すると相続税はどうなりますか?申告のやり直しは必要ですか?

A. 放棄した本人はその財産を取得しないため、その財産について相続税はかかりません。代わりに取得した相続人や補充受遺者の側で課税されます。すでに相続税を申告したあとに放棄で取得者が変わった場合は、取得した人の修正申告や、放棄した人の更正の請求が必要になることがあります。全体の税額配分が変わるため、税理士法人トゥモローズと確認します。

Q6. 遺贈を放棄しても生命保険金は受け取れますか?

A. 生命保険金は、遺言による遺贈とは別に、保険契約で受取人に指定された人が固有の権利として受け取れる場合があります。遺贈を放棄しても、それだけで保険金を受け取れなくなるわけではありませんが、契約内容や受取人の指定、相続放棄の有無によって扱いが変わるため確認が必要です。税務面では、相続を放棄した人が受け取る死亡保険金には、生命保険金の非課税枠が使えない点に注意します。


まとめ

遺言で財産を譲られても、受遺者は遺贈を放棄できます。ただし手続きは遺贈の種類で異なり、特定遺贈は遺言者の死亡後いつでも、遺贈義務者への意思表示で放棄でき(民法第986条)、明確な期限はありません。一方、包括遺贈は相続人と同一の権利義務を持つため(民法第990条)、相続放棄に準じて3か月以内に家庭裁判所へ申述が必要で、過ぎると債務も承継します。

特に大切なのは、「遺贈の放棄」と「相続放棄」は別物だという点です。包括遺贈を放棄しても相続放棄まで済むわけではなく、目的に応じて分けて判断します。放棄された財産は原則として相続人に帰属し(民法第995条)、すでに申告済みなら修正申告・更正の請求が必要になることもあります。生命保険金は遺贈とは別に扱い、相続放棄者は非課税枠を使えない点にも注意します。包括遺贈で債務が見込まれる場合は、早めに内容を確認し、期限内に判断しましょう。

行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)を拠点に、首都圏とオンライン(Google Meet・全国対応)で、遺言・遺贈のご相談に対応しています。家庭裁判所への申述は提携弁護士・司法書士、相続税は税理士法人トゥモローズと連携します。


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根拠法令・公的資料

  • 民法第964条(包括遺贈・特定遺贈)・第986条(特定遺贈の放棄。いつでも放棄でき、死亡時にさかのぼって効力)
  • 民法第987条(受遺者に対する遺贈の承認・放棄の催告)・第988条(受遺者の相続人による承認・放棄)・第989条(承認・放棄の撤回不可・取消し)
  • 民法第990条(包括受遺者の権利義務。相続人と同一)・第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)・第995条(遺贈の無効・失効時の財産の帰属)
  • 民法第915条(相続の承認・放棄の期間。3か月・伸長可)・第916条(熟慮期間の起算)・第919条(承認・放棄の撤回不可・取消し)・第939条(相続放棄の効力)
  • 相続税法第1条の3・第2条(遺贈による取得財産への相続税)・第3条・第12条(死亡保険金とその非課税枠)
  • 税理士法第2条・第52条(相続税の計算・申告は税理士の業務)
  • 行政書士法第1条の3(業務)・第1条の4(相談等)。他の法律で制限された業務を除く

公的機関・根拠リンク

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この記事の執筆者:大塚 英司

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)
税理士(東京税理士会新宿支部 登録番号 117702)

相続を専門に取り扱う行政書士・税理士。相続手続き・遺言・おひとりさま終活の実務に幅広く従事し、戸籍収集や遺産分割協議書の作成から、死後事務委任契約・任意後見契約といった生前対策の設計まで、ご相談者お一人おひとりの状況に応じて丁寧にサポートしている。