海外証券口座の相続銘柄は日本の証券会社へ現物移管できる?受入可否・ACATS・税務の注意点
10秒でわかる この記事の要約
- 海外証券会社(Charles Schwab、Fidelity、Merrill Lynch 等)から日本の証券会社へ相続銘柄を直接現物移管できるかは、実務上の最大のハードルです。日本の主要ネット証券は、多くの場合国内証券会社間の外国株式移管を前提としており、海外証券会社からの直接入庫は対象外となる場合があります。
- SBI証券は公式に「海外の証券会社からの移管入庫は受付していません」と明記しています。楽天証券・マネックス証券も、基本的に日本国内の証券会社に預けている外国株式の移管を前提とした案内です。移管検討時は必ず「海外証券会社からの直接入庫」を明示して個別に書面照会することが実務のスタート地点です。
- 現物移管が実現可能な場合でも、Transfer Instruction Form(TIF)の作成、CUSIP/ISIN照合、Medallion Signature Guarantee(米国内取得が原則で日本では取得困難)、9〜18週間程度(3〜4か月程度)の所要期間、3〜10万円台の費用が生じます。
- 移管後は原則一般口座扱いとなり、取得価額は被相続人の取得価額を引き継ぐ(所得税法60条)。米国株の配当課税と売却益課税は別論点で、非居住外国人の売却益は原則として米国課税対象外である点にも注意します。
海外の証券会社に相続銘柄がある場合、相続人が取り得る選択肢は大きく2つあります。①現地で売却して現金化し、日本へ送金する(売却送金)と、②売却せず日本の証券会社の口座にそのまま移管する(現物移管)です。個別株や米国ETFで保有継続したい相続人にとっては現物移管が魅力的に見えますが、実務上は日本の主要ネット証券が海外証券会社からの直接入庫を受け付けないケースが多く、そもそも現物移管ができない場合が少なくありません。
本記事では、海外証券口座の相続銘柄を日本の証券会社へ現物移管できるかを実務視点で整理し、受入可否確認の進め方・ACATSの限界・売却送金との比較・税務の注意点までを、行政書士の書類作成支援目線で7つのステップに整理して解説します。
なお、本記事は海外相続における現物移管の一般的な実務を解説するもので、個別の証券会社・銘柄・国により対応可否や条件は大きく異なります。実際の移管手続きの可否は、移管元(海外証券会社)と移管先(日本の証券会社)の双方に事前確認が必要です。税務判断は税理士、現地代理行為は現地弁護士・現地専門家と連携して進めます。
東京・八丁堀の行政書士法人トゥモローズは、海外証券口座の相続で必要な日本側書類の作成支援と、進行管理を全国オンラインで対応しています。
「現物移管」と「売却送金」の違い——判断基準
海外証券口座の相続実務では、相続人がどちらのルートで進めるかを最初に判断する必要があります。それぞれのメリット・デメリットを整理します。
売却送金(現地で現金化して日本へ送金)
- 現地の証券会社で全銘柄を売却→現金化
- 現金を相続人の海外口座または日本の口座へSWIFT/Wise送金
- 手続きが比較的シンプルで、日本側の証券会社を絡めずに済む
- 相続税納税資金として即使える
- 為替タイミング・売却タイミングを相続人が選べない
- 売却により被相続人の含み益・含み損が確定
現物移管(日本の証券会社の口座にそのまま移す)
- 海外証券会社の口座から、日本の証券会社の口座に銘柄をそのまま移管
- 現金化しないため、売却タイミングを後ろ倒しにできる(相続税評価は現物移管・売却送金にかかわらず相続開始日基準)
- 保有継続したい銘柄がある場合に有力
- 日本の証券会社の受入可否次第で、そもそも実施できない場合が多い
- 移管費用と所要期間(9〜18週間程度、3〜4か月程度)がかかる
- 海外証券会社からの移管銘柄は日本では原則一般口座扱いになる場合が多い
選択の判断基準——4つの視点
現物移管を選ぶかどうかは、次の4つの視点で判断します。
①受入可否の確認:日本の証券会社が「海外証券会社からの直接入庫」を受け付けるかを最初に確認する。受入不可なら現物移管はそもそも選択できない
②相続税納税資金の確保状況:納税資金が別途確保できるなら現物移管も選択肢に。納税資金確保が最優先なら売却送金
③保有継続の意思:将来的に売却タイミングを選びたい、または保有継続したい銘柄がある場合は現物移管の候補
④移管費用対効果:小額の銘柄や含み損の銘柄は、費用対効果で売却送金の方が合理的
受入可否確認で「NG」となる案件が多いのが実情のため、多くの相続案件では最終的に売却送金が採用されることになります。
海外口座の相続代行サービスの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
日本の主要ネット証券の受入可否の実態——最大のハードル
現物移管を検討する上で、最大のハードルは日本の証券会社の受入可否です。日本の主要ネット証券は、多くの場合、国内証券会社間の外国株式移管を前提とした対応をしており、海外証券会社(Charles Schwab、Fidelity、Merrill Lynch、Morgan Stanley 等)からの直接入庫は対象外となる場合があります。
主要ネット証券の対応状況(2026年7月時点)
- SBI証券:外国株式の移管入庫サービスについて、公式に「海外の証券会社からの移管入庫は受付していません」と明記(SBI証券公式ヘルプ)
- 楽天証券:外国株式の振替・移管について「日本国内の証券会社に預けている外国株式」を前提とした案内(楽天証券公式サイト)
- マネックス証券:米国株の移管についてDTCCを利用している日本国内証券会社からの移管を対象とする案内(マネックス証券FAQ)
- 大和証券・野村證券等の総合証券:個別対応の場合があるが、口座残高規模・銘柄・移管元により対応可否は個別判断
つまり、日本の主要ネット証券が米国株・海外ETFを取り扱っていても、海外証券会社からの直接移管入庫まで受け付けているとは限らないという点に注意が必要です。海外相続の実務では、この受入可否の壁で現物移管を諦めるケースが多くなります。
受入可否の確認方法
受入可否の確認は、以下の順で進めます。
①候補となる複数の証券会社に個別書面照会:単に「米国株の移管はできますか」ではなく、「海外証券会社(具体的な事業者名を明記)からの直接入庫の可否」を問い合わせる
②照会内容には対象銘柄のCUSIP/ISIN・数量・口座名義・想定される移管ルート(SWIFT/DTC 等)を明示:具体的な情報を提供すると回答の精度が上がる
③正式回答を書面で取得:後日のトラブル回避のため電話やチャットではなく書面で
④直接移管ができない場合の代替案検討:現地で売却して現金送金する、または現地のプライベートバンク・カストディアン経由の別ルートを検討
日本国内証券会社間の外国株移管との違い
混同されがちですが、「日本国内証券会社間の外国株移管(例:楽天証券からSBI証券へ米国株を移す)」と、「海外証券会社から日本の証券会社への国際移管(例:Charles Schwabから楽天証券へ米国株を移す)」は別の実務です。前者は多くのネット証券で対応しているものの、後者は取扱事業者が限定的で、対応がある場合でも書類要件・費用が大きく異なります。
海外証券口座の相続、受入可否確認と日本側書類から丁寧にサポート。
東京・八丁堀の行政書士法人トゥモローズが、海外証券口座の相続で必要な日本側書類の作成支援(戸籍謄本英訳・法定相続情報一覧図英訳・遺産分割協議書英訳等)、受入可否確認の進行管理、移管指示書の原案整理、書類差し戻し対応を全国オンラインで対応します(現地代理行為・Medallion Signature Guarantee取得は現地専門家、税務判断は税理士と連携)。初回相談無料。
平日 9:00〜21:00 土日祝 9:00〜17:00
現物移管の実務ステップと必要書類
受入先候補で「対応可能」との回答が得られた場合、以下の実務ステップに進みます。回答が得られない場合は、この段階で売却送金への切替を検討します。
ステップ1:移管元(海外証券会社)の相続手続き
現物移管の前提として、海外証券会社での相続手続き(名義書換・Beneficiary Claim 等)を完了させ、被相続人名義から相続人代表名義への切替を済ませておく必要があります。この段階は「移管」の前段階で、TOD/POD指定がある場合は指定受取人へ、指定がない場合は現地の遺言・プロベート・遺産分割協議に基づく相続手続きを経ることになります。詳細は米国TOD口座の相続実務記事もあわせてご確認ください。
ステップ2:Transfer Instruction Form(TIF)の作成
受入先(日本の証券会社)から移管指示書の書式が交付される場合はそれを使用します。指定書式がない場合は、移管元の証券会社の書式または独自作成のTIFを英文で作成します。記載事項は以下のとおりです。
①相続人情報:氏名(パスポート表記)、住所、生年月日、SSNまたはITIN(保有している場合、または金融機関から求められた場合に記載——日本居住の相続人はSSN/ITINを保有していないケースが多く、必須項目ではありません)
②移管元口座情報:証券会社名、口座番号、口座名義(相続人代表)
③移管先口座情報:日本の証券会社名、口座番号、SWIFT/BIC(国際移管の場合)、口座名義(相続人)
④対象銘柄一覧:CUSIP、ISIN、ティッカーシンボル、銘柄名、数量、保管通貨
⑤移管指示日:移管処理を開始する希望日
⑥相続人の署名:Notary Public認証、または金融機関のMedallion Signature Guarantee(米国内)
⑦相続関係書類の添付:Death Certificate、Beneficiary Designation Form、遺言執行者選任状 等
ステップ3:Medallion Signature Guarantee(メダリオン保証)
米国の証券会社は、移管指示書の署名についてMedallion Signature Guaranteeという特殊な認証を求めることがあります。これは通常のNotary Public認証より厳格で、米国の金融機関(銀行・証券会社等)が発行する保証印です。日本国内では取得困難で、米国内の金融機関に該当保証印を取得できる支店を照会するか、移管元の証券会社に日本国内から手続きできる代替手段(Signature Guarantee for International Customers等)を確認します。
ACATSとは何か——限界と誤解の整理
米国内の証券会社間の移管ではACATS(Automated Customer Account Transfer Service)という自動口座移管システムが使われます。日本の相続実務に関わる方は、ACATSの正確な位置付けを理解しておくと、日本への移管可否の判断がしやすくなります。
ACATSの正確な位置付け
- ACATSはNSCC/DTCC(National Securities Clearing Corporation / Depository Trust & Clearing Corporation)系の自動口座移管システム
- DTCCの説明によれば、ACATSは「顧客口座の資産移管手続を自動化・標準化するシステム」
- FINRA(米国金融業規制機構)のRule 11870で顧客口座移管プロセスが規律されている
- 米国内のブローカー間移管では利用され、通常3〜6営業日で完了する
日本への国際移管ではACATSは通常使えない
ACATSは米国内のNSCC/DTCC参加ブローカー間の移管を対象とした仕組みです。日本の証券会社は原則としてNSCC/DTCC参加ブローカーではないため、海外証券会社(米国内)から日本の証券会社への移管ではACATSはそのまま利用できません。日本側での受入は、移管先証券会社の外国株式入庫ルール、保管機関、DTC/カストディアン対応、対象銘柄の取扱可否に左右されます。
書類ベースの国際移管が中心
日本の証券会社が海外証券会社からの入庫を対応する場合でも、米国内のACATSのような自動化された仕組みは使えず、書類ベースのTIF(Transfer Instruction Form)による国際移管が中心となります。そのため、以下の点で米国内移管より時間がかかります。
- 書類の送付・受領に国際郵便を利用するため物理的な移動時間がかかる
- 移管元・移管先双方で書類の内部審査に時間がかかる
- 銘柄コード(CUSIP/ISIN)の照合が手作業になる
- 手続き差し戻し・追加要求のたびに数週間の遅延が発生する
現地カストディアン経由の間接ルート
一部の日本の証券会社は、現地のカストディアン(証券保管銀行・信託銀行 等)を経由することで、海外証券会社の資産を間接的に受け入れる仕組みを持つ場合があります。この場合、相続人と直接契約する事業者は日本の証券会社ですが、実際の保管はカストディアンが行います。この仕組みが利用可能かは日本の証券会社ごとに異なるため、個別照会が必要です。
CUSIP/ISIN・銘柄コードの確認
移管対象銘柄を日本の証券会社で正しく受入登録するには、銘柄コードの照合が重要です。日本と米国で使う識別コードが異なるため、誤照合すると受入時に別銘柄として登録される事故が発生します。
主要な銘柄コード
- CUSIP(Committee on Uniform Securities Identification Procedures):米国銘柄を一意に識別する9桁のコード
- ISIN(International Securities Identification Number):国際的な12桁の証券識別コード。CUSIPを含む形で構成される
- ティッカーシンボル:取引所での表示記号(例:AAPL=Apple、MSFT=Microsoft)——単独では一意ではない
- SEDOL:英国系銘柄の7桁識別コード
銘柄コードの取得方法
- 移管元の証券会社から交付される保有証券明細(Holdings Statement)で確認
- 銘柄の公式ページ(NASDAQ、NYSE等の取引所サイト)で確認
- 財務データベース(Bloomberg、Refinitiv等)で確認
日本の証券会社での受入登録時の注意点
- CUSIPまたはISINを正確に伝える(単なるティッカーシンボルでは日本側で正しく登録されないことがある)
- 銘柄名の正式名称(英文フルネーム)を明記
- 単元株数・分割・株式併合等の履歴を確認(相続開始日の株数と移管指示時の株数がずれることがある)
- 現金化した配当金の残高・未収配当金がある場合は、それも移管対象に含めるか別扱いかを指示
特殊な銘柄への対応
- ADR(米国預託証券):外国株を米国で取引可能にした証券。CUSIPは通常の米国株と同様
- ETF:CUSIPで識別可能。日本の証券会社が「上場投資信託」として受入可能かは会社ごとに異なる
- REIT・MLP:米国MLPリートはK-1申告書が発生することがあり、日本の証券会社が受入を控える場合がある
- オプション:日本の証券会社は原則として海外オプション残高の受入対応外
現物移管と送金指示との違い
現物移管では、資金の移動は発生しません。「銘柄そのもの」を海外証券会社から日本証券会社へ動かす手続きなので、SWIFT送金の実務とは根本的に異なる仕組みです。SWIFT送金の実務と比較したい方は、海外口座の送金実務ステップの記事もあわせてご確認ください。
移管費用・所要期間・遅延要因
現物移管が実現可能な場合でも、時間と費用がかかります。実務目線での目安を整理します。
費用構造の3成分
①移管元(海外証券会社)の移管手数料:口座解約手数料と併せて100〜500 USD 程度が目安
②移管先(日本の証券会社)の受入手数料:無料または数千円〜数万円
③書類作成・認証費用:Notary認証、翻訳、Medallion Signature Guarantee等で1〜3万円台
合計費用の目安
1回の移管手続きで、合計3〜10万円台が目安です。銘柄数が多い場合や、Medallion Signature Guaranteeを米国内で取得する必要がある場合はさらに増えます。小額の銘柄をわざわざ現物移管するのは費用対効果が悪くなるため、「一定額以上の主要銘柄は現物移管、少額銘柄は売却送金」というハイブリッド選択が実務的です(移管そのものが可能な場合)。
所要期間
- 日本の証券会社の受入可否確認:2〜4週間
- 移管指示書の作成・認証:2〜4週間
- 移管元での処理・国際移管:4〜8週間
- 移管先での受入登録:1〜2週間
- 合計:9〜18週間程度(3〜4か月)
米国内のACATS移管であれば数日〜数週間で完了しますが、日本を含む国際移管は書類ベースが中心のため長期化しやすい点に留意します。相続税納付期限(相続開始から10か月)を考えると、現物移管を選ぶ場合は相続開始から3〜6か月以内に着手するのが安全です。
遅延要因
- 銘柄コードの照合エラー・書類差し戻し(1〜2週間の遅延)
- 移管元・移管先の双方で相続関係書類の追加要求(2〜4週間)
- Medallion Signature Guaranteeの取得が難航(1〜2か月)
- 移管対象銘柄の一部が受入不可判明——売却送金への切替が必要になる場合
- 米国税務書式(W-8BEN、Form 706-NA、IRS Transfer Certificate 等)の追加確認
行政書士による進行管理のポイント
現物移管は書類ベースの複雑な手続きです。日本の行政書士は、相続関係書類(戸籍謄本の英訳・法定相続情報一覧図の英訳・遺産分割協議書の英訳等)の日本側書類作成と、銘柄一覧・移管指示書の原案整理、日本の証券会社・移管元との書類の受け渡しスケジュール管理を担当します。現地代理業務、Medallion Signature Guarantee取得の代行、現地税務の判断は業務範囲外となるため、現地弁護士・現地税理士・現地専門家との連携で対応します。
移管後の日本側処理——取得価額・税務・確定申告の準備
現物移管が完了した後の日本側の処理は、相続税申告と将来の売却時の所得税・住民税に影響します。
取得価額の引継ぎ
所得税法60条により、相続により取得した資産の取得価額は、原則として被相続人の取得価額を相続人が引き継ぐことになります。国税庁も、相続・遺贈・贈与により取得した株式等について、原則として被相続人等の取得費を引き継ぐと整理しています。つまり、被相続人が過去に購入した価額が、相続人の売却時の取得価額の基礎となります。
必要な記録
- 被相続人の当該銘柄の購入日・購入価額・購入時の為替レート
- 過去の株式分割・株式併合の履歴
- 過去に取得した無償割当・配当再投資分の記録
- 移管完了時の株数・為替レート
- 相続税申告における評価額(相続開始日のTTB換算)
これらの記録がないと、将来売却時に取得価額が確認できず、税務上不利になる(取得価額不明の場合は売却代金の5%として計算されるルールがある)可能性があります。被相続人の生前に、証券会社の取引履歴を保管しておくことが理想です。
相続税評価との整合性
外国株式等の相続税評価では、まず相続開始日時点の銘柄ごとの時価・保有株数等を確認し、その外貨建て評価額を日本円に換算します。外貨建て金額の邦貨換算については、財産評価基本通達4-3により、原則として相続開始日の対顧客直物電信買相場(TTB)を用います。したがって、現物移管日や売却日のレートではなく、相続開始日時点の株価・保有数量・為替を整理する必要があります。外貨換算の詳細は、関連解説(税理士法人トゥモローズ)「【相続税申告】外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説」もあわせてご確認ください。
特定口座と一般口座
海外証券会社からの移管銘柄は、日本の証券会社では原則一般口座に区分されます。日本の特定口座は基本的に日本国内で買い付けた銘柄を対象とする制度で、海外証券会社からの直接入庫はこの枠組みに入らないのが一般的です(日本国内証券会社間の特定口座間移管とは別)。一般口座に区分されると、後の売却時に相続人自身が譲渡損益の計算・確定申告を行う必要が生じます。
米国株の配当・売却益の税務は分けて整理する
移管後の銘柄が米国株の場合、配当課税と売却益課税は別の論点として整理する必要があります。
- 配当:米国源泉税が問題となる領域で、W-8BENの提出により日米租税条約上の軽減税率(米国源泉税10%等)を適用できるかを確認
- 売却益(キャピタルゲイン):非居住外国人(Nonresident Alien)の米国株式売却益は、一定の例外を除き通常は米国課税の対象にならないのが原則。したがって「米国株売却=米国で源泉徴収」ではない
日本側では、譲渡益として所得税・住民税が課税されます。特定口座に区分されない場合、相続人自身が確定申告で譲渡損益を計算する必要があります。配当課税と売却益課税は制度が異なるため、税理士と分けて整理するのが実務的です。
行政書士による日本側書類作成支援の範囲
日本の行政書士は、以下の支援ができます。
- 移管完了通知書・保有証券明細の整理
- 相続税申告書に添付する外貨換算資料の準備
- 被相続人の取得価額履歴の整理・翻訳資料
- 日本の税理士との連携調整
- 将来の売却時の確定申告に備えた記録保管の案内
税務判断・確定申告書の作成は税理士業務のため、税理士と連携して進めます。海外の税務判断(米国源泉徴収の要否、Form 706-NA、IRS Transfer Certificate等)は米国税理士・現地専門家に確認が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 移管費用はどのくらいかかりますか?
A. 1回の移管手続きで、移管元(海外証券会社)の移管手数料100〜500 USD 程度、移管先(日本の証券会社)の受入手数料無料〜数万円、書類作成・認証費用(Notary認証・翻訳・Medallion Signature Guarantee 等)1〜3万円台の合計で、おおむね3〜10万円台が目安です。銘柄数が多い場合や、米国内でMedallion Signature Guaranteeを取得する必要がある場合はさらに増えます。少額の銘柄については費用対効果で売却送金の方が合理的な場合もあります。米国内での認証取得の交通費・宿泊費が発生する案件では追加コストが数万円〜数十万円になることもあります。
Q2. 現物移管と売却送金、どちらが有利ですか?
A. 受入可否の壁があるため、実務的には売却送金が現実解になるケースが多いです。売却送金は手続きがシンプルで納税資金が即使えるメリットがあります。一方、現物移管は保有継続したい銘柄がある場合や、売却タイミングを後ろ倒しにしたい場合に候補となります。ただし、日本の証券会社の受入可否確認で「対応不可」となる案件が多く、この壁を越えられた案件でのみ選択できます。相続税評価は現物移管・売却送金にかかわらず相続開始日時点の銘柄ごとの時価・保有株数等で算定し、外貨建て金額の邦貨換算は原則として相続開始日のTTB(財産評価基本通達4-3)で行う点は共通です。
Q3. 現物移管中に相続銘柄が株式分割・配当支払を受けたらどうなりますか?
A. 移管処理の途中で株式分割・株式併合・配当支払が発生した場合、その影響は原則として移管完了後に反映されます。株式分割では、移管指示時の株数と実際の受入時の株数がずれ、追加照合が必要になることがあります。移管処理中に受け取った配当金は、移管元口座で残高として保管され、後日、現金として別途送金するか、移管完了後の証券口座に振り替える対応となります。分割・配当は移管手続きの進捗に影響を及ぼす要因となるため、移管予定期間中の企業アクション(配当基準日・分割予定日等)を事前に確認しておくのが実務的です。
Q4. 移管後の取得価額は被相続人のものを引き継ぎますか?
A. はい。所得税法60条により、相続で取得した資産の取得価額は原則として被相続人の取得価額を相続人が引き継ぐことになります。国税庁も、相続・遺贈・贈与により取得した株式等について、原則として被相続人等の取得費を引き継ぐと整理しています。将来売却時の譲渡益は、被相続人の購入価額を基準に計算されます。取得価額が確認できないと売却代金の5%として計算されるルールが適用され不利になるため、被相続人が保有していた証券会社の取引履歴(購入日・購入価額・為替レート・株式分割履歴 等)を保管しておくことが重要です。
Q5. 移管後、米国株を売却したら米国で源泉徴収されますか?
A. 配当と売却益は分けて考える必要があります。米国株の配当については、W-8BENを提出することで日米租税条約上の軽減税率(米国源泉税10%等)を適用できるかを確認する場面があります。一方、非居住外国人(Nonresident Alien)の米国株式売却益は、一定の例外を除き通常は米国課税の対象にならないのが原則で、「売却すれば必ず源泉徴収される」わけではありません。米国税務の詳細は米国税理士に、日本の所得税申告(譲渡所得・外国税額控除)は日本の税理士に確認するのが実務的です。
海外口座の相続代行サービスの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
海外証券口座の相続銘柄を日本の証券会社へ現物移管する選択肢は、実務上「日本の証券会社が海外証券会社からの直接入庫を受け付けるか」という受入可否の壁が最大のハードルです。SBI証券は公式に「海外の証券会社からの移管入庫は受付していません」と明記しており、楽天証券・マネックス証券も基本的には日本国内証券会社間の外国株式移管が前提となっています。受入可否確認で「対応不可」となる案件が多く、多くの相続案件では最終的に売却送金が採用されます。
現物移管が実現可能な場合でも、ACATSは米国のNSCC/DTCC系のシステムで日本への国際移管ではそのまま使えないため、書類ベースのTransfer Instruction Form(TIF)による移管が中心となります。所要期間は3〜4か月、費用は3〜10万円台、Medallion Signature Guaranteeは日本国内では取得困難で代替手段の確認が必要です。移管後は原則一般口座扱い、取得価額は被相続人の取得価額を引き継ぐ(所得税法60条)。米国株の配当課税と売却益課税は別論点で、非居住外国人の売却益は原則米国課税対象外である点も踏まえ、税理士と分けて整理するのが実務的です。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、海外証券口座の相続で、日本の証券会社への現物移管検討に必要な日本側書類の作成支援(戸籍謄本英訳・法定相続情報一覧図英訳・遺産分割協議書英訳等)と、受入可否確認の進行管理、書類パッケージの整理を、初動対応から移管完了(または売却送金への切替)までの各段階でご支援しています。アメリカ・香港・シンガポール・英国・オーストラリア等、主要国の証券会社実務に対応可能で、現地代理行為・Medallion Signature Guarantee取得は現地専門家、税務判断は税理士法人トゥモローズと連携します。
関連記事
- 米国TOD(Transfer on Death)指定口座を相続したときの実務と落とし穴
- 海外口座の残高を日本の相続人口座に着金させる送金実務ステップ
- 海外金融機関から求められるKYC(本人確認)資料の準備実務
税務の観点もあわせてご確認ください
本記事は海外証券口座の相続銘柄を日本の証券会社へ移管する実務を、行政書士の書類作成支援目線でまとめたものです。外貨建て証券の相続税評価、取得価額の引継ぎ、外国税額控除、日米租税条約など税務面の判断については、税理士法人トゥモローズが公開している以下の記事もあわせてご確認ください。
根拠法令・公的資料
- 相続税法22条(相続財産の評価)
- 財産評価基本通達4-3(外貨建て財産の邦貨換算)
- 所得税法60条(相続等により取得した資産の取得費等)
- 金融商品取引法(証券会社の業務規制・移管手続きの枠組み)
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)4条(取引時確認義務)
- 行政書士法1条の3・1条の4(行政書士の業務範囲)
- 日米租税条約——米国株の配当に係る源泉徴収の減税
