海外金融機関から求められるKYC(本人確認)資料の準備実務【AML/CFT・原資証明・PEP該当性の確認】
10秒でわかる この記事の要約
- 海外の金融機関はAML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)規制のもと、相続手続きの各段階で厳格なKYC(本人確認)を実施します。日本国内の相続手続きより書類要求が細かく、書類の差し戻しも珍しくありません。
- KYCで求められる書類は、①相続人本人の本人確認、②相続関係の証明、③資金の原資証明(Source of Funds)、④政治的重要人物(PEP)判定の4系統に大別されます。書類パッケージを4系統で整理して事前準備することが実務のコツです。
- 書類の差し戻し・追加要求は数週間単位の遅延を生みます。certified copy(認証付き写し)、翻訳者宣言書付き英訳、アポスティーユ・領事認証の要否など、書類の形式要件を事前に確認しておくと手戻りを大幅に減らせます。
- 受取人が政治的重要人物(PEP)またはその近親者・関係者に該当する場合、通常より厳格なEnhanced Due Diligence(EDD)が実施され、手続きが数か月遅延することがあります。
海外相続の実務で相続人を最も悩ませるのが、海外金融機関から次々に要求されるKYC(Know Your Customer・本人確認)書類への対応です。「日本の相続手続きなら戸籍謄本と印鑑証明書で足りるのに、なぜこんなに書類を求められるのか」と困惑する方が少なくありません。
海外金融機関のKYCが厳格な理由は、FATF(金融活動作業部会)が定めるAML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)の国際基準に各国が対応しているためです。この基準は年々厳格化されており、相続資金であっても例外にはなりません。本記事では、海外相続で求められるKYC書類を4系統に整理し、書類の準備・差し戻し対応・PEP該当性の確認への対応を、行政書士の書類作成支援目線で7つのステップに整理して解説します。
なお、本記事は海外金融機関のKYC実務の一般的な傾向を解説するものであり、個別の金融機関・国・時期により要求書類は大きく異なります。実際の対応は各金融機関の指示に従い、必要に応じて現地弁護士・現地税理士との連携で進めます。
東京・八丁堀の行政書士法人トゥモローズは、海外相続で必要となる日本側書類の作成支援と、KYC書類パッケージの整理を全国オンラインで対応しています。
海外相続で求められるKYC——AML/CFT規制の基本
海外金融機関のKYCが厳格な背景には、国際的なAML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)規制があります。海外銀行口座の相続手続きで起こりがちな失敗の全体像については、関連解説(税理士法人トゥモローズ)「海外銀行口座の相続解約で失敗しない!5つの落とし穴と対策」もあわせてご確認ください。
この規制は、FATF(Financial Action Task Force・金融活動作業部会)が国際基準を策定し、各国の金融機関が自国の法令を通じて実施する仕組みです。
KYCの3層構造
海外金融機関のKYCは、リスクに応じた3層で運用されます。
- Simplified Due Diligence(SDD・簡易確認):低リスク取引で適用。基本的な本人確認のみ
- Standard Customer Due Diligence(CDD・標準確認):通常取引で適用。本人確認・受益者確認・目的確認
- Enhanced Due Diligence(EDD・強化確認):高リスク取引で適用。原資証明・詳細な取引履歴・継続的モニタリング
相続手続きは、通常はCDDが適用されますが、受取人が政治的重要人物(PEP)に該当する場合、資金の原資が不明確な場合、被相続人の居住国が高リスク国とされている場合等は、EDDに引き上げられます。
日本の犯罪収益移転防止法との対応関係
日本国内でも、犯罪収益移転防止法4条により金融機関に取引時確認義務があります。ただし、海外金融機関のKYCは日本の一般的な相続手続きより細かい書類要求となることが多く、特に「原資証明(Source of Funds・Source of Wealth)」の説明を求められる点が実務上の負担となります(国・金融機関・案件により差があります)。
KYC書類が求められる場面
海外相続では、次のような場面でKYCが実施されます。
- 相続照会書を金融機関に提出する初期段階(受取人本人確認)
- 相続手続き完了後の資金移動の段階(取引時確認・原資確認)
- 日本の受取銀行が海外からの大口入金を受ける段階(受取側の原資確認)
- Wise等の資金移動サービスを利用する段階(利用者本人確認・取引目的確認)
- 相続税納税のための送金の段階(納税目的の説明)
つまり、KYCは一度で完結するものではなく、手続きの各段階で繰り返し実施されるものと理解しておく必要があります。
海外口座の相続代行サービスの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
海外金融機関がKYCで求める書類パッケージ——4系統の全体像
KYC書類は、大きく4系統に分けて整理すると実務が円滑になります。以下の4系統を意識して事前に書類パッケージを組んでおくと、金融機関からの追加要求への対応がスムーズになります。
系統1:相続人本人の本人確認書類
- パスポート原本またはcertified copy(認証付き写し)
- 現住所証明(公共料金請求書・銀行口座明細・税務通知書等)
- 生年月日・国籍を証明する書類
- 電話番号・メールアドレスの確認
系統2:相続関係を証明する書類
- 被相続人のDeath Certificate(死亡証明書)——米国など一部の国では州・郡等の発行機関が発行する公式な認証付き写し(certified copy)
- 戸籍謄本・法定相続情報一覧図等の英訳+翻訳者宣言書+公証・アポスティーユ
- 遺言書(ある場合)——公正証書遺言・自筆証書遺言の写し等
- 遺産分割協議書(相続人間の合意を示す)
- プロベート命令書・遺産管理人選任状(該当国の場合)
系統3:原資証明(Source of Funds・Source of Wealth)
- 被相続人がその資産を取得した経緯を示す書類(取引履歴・給与明細・売却契約書等)
- 現地の相続完了通知書
- 送金元銀行からの送金証明書
- 相続資金であることを明示する説明書(英文で作成)
系統4:政治的重要人物(PEP)判定関連書類
- 受取人・被相続人・親族の職業・役職・所属機関の情報
- 政府・公的機関との取引履歴(該当する場合)
- PEPに該当する場合、より詳細な資金経路の説明
書類パッケージの整理方法
実務では、これら4系統の書類を1つのフォルダにまとめ、目次を付けて金融機関に提出するのが効率的です。英文の目次(Table of Contents)には、各書類の名称・作成日・言語・認証の種類を記載します。金融機関担当者は複数のKYC案件を並行して処理しているため、書類パッケージが整理されているだけで審査スピードが実務上向上する傾向があります。日本の行政書士が支援できるのは、この4系統の書類パッケージの整理と、日本側書類(戸籍謄本の英訳等)の作成準備の部分です。
海外相続のKYC対応、日本側書類の準備から丁寧にサポート。
東京・八丁堀の行政書士法人トゥモローズが、海外相続で求められるKYC書類パッケージ(4系統)の整理、日本側書類(戸籍謄本の英訳・翻訳者宣言書・相続関係説明書・英文説明書等)の作成支援、差し戻し対応・進行管理を全国オンラインで対応します(現地金融機関との代理交渉は現地弁護士、税務判断は税理士、PEP該当性に関する法的判断や金融機関対応方針は必要に応じて弁護士・現地専門家と連携)。初回相談無料。
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相続人本人の本人確認書類——Photo IDと住所証明
系統1の相続人本人確認書類は、KYCの基本となる部分です。日本国内の相続手続きより要求が細かい点を理解しておく必要があります。
Photo ID(写真付き身分証明書)
海外金融機関が求めるPhoto IDは、顔写真・生年月日・国籍が1枚の書類で確認できる公的な身分証である必要があります。パスポート等の本人確認書類については、原本またはcertified copy(認証付き写し)を求められます。一方、Death Certificate(死亡証明書)については、米国など一部の国では州・郡等の発行機関が発行する公式な認証付き写しを求められる点で扱いが異なります。日本の相続人が使える書類は次のとおりです。
- パスポート:最も一般的に受理される。有効期限内であること
- マイナンバーカード:受理される場合もあるが、金融機関により対応が分かれる
- 在留カード:外国籍相続人の場合
- 運転免許証:単独では不十分な場合が多く、パスポート等の補助として提出
certified copyの取り方
海外金融機関は、Photo IDのcertified copy(認証付き写し)を求めることが多くあります。certified copyの取得方法は次のいずれかです。
- 日本の公証役場:パスポート等のコピーそのものを公的機関が発行するcertified copyとして認証するのではなく、本人が「添付コピーは原本と相違ない」旨を宣言する英文宣言書を作成し、その署名について公証人の認証を受ける形になることが多い
- 在外公館:海外在住の日本国籍者は在外公館で認証を受けられる場合がある
- 現地Notary Public:海外在住の場合、現地Notaryが原本と照合してcertified copyを発行する制度が整備されている国もあり、受理されることが多い
- 金融機関の指定書式:一部の金融機関は、担当者立会いのもと本人確認する制度を提供
提出先金融機関が求めるcertified copyの形式に合うかは、事前確認が必要です。
現住所証明(Proof of Address)
現住所を証明する書類として、以下のいずれかが求められます。多くの金融機関は発行から3か月以内のものを要求します。
- 公共料金請求書(電気・ガス・水道・インターネット等)
- 銀行口座取引明細書
- 税務当局からの通知書(納税通知書・源泉徴収票等)
- 政府発行の証明書(住民票の英訳+認証等)
日本の住民票の扱い
日本の住民票は、海外金融機関にとっては「日本語のみ・英訳が必要」という壁があります。住民票の英訳+翻訳者宣言書+公証・アポスティーユを組み合わせるのが標準的な対応です。また、住民票の交付日から3か月以内であることの確認も必要になります。
電話番号・メールアドレスの確認
近年は、電話番号・メールアドレスも本人確認の一部として求められることが増えています。特に、Wiseなどの資金移動サービスでは、SMS認証・メール認証を通じて連絡先の実在性を確認する運用が一般的です。
相続関係を証明する書類——Death Certificate・戸籍謄本英訳
系統2の相続関係証明書類は、受取人が正当な相続人であることを金融機関に示すための書類です。日本の戸籍制度・遺産分割制度と海外金融機関の要求を橋渡しする実務が必要になります。
Death Certificate(死亡証明書)
被相続人が日本で亡くなった場合、次の書類のいずれかを英訳+公証・アポスティーユを組み合わせて提出します。
- 死亡届受理証明書(市区町村役場発行)
- 死亡届記載事項証明書(市区町村役場発行)
- 医師による死亡診断書(病院発行)
- 除籍謄本(戸籍上の死亡日が記載されているもの)
海外金融機関は、その国の一般的なDeath Certificate(米国では州・郡発行のcertified copy等)を想定した対応をするため、日本のどの書類が受理されるかは事前に金融機関に確認する必要があります。certified copyについての詳細は、米国TOD口座の相続実務記事もあわせてご確認ください。
戸籍謄本の英訳+翻訳者宣言書
戸籍謄本は日本の相続制度の中核書類ですが、海外金融機関には日本語のままでは提出できません。以下の3点セットで対応します。
- 戸籍謄本(原本または認証謄本)
- 英訳文
- 翻訳者宣言書(Translator’s Declaration)
翻訳者宣言書は、翻訳者が「本翻訳は正確であることを宣誓する」旨を英文で記載した書面で、公証役場でこの宣言書に対する私文書認証を受けます。これにより、翻訳文+宣言書のセットが私文書として認証され、その後アポスティーユまたは領事認証を上乗せする流れになります。
法定相続情報一覧図の活用
日本の法務局で交付される法定相続情報一覧図は、戸籍謄本の内容を1枚にまとめた公的な書面で、英訳を添えて海外金融機関に提出すると、相続関係を説明する補助資料として有用です。ただし、海外金融機関が必ず理解・受理するとは限らず、戸籍英訳の代替として必ず受理されるわけではない点にご留意ください。海外相続で相続人が多い案件では、法定相続情報一覧図と戸籍謄本英訳の併用を検討します。
遺産分割協議書
相続人間で遺産分割協議が成立している場合、遺産分割協議書の英訳+認証を添えて提出することで、「誰がどの資産を取得するか」を金融機関に示せます。特に、TOD/POD指定のない口座や、複数相続人がいる案件では、遺産分割協議書の提出が求められることが多くなります。
原資証明(Source of Funds)——相続資金の説明
系統3の原資証明は、KYCで最も対応に時間がかかる部分です。金融機関は「この資金はどこから来たものか」を確認する義務があり、相続資金であっても例外にはなりません。
Source of Funds(SOF)とSource of Wealth(SOW)の違い
海外金融機関のKYCでは、次の2つの概念が区別されます。
- Source of Funds(SOF):今回の取引の資金の出所(例:この送金の1,000万円はどこから来たか)
- Source of Wealth(SOW):顧客の富の全体的な出所(例:被相続人がどのようにこの資産を形成したか)
相続案件では、SOFは「被相続人からの相続」で説明できますが、被相続人自身の資産形成の経緯(SOW)まで求められることがあります。特に大口相続や高リスク国からの送金では、SOWの説明が必須となります。
相続資金であることを示す書類
以下の書類を組み合わせて、相続資金であることを示します。
- 現地の相続完了通知書:現地弁護士や金融機関が発行する、相続手続き完了の通知
- 遺産分割協議書または遺言書:資産の取得根拠
- 送金元銀行の送金証明書:Payment Reference、UETR、送金控え、ISO 20022形式の送金メッセージ情報(旧MT103相当の情報を含む場合があります)など
- 相続関係を示す戸籍謄本の英訳:受取人と被相続人の関係
- 英文の説明書:「本送金は◯◯氏(被相続人)の遺産の相続分として、◯◯氏(受取人)へ移転されるものです」といった説明
被相続人の資産形成経緯(SOW)を示す書類
SOWまで求められた場合、以下の書類の一部を組み合わせて説明します。
- 被相続人の職業・役職・所属機関の情報
- 主要な取引履歴(不動産売却・株式売却・退職金受給等)
- 過去の税務申告書(確定申告書・所得証明書等)
- 相続対象となった資産の取得契約書
SOWの説明は、被相続人の生前の資産形成を示すもので、被相続人が生前に整理していないと、遺族が後から集めるのは困難な作業となります。生前対策として、Letter of Instruction(相続指示書)に主要な取引履歴・資産形成の経緯を記録しておくと、遺族の負担を大きく減らせます。
英文説明書のポイント
相続資金であることを示す英文説明書は、次の5要素を含めます。
- 送金者(相続人代表)の氏名・住所・関係
- 被相続人の氏名・死亡日・国籍
- 送金額・通貨・送金元口座・送金先口座
- 相続開始日・遺産分割協議書の作成日
- 「本送金は相続資金であり、犯罪収益ではないこと」の宣言
この説明書は、原則として送金者本人が署名し、必要に応じて公証を受けて金融機関に提出します。
政治的重要人物(PEP)判定と追加確認
系統4の政治的重要人物(PEP・Politically Exposed Person)判定は、受取人・被相続人・親族の職業や立場に基づいて実施されるKYCです。PEPに該当すると、通常より厳格なEnhanced Due Diligence(EDD)が適用されます。
PEPの定義
PEPは、FATFの定義では次のような立場の人を指します。
- 現在または過去に政府・公的機関の重要な公的機能を任された人(国家元首・大臣・国会議員・裁判官・軍幹部等)
- 国有企業の役員
- 国際機関の要職者(国連・WTO・世銀・IMF等の高位ポスト)
- 上記の家族・近親者・親密な関係者
具体的にどこまでの親族を含めるかは、国・金融機関・利用サービスの規程により異なります。一般には配偶者・親・子などが中心ですが、兄弟姉妹、共同経営者、実質的なビジネスパートナー等まで確認される場合があります。
PEPの分類
- Foreign PEP:外国のPEP
- Domestic PEP:自国のPEP
- International Organisation PEP:国際機関のPEP
FATF勧告上、Foreign PEPについては通常のCDDに加え、上級管理者承認、Source of Wealth / Source of Fundsの確認、継続的モニタリング等の追加措置が求められます。Domestic PEPや国際機関PEPについても、高リスクと判断される場合には同様の追加措置が求められます。実際の運用は、各国法令・金融機関の内部規程により異なります。
PEP該当の申告義務
KYC書類の中に、通常「あなた自身または家族はPEPに該当しますか?」という質問項目があります。該当する場合、正直に申告することが必要です。虚偽の申告が後日発覚すると、口座凍結・取引解除・当局への通報等の重大な結果につながる可能性があります。
PEPに該当した場合の追加確認
PEPに該当すると、次のような追加確認が実施されます。
- 資金の詳細な経路(SOF・SOWの詳細確認)
- 継続的な取引モニタリング
- 上級管理者(Senior Management)による取引承認
- 定期的な情報更新(1年に1回等)
- 政治的な立場と資金の関連性の確認
PEP該当性の確認で誤解しがちなポイント
- 地方議員も国によってはPEPに該当することがある
- 退任した政治家・公的機関の要職者であっても、金融機関のリスク評価上、一定期間または影響力が残ると判断される期間はPEPまたはPEP関連者として扱われる場合がある(固定の年数ではなく、金融機関の規程とリスク判断による)
- PEP本人だけでなく、その家族(相続人となる子・配偶者等)もPEP関連者として扱われる場合がある
- 「今は政治家ではないから該当しない」と自己判断せず、金融機関の判断に委ねる姿勢が重要
PEPに該当する場合、手続きが数か月遅延することがあります。余裕を持ったスケジュール設計と、金融機関との丁寧なコミュニケーションが不可欠です。
KYC書類提出後の実務——保留・追加要求・差し戻しへの対応
KYC書類を提出した後、金融機関の内部審査が実施されます。この審査の中で書類の追加要求・差し戻しが発生することは、海外相続では珍しくありません。
書類の追加要求(Further Documentation Request)
金融機関から次のような追加要求が来ることがあります。
- 「提出された書類の◯◯部分が不明瞭。より詳細な書類を提出せよ」
- 「翻訳者宣言書の日付が古い。◯か月以内のものを提出せよ」
- 「戸籍謄本の英訳の◯◯行の記載を再確認せよ」
- 「SWIFT/BICコードの照合ができない。銀行の正式名称と支店を再提出せよ」
追加要求に対しては、金融機関担当者が指摘した具体的な項目に対して、ピンポイントで書類を追加提出するのが効率的です。「関連書類を全部再提出」してしまうと、審査担当者が混乱し、かえって審査が長引くことがあります。
書類の差し戻し(Rejection)
書類の形式不備・要件不足で差し戻される場合もあります。以下は代表的な差し戻し理由です。
- certified copyでない書類が提出された(通常のコピーだった)
- 翻訳者宣言書が付いていない、または宣言書の内容が不十分
- アポスティーユが必要な提出先なのに、アポスティーユが付いていない
- 発行日が古すぎる(3か月ルール等の期限切れ)
- 文書の形式が金融機関の指定と異なる(スキャンではなくオリジナル要求等)
差し戻し対応では、金融機関の指摘に忠実に対応し、書類を作り直して再提出します。この対応に数週間〜数か月かかることがあるため、手続き全体のスケジュールに差し戻し対応の予備期間を織り込んでおくのが実務的です。
保留(Pending)状態への対応
金融機関の内部審査が長引き、書類提出から数週間経っても回答がない場合は、定期的に(2〜3週間ごとに)進捗確認の連絡を入れます。金融機関担当者は複数のKYC案件を並行して処理しているため、「静かに待っていると忘れられる」ことがあります。礼儀正しく、しかし継続的に進捗確認をすることが重要です。
行政書士が支援できる範囲
日本の行政書士は、以下の支援ができます。
- KYC書類パッケージ(4系統)の整理
- 日本側書類(戸籍謄本の英訳・住民票の英訳・翻訳者宣言書等)の作成準備
- 公証役場・法務局・外務省での認証手続きの案内
- 差し戻し理由に対する日本側書類の再作成
- 相続資金であることを示す英文説明書の原案作成
- 金融機関とのやり取りに関する日本語での事前相談
現地金融機関との直接的な代理交渉、現地法上の法的判断、PEP該当性の法的判定、AML/CFT法令の解釈判断は、現地弁護士・現地専門家・日本の弁護士等の業務範囲となります。行政書士は日本側の書類作成と進行管理の整理役として関与します。
よくある質問(FAQ)
Q1. KYCで金融機関から追加確認が来た場合、どんな内容が多いですか?
A. 追加確認で最も多いのは、①原資証明(Source of Funds)の詳細説明、②Photo IDの再提出(certified copyでない場合)、③翻訳者宣言書の日付・内容の再確認、④相続関係の追加証明(戸籍謄本の追加翻訳等)、⑤PEP該当性の確認、の5パターンです。追加確認の指摘事項に対しては、ピンポイントで書類を追加提出するのが効率的で、関連書類を全部再提出すると担当者が混乱してかえって審査が長引くことがあります。
Q2. パスポート以外にKYCの本人確認書類として何が使えますか?
A. 海外金融機関では、パスポートが最も一般的に受理されますが、その他の書類の受理可否は金融機関により異なります。日本の相続人の場合、①マイナンバーカード(顔写真あり)、②運転免許証(補助的な位置付け)、③在留カード(外国籍の場合)、が使える場合があります。ただし、単独では不十分でパスポート等と組み合わせる必要があることも多く、事前に金融機関に確認するのが安全です。いずれの書類も、有効期限内でcertified copy(認証付き写し)であることが原則です。
Q3. 相続資金であることを金融機関にどう証明すればよいですか?
A. 相続資金であることを示すには、①現地の相続完了通知書、②遺産分割協議書または遺言書、③送金元銀行の送金証明書、④相続関係を示す戸籍謄本の英訳、⑤「本送金は相続資金であり犯罪収益ではない」旨の英文宣言書、の組み合わせで対応します。特に、大口送金では被相続人の資産形成経緯(Source of Wealth)まで求められることがあり、被相続人の職業・役職・過去の取引履歴・税務申告書等の追加提出を求められる場合があります。生前対策としてLetter of Instructionに主要な取引履歴を残しておくと、遺族の負担を減らせます。
Q4. 受取人が政治的重要人物(PEP)に該当するとどうなりますか?
A. PEP該当者への送金は、通常のCDD(Customer Due Diligence)より厳格なEDD(Enhanced Due Diligence)が適用されます。具体的には、①資金の詳細な経路確認、②継続的な取引モニタリング、③上級管理者(Senior Management)による取引承認、④定期的な情報更新、⑤政治的立場と資金の関連性確認、が実施されます。手続きが数か月遅延することがあり、余裕を持ったスケジュール設計が必要です。PEPには本人だけでなく家族・親密な関係者も含まれるため、「今は政治家ではないから該当しない」と自己判断せず、金融機関の判断に委ねる姿勢が重要です。
Q5. KYC完了までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 案件により幅がありますが、標準的なCDDでは2〜6週間、EDDが適用される案件では2〜6か月が目安です。書類の差し戻し・追加要求で長引くことも珍しくなく、書類パッケージが整理されていない場合や、原資証明が不足している場合はさらに時間がかかります。海外相続の全体スケジュールを設計する際は、KYCの所要期間を余裕を持って見込むこと、書類差し戻しへの予備期間を織り込むこと、可能な限り事前に書類パッケージを整理して提出することが実務のコツです。
海外口座の相続代行サービスの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
海外相続で海外金融機関から求められるKYC(本人確認)書類は、AML/CFT規制のもと日本国内の相続手続きより厳格に運用されています。書類パッケージは①相続人本人の本人確認、②相続関係の証明、③原資証明(Source of Funds)、④PEP該当性の確認関連書類の4系統に整理して事前準備するのが実務のコツです。Photo IDのcertified copy、戸籍謄本の英訳+翻訳者宣言書+公証・アポスティーユ、送金元銀行の送金証明書、英文の説明書などを組み合わせて提出します。
受取人・被相続人・親族が政治的重要人物(PEP)に該当する場合はEDDが適用され、手続きが数か月遅延することがあります。書類の差し戻し・追加要求も海外相続では珍しくないため、手続き全体のスケジュールに差し戻し対応の予備期間を織り込むこと、定期的な進捗確認を金融機関に入れることが重要です。日本の行政書士は、KYC書類パッケージの整理と、日本側書類の作成支援を通じて、相続人の負担軽減に貢献できる領域です。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、海外相続で必要となる日本側書類の作成支援(戸籍謄本の英訳・住民票の英訳・翻訳者宣言書・相続関係説明書・英文説明書等)と、KYC書類パッケージ(4系統)の整理を、初動対応から金融機関提出までの各段階でご支援しています。アメリカ・香港・シンガポール・英国・オーストラリア・中国・カナダ等、主要国の金融機関実務に対応可能で、現地金融機関との代理交渉・現地法の判断は現地弁護士、税務判断は税理士法人トゥモローズと連携します。
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本記事は海外金融機関のKYC実務を、行政書士の書類作成支援目線でまとめたものです。海外資産にかかる相続税、原資確認と税務調査、CRS・国外送金等調書との整合性など税務面の判断については、税理士法人トゥモローズが公開している以下の記事もあわせてご確認ください。
根拠法令・公的資料
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)4条(取引時確認義務等)
- 同法6条・7条(確認記録・取引記録の作成・保存)
- 同法8条(疑わしい取引の届出)
- 資金決済に関する法律2条・37条(資金移動業者の位置付け・登録)
- 外国為替及び外国貿易法55条(支払又は支払の受領に関する報告書)
- 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外送金等調書法)4条
- 行政書士法1条の3・1条の4(行政書士の業務範囲)
- FATF(金融活動作業部会)勧告——国際的なAML/CFT基準
- 金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」——金融機関のAML/CFT実務指針
- 金融庁「犯罪収益移転防止法に関する留意事項について」——金融機関等の確認義務・疑わしい取引届出義務の留意点
