危急時遺言とは|死期が迫ったときの特別な遺言の要件と注意点
10秒でわかる この記事の要約
- 危急時遺言とは、死期が迫り通常の方式で遺言できないときに認められる特別方式の遺言。代表的な死亡危急時遺言は証人3人以上(民法第976条)、船舶遭難者遺言は証人2人以上(民法第979条)。
- 死亡危急時遺言は、遺言の日から20日以内に証人の1人または利害関係人が家庭裁判所へ「確認」を請求し、確認を得なければ効力が生じない(民法第976条)。船舶遭難者遺言では「遅滞なく」確認を請求する(民法第979条)。家庭裁判所の「確認」と相続開始後の「検認」は別の手続き。
- 普通の方式で遺言できるようになった時から6か月生存すると失効する(民法第983条)。容体が回復したら作り直しが必要。
- 要件が厳格で争いのリスクもあるため、あくまで最後の手段。元気なうちの公正証書遺言が最善。
危急時遺言とは、病気や事故などで死期が迫り、自筆証書や公正証書といった通常の方式で遺言する余裕がない場合に、特別に認められる方式の遺言です。 代表的なのが「死亡の危急に迫った者の遺言」(民法第976条)で、証人3人以上の立会いのもと、口頭で遺言の趣旨を伝えて作成します。
危急時遺言は、いざというときに想いを残せる大切な制度ですが、要件が厳格で、後日その有効性が争われることもあります。本記事では、遺言を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、危急時遺言のしくみと注意点、そして「そもそも頼らずに済ませる」ための備えを解説します。
危急時遺言とは|特別方式の遺言
遺言の方式には、普段使う普通方式(自筆証書・公正証書・秘密証書)と、緊急時などに限って認められる特別方式があります。危急時遺言は後者にあたります。
| 特別方式の遺言 | 根拠 | 主な場面 |
|---|---|---|
| 死亡の危急に迫った者の遺言 | 民法第976条 | 病気・事故で死期が迫り、通常の方式が困難 |
| 船舶遭難者の遺言 | 民法第979条 | 船舶が遭難し、船中で死亡の危急に迫った |
これらは、通常の方式で遺言できない緊急事態に限って認められる例外です。日常的に使うものではなく、「最後の手段」と位置づけられています。
死亡の危急に迫った者の遺言(民法第976条)の要件
最も問題になるのが、病気などで死期が迫った場合の危急時遺言です。要件は次のとおりです。
- 証人3人以上の立会い
- 遺言者がその1人に遺言の趣旨を口授する
- 口授を受けた証人がこれを筆記し、遺言者と他の証人に読み聞かせる(または閲覧させる)
- 各証人が筆記の正確なことを承認して署名・押印する
さらに重要なのが、遺言の日から20日以内に、証人の1人または利害関係人が家庭裁判所に確認を請求し、その「確認」を得なければ、効力が生じないという点です(民法第976条)。家庭裁判所が、その遺言が遺言者の真意に出たものとの心証を得て初めて確認されます。
なお、ここでいう家庭裁判所の「確認」は、危急時遺言が遺言者の真意に基づくものかを確認する手続きで、相続開始後に必要となる「検認」とは別の手続きです。確認を受けた危急時遺言でも、相続開始後には検認が必要になります(民法第1004条)。両者は混同されやすいため、違いを整理しておきます。
| 項目 | 確認 | 検認 |
|---|---|---|
| 目的 | 危急時遺言が遺言者の真意に基づくかを確認 | 遺言書の状態を確認・記録し、偽造変造を防ぐ |
| タイミング | 遺言作成後(死亡危急時は20日以内) | 相続開始後 |
| 根拠 | 民法第976条・第979条 | 民法第1004条 |
| 必要性 | 危急時遺言の効力発生要件 | 相続手続きに使うために必要 |
| 有効・無効の判断か | 真意性の確認であり、有効・無効の判断ではない | 状態の確認であり、有効・無効の判断ではない |
証人にも注意が必要です。未成年者、推定相続人・受遺者やその配偶者・直系血族などは証人になれません(証人欠格。民法第974条)。緊急時に適格な証人を3人以上確保するのは容易ではなく、これが危急時遺言の実務上のハードルになります。
容体が回復すると失効する(民法第983条)
危急時遺言には、もう一つ重要なルールがあります。
遺言者が普通の方式で遺言できるようになった時から6か月間生存したときは、その遺言は効力を生じません(民法第983条)。これは、危急時遺言があくまで「通常の方式で遺言できないときの例外」だからです。
つまり、容体が持ち直して自筆や公正証書で遺言できる状態になり、その後6か月生存すれば、危急時遺言は失効します。回復したら、あらためて公正証書遺言などで作り直すことが必要です。「一度書いたから安心」とはならない点に注意してください。
遺言書の準備、お済みですか?
公正証書遺言作成サポートなら、
原案作成から公証役場の調整・
証人手配まで一括対応。
税理士法人との連携で
相続税試算までワンストップ。
平日 9:00〜21:00 土日祝 9:00〜17:00
船舶遭難者の遺言(民法第979条)
特別方式には、船舶が遭難した場合の遺言もあります。船舶が遭難し、その船中で死亡の危急に迫った人は、証人2人以上の立会いのもと口頭で遺言できます(民法第979条)。証人が遺言の趣旨を筆記して署名・押印し、さらに証人の1人または利害関係人から、遅滞なく家庭裁判所へ確認を請求して確認を得る必要があります。死亡危急時遺言は「20日以内」ですが、船舶遭難者遺言は「遅滞なく」とされる点が異なります。
このほかにも、伝染病による隔離者の遺言や、在船者の遺言といった特別方式があります。いずれも限定的な場面のためのもので、普通方式で遺言できるようになって6か月生存すると失効する点は共通です。
危急時遺言に頼らないための備え
危急時遺言は大切な制度ですが、次のような難しさがあります。
- 証人3人以上を緊急時に集めるのが難しい
- 20日以内の家庭裁判所の確認が必要
- 後日、遺言者の真意だったかが争われるリスクがある
これらを踏まえると、最も確実なのは、元気なうちに公正証書遺言を作っておくことです。判断能力があり体調が落ち着いているうちに準備しておけば、危急時遺言という不確実な手段に頼らずに済みます。
当法人では、早めの公正証書遺言の作成をおすすめし、文案整理・公証役場調整・証人手配までサポートしています。「まだ元気だから」と先延ばしにせず、備えておくことが、ご家族への何よりの安心につながります。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):【公正証書遺言費用の目安は?】公正証書遺言にかかる手数料を徹底解説!
公正証書遺言を作るときは、あわせて遺言執行者を定めておくと、相続発生後の手続きがスムーズに進みます。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):【遺言執行者が必要な場合はどんな時?】遺言執行者を選任するメリット
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 危急時遺言の作成に費用はかかりますか?
A. 危急時遺言の作成自体には、公正証書遺言のような公証人手数料は通常かかりません。ただし、証人の手配、専門家への相談、家庭裁判所への確認の申立て、医師の診断資料の取得などに費用がかかることがあります。作成後に家庭裁判所の確認を受ける必要がある点も含めて、見込みを確認しておくと安心です。
Q2. 危急時遺言と普通の方式の遺言、どちらが優先されますか?
A. 遺言は、内容が抵触する部分について日付の新しいものが優先されます。危急時遺言の後に体調が回復し、公正証書遺言などを作り直せば、新しい遺言が優先します。危急時遺言は緊急の手段なので、可能なら通常の方式での作成が望ましいです。
Q3. 危急時遺言だけで金融機関や不動産の手続きを進められますか?
A. 危急時遺言は、作成後に家庭裁判所の「確認」を受ける必要があります。さらに、相続開始後には通常の遺言書と同じく家庭裁判所の「検認」も必要です。金融機関や不動産の手続きでは、確認を受けたことに加え、検認済証明書を付けた遺言書を求められるのが通常です。要件や本人の真意をめぐって争いになりやすい方式のため、状況が許せば公正証書遺言への切り替えを検討するのが安全です。
Q4. 入院中で動けない場合、公正証書遺言は作れませんか?
A. 作れる場合があります。公証人に病院や自宅へ出張してもらって公正証書遺言を作成する方法があります。意思を確認できる状態であれば、危急時遺言よりも確実な公正証書遺言を作れることが多いため、まずは公証役場や専門家に相談してみてください。
Q5. 危急時遺言の立会いに医師は必要ですか?
A. 法律上、医師の立会いは要件ではありません。ただし、遺言者に遺言をする能力があったかどうかが後で争われやすいため、作成時の状況を医師の診断やカルテで残しておくと、有効性を裏づける証拠になります。
まとめ
危急時遺言は、死期が迫り通常の方式で遺言できないときの「最後の手段」です(民法第976条・第979条)。証人3人以上、20日以内の家庭裁判所の確認といった厳格な要件があり、普通方式で遺言できるようになって6か月生存すると失効します(民法第983条)。後日の争いのリスクもあるため、確実に想いを残すには、元気なうちの公正証書遺言が最善です。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、公正証書遺言の作成をサポートしています。「そろそろ準備を」とお考えの段階で、早めにご相談ください。
遺言書の準備、お済みですか?
公正証書遺言作成サポートなら、
原案作成から公証役場の調整・
証人手配まで一括対応。
税理士法人との連携で
相続税試算までワンストップ。
平日 9:00〜21:00 土日祝 9:00〜17:00
関連記事
公正証書遺言の費用もあわせてご確認ください
危急時遺言に頼らないためには、元気なうちに公正証書遺言を作成しておくことが重要です。公正証書遺言の費用目安は、グループの税理士法人トゥモローズの解説記事もご参照ください(相続税の試算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します)。
根拠法令・公的資料
- 民法第974条(証人及び立会人の欠格事由)
- 民法第976条(死亡の危急に迫った者の遺言)
- 民法第977条(伝染病隔離者の遺言)・第978条(在船者の遺言)
- 民法第979条(船舶遭難者の遺言)
- 民法第983条(特別の方式による遺言の効力)
- 民法第1004条(遺言書の検認)・第1005条(検認・開封違反の過料)
- 司法書士法第3条・第73条(家庭裁判所提出書類の作成は司法書士の業務)
- 弁護士法第72条(紛争性のある対応は弁護士の業務)
