死後事務委任契約書のサンプル|記載すべき17項目を完全解説
10秒でわかる この記事の要約
- 死後事務委任契約書は、当事者・委任事項・報酬費用・契約管理の4パートにわたる17項目を、ご本人の事情に合わせて設計することで実効性を持つ(テンプレートの流用だけでは不十分)。
- 最高裁平成4年9月22日判決を踏まえ、「委任者の死亡によっても本契約は終了しない」旨(民法第653条の特約)を明記する。
- 東京高裁平成21年12月21日判決を踏まえた解除制限特約を入れておくと、相続人による解除で契約が機能しなくなるリスクを抑えられる。
- 私文書でも契約自体は成立し得るが、公正証書化により契約の存在・本人の意思確認・内容の証拠力が高まり、後日のトラブル予防に役立つ。死後事務委任契約の公正証書の手数料は、公証人手数料令18条の2により目的価額による手数料(同令9条)の10分の5とされており、実際の金額は公証役場で事前確認する。
死後事務委任契約書とは、委任者が亡くなった後の事務手続きを受任者に依頼する内容・範囲・報酬・解除条件などを明文化した契約書のことです。 民法第656条の準委任契約に基づくもので、最高裁平成4年9月22日判決により、「委任者の死亡後も契約は終了しない旨の合意」を含むものと解されています。条項設計の良し悪しで契約の実効性が変わるため、テンプレートの流用ではなく個別の設計が望まれます。
死後事務委任契約書は、条項設計の良し悪しで実効性が変わる文書です。テンプレートをそのまま流用しても、ご本人の事情に合っていなければ、後日のトラブルにつながります。
死後事務委任契約書では、委任者死亡後も契約を終了させない特約、葬儀・納骨・行政手続き・各種解約などの委任事項、報酬額、実費の支払原資、預託金の管理方法、報告先・監督者、相続人による解除制限、受任者死亡時の対応を明記する必要があります。特に、財産の承継は遺言で定め、死後事務委任契約には含めないことが重要です。
本記事では、相続を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、契約書に盛り込むべき17項目をサンプル形式で解説します。
契約書の基本構成
死後事務委任契約書は、大きく4つのパートで構成されます。
| パート | 主な内容 |
|---|---|
| 基本情報 | 当事者・契約目的・委任者死亡時の効力 |
| 委任事項 | 葬儀・行政・解約・整理など具体的な依頼内容 |
| 報酬・費用 | 報酬額・実費の精算方法 |
| 契約管理 | 報告・解除・受任者死亡時の対応 |
17項目の全体マップ
死後事務委任契約書 17項目チェックリスト
- 当事者の表示
- 契約の目的
- 委任者死亡後の効力(民法第653条の特約)
- 葬儀・埋葬の手配
- 行政機関への届出
- 医療・介護費用の精算
- 住居・公共サービスの解約
- デジタル遺品の処理
- 関係者への通知
- 遺品整理・形見分け
- 報酬額
- 実費の精算方法
- 実費の支払い順序・原資
- 事務処理状況の報告・監督者の指定
- 解除制限特約
- 受任者死亡時の取扱い
- 合意管轄・準拠法
基本情報パート(項目1〜3)
項目1: 当事者の表示
委任者・受任者の氏名・住所・連絡先を正確に記載します。受任者が法人の場合は、法人名・代表者・所在地を記載します。
項目2: 契約の目的
「委任者は、自己の死亡後に必要となる葬儀・行政手続・各種精算等の事務を受任者に委任することを目的として本契約を締結する」
あわせて、契約締結時の本人意思・判断能力の確認記録を残しておくことをおすすめします。契約締結時に、本人の意思能力、契約内容の理解、契約締結の動機、家族関係、財産状況を確認し、面談記録・診断書・公正証書作成時の確認資料として保存しておくと、後日「判断能力がなかった」と争われるリスクを下げられます。
項目3: 委任者死亡後の効力(民法第653条の特約)
民法第653条は、委任は委任者の死亡によって終了すると定めています。しかし最高裁平成4年9月22日判決は、死後の事務処理を依頼する委任契約には「委任者の死亡によっても契約を終了させない旨の合意」が含まれると解しました。これを踏まえ、「委任者の死亡によっても本契約は終了しない」旨を明記します。
委任事項パート(項目4〜10)
葬儀・埋葬(項目4)
具体的な葬儀形式・規模・宗派・葬儀社・納骨先までを記載します。希望する戒名や読経の有無も指定できます。
行政機関への届出(項目5)
- 死亡届
- 健康保険・介護保険の資格喪失届
- 年金受給停止の手続き
- 運転免許証などの返納手続きの確認
なお、マイナンバーカードは死亡届により失効しますが、返納義務は通常ありません。相続手続きで個人番号が必要になることがあるため、手続き完了までは保管し、不要になった段階で裁断等により処分します。
また、死亡届を提出できる届出人は戸籍法で定められており、受任者が当然に提出できるわけではありません。実務では、親族や家主・後見人等の届出資格者と連携して進めます。任意後見受任者として届け出る場合には、資格を証明する登記事項証明書等の提出を求められることがあります。
医療・介護費用の精算(項目6)
入院費・治療費・介護施設利用料の精算と、関係機関への支払い責任を明確にします。
住居・公共サービスの解約(項目7)
賃貸住宅の明渡し・原状回復、電気・ガス・水道・通信回線の解約。所有不動産がある場合の管理について触れることもあります。
デジタル遺品の処理(項目8)
SNSアカウントの停止・メールの解約・サブスクリプションの解約・端末データの削除。現代の契約書では重要度が増している項目です。
関係者への通知(項目9)
事前に登録したリストに基づき、死亡通知・葬儀案内を送付します。
遺品整理・形見分け(項目10)
遺品整理業者の手配、廃棄物処理、写真・手紙・衣類など財産的価値が乏しい思い出の品の引渡し先を整理します。
ただし、貴金属・美術品・車両・高額な動産など財産的価値のあるものを特定の人へ承継させる場合は、実質的な財産承継にあたるため、死後事務委任契約ではなく公正証書遺言で定める必要があります。
報酬・費用パート(項目11〜13)
項目11: 報酬額
契約書作成報酬・執行報酬を別々に明記します。執行報酬は固定額か、業務量に応じた額かを定めます。
項目12: 実費の精算方法
葬儀費用・納骨費用などの実費を、どのように支払うかを定めます。相続発生時にご自身の遺産から精算する方法のほか、生前に一定額を預ける方法を採る事務所もあります。生前に預ける場合は、そのお金が受任者の財産と区別して管理されるか(分別管理)を必ず確認します。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 報酬額 | 契約書作成報酬・執行報酬を明記 |
| 実費の原資 | 相続発生時に遺産から精算(または生前預託・分別管理) |
| 受任者の権限 | 契約で定めた預託金・立替金・相続人または遺言執行者等との精算方法に基づき、死後事務の実費の支払いを行う |
なお、死後事務委任契約だけで、受任者が当然に委任者名義の預貯金口座から出金できるわけではありません。本人死亡後は口座が凍結される可能性があり、金融機関が契約書のみで出金に応じるとは限らないため、支払原資・立替上限・精算方法(預託金、遺言執行者との連携、相続人・受遺者との精算など)を契約時に明確にしておきます。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):死亡前後に預金を引き出した場合の相続税申告と遺産分割
項目13: 実費の支払い順序・残余金の取扱い
実費を精算した後、残った金額を誰に返すかを定めます。返還先(相続人または受遺者)を契約書に明記しておくことが重要です。
契約管理パート(項目14〜17)
項目14: 事務処理状況の報告・監督者の指定
受任者は、執行完了後、相続人または指定された報告先に対し、執行内容と費用精算を報告します。相続人がいない場合は、第三者の監督者(行政書士・弁護士など)や報告先を契約書で指定しておくと、執行内容・費用精算の透明性を確保できます。報告の頻度・方法もあわせて定めておくと安心です。
項目15: 解除制限特約
「委任者の地位を承継した相続人による本契約の任意解除は、契約を履行させることが不合理といえる特段の事情がない限り制限されるものとする。ただし、受任者に重大な義務違反がある場合その他本契約を継続することが相当でない事情がある場合はこの限りでない」
東京高裁平成21年12月21日判決は、死後事務委任契約について、契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位を承継した者(相続人)が解除できない旨の合意も含むと判断しました。この判決を踏まえた条項です。
【実務上のポイント】
解除制限特約がないと、相続人の意向で死後事務委任契約が解除され、機能しなくなるリスクがあります。契約の実効性を支える重要条項として、盛り込んでおくことをおすすめします。ただし「重大な義務違反」があれば解除され得る点には留意が必要です。
項目16: 受任者死亡時の取扱い
個人受任者の場合、受任者の死亡で契約が終了します。法人受任者の場合は、個人受任者よりも継続性を確保しやすい一方、法人の解散・廃業・担当者変更のリスクは残ります。契約書には、担当者変更時の引継ぎ、報告体制、預託金管理、契約終了時の精算方法も定めておくことが望ましいです。複数受任者の指定や予備受任者の設定も検討します。
項目17: 合意管轄・準拠法
紛争が生じたときの管轄裁判所・準拠法を明示します。
おひとりさまの終活、
お悩みではありませんか?
死後事務委任を中心に、
必要な契約だけ選べる終活サポート。
大きな預託金不要で、
相続専門の士業が人生の最期まで一貫対応。
平日 9:00〜21:00 土日祝 応相談
公正証書化の手順
公正証書化までの流れ
公証人手数料は、契約内容、目的価額、証書枚数、正本・謄本の通数、公証役場外で作成するかどうか等により変わります。死後事務委任契約(委任者の死後に委任事務が処理されるもの)の公正証書については、公証人手数料令18条の2により、目的価額による手数料(同令9条)の10分の5の額とされています。実際の金額は公証役場で事前に確認してください。
なお、私文書でも契約自体は成立し得ますが、公正証書化することで、契約の存在・契約締結時の本人確認・意思確認・内容の証拠力が高まり、後日のトラブル予防に役立ちます。ただし、公正証書にしただけで、すべての金融機関・葬儀社・関係機関が当然に対応してくれるわけではないため、支払原資・連絡先・報告先・実行手順まで設計しておく必要があります。
実務上のよくある条項ミスと回避策
「葬儀の希望」が曖昧
「家族葬で簡素に」とだけ書かれていても、参列者の範囲・宗派・式場・予算上限が不明だと、受任者が判断に迷います。具体的な葬儀社名・参列者リスト・予算上限まで契約書に明記するのが望ましく、生前に葬儀社と打ち合わせた記録を別紙として添付しておくと、よりスムーズです。
デジタル遺品の処理範囲が漏れている
SNSアカウント・サブスクリプション・クラウドストレージなど、現代特有のデジタル遺品は、契約書の標準条項に含まれていないことがあります。「停止・削除する対象一覧」を別紙として整備し、契約締結後も定期的に更新しておくと、執行時にスムーズです。
受任者の事故・廃業に備えた予備受任者の指定
個人受任の場合、受任者本人が委任者より先に亡くなる・廃業するリスクがあります。予備受任者(または法人受任者)を指定する条項を入れておくと、緊急時にも契約が機能しやすくなります。法人受任の場合は、組織として継続するため、予備指定が不要なことが多いです。
報告先・監督者の指定
執行後の費用精算や事務処理状況を、誰に報告するかを契約書に明記します。相続人がいない場合は、第三者の監督者(行政書士・弁護士など)を指定しておくと、執行の透明性が高まります。
契約書サンプルの条項解説
第1条: 委任事務の範囲(条項例)
「委任者は受任者に対し、委任者の死亡後に発生する以下の事務を委任する。①葬儀・埋葬・納骨に関する事務、②行政機関への各種届出、③医療費・介護費の精算、④住居の明渡し・原状回復、⑤公共料金・通信回線・サブスクリプションの解約、⑥デジタル遺品の処理、⑦その他付随する事務一切」と記載するのが標準です。包括的な記載と、別紙での詳細指示を組み合わせます。
第3条: 民法第653条の特約(条項例)
「本契約は、民法第653条第1号の規定にかかわらず、委任者の死亡によっても終了しないことを当事者間で合意する。」最高裁平成4年9月22日判決を踏まえた条項で、契約の根本的な有効性を支えます。この一文が欠けると、契約の有効性が問われるリスクがあります。
第10条: 解除制限特約(条項例)
「委任者の地位を承継した相続人による本契約の任意解除は、契約を履行させることが不合理といえる特段の事情がない限り制限されるものとする。ただし、受任者に重大な義務違反がある場合その他本契約を継続することが相当でない事情がある場合はこの限りでない。」東京高裁平成21年12月21日判決を踏まえた条項です。同判決は「常に解除不可」としたものではなく、契約を履行させることが不合理といえる特段の事情がある場合は別とする整理のため、条項もこれに合わせています。
第15条: 報酬と実費の精算(条項例)
「受任者の報酬は金〇〇万円とする。本契約に基づく死後事務の実費は、契約で定めた預託金・立替金・相続人または遺言執行者等との精算方法に基づき支払うものとし、残余金は別紙指定者に返還する。」報酬額の明記と精算方法の明示で、執行時のトラブルを防ぎます。死後事務委任契約だけで受任者が当然に委任者名義の口座から出金できるわけではないため、支払原資・立替上限・精算方法を具体的に定めます。生前に一定額を預ける設計とする場合は、分別管理の方法もあわせて記載します。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):【遺言執行者への報酬はどのくらい?】遺言執行者への報酬の決め方を解説
おひとりさま終活サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 死後事務委任契約書は自分でも作成できますか?
A. 形式上は作成できますが、実効性を高めるためには公正証書化と専門家による条項設計をおすすめします。後日のトラブル予防のためにも、専門家の関与が望ましいです。
Q2. 公正証書化は必須ですか?
A. 法律上は必須ではありませんが、公正証書化により契約の存在・本人の意思確認・内容の証拠力が高まり、後日のトラブル予防に役立つためおすすめします。死後事務委任契約の公正証書の手数料は、公証人手数料令18条の2により目的価額による手数料の10分の5とされており、契約内容・証書枚数等により変わるため、実際の金額は公証役場で事前にご確認ください。
Q3. 記載項目を後から追加できますか?
A. 判断能力が維持されている限り、いつでも内容を変更できます。変更時も公正証書として作成することをおすすめします。
Q4. 報酬や実費の精算方法は契約書に書きますか?
A. はい、必ず明記します。金額や精算方法が不明確だと、執行時にトラブルになります。実費を遺産から精算するのか、別の方法で支払うのかも記載します。
Q5. 解除制限特約とは何ですか?
A. 相続人による任意解除を制限する特約です。東京高裁平成21年12月21日判決でも一定の合理性が認められており、契約の実効性を高めるため重要な条項です。
まとめ
死後事務委任契約書は、17項目をご本人の事情に合わせて設計することで、初めて実効性のある契約になります。テンプレートの流用ではなく、専門家による個別設計をおすすめします。
行政書士法人トゥモローズでは、相続専門の知見を活かし、ご本人の希望を反映した契約書の設計から公正証書化までを一貫してサポートします。初回相談は無料です。
おひとりさまの終活、
お悩みではありませんか?
死後事務委任を中心に、
必要な契約だけ選べる終活サポート。
大きな預託金不要で、
相続専門の士業が人生の最期まで一貫対応。
平日 9:00〜21:00 土日祝 応相談
関連記事
税務の観点もあわせてご確認ください
遺言の作成や財産の承継など、税務面については、グループの税理士法人トゥモローズの解説記事もご参照ください(相続税の試算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します)。
根拠法令・参考判例
- 民法第651条(委任の解除)
- 民法第653条(委任の終了事由)
- 民法第656条(準委任)
- 公証人手数料令第9条・第18条の2(死後に委任事務が処理される委任の公正証書の手数料)
- 最高裁平成4年9月22日判決(金融法務事情1358号55頁)
- 東京高等裁判所平成21年12月21日判決(判例タイムズ1328号134頁)
