相続税の物納をわかりやすく理解できる相続税の専門家による解説
こんにちは。相続専門の税理士法人トゥモローズです。
相続することになる財産のキャッシュの割合が少なければ、
相続税の納税資金の確保をどうするべきなのか?
どう納税したらよいのか?
上記のようなお悩みを持たれる相続人の方もいらっしゃることかと思います。
相続税の納税には金銭での一括納付のほか、特例として納税額を分割納付する延納、さらに一定の条件を満たす必要がありますが、相続財産で現物納付する物納が認められています。
今回はこの物納についてわかりやすく解説していきます。
目次
1. 物納とは相続税を相続財産で納付する制度です
国税は、金銭での納付が原則です。しかし、相続税についてのみ、例外として相続財産で納付を行う物納が認められています。ただ、物納という納税方法は納税者の意思で自由に選択できるものではありません。
まず、原則である金銭による相続税の納付ができない経済的な理由がある場合には、相続税を一定の期間に分割して納付する『延納』という納税方法が認められます。
そして更に、延納をしたとしても相続税の納付が困難な理由がある場合に限って、相続税を一定の相続財産により納付する『物納』が認められることになります。言ってしまえば納税の最終手段が物納ということになります。
なお申請の件数についてですが、令和2年度の統計によると、相続税申告件数約12万件のうち、物納の申請件数は65件となっており、税務署からの承認のハードルは相当高い手続きとなっています。
2. 物納をするためには3つの条件があります
物納の申請を行うためには、3つの条件を満たす必要があります。
① | 相続税を分割納付したとしても金銭で納付することが困難であること |
② | 物納する相続財産が物納に適した財産であること |
③ | 相続税の申告期限までに物納申請書を提出すること |
それでは下記で、それぞれの条件の概要を解説していきます。
2-1相続税を分割納付したとしても金銭で納付することが困難であること
金銭で納付することが困難であるかどうかは、納税者が相続により取得した財産、更に納税者自身の資産の所有状況や収入などを総合的に見て判断します。
具体的には下記の項目になります。
① | 納税者が相続により取得した財産の状況 |
② | 納税者自身の資産の所有状況や収入状況 |
③ | 貸付金の返還、退職金の給付など、納税者の近い将来において確実と認められる金銭収入 |
④ | おおむね1年以内に発生が見込まれる臨時的支出(事業用資産の購入等) |
2-2物納する財産が物納に適した財産であること
相続した財産であればすべてが物納の対象となるわけではありません。物納が許可されるためには下記の要件を満たす財産である必要があります。
① | 国内にある財産であること |
② | 管理処分不適格財産ではないこと |
③ | 物納することのできる財産の種類及び順位に従っていること |
④ | 物納劣後財産で物納する際には、ほかに物納に適した財産がないこと |
⑤ | 物納する財産の価額は、原則として、物納申請税額を超えないこと |
3章にて物納財産については詳しく解説いたしますが、実務的には不動産・上場株式で物納をするケースがほとんどになります。
2-3相続税の申告期限までに物納申請書を提出すること
物納を申請するためには『物納申請書』及び『物納手続関係書類』を相続税の申告期限までに提出する必要があります。具体的には相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内になります。
単純に延納申請に関する書類のみを作成すればいいわけではなく、相続税申告書の作成も申請の準備と同時に進めなければなりません。したがって、相続税申告のノウハウのない相続人が物納の手続きをしようとすることはまず無理です。
3.物納することができる財産には条件があります
物納では、相続人が物納する財産を最終的に国が処分することになるため、換金ができないというリスクを減らすことを目的として物納する財産に制限を設けています。
下記でその制限の内容について解説していきます。
3-1物納に充てることができる財産
物納に充てることができる財産は、下記の表の通りになります。なお、相続時精算課税により取得した財産は除かれます。
また、物納に充てる財産には順位が定められており、順位の高い財産から必ず優先して物納に充てることとなります。つまり、納税者の意思で物納に充てる財産を自由に選択することはできません。
順位 | 物納に充てることのできる財産の種類 |
第1順位 | 不動産・船舶・国債証券、地方債証券、上場株式等 |
第2順位 | 非上場株式等 |
第3順位 | 動産 |
3-2物納劣後財産
物納劣後財産とは、他に物納に適した財産がある場合には物納することができない財産になります。
主に不動産について指定がされているのですが、一例としては『違法建築された建物やその敷地』、『劇場・工場などの特殊な建物やその敷地』など、財産を処分できないこともないが、一般的なものと比べると特殊な事情がある財産が分類されるという形になります。
3-3管理処分不適格財産
管理処分不適格財産とは、物納に充てることができない財産になります。
抵当権が設定されていたり、所有権の帰属について争いがある不動産や譲渡制限株式などが該当します。つまるところ、財産を処分することが難しい状況の財産は物納できないということになります。
ただし、市場価格の下落により管理処分不適格財産となることはないため、例えば、相続開始日後に著しく時価が下落した上場株式も物納する財産として選択することが可能です。
4. 物納に充てる金額は相続税評価額で算定します
物納する相続財産を国に収納する際の価額は、原則として、相続税評価額を用いることになります。
なお、小規模宅地等の特例の適用を受けた土地については、特例適用後の評価額となります。したがって、小規模宅地等の特例が適用される土地は、物納により相続税額へ充てることのできる金額は小さくなってしまいます。
物納をする相続人は、税額の規模によっては小規模宅地等の特例が適用される土地の相続はしない方がいいケースもあるということになります。
5.物納申請をする際の必要書類
物納の申請には下記の書類が必要になります。
① | 相続税物納申請書 |
② | 物納財産目録 |
③ | 金銭納付を困難とする理由書 |
④ | 物納手続関係書類 |
⑤ | (物納劣後財産がある場合のみ)物納劣後財産等を物納に充てる理由書 |
④を除いた書類については、国税庁のHPより入手することができます。
④の『物納手続関係書類』については、土地・建物・株式など、物納する財産ごとに証明書類が指定されているため、それらの書類一式を収集することになります。
例えば実務的に物納されることの多い不動産については、登記簿のほか、地積測量図や境界線に関する確認書を準備する必要があります。これらの書類は土地家屋調査士へ依頼しなければ発行ができず、境界の確定などには数か月を要するため、手続きは相続開始日から早めに進めなければなりません。
また、土地家屋調査士への報酬も不動産の規模にもよりますが、一般的に50万円~100万円が相場となりますので、測量のための資金繰りも考えておかなければなりません。
6.相続財産を換金すれば物納が必要なくなるケースもあります
納税資金が不足している場合に納税をする方法は延納や物納のみではありません。相続税の申告期限までに相続する不動産や有価証券を売却し現金化することにより、納税資金を確保するという選択肢もあります。
遺産分割協議は、すべての相続財産について各相続人がどの財産を取得するかを一度に決定する必要はありません。したがって、売却のための手続期間を加味し、相続開始日から早いうちに換金できる財産についてだけ遺産分割を行うことができます。
R2年の相続税の申告件数およそ12万件に対し、物納の申請は65件であることも鑑みると、納税資金の確保はほぼ相続財産を換金することにより行われているとみられます。納税資金の確保を検討する相続人はまずは相続財産の売却から検討することになります。
物納の申請は手続きが煩雑なだけではなく、あくまで申請のため却下のリスクも伴います。相続財産の売却により納税資金を調達できるのであれば物納の申請手続きをしないことに越したことはありません。
7.物納を選択してメリットが生じるケースもあります
物納に充てる財産の価額は相続税評価額が基準となります。したがって、物納の対象となる財産の相続税評価額と実際の市場価格とは乖離が生じる可能性があります。
そのため、相続税評価でそれなりの評価額となっていても立地的に買い手を見つけることが難しい不動産や、相続開始日後に相場が大幅に下落した上場株式など、相続税評価額の方が市場価格よりも高くなる見込みの財産を物納することにより、金銭で納付するよりも効率的な納税を実現できます。物納申請をする相続人は、相続税評価が市場価格よりも高くなる財産を優先して相続した方が有利ということになります。
実務上、納税者にメリットがある物納財産としては借地権の底地が挙げられます。
国は現状、底地の物納を借地権者以外に売却しません。したがって、物納をしたあと資金的な余裕が出てきたら国から底地を買い戻すということが可能になります。
また、底地を売却して納税資金を調達しようとする際にも、物納許可を受けた日の翌日から1年以内は物納の撤回をすることができるため、この制度を利用すると申告期限までに底地を売り急ぐ必要はなくなり、借地権者等に売買交渉する時間を確保することができます。
以上から、物納をする場合に底地をがあるときには優先的に物納財産として選択することをお勧めいたします。
8.物納には連帯納付義務が生じます
物納により納付すべき相続税がある相続人がその納税を長期間滞納した場合には、他の相続人は自身の納税が完了していたとしても、物納をする相続人が納付すべき相続税と延滞税といったペナルティの税金も含め、税務署より納付を求められることになります。
これを税務的な用語では『連帯納付義務』といいます。物納をする相続人がいる場合には税額を立替えるとばっちりを受ける可能性もありますので注意が必要なポイントになります。
9.物納についてのQ&A
遺産分割が確定していない財産は物納できるのでしょうか?
遺産分割が確定していない財産は、所有権がどの相続人に帰属するかが確定していない状態です。そのような財産は管理処分不適格財産に該当することになるため、物納は出来ません。
もし未分割の財産が物納申請された場合には、申請の審査期間中に却下されることになります。
不動産や有価証券を物納する場合に所得税は発生しますか?
物納する相続不動産の価額が、物納により納付する相続税額の枠内に収まっていれば所得税は非課税となります。
一方、物納する相続財産の価額が物納により納付する相続税額を超える金額のものしかない場合には、その納付税額を超える部分の金額は金銭により還付されます。この超える部分の金額については、通常の譲渡と同様に譲渡所得税が課されることになります。
10.物納をお考えであれば税理士への相談をお勧めします
今回は相続税の物納について解説いたしました。
物納は平成18年度の改正により物納することができる相続財産の指定が明確になったことにより申請のハードルが高くなっており、改正前と比べると近年は大きく減少傾向にあります。
また、申請の手続き自体も相続税申告と同時並行で進める必要があり、不動産を物納する場合であれば別途測量の必要も生じ、これらを相続開始日の翌日から10ヶ月以内に完了させるということはスケジュール的にもシビアなものになります。
相続税を専門とする税理士であれば、物納についてノウハウがあるだけではなく、お客様のご状況をヒアリングし物納をせずとも納税資金を確保できる選択肢をご提示できる可能性が高いですので、お悩みの方はぜひ一度税理士へのご相談をご検討ください。
相続税の申告手続き、トゥモローズにお任せください
相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
税理士法人トゥモローズでは、豊富な申告実績を持った相続専門の税理士が、お客様のご都合に合わせた適切な申告手続きを行います。
初回面談は無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。
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