【家族信託の税務】不動産所得で赤字が出ても損益通算はできない!

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この記事の執筆者:角田 壮平

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

みなさんこんにちは!
相続専門の税理士法人トゥモローズです。

家族信託において賃貸不動産を信託することが多いです。
その際に注意しないといけないことは、信託した賃貸不動産が赤字になったとしてもその赤字はなかったものとみなされるということです。

すなわち、信託した賃貸不動産から赤字が生じたとしても「信託していない賃貸不動産の黒字」や「他の給与所得等の所得」とは損益通算できないのです。

賃貸不動産を信託する場合には将来の損益見込みも考慮した上で物件選定をするべきでしょう。

今回は、賃貸不動産を信託した場合の留意点について損益通算の論点を中心に解説していきます。

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1.損益通算とは?

(1)所得税は10種類の所得ごとに計算します

損益通算の話の前に所得税の「所得」について簡単に解説します。
所得税の「所得」は下記の10種類が存在します。

□利子所得
□配当所得
□不動産所得
□事業所得
□給与所得
□退職所得
□山林所得
□譲渡所得
□一時所得
□雑所得

所得税は、まず上記10種類の所得ごとに計算していきます。
所得ごとに計算するので黒字(プラス)の所得もあれば、赤字(マイナス)の所得もあります。

この場合に赤字の所得を他の黒字の所得と相殺することを損益通算というのです。

(2)損益通算ができる所得は限定されている

前述の10種類の所得の全てが損益通算できるわけではありません。
損益通算できる所得は下記の4つに限定されています。

□不動産所得
□事業所得
□譲渡所得(総合課税)
□山林所得

ちなみに、上記4つ以外の下記の所得について損益通算が出来ない理由は下記の通りです。

□利子所得・給与所得・退職所得

この3つの所得はマイナスになることが想定されないため損益通算の対象から除かれています。

□配当所得

配当所得も一見マイナスになることがなさそうなのですが、そんなことはありません。
配当所得の必要経費といえば、株式等を取得するための借入金の利子です。
多額の借り入れをして配当以上の利子を支払ったら配当所得はマイナスになり得ます。
「借入金利子は配当だけでなく譲渡収入にも対応させられるべきであること」及び「配当のない株式を借り入れによって取得する者の担税力が大きいこと」という2つの理由から配当所得の損益通算は認められていません。

□一時所得

一時所得は生活に通常必要でない資産に関連する所得であり一時所得の計算上生じた損失も消費の一種と考えられ損益通算は認められていません。

□雑所得

雑所得は趣味的活動の一部と捉えられているためその損失も消費の一種と考えられ損益通算は認められていません。

□譲渡所得(分離課税)

土地や株式を売却した場合において利益が出れば譲渡所得の対象となりますが、当該所と所得は他の所得と区分して計算します。これを分離課税といいます。
他の所得と分離して計算しますので損失についても分離して考えることから損益通算は認められていません。

(3)損益通算の具体例

ある年の所得が下記の通りだったとします。

□配当所得 1,000
□不動産所得 △500
□事業所得 3,000
□給与所得 1,000
□雑所得 △100 

この場合の総所得金額は下記の通りとなります。

□配当所得 1,000 +不動産所得 △500 + 事業所得 3,000 + 給与所得 1,000 + 雑所得 0 = 4,500

損益通算が可能な不動産所得の△500は総所得金額からマイナスできて、損益通算ができない雑所得の△100は切り捨てられてゼロカウントとなります。

2.家族信託の不動産所得の基本

賃貸不動産を家族信託した場合にどのような課税関係になるのかということですが、結論から申し上げると受益者が不動産所得を認識します。
すなわち、受益者を賃貸不動産の所有者とみなして受益者が賃貸不動産から生じる収入、費用を認識して所得税の申告をするのです。

家族信託の登場人物は下記の通りです。

□委託者:財産を信託する人(信託契約前の所有者)
□受託者:財産を預かって管理・運用する人(信託契約後の所有者)
□受益者:財産から生じる利益を得る人

実務的には、親が委託者兼受益者となって子が受託者となるケースが一番多いです。
すなわち、自益信託というものです。

なぜ自益信託のケースが多いかというと他益信託(例えば委託者が親、受益者が子)としてしまうと家族信託の契約をした時点で信託財産を親から子に贈与したことになり多額の贈与税が発生してしまうためです。

自益信託の場合には受益者が不動産所得を認識することとなるため信託前と基本的には変わりません。
大きく変わるといえば本コラムの本題である信託財産から生じた損失を認識できなくなるという点です。
次の段落で詳しく解説します。

3.家族信託の不動産所得の損益通算

賃貸不動産を信託していない場合には、その賃貸不動産から生じる所得は不動産所得に該当し、損失が生じた場合には他の所得と相殺できます。すなわち、損益通算が可能ということです。
これに対し、賃貸不動産を信託した場合において、その賃貸不動産が損失が生じた場合にはその損失はなかったものと考えます。
このことが賃貸不動産を信託することの最大のデメリットなのです。

なお、信託した賃貸不動産の損失を認識できない理由としては、赤字の賃貸不動産の受益権を所得の高い人に移すことにより所有権を移すよりは簡単に所得税の租税回避が実現できてしまうことを防止するためです。
すなわち、所得税の租税回避を防止する目的で信託不動産の損益通算が禁止されているのです。

ちなみに、不動産所得以外の所得については損失を認識することが可能です。
理由としては、家族信託をした場合において不動産所得以外で想定できる所得としては雑所得が想定されるためです。雑所得はそもそも損益通算が認められていないため信託税制についても損失認識できない所得を不動産所得に限定したものと考えられます。

パターン別に解説していきます。

(1)賃貸不動産が1つのみでそれを信託した場合

各種所得の状況は下記の通りです。

給与所得:1,000
不動産所得:△500

総所得金額は下記となります。

給与所得1,000 + 不動産所得0 = 1,000

賃貸不動産を信託しているため損失は他の所得と損益通算できません。

(2)賃貸不動産が2つあり、そのうち1つのみを信託した場合(その1)

各種所得の状況は下記の通りです。

給与所得:1,000
不動産所得:賃貸不動産A(信託外)の所得:500
      賃貸不動産B(信託財産)の所得:△500

総所得金額は下記となります。

給与所得1,000 + 不動産所得500 = 1,500

賃貸不動産Bの損失は賃貸不動産Aの利益と相殺できません。

(3)賃貸不動産が2つあり、そのうち1つのみを信託した場合(その2)

各種所得の状況は下記の通りです。

給与所得:1,000
不動産所得:賃貸不動産A(信託外)の所得:△500
      賃貸不動産B(信託財産)の所得:500

総所得金額は下記となります。

給与所得1,000 + 不動産所得0 = 1,000

賃貸不動産Aの損失は信託外の損失のため他の物件の利益や所得と相殺できます。

(4)賃貸不動産が2つあり、その2つを同じ信託契約で信託した場合

各種所得の状況は下記の通りです。

給与所得:1,000
不動産所得:賃貸不動産A(信託契約①)の所得:500
      賃貸不動産B(信託契約①)の所得:△300

総所得金額は下記となります。

給与所得1,000 + 不動産所得200 = 1,200

同じ信託契約の中に複数の信託財産がある場合にはその信託契約の中での賃貸不動産に損失が出た場合には同じ信託契約の利益が出ている賃貸不動産との相殺は可能です。

(5)賃貸不動産が2つあり、その2つを同じ信託契約で信託した場合

各種所得の状況は下記の通りです。

給与所得:1,000
不動産所得:賃貸不動産A(信託契約①)の所得:300
      賃貸不動産B(信託契約①)の所得:△500

総所得金額は下記となります。

給与所得1,000 + 不動産所得0 = 1,000

同じ信託契約の中に複数の信託財産がある場合にはその信託契約の中での賃貸不動産に損失が出た場合には同じ信託契約の利益が出ている賃貸不動産との相殺は可能です。
今回は同じ信託契約の賃貸不動産を相殺すると△200となりますが、その△200は他の所得とは相殺できません。

(6)賃貸不動産が2つあり、その2つを別の信託契約で信託した場合

各種所得の状況は下記の通りです。

給与所得:1,000
不動産所得:賃貸不動産A(信託契約①)の所得:500
      賃貸不動産B(信託契約②)の所得:△500

総所得金額は下記となります。

給与所得1,000 + 不動産所得500 = 1,500

信託契約が別の場合には、賃貸不動産Bの損失は賃貸不動産Aの利益と相殺できません。

4.賃貸不動産を信託する場合のその他の留意点

(1)賃貸不動産を信託した場合には純損失の繰越控除もできない

青色申告をしている場合には、赤字を翌年以降3年間繰り越すことが出来ます。
これを、「純損失の繰越控除」といいます。

例えば、令和2年に△100の赤字になったとします。
その翌年の令和3年に10の黒字になったとします。
純損失の繰越控除の適用で令和3年の10の黒字は0にできて、更に令和4年に90の純損失を繰り越すことができるという精度です。
仮に令和4年に50の黒字だったらば、令和5年に40の純損失も繰り越すことが出来ます。

賃貸不動産を信託していた場合には赤字をなかったものとみなされるので当然純損失の繰越控除の適用もできないのです。

(2)賃貸不動産を信託した場合に税務署に提出すべき書類

①受託者が提出すべき書類

受託者は、信託の計算書・信託の計算合計表を受託者の住所地を所轄する税務署に提出する必要があります。

②受益者が提出すべき書類

受益者で信託から生じる不動産所得を有する人は、通常の確定申告書に添付する不動産所得用の計算書の他に下記の時効を記載した明細書を添付する必要があります。

□収入金額:不動産所得に係る賃貸料その他の収入の別
□必要経費:不動産所得に係る減価償却費、貸倒金、借入金利子及びその他の経費の別

特段雛形はないので上記の情報が記載された明細を各自作成して添付すれば問題ないと考えます。

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