負担付遺贈についてわかりやすく徹底解説
負担付遺贈とは、遺言者が受遺者(財産を受け取る人)に対して、財産を受け取る代わりに一定の義務を負担させる遺贈のことです。
負担付遺贈の文面例としては下記のようなものがあります。
□甲にA不動産を相続させるので住宅ローンを引き継いでください。
□丙にC有価証券を遺贈するので丁に対して毎月10万円を支払って老後の面倒を丁が死ぬまでみてください。
□戊に私の全財産を遺贈する代わりに私が可愛がっていたペットのお世話をお願いします。
今回は負担付遺贈の内容や課税関係についてわかりやすく解説します。
1.負担付遺贈をキーワードで徹底解説
負担付遺贈を理解する上で重要なキーワードを列挙してそのキーワードごとに解説していきます。
(1)負担の内容は何でもいいわけではない
(2)受遺者は誰でもOK
(3)受益者は誰でもOK
(4)負担は遺贈財産の価値が限度
(5)遺贈財産と負担の関連性は不要
(6)包括遺贈でも特定遺贈でもOK
(7)負担を履行しない場合には遺贈を取り消すことができる
(8)遺贈を放棄することもできる
(9)負担付遺贈は遺言執行者の指定が重要
(1)負担の内容は何でもいいわけではない
例えば、下記のような遺言だった場合に負担付遺贈に該当するのでしょうか?
上記のような負担内容は無効となります。
すなわち、負担付遺贈の負担は下記のような内容の場合には無効となるのです。
□道徳的教訓
□犯罪行為
□身分行為
(2)受遺者は誰でもOK
負担付遺贈の受遺者(負担者)には制限はありません。
相続人でもいいですし、第三者でも大丈夫です。
個人、法人も問いません。
(3)受益者は誰でもOK
受益者とは負担付遺贈により利益を受ける人です。
例えば、下記のような負担付遺贈の場合には、5,000万円を受け取るBが受益者となります。
また、下記のような負担付遺贈の場合には、遺言者本人が受益者となります。
したがって、受益者については、相続人でも第三者でも遺言者本人でも良いのです。
もちろん、個人、法人も問いません。
(4)負担は遺贈財産の価値が限度
まずは、負担付遺贈の民法条文を確認しましょう。
民法1002条第1項
負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
したがって、負担付遺贈をする場合には遺贈財産と負担のバランスを適切に考えないといけないということです。
例えば、「相続人Aに現金1,000万円を相続させる。ただし、その負担として妻Bの老人ホームの入居費用を支払うこと」という遺言があった場合に、老人ホームの入居費用が1,500万円だったとした場合に、相続人Aは1,000万円のみ負担すれば良いということです。
(5)遺贈財産と負担の関連性は不要
負担付遺贈というと不動産とそれに伴う借入金のように遺贈財産と負担に関連性を持たせないといけないと思っている人も多いかもしれませんが、その制約は一切ありません。
例えば、「相続人Aに自宅不動産を相続させる。ただし、その負担としてNPO法人Bに300万円寄付すること」のような遺贈財産と負担が全く関係していなくても有効なのです。
(6)包括遺贈でも特定遺贈でもOK
包括遺贈とは、遺産の全部や遺産の一定割合を受遺者に与える遺言です。
例えば、「遺言者の遺産の1/2を受遺者Aに遺贈する。」という遺言です。
特定遺贈とは、遺贈の目的が個別に特定されている遺言です。
例えば、「遺言者の所有するB土地を受遺者Cに遺贈する。」という遺言です。
包括遺贈と特定遺贈の違いは色々ありますが、一番の違いは債務承継の有無となります。
包括遺贈の場合には相続人と同じ権利義務を有するため被相続人の債務も承継します。
これに対して特定遺贈の場合には被相続人の債務は承継しません。
包括遺贈でも特定遺贈でも負担付遺贈とすることが可能です。
負担付遺贈を活用すれば特定遺贈なのに被相続人の債務を承継させることが可能となるのです。
ただし、債権者に対抗することはできませんので債権者と受遺者との間で改めて免責的債務引受の処理が必要です。
(7)負担を履行しない場合には遺贈を取り消すことができる
負担付遺贈は、負担の履行を停止条件とするものでも、負担の不履行を解除条件とするものでもないため受遺者が負担を履行しなくても遺贈の効力には影響ありません。
これだと遺贈財産だけ受けて負担は履行しないというカオスな状況が頻出する可能性があります。
したがって、受遺者が負担を履行しない状態を是正する手段として相続人に取消権が与えられているのです。
具体的には、受遺者が負担を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができます。
その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。
なお、取消権は相続人にのみ与えられた権利であるため受益者が相続人以外の場合には受益者自身が取消権を行使することができないこととなります。
その場合には、受益者は遺言執行者に働きかけて、遺言執行者を通じて取消権の行使をすることとなります。
家庭裁判所にて負担付遺贈の取り消しが認められた場合には、その負担付遺贈は遡及的にその効力を失います。
その結果、遺贈財産は相続人に帰属し、受益者は利益を受けられなくなります。
(8)遺贈を放棄することもできる
遺贈は放棄することが可能です。
特定遺贈の場合にはいつでも放棄が可能です。
包括遺贈の場合には相続放棄と同様に3ヶ月以内であれば放棄が可能です。
負担付遺贈の場合には通常の遺贈の場合と異なり、受遺者に負担を求めることから負担のないようによっては遺贈の放棄をされる可能性が高くなります。
したがって、確実に負担を履行してもらいたい場合には、生前に受遺者に対し、その趣旨、重要性等を説明しておくべきでしょう。
通常の遺贈の放棄があった場合には、その遺贈財産は遺言に別段の定めがないときは相続人に帰属します。
これに対し、負担付遺贈の放棄があった場合には、遺言に別段の定めがないときは受益者が受遺者となります。
なお、受益者が受遺者となった場合には負担は混同により消滅します。
(9)負担付遺贈は遺言執行者の指定が重要
受遺者が負担を適切に履行したかどうかを第三者的な見地から確認させるために負担付遺贈の場合には遺言執行者を指定しておいたほうが良いでしょう。
負担の内容が曖昧なときには特に履行の判定が重要となってきますので第三者的な立場で遺言執行者にその判断をしてもらうべきでしょう。
2.負担付遺贈と相続税
(1)負担者の相続税
負担付遺贈を受けた者(負担者)の相続税の課税価格は下記算式により計算します。
※1 負担付贈与の場合には、不動産については通常の取引価額にて評価することとなりますが、負担付遺贈の場合にはすべての財産について相続税評価額にて計算することとなります。
※2 遺贈のあった時において確実と認められる金額に限ります。
上記計算式の根拠は、相続税法基本通達11の2-7(負担付遺贈があつた場合の課税価格の計算)になりますので念のため転載しておきますが、専門家以外の人は読み飛ばしてください。
相続税法基本通達11の2-7(負担付遺贈があつた場合の課税価格の計算)
負担付遺贈により取得した財産の価額は,負担がないものとした場合における当該財産の価額から当該負担額(当該遺贈のあつた時において確実と認められる金額に限る。)を控除した価額によるものとする。
(2)受益者の相続税
負担付遺贈により利益を受けた者(受益者)は、負担者より受け取った利益相当額を遺贈により取得したものとして相続税が課されます。
上記の根拠は、相続税法基本通達9-11(負担付贈与等)になりますので念のため転載しておきますが、専門家以外の人は読み飛ばしてください。
相続税法基本通達9-11(負担付贈与等)
負担付贈与又は負担付遺贈があった場合において当該負担額が第三者の利益に帰すときは、当該第三者が、当該負担額に相当する金額を、贈与又は遺贈によって取得したこととなるのであるから留意する。この場合において、当該負担が停止条件付のものであるときは、当該条件が成就した時に当該負担額相当額を贈与又は遺贈によって取得したことになるのであるから留意する。
(3)具体例を用いて相続税の課税関係を確認していきましょう
① 負担者:相続人、受益者:相続人
遺言者は土地を相続人Aに相続させる。ただし、相続人Aは土地を相続する負担として相続人Bに5,000万円支払う。
【遺産内訳】
土地1億円のみ
【各人の課税価格】
相続人A:土地1億円 - 負担額5,000万円 = 5,000万円
相続人B:5,000万円
【解説】
負担者も受益者も相続人の場合には特段難しい論点はありません。
代償分割と同じ課税関係となります。
すなわち、負担者である相続人の課税価格から負担額をマイナスし、受益者である相続人はその受け取った負担額が相続税の対象となります。
② 負担者:相続人、受益者:第三者
遺言者は土地を相続人Cに相続させる。ただし、相続人Cは土地を相続する負担として遺言者の友人Dに3,000万円支払う。
【遺産内訳】
土地1億円のみ
【各人の課税価格】
相続人C:土地1億円 - 負担額3,000万円 = 3,000万円
友人D:3,000万円
【解説】
友人Dは遺言者の相続人でもなく、遺言者から直接遺産を取得したわけでもないですが、相続人Cから受け取った負担金について相続税が課税されます。意外ですよね。
③ 負担者:相続人、受益者:なし(被相続人の債務)
遺言者は自宅の土地、建物を相続人Eに遺贈する。ただし、相続人Eは当該土地建物を取得する負担として当該土地建物に係る住宅ローンを承継すること。
【遺産内訳】
自宅土地建物1億円
住宅ローン3,000万円
【各人の課税価格】
相続人E:自宅土地建物1億円 - 住宅ローン3,000万円 = 7,000万円
【解説】
相続人に対する負担付遺贈であるため、住宅ローンを財産から直接マイナスしても債務控除の対象としても相続人Eが負担すべき相続税に変化はありません。
したがって、仮に遺言書において負担の記載(上記遺言内容のただし書き)がなかったとしても債務控除により相続人Cの課税価格は7,000万円となります。
相続税申告書の記載上、負担付遺贈と考えるなら住宅ローンは第11表にてマイナス表記しますし、債務控除と考えるなら第13表に住宅ローンを記載します。
④ 負担者:特定受遺者、受益者:なし(被相続人の債務)
遺言者は自宅の土地、建物を受遺者Fに遺贈する。ただし、受遺者F当該土地建物を取得する負担として当該土地建物に係る住宅ローンを承継すること。
その他の財産は相続人Gに相続させる。
【遺産内訳】
自宅土地建物1億円
住宅ローン3,000万円
現預金1億円
【各人の課税価格】
受遺者F:自宅土地建物1億円 - 住宅ローン3,000万円 = 7,000万円
相続人G:現預金1億円
【解説】
受遺者Fは特定受遺者のため債務控除の適用はできません。
したがって、上記②と異なり、仮に遺言書において負担の記載(上記遺言内容のただし書き)がなければ住宅ローン3,000万円を相続税上マイナスできないこととなってました。
⑤ 負担者:特定受遺者、受益者:なし(被相続人の債務)
遺言者は自宅の土地、建物を受遺者Hに遺贈する。
その他の財産は相続人Iに相続させる。
未払金は受遺者Hが負担すること。
【遺産内訳】
自宅土地建物1億円
現預金1億円
未払金3,000万円
【各人の課税価格】
受遺者H:自宅土地建物1億円
相続人I:現預金1億円
【解説】
受遺者Hは特定受遺者のため債務控除の適用はできません。
したがって、上記遺言が負担付遺贈と解釈されなければ仮に未払金を受遺者Hが負担していたとしても受遺者Hの課税価格から未払金をマイナスすることができません。
遺言の解釈の話なので上記のような記載でも負担付遺贈と解釈されて下記の計算結果となる可能性もあります。
【各人の課税価格】
受遺者H:自宅土地建物1億円 - 未払金3,000万円 = 7,000万円
相続人I:現預金1億円
なお、確実に負担付遺贈にしたいのなら、下記のような遺言にしておくべきです。
その他の財産は相続人Iに相続させる。
⑥ 負担者:特定受遺者、受益者:なし(被相続人の債務)
遺言者は自宅の土地建物を受遺者Jに遺贈する。ただし、受遺者Jは当該土地建物を取得する負担として遺言者の相続開始時に有する債務、遺言者の葬儀費用を負担すること。
その他の財産は受遺者Kに遺贈する。
【遺産内訳】
自宅土地建物1億円
現預金1億円
債務100万円
葬式費用100万円
【各人の課税価格】
受遺者J:自宅土地建物1億円 - 債務・葬式費用200万円 = 9,800万円
受遺者K:現預金1億円
【解説】
特定遺贈のため債務・葬式費用は債務控除の対象とはなりません。
ただし、負担付遺贈のため財産からマイナスすることはできます。
特定受遺者であっても負担付遺贈としておけば債務、葬式費用を実質的に債務控除と同様の経済的効果を生じさせることができるということです。
3.負担付遺贈と所得税
負担付遺贈があった場合には、所得税の課税関係が生じる可能性があります。
下記の2つのケースに分けて解説します。
(1)負担者が特定受遺者
(2)負担者が相続人又は包括受遺者
(1)負担者が特定受遺者
負担者が特定受遺者の場合には、負担付遺贈により被相続人の債務が消滅したことにより、その経済的利益が被相続人の譲渡収入と認識されて被相続人の準確定申告において譲渡所得税の課税が生じる可能性があります。
負担付贈与で同様の課税関係が生じることから負担付遺贈においても同様だと考えられています。
国税庁HP タックスアンサー 負担付贈与に対する課税
譲渡所得の課税が生じる可能性があるのは下記条件を満たしたときになります。
□特定遺贈であること
□遺贈財産が譲渡所得の基因となる財産であること
□負担額が遺贈財産の取得費を超えていること
具体例にて確認していきましょう。
遺言者は自宅の土地、建物を受遺者Aに遺贈する。ただし、受遺者A当該土地建物を取得する負担として当該土地建物に係る住宅ローンを承継すること。
その他の財産は相続人Gに相続させる。
【遺産内訳】
自宅土地建物1億円(取得費1,000万円)
住宅ローン3,000万円
現預金1億円
【被相続人の譲渡所得】
譲渡収入 3,000万円(住宅ローン残債) - 取得費 1,000万円 = 2,000万円
【解説】
負担付遺贈により遺言者の債務3,000万円が消滅したことになります。
3,000万円の債務消滅の利益を受けたのは遺言者本人となります。
したがって、当該利益のうち遺贈財産の取得費を超える部分については遺言者の所得として認識する必要があるのです。
所得税のみの課税であり、住民税については課税されません。(住民税はその年の1月1日に存命している場合にのみ課税されるため準確定申告においては課税されません。)
なお、上記見解に異を唱える専門家も存在します。
どういうロジックかと言うと、被相続人の債務は可分債務であるため遺言者の相続開始と同時に相続人に直接承継されることから特定受遺者は被相続人から直接承継するのではなく相続人を通して当該債務を承継しているためであるというものです。
すなわち、負担付遺贈であっても遺贈財産と債務の承継は直接的な関連性がないことから譲渡所得課税はなじまないとする見解です。
相続実務に20年近く携わっている私も負担付遺贈で上記3条件を満たしたことがないため税務当局の現場の温度感はわかりませんが、納税者には上記2つの見解があって譲渡所得課税の対象となる可能性は伝えたほうが良いかと考えてます。
(2)負担者が相続人又は包括受遺者
負担者が相続人又は包括受遺者の場合には、譲渡所得課税は生じません。
理由としては、相続人又は包括受遺者は被相続人の債務を承継する必要があり、被相続人の債務消滅という利益が発生していないためです。
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