贈与税が非課税となる生活費と教育費 事例別にわかりやすく解説


・親や祖父母からの生活費や教育費の援助は、通常必要と認められる範囲であれば贈与税はかかりません。
・「通常必要と認められる範囲」とは、社会通念上適当とされる金額や用途を指します。
・具体的な事例として、大学生の子への学費や生活費、高齢の親への生活費の送金などが非課税となるケースがあります。
・一方で、高額な自動車の購入費用や内縁の妻への生活費の送金などは、贈与税の課税対象となる可能性があります。
・贈与税の非課税範囲はケースバイケースで判断されるため、詳細は税理士に相談することが重要です。
親から子、祖父母から孫等への贈与のうち生活費又は教育費に充てるための贈与で通常必要と認められるものは贈与税は非課税となります。(相続税法第21条の3第1項第2号)
相続税法第21条の3第1項第2号
扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの
ここで悩ましいのが「通常必要と認められるもの」の範囲です。
相続税法基本通達では、「被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲」までとされています。
「通常必要と認められる」や「社会通念上適当と認められる」というワードは税務の世界では常套文句であり、「不確定概念」と言われています。
すなわち、明確な基準はなくてケースに応じて判断してくださいということです。
具体的な事例に基づいてケースごとに贈与税の非課税となるか否か確認してきましょう。
下記には私見が含まれますので実際に課税判断や税務申告等される場合には税理士に確認するようにお願いします。
目次
事例1 夫婦間の生活費
※妻は毎月10万円を生活費として使い切っている
贈与税非課税
【解説】
典型的な扶養義務者間での生活費相当の資金移動のため贈与税は非課税となります。
事例2 一人暮らしの子(大学生)への生活費の送金
※長男は都内で一人暮らしをしている大学生
※長男は毎月10万円を生活費として使い切っている
贈与税非課税
【解説】
典型的な扶養義務者間での生活費相当の資金移動のため贈与税は非課税となります。
事例3 高齢の母への生活費の送金
※長男は年収1,000万円のサラリーマン、妻と大学生の子と同居
※母は北海道で一人暮らし、年金だけだと生活が厳しく、蓄財もほぼない
※母は毎月10万円を生活費として使い切っている
贈与税非課税
【解説】
典型的な扶養義務者間での生活費相当の資金移動のため贈与税は非課税となります。
事例4 障害者である50代の子への生活費の送金
※長男は50歳、無職、父と同居、長年精神障害があり、財産もなし
※長男は毎月10万円を生活費として使い切っている
贈与税非課税
【解説】
長男は成人していて本来ならば社会人として独立して生計を立てられないといけない年齢ですが、実際に生活できる資力はないので父からの生活費としての資金移動は贈与税非課税となります。
事例5 怠惰な生活を送る50代の子への生活費の送金
※長男は50歳、ギャンブルが趣味で定職に就いていない、怠惰な生活
※長男は毎月20万円を生活費、ギャンブルに使い切っている
グレーゾーン
【解説】
長男は成人していて本来ならば社会人として独立して生計を立てられないといけない年齢であり、事例4と異なり、ギャンブルや怠惰な生活によって資力がない状況です。
扶養義務には下記の2つがあります。
・生活扶助義務
生活保持義務とは、夫婦間や親と未成年の子のように扶養権利者を義務者と同じレベルで生活を支える義務のことです。
これに対し、生活扶助義務とは、老親と成熟した子のように扶養義務者の生活の余裕がある場合に助ける程度の義務のことです。
成熟した子に対する生活扶助義務は、一般的に下記の2つの要件を満たしたときにのみ生じるとされています。
□親の生活に余裕があること
本事例の場合には子が成熟しているため親に生活保持義務はなく、また、親の生活に余裕はあっても成熟した子の怠惰により生活力がないため、父から長男への資金移動のすべてが社会通念上適当と認められる生活費に該当すると認定するのは難しいでしょう。
事例6 大学生の子の教育費の送金
贈与税非課税
【解説】
大学の学費の負担は社会通念上適当と認められる範囲に収まりますので贈与税は非課税となります。
事例7 大学生の孫の教育費の送金
※長男(孫の親)は年収1,000万円程度あり、財産も5,000万円程度あり
贈与税非課税
【解説】
長男(孫の親)は年収も高く、蓄財もあるので本来的には孫の親である長男が自身の子の学費を負担すべきですが、一代飛び越えて祖父母が教育費を負担しても贈与税は課税されないでしょう。
事例8 相当の資力のある長男への生活費の送金
※長男家族は長男、妻、小学生の三人暮らしで長男は年収1,000万円程度あり、財産も5,000万円程度あり
※毎月30万円は使い切っている
グレーゾーン
【解説】
前事例の孫の教育費は贈与税非課税なのに生活費は非課税にならないの?と疑問に思った人も多いと思います。
相続税法や相続税法基本通達では、生活費と教育費とで子の資力の程度の違いによって課税関係が異なる扱いはされていません。
ただ、実務の現場では生活費と教育費では取り扱いが異なるのではないかと思慮しています(私見です)。
教育費には教育資金の一括贈与の特例が存在し、祖父母が孫の教育費を一括で贈与しても贈与税を課税しないという制度があります。
この制度の影響があるかどうかは不明ですが、祖父母が孫の教育費をその都度負担していても孫の親の生活力までは確認されないことがほとんどです。
これに対し、生活費については子の資力如何によっては社会通念上適当と認められる生活費に該当しないと認定される可能性あると思います。
国税庁HP 「扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」について(情報)のQ5-1でもそのようなニュアンスを読み取ることができます。
事例9 大学生の子への高額な自動車購入費用の送金
※長男は一人暮らしの大学生
※長男は800万円で自動車を購入した
贈与税課税
【解説】
生活に必要な車だとしても800万円と高額であり、より安価で生活に使える車は他にあると考えられるため通常の日常生活を営むのに必要な費用の範囲を超えると認定されるでしょう。
事例10 内縁の妻への生活費の送金
※内縁の妻は毎月30万円は使い切っている
グレーゾーン
【解説】
夫婦間の生活費の資金移動については贈与税が非課税とされることは事例1で解説しました。
本件は、法律婚ではない内縁の妻に対する生活費の振込です。
相続税法第21条の3第1項第2号では、「扶養義務者相互間」と相手先を扶養義務者に限定しています。
相続税法における扶養義務者は、下記法令、通達にて範囲が決められています。
相続税法第1条の2(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 扶養義務者 配偶者及び民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条(扶養義務者)に規定する親族をいう。
(以下省略)
相続税法基本通達1の2-1 「扶養義務者」の意義
相続税法(昭和25年法律第73号。以下「法」という。)第1条の2第1号に規定する「扶養義務者」とは、配偶者並びに民法(明治29年法律第89号)第877条((扶養義務者))の規定による直系血族及び兄弟姉妹並びに家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族をいうのであるが、これらの者のほか三親等内の親族で生計を一にする者については、家庭裁判所の審判がない場合であってもこれに該当するものとして取り扱うものとする。
なお、上記扶養義務者に該当するかどうかの判定は、相続税にあっては相続開始の時、贈与税にあっては贈与の時の状況によることに留意する。
上記通達における「配偶者」とは法律婚における配偶者であるため内縁関係は含まれません。
したがって、文理だけで解釈すると内縁の妻に対する生活費の送金は贈与税の対象となります。
しかし、過去の裁判例(令和6年12月12日東京高裁)では、内縁関係であっても法律婚と同様に婚姻費用分担義務の規定が準用されるため内縁の妻に対する生活費は通常必要と認められると判断されています。
本裁判例が特殊事例であったことは否めませんが、内縁関係での生活費の送金がすべての事案で贈与税の課税対象になるとは言い切れないと考えます。
贈与税可否の判定要素としては、下記を総合的に勘案して判定します。
・財産の額
・移転の頻度
・夫婦それぞれの収入や資力
・移転に対する認識
・移転後の使途等
生活費、教育費以外の贈与税非課税についての詳しい解説は、贈与税がかからない方法5選! 非課税贈与を完全解説をご参照ください。
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