台湾の相続制度と相続税を日本と比較しながら徹底解説


・台湾の相続制度は台湾民法に規定され、日本と異なる部分も多い
・台湾の相続税率は課税遺産純額に対し10%、15%、20%の3段階累進課税制度となっている
・台湾国籍者が死亡すると台湾法が適用され、台湾に財産があれば外国人でも台湾相続税の対象となる
・相続税申告期限は死亡日から6ヶ月で3ヶ月延長可能、各種控除額が充実している
・台湾の相続手続きは、戸籍謄本の認証プロセスが複雑になる場合があり、日本の相続より手間がかかることがある
台湾は日本と同様に戸籍制度があり、相続法も日本に類似した部分が多くあります。
しかし、法定相続人の順位や相続分、税制度などに重要な違いがあるため、台湾関連の相続では注意深い対応が必要です。
また、台湾には相続税も存在します。
日本との相違点を明確にしつつわかりやすく台湾の相続制度と相続税について解説します。
台湾の相続制度
法定相続人の範囲と順位
台湾民法第1138条では、配偶者を除く法定相続人を以下の順位で定めています。
順位 | 相続人 |
配偶者 | 常に相続人 |
第1順位 | 直系卑属 |
第2順位 | 父母 |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
第4順位 | 祖父母 |
祖父母の相続順位
重要な違いとして、台湾では第4順位に祖父母が規定されています。
日本では父母、祖父母は直系尊属として第2順位の相続人となりますが、台湾では祖父母は第4順位となります。
代襲相続制度
台湾では被相続人の直系卑属のみに代襲相続が認められ、日本のように兄弟姉妹の子に代襲相続権はありません。
配偶者の法定相続分
台湾民法第1144条による配偶者の相続分は以下のとおりです。
共同相続人 | 配偶者の相続分 | 計算例 |
第1順位(子供) | 他の相続人と均等 | 配偶者・子2人の場合:各1/3 |
第2順位(父母) | 2分の1 | 配偶者1/2、父母1/4ずつ |
第3順位(兄弟姉妹) | 2分の1 | 配偶者・兄弟姉妹が3人の場合:配偶者1/2、兄弟姉妹各1/6 |
第4順位(祖父母) | 3分の2 | 配偶者・祖父母が4人の場合:配偶者2/3、祖父母各1/12 |
単独相続 | 全部 | 他に相続人がいない場合 |
台湾と日本の相続制度の違い
項目 | 台湾 | 日本 |
相続 順位 |
第1順位:子 第2順位:父母 第3順位:兄弟姉妹 第4順位:祖父母 ※配偶者は常に相続人 |
第1順位:子 第2順位:父母、祖父母等(直系尊属) 第3順位:兄弟姉妹 ※配偶者は常に相続人 |
相続分 |
配偶者と子:均等 配偶者と父母:配偶者1/2、残りを父母で均等 配偶者と兄弟姉妹:配偶者1/2、残りを兄弟姉妹で均等 配偶者と祖父母:配偶者2/3、残りを祖父母で均等 |
配偶者と子:配偶者1/2、残りを子で均等 配偶者と父母:配偶者2/3、残りを父母で均等 配偶者と兄弟姉妹:配偶者3/4、残りを兄弟姉妹で均等 |
代襲相続 |
子に代わって孫が代襲可。 兄弟姉妹の代襲相続(甥姪)は不可。 |
子に代わって孫が代襲可。 兄弟姉妹の代襲相続(甥姪)も可。 |
日本と台湾で相続制度が若干異なるので注意が必要です。
日本の相続分についての詳しい解説は、相続が発生したら誰が「相続人」なの?意外と知らない法定相続人の範囲と相続分をご参照ください。
限定相続の有限責任
台湾の相続法は「限定相続の有限責任」が原則であり、相続人は被相続人の債務について「相続によって得た財産の範囲内」でのみ責任を負います。
つまり、債務超過の場合でも、相続人自身の固有財産で負債を支払う必要はありません。
ただし、「相続放棄」制度自体は今も存在し、一切の権利義務(遺産も債務も)を承継したくない場合や、相続人としての地位自体を放棄したい場合には、相続放棄の手続きを裁判所に申立てることができます。
項目 | 台湾 | 日本 |
基本制度 | 限定相続(限定責任)原則 | 単純承認・限定承認・相続放棄 |
放棄手続の必要性 | 通常不要(負債超過でも自然に限定) | 必要(相続開始後3ヶ月以内) |
相続人の責任 | 常に相続財産の限度(有限責任) | 手続しなければ無限責任の可能性あり |
遺留分制度
台湾でも遺留分があり、以下のように定められています。
相続人 | 遺留分 |
配偶者、直系血族卑属、父母 | 2分の1 |
兄弟姉妹 | 3分の1 |
祖父母 | 3分の1 |
台湾相続手続きの流れと必要書類
台湾籍の方の相続手続きは、以下の流れで進めます。
1. 遺言書の有無確認
2. 相続人の確定
3. 相続財産の調査・評価
4. 遺産分割協議
5. 相続税申告
6. 各種遺産の名義変更
1. 遺言書の有無確認
台湾の相続法では、以下の種類の遺言が認められています。
・公証遺言
・密封遺言
・代筆遺言
・口述遺言
封印された遺言書は、「親族会議の場」または「裁判所の公証立会いの場」で開封する必要があります。
2. 相続人の確定
台湾にも日本と同様に戸籍制度があるため相続人確定のため下記のような資料を収集します。
【被相続人関連書類】
・台湾の役所発行の出生から死亡までの戸籍関係書類(日本語翻訳要)
・基本的に三段階認証が必要
・死亡証明書
【相続人関連書類】
・法定相続人全員の台湾戸籍証明書(日本語翻訳要)
・相続人が日本に帰化している場合は日本の戸籍謄本
・相続人との関係を証明する書類
台湾戸籍の取得は日本の戸籍取得と比較してより複雑で時間がかかるのが実情です。
主な理由として以下が挙げられます。
・基本的に三段階の認証が必要
・取得した戸籍関係書類を日本語に翻訳する必要がある
取得方法の選択肢
台湾戸籍の取得方法には以下の4つがあります。
取得方法 | 必要書類・手続き | メリット・デメリット |
本人申請 | 国民身分証、申請書、認証手数料 | 確実だが本人が台湾に行く必要 |
代理申請 | 委任状、申請者パスポート写し、代理人情報等 | 台湾の知人に依頼可能 |
郵送申請 | 申請書、パスポート写し、返信用封筒等 | 時間がかかるが現地に行く必要なし |
専門家代行 | 委任状等 | 確実だが費用が高額 |
3. 相続財産の調査・評価
こちらは日本の相続手続きと同様に財産目録を作成する手順となります。
相続人が相続開始前2年以内に被相続人から財産の贈与を受けていたときは、その財産は被相続人の遺産とみなされ、相続税が課税されます。
4. 遺産分割協議
遺言がない場合や遺言と異なる分割を行う場合は、相続人全員の合意で遺産分割協議書を作成します。
5. 相続税申告
台湾の相続税の申告期限は6ヶ月です。
詳しくは、後述の台湾の相続税制をご参照ください。
6. 各種遺産の名義変更
台湾では相続税の納税後でないと各種遺産の名義変更ができないルールとなっています。
したがって、預金の払い戻しや不動産の名義変更も相続税の申告、納税が完了したあとに実施することとなります。
台湾の相続税制
台湾の相続税制は日本と異なり、遺産課税方式となります。
遺産課税方式とは、被相続人が残した遺産の総額に対して課税する方式で、相続人の取得額にかかわらず遺産全体を一つの課税単位として扱う制度です。
したがって、正確には相続税ではなく遺産税と呼びますが、このコラムでは明瞭性の観点から相続税と記載します。
課税対象財産の範囲
台湾相続税の課税対象となる財産の範囲は、被相続人の国籍と居住状況により決まります。
・台湾国籍者で恒常的に台湾国外に居住する場合:台湾国内の財産のみが課税対象
・外国籍者の場合:台湾国内に所在する財産のみが課税対象
重要なのは、日本人であっても台湾国内に財産を所有していれば、その相続人などは台湾の相続税を申告して納付しなければならないということです。
基礎控除額
台湾の相続税制度では、以下の基礎控除(非課税枠)が用意されています。
直近の為替レートである1台湾ドル=5円だとすると約6665万円が基礎控除となります。
なお、被相続人が軍人、警察官、公務員で殉職した場合には基礎控除は2,666万台湾ドルになります。
また、被相続人が国外居住の台湾国民でも台湾国籍がなくても1,333万台湾ドルの基礎控除の適用が可能です。
日本の相続税の基礎控除については、相続税の基礎控除 相続税はいくらまでなら無税なのか をご参照ください。
なお、基礎控除以外のその他の控除については下記の通りです。
配偶者控除:553万台湾ドル
直系血族控除:1人につき56万台湾ドル
未成年者追加控除:20歳までの年数×56万台湾ドル
父母控除:1人につき138万台湾ドル
重度障害者控除:1人につき693万台湾ドル
葬儀費用控除:138万台湾ドル
不動産の相続税評価
土地については、土地については、相続開始時点での公告されている現値(土地公告現値)又は標準価格を基準とします。
建物については、相続開始時点での標準価格を基準とします。
土地公告現値とは、台湾における直轄市及び県政府地価評議委員会が実施主体となって評価する毎年1月1日時点の土地の現在価格であり、日本の地価公示に相当する評価額をいいます。
標準価格とは、政府や自治体が公表する「公告地価」や「公告現値」を基準とし、これは実際の取引価格(実勢価格)よりも大幅に低い水準で設定されている評価額のことをいいます。
土地公告現値と標準価格の相違点についてまとめました。
比較項目 | 公告現値(公告現值) | 標準価格(公告地價) |
主な課税用途 | 相続税、贈与税、土地増値税、不動産取得税の課税評価 | 地価税(保有税)の課税評価 |
評価主体 | 各直轄市・県(市)の地方政府(地政局) | 各地方政府(地価評議委員会)、制度監督は財政部 |
評価頻度・時期 | 年1回(通常毎年1月1日基準で更新) | 2年に1度(状況により延期あり) |
実勢価格との乖離 | 実勢価格の約90%前後(市場価格に近い) | 実勢価格の約20%(大きく乖離、課税軽減目的) |
価格の役割 | 取引・相続・贈与・政府収用の価格参考・課税ベース | 地価税課税のための土地の基準評価額 |
法的根拠 | 平均地権条例 第46条、遺産及贈与税法、土地増値税条例 | 平均地権条例 第11〜17条、土地税法 |
その他の特徴 | 毎年見直され市場を即時反映。収用価格の算定基準にも使用 | 税負担軽減のため低く設定。申告制度(申報地價)と連動 |
海外不動産の相続税評価についての詳しい解説は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をわかりやすく解説をご参照ください。
相続税率
台湾の相続税(遺産税)は、2017年5月12日以降の制度改正により、10%、15%、20%の累進税率で課税されています。これは従来の一律10%税率から変更されたもので、現在の詳細な税率構造は以下のとおりです。
課税遺産純額 | 税率 | 累進差額 |
5,000万台湾ドル以下 | 10% | 0 |
5,000万台湾ドル超から1億台湾ドル以下 | 15% | 250万台湾ドル |
1億台湾ドル超 | 20% | 750万台湾ドル |
申告期限
台湾の相続税申告期限は死亡日から6か月となっており、必要に応じて3か月の延長が認められています。これは日本の10か月の申告期限と比較して短期間であるため、早めの準備が重要です。
日本の相続税の申告期限の詳しい解説は、相続税の申告期限はいつまで!?期限までに終わらせる秘訣と期限を超えた場合のペナルティをご参照ください。
納税方法
台湾では賦課課税方式を採用しており、税務当局は申告書を受領した日から2ヶ月以内に調査等を行い、税額を決定して納税義務者へ賦課通知を行います。
納税義務者は、その通知を受けた日から2ヶ月以内に納付する必要があります。
なお、この賦課通知に記載された税額が正確でない場合には納税者は訂正の申請をすることとなります。
納付すべき相続税が30万台湾ドル以上で現金一括納付が困難な場合、賦課通知送達から2か月以内に18期分割納付の申請が可能です。
各期の間隔は2か月を超えてはならないため、最長3年間での分割納付が可能となっています。
台湾相続税の計算例
以下の条件で台湾相続税を計算してみます。
・遺産総額:NT$60,000,000
・法定相続人:配偶者1名、子供2名
①課税対象遺産額の算出
遺産総額NT$60,000,000 - 控除合計NT$ 21,360,000※ = NT$38,640,000
※控除合計内訳
基礎控除額:NT$13,330,000
配偶者控除:NT$5,530,000
子供控除:NT$560,000 × 2名 = NT$1,120,000
葬儀費用控除:NT$1,380,000
②相続税額の計算
NT$38,640,000 × 10% = NT$3,864,000
日本円に換算すると約2,000万円くらいとなります。
台湾相続に関するQ&A
Q1. 台湾国籍の方が日本で亡くなった場合、どちらの国の法律が適用されますか?
台湾の法律が適用されます。日本の法律では「相続は被相続人の本国法による」と規定されており、台湾の法律でも同様に「相続は被相続人の死亡時の本国法による」と規定されているため、台湾法が適用されることになります。
Q2. 日本人でも台湾の相続税を納める必要がありますか?
はい、必要です。日本国籍であっても、台湾国内に財産を所有していれば、その相続人などは台湾の相続税を申告して納付しなければなりません。日本で既に相続税を支払ったかどうかに関係なく適用されます。
Q3. 台湾の相続税申告期限はいつまでですか?
台湾相続税の申告期限は死亡の日から6ヶ月です。ただし、3ヶ月の延長が可能となっています。申告後、税務当局から納税通知書を受領し、その通知を受けた日から2ヶ月以内に納税を行う必要があります。
Q4. 台湾と日本の相続における主な違いは何ですか?
主な違いは、台湾では第4順位に祖父母が規定されていること、配偶者と子が相続する場合の相続分が均等であること(日本は配偶者1/2、子1/2を均等分割)、代襲相続が直系卑属のみに認められること、相続放棄後の処理方法などです。
Q5. 台湾の戸籍謄本取得で注意すべき点はありますか?
台湾の戸籍謄本を郵送で取得する際、申請料である台湾ドルをEMSや国際郵便に同封することは日本および台湾の郵便法違反となります。必ず適法な方法で手続きを行い、できれば専門家に依頼することをお勧めします。
まとめ
台湾の相続制度・相続税制度は、日本と類似している部分もありますが、重要な違いが多数存在します。
特に、第4順位に祖父母が規定されている法定相続人の順位、配偶者と子の相続分が均等となる法定相続分、10%・15%・20%の累進税率による相続税制度などは、日本とは大きく異なる特徴です。
台湾国籍の方の相続では台湾法が適用され、外国人であっても台湾に財産があれば台湾相続税の対象となります。
相続税申告は死亡日から6ヶ月(3ヶ月延長可能)以内に行う必要があり、基礎控除1,333万台湾ドルをはじめとする各種控除制度が充実しています。
ただし、台湾の相続手続きは戸籍謄本の認証プロセスが複雑になる場合があり、日本の相続手続きより手間がかかることがあります。
また、日本と台湾の両方で相続税が課される可能性があるため、外国税額控除制度の活用も重要となります。
台湾相続は日本と台湾の双方の法律・税務知識が必要な複雑な手続きです。
適切な相続手続きを行うためには、両国の専門家と連携しながら進めることが不可欠といえるでしょう。
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相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
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