海外移住で相続税ゼロ?10年ルールの要件を徹底解説

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国際相続

海外移住で相続税ゼロ?10年ルールの要件を徹底解説
10秒でわかる この記事の要約
・海外移住で相続税を回避するには「被相続人・相続人の両方」が10年超、日本に住所を持たないことが必要
・住民票を抜いただけでは不十分。税法上の「住所」は生活の本拠で判断される
・10年経過後も「日本国内の財産」には相続税がかかる
・有価証券が1億円以上あると「国外転出時課税」で含み益に所得税がかかる
・平成29年の税制改正で5年から10年に延長され、ハードルは大幅に上がった

「シンガポールには相続税がない」
「海外移住すれば相続税を払わなくていい」

そんな話を耳にしたことはありませんか?

確かに、海外には相続税がない国がたくさんあります。
シンガポール、香港、マレーシア、オーストラリア、カナダ…。
これらの国に移住すれば、日本の相続税から逃れられるのでしょうか?

結論から言います。
簡単には逃れられません。

日本の相続税には「10年ルール」と呼ばれる厳しい縛りがあります。
このルールを正しく理解しないまま海外移住を計画すると、数千万円〜数億円の誤算が生じることもあります。

この記事では、相続税の「10年ルール」について、実務経験に基づいて徹底解説します。
読み終わる頃には、ご自身のケースでこのルールが使えるかどうか、判断できるようになります。

なお、この記事は、被相続人及び相続人が日本国籍であることを前提として解説しています。

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相続税の「10年ルール」とは?

相続税の10年ルールとは、被相続人(亡くなった方)と相続人の両方が、相続開始前10年以内に日本に住所を持っていなければ、海外財産に日本の相続税がかからないというルールです。

逆に言えば、どちらか一方でも10年以内に日本に住所があれば、世界中どこにある財産でも日本の相続税がかかります。

【10年ルールの要件】
①被相続人が相続開始前10年以内に日本に住所がない
②相続人が相続開始前10年以内に日本に住所がない
③両方を満たして初めて、海外財産に日本の相続税がかからなくなる

このルールは平成29年(2017年)の税制改正で、従来の「5年」から「10年」に延長されました。
当時、5年を想定して海外移住を計画していた富裕層の中には、計画が頓挫した方も少なくありません。

なぜ10年ルールができたのか

そもそも、なぜこのような厳しいルールが存在するのでしょうか。

日本の相続税は世界的に見ても高い水準にあります。
最高税率55%は、イギリスの40%、アメリカの40%を上回ります。

一方で、シンガポールやマレーシアには相続税がありません。
「それなら、相続前に海外に移住してしまえばいい」と考える人が出てくるのは自然なことです。

しかし、これを許してしまうと、富裕層だけが合法的に相続税を逃れることになります。
国としては、税収の流出と課税の公平性という二重の問題が生じます。

そこで政府は、海外移住による租税回避を防ぐため、段階的にルールを厳格化してきました。

【相続税の納税義務に関する改正の歴史】
・平成12年以前:国外財産は非課税
・平成12年改正:相続人が5年以内に日本に住所があれば全世界課税
・平成25年改正:被相続人が5年以内に日本に住所があれば全世界課税
・平成29年改正:「5年」を「10年」に延長(現行ルール)

このように、抜け道がふさがれるたびに、ルールは厳しくなってきたのです。

10年ルールの具体的な判定方法

10年ルールの判定は複雑です。
被相続人と相続人の「国籍」「住所の有無」「住所があった期間」によって、課税される財産の範囲が変わります。

以下の表で、ご自身のケースを確認してください。

ケース 被相続人の状況 相続人の状況 課税対象財産
日本に住所あり 日本に住所あり 国内・国外すべて
日本に住所あり 海外在住
(10年以内に日本に住所あり)
国内・国外すべて
海外在住
(10年以内に日本に住所あり)
日本に住所あり 国内・国外すべて
海外在住
(10年以内に日本に住所あり)
海外在住
(10年以内に日本に住所あり)
国内・国外すべて
海外在住
(10年超日本に住所なし)
海外在住
(10年超日本に住所なし)
国内財産のみ

重要:⑤のケースでも、日本国内の財産(不動産、預金、株式など)には相続税がかかります。「海外移住すれば相続税ゼロ」というわけではありません。

相続税の納税義務の詳しい解説は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!をご参照ください。

「住所」の定義に要注意

ここで多くの方が誤解するポイントがあります。

税法上の「住所」は、住民票の有無で決まるわけではありません。

税法上の住所とは「生活の本拠」を意味します。
これは、住居、職業、家族の居所、資産の所在などを総合的に考慮して判断されます。

相続税法基本通達1の3・1の4共-5
法に規定する「住所」とは、各人の生活の本拠をいうのであるが、その生活の本拠であるかどうかは、客観的事実によって判定するものとする。

実務では、以下のような要素が総合的に判断されます。

【住所の判定で考慮される要素】
・居住期間の長さ
・家族の居住場所
・職業・事業の拠点
・資産(不動産など)の所在地
・社会保険、運転免許などの登録地
・郵便物の届け先
・滞在日数の比較

たとえば、住民票を海外に移しても、毎年半年以上日本に滞在していたり、日本に主たる事業拠点があったりすれば、「生活の本拠は日本」と判断される可能性があります。

過去には、武富士事件(最高裁平成23年2月18日判決)のように、住所の判定が争われた事例もあります。
形式的に住民票を移すだけでは、10年ルールをクリアできない可能性があることを覚えておいてください。

住所についての詳しい解説は、国際相続における住所の判定をご参照ください。

「一時帰国」のリスク

実務でよく相談を受けるのが「一時帰国したらどうなるか」という質問です。

結論から言えば、留学や海外出張などで一時的に日本を離れている人は、日本に住所があるとみなされます

国税庁 No.4138 相続人が外国に居住しているとき(注6)
留学や海外出張など一時的に日本国内を離れている人は、日本国内に住所があることになります。

逆に、海外移住後に一時帰国した場合はどうでしょうか。
短期の一時帰国でも、生活実態によっては“日本に住所が戻った”と判断されることがあります。滞在目的や活動内容によって結論が変わるため注意が必要です。

この場合、10年のカウントがリセットされる可能性があります。

実務のアドバイス:海外移住後は、帰国時の滞在日数、滞在目的、活動内容を記録しておくことをおすすめします。税務調査で確認されることがあるためです。

10年ルールをクリアしても残る「2つの落とし穴」

仮に被相続人・相続人ともに10年以上海外に住んでいても、すべての財産が非課税になるわけではありません。
2つの落とし穴があります。

落とし穴① 日本国内の財産には相続税がかかる

これは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、見落とされがちなポイントです。

10年ルールで非課税になるのは「国外財産」だけです。
日本国内に不動産、預金、株式などが残っていれば、それらには相続税がかかります。

日本国内の財産は、被相続人・相続人がどこに住んでいようと、何年海外にいようと、日本国内にある財産は、原則として相続税の課税対象です。

つまり、10年ルールで相続税を完全にゼロにするためには、日本国内の財産をすべて海外に移す必要があります。

しかし、不動産を売却すれば譲渡所得税がかかりますし、預金や株式を海外に移す際にも、次に説明する「国外転出時課税」の問題があります。

落とし穴② 国外転出時課税(出国税)

海外移住を検討している富裕層にとって、もう一つの大きな障壁が「国外転出時課税」です。

これは、有価証券等を1億円以上保有している人が海外に転出する際、未実現の含み益に対して所得税が課税されるという制度です。

所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
国外転出をする居住者が、その国外転出の時において有価証券等を有する場合には、その者の事業所得、譲渡所得又は雑所得の金額の計算については、その国外転出の時に、その有価証券等の譲渡があったものとみなす。
【国外転出時課税の概要】
・対象者:出国時に1億円以上の有価証券等を保有する人
・課税対象:未実現の含み益
・税率:約20%(所得税15%+住民税5%)
・納税猶予:担保提供により最長10年間の猶予が可能(届出必要)

たとえば、取得価額1億円の株式が3億円に値上がりしている場合、含み益2億円に対して約4,000万円の所得税が発生します。
まだ売却していないのに、です。

納税猶予の制度はありますが、10年以内に帰国しなければ最終的に課税されます。
また、納税猶予中に相続が発生した場合、相続人が要件を満たさなければ猶予が取り消されることもあります。

国外転出時課税は、相続税の10年ルールとは別の問題です。両方をクリアしなければ、海外移住による節税メリットは大幅に減少します。

海外移住で相続税を減らすための現実的なステップ

ここまで読んで、「海外移住で相続税を減らすのは難しそうだ」と感じた方も多いでしょう。
実際、相続税対策だけを目的とした海外移住はおすすめしません。

しかし、すでに海外在住の方や、仕事や生活の都合で長期的に海外に住む予定がある方は、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう。

ステップ① 現状の把握

まず、被相続人と相続人それぞれについて、以下を確認します。

【確認すべき項目】
・現在の住所(税法上の「生活の本拠」がどこか)
・過去10年間の住所履歴
・国籍
・保有財産の所在地(日本/海外)
・有価証券等の保有額(1億円以上かどうか)

ステップ② 納税義務者の判定

確認した情報をもとに、相続税の納税義務者の区分を判定します。

区分 課税対象財産
無制限納税義務者 国内・国外すべて
制限納税義務者 国内財産のみ

「制限納税義務者」になれれば、国外財産への課税を避けられます。
しかし、日本国籍を持つ方がこの区分になるには、被相続人・相続人ともに10年超海外に住所を持ち、10年以内に日本に住所がないことが必要です。

制限納税義務者の詳しい解説は、相続人が制限納税義務者である場合の相続税申告の注意点まとめをご参照ください。

ステップ③ 移転コストの試算

海外移住による節税メリットと、移住に伴うコストを比較します。

【移住に伴うコスト(一例)】
・国内不動産の売却に伴う譲渡所得税
・国外転出時課税(有価証券1億円以上の場合)
・海外での生活費・医療費
・ビザ取得費用、現地での税務申告費用
・為替リスク
・家族との離別リスク

相続税の節税額がこれらのコストを上回らなければ、経済的なメリットはありません。

ステップ④ 専門家への相談

国際相続は、日本の税法だけでなく、移住先の法律・税制も関係します。
また、財産の所在地によってはプロベート(検認手続き)が必要になることもあります。

自己判断で進めると、思わぬ課税や手続きの遅延が発生するリスクがあります。
必ず、国際相続に詳しい税理士や弁護士に相談してください。

よくある質問(Q&A)

Q1. 子供だけ海外に住んでいれば、相続税はかからなくなりますか?

いいえ、かかります。
被相続人(親)が日本に住所を持っている限り、相続人(子)がどこに住んでいても、国内・国外すべての財産に日本の相続税がかかります。
10年ルールをクリアするには、被相続人・相続人の「両方」が10年超日本に住所を持たないことが必要です。

Q2. 日本国籍を捨てれば、10年ルールは適用されなくなりますか?

被相続人・相続人の両方が日本国籍を持たない場合、10年ルールの適用が異なります。
相続人が日本国籍を持たず、被相続人が「非居住被相続人」(相続開始前10年以内に日本に住所がない外国人等)であれば、国内財産のみが課税対象になります。
ただし、日本国籍の放棄は重大な決断であり、相続税対策だけを目的に行うべきではありません。

Q3. 海外で相続税を払った場合、日本でも二重に払うことになりますか?

外国税額控除により、二重課税は調整されます。
海外で相続税(または相続税に相当する税金)を支払った場合、一定の範囲内で日本の相続税から控除できます。
ただし、控除額には上限があるため、完全に二重課税が解消されるとは限りません。
外国税額控除の詳しい解説は、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

Q4. 一時帰国して3ヶ月滞在したら、10年のカウントはリセットされますか?

滞在期間だけで判断されるわけではありません。
「住所」の判定は、滞在期間、滞在目的、生活実態、家族の居所などを総合的に考慮して行われます。
短期の観光目的であれば問題ありませんが、長期滞在や日本での事業活動がある場合は、「住所が日本に戻った」と判断されるリスクがあります。
心配な場合は、事前に税理士に相談してください。

Q5. 海外移住して10年経過した後に日本に戻ったら、どうなりますか?

日本に戻った時点で、住所が日本になります。
その後に相続が発生した場合、被相続人または相続人が日本に住所を持つことになるため、国内・国外すべての財産が課税対象になります。
つまり、10年ルールのメリットを享受できるのは、海外に住んでいる間に相続が発生した場合に限られます。

まとめ

相続税の10年ルールについて解説しました。
最後に、重要なポイントを整理します。

この記事のまとめ
・10年ルールとは、被相続人・相続人の両方が10年超日本に住所を持たなければ、海外財産に日本の相続税がかからないというルール
・住民票を抜いただけでは不十分。税法上の「住所」は生活の本拠で判断される
・10年経過後も「日本国内の財産」には相続税がかかる
・有価証券が1億円以上あると「国外転出時課税」が別途発生する
・相続税対策だけを目的とした海外移住はリスクが高い

海外移住による相続税対策は、10年という長い期間と、多くの条件をクリアする必要があります。
「簡単に相続税がゼロになる」という話には注意してください。

すでに海外在住の方、または仕事や生活の都合で長期的に海外に住む予定がある方は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
状況を正確に把握した上で、適切な対策を講じることが大切です。

税理士法人トゥモローズでは、国際相続のご相談を多数お受けしています。
海外在住の方、海外に財産をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

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この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は350件。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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