シンガポールの相続手続き完全マニュアル【税理士が実務ポイントを解説】

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国際相続

シンガポールの相続手続き完全マニュアル【税理士が実務ポイントを解説】
10秒でわかる この記事の要約

  • シンガポールの相続では原則として『Grant of Probate』または『Letters of Administration』が必要
  • 遺言がない場合、シンガポール法に基づく法定相続分で分配される(日本法とは異なる)
  • SGD 50,000以下の少額遺産はPublic Trusteeによる簡易手続きが可能
  • CPF(中央積立基金)は相続財産に含まれず、別途ノミネーション制度で承継される
  • シンガポールには相続税がないが、日本居住者は日本で相続税を納付する必要がある

「シンガポールの銀行口座を相続することになったのですが、どう手続きすればいいですか?」

シンガポールは、アジアの金融ハブとして日本人の資産運用先としても人気があります。

銀行口座や不動産、さらにはシンガポールで働いていた方のCPF(年金のような制度)など、相続の対象となる財産は多岐にわたります。

この記事では、年間350件超の相続税申告を手がける相続専門税理士が、シンガポールの相続手続きについて実務経験をもとに徹底解説します。

なお、相続税申告でお急ぎの方はお電話、またはLINEにてお問い合わせいただけます。

初回面談は無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。

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目次

シンガポールの相続制度の基本

シンガポールの相続制度は、イギリス法(コモンロー)を基礎としています。

そのため、日本とは根本的に異なる仕組みで相続が進みます。

日本との制度の違い

項目 日本 シンガポール
相続の開始 死亡と同時に相続人が権利取得 裁判所の許可(Grant)が必要
遺産の管理 相続人が直接管理 遺産管理人が管理・分配
相続税 あり(最高55%) なし(2008年廃止)

この制度の違いについては、国際相続があった場合の準拠法で詳しく解説しています。

Grant of ProbateとLetters of Administrationの違い

シンガポールでは、遺産を管理・分配するために裁判所からの正式な許可が必要です。

種類 適用場面 遺産管理者
Grant of Probate 有効な遺言書がある場合 遺言で指定された遺言執行者
Letters of Administration 遺言書がない場合 裁判所が選任した遺産管理人

日本人がシンガポールに財産を持っているケースでは、シンガポール法に基づく遺言書を作成していないことが多く、Letters of Administrationの申請が一般的です。

遺言がない場合の法定相続分

シンガポールで遺言書がない場合、Intestate Succession Act(無遺言相続法)に基づいて遺産が分配されます。

日本の民法とは法定相続分が異なるため、注意が必要です。

シンガポール法の法定相続分

相続人の構成 配偶者
配偶者のみ 全額
配偶者と子 1/2 1/2を均等分割
配偶者と親(子なし) 1/2 1/2を均等分割
子のみ(配偶者なし) 全額を均等分割

注意:日本法では配偶者と子の法定相続分は各1/2ですが、シンガポール法も同じ1/2ずつです。ただし、配偶者と親の場合、日本法では配偶者2/3・親1/3ですが、シンガポール法では各1/2となり、差が生じます。

なお、シンガポール国内の不動産はシンガポール法が適用されますが、その他の財産については被相続人の本国法(日本人であれば日本法)が適用される可能性もあります。

国籍と相続の関係については、国際相続 国籍についてわかりやすく徹底解説をご参照ください。

少額遺産の簡易手続き(Public Trustee)

シンガポールでは、目安として、遺産が一定額(一般にS$50,000以下)ならPublic Trusteeの手続きが検討できます。ただし、資産の種類や争いの有無など条件があるため、該当要件の確認が必要です。

Public Trustee手続きのメリット

・正式なGrant of Probate/Letters of Administration が不要
・弁護士への依頼が不要(費用を大幅に削減)
・手続き期間が短い(通常2〜4ヶ月)

利用条件

・遺産総額がSGD 50,000以下であること
・不動産が含まれていないこと
・相続人間で争いがないこと

費用

Public Trusteeの手数料は遺産総額に応じて決まります。

遺産総額 手数料率
最初のSGD 5,000 6.5%
次のSGD 2,000 6.0%
次のSGD 3,000 4.25%
次のSGD 10,000 2.75%
SGD 20,000超の部分 2.25%

例えば、遺産総額がSGD 30,000の場合、手数料は約SGD 900〜1,000程度となります。

正式なプロベート手続きの流れ

遺産総額がSGD 50,000を超える場合や不動産が含まれる場合は、正式なプロベート手続きが必要です。

手続きの流れ

STEP1:シンガポールの弁護士への依頼

STEP2:必要書類の収集・翻訳・認証

STEP3:家庭裁判所(Family Justice Courts)への申請

STEP4:裁判所による審査・Grant発行

STEP5:各金融機関・機関での相続手続き

STEP6:遺産の分配・清算

必要書類

書類 備考
死亡証明書 日本の死亡届記載事項証明書(英訳・認証必要)
戸籍謄本一式 被相続人の出生〜死亡、相続人全員分(英訳・認証必要)
遺言書(ある場合) 原本が必要
遺産目録 シンガポール国内の財産一覧
相続人の身分証明書 パスポートコピーなど

費用と期間の目安

項目 目安
弁護士費用 SGD 3,000〜15,000(約33万〜165万円)
裁判所手数料 SGD 200〜500程度
翻訳・認証費用 10万〜30万円
所要期間 6ヶ月〜1年以上

CPF(中央積立基金)の相続

シンガポールで働いていた方は、CPF(Central Provident Fund:中央積立基金)に残高がある可能性があります。

CPFとは

CPFは、シンガポールの強制貯蓄制度で、日本の年金・健康保険・住宅積立を合わせたような制度です。

CPF貯蓄は“遺産(estate)を構成しない”扱いのため、遺言の対象にできず、原則としてノミネーションに基づき支払われます。

CPFの承継方法

CPFには「ノミネーション制度」があり、加入者が生前に受取人を指定できます。

ノミネーションの有無 承継方法
ノミネーションあり 指定された受取人に直接支払われる
ノミネーションなし Public Trusteeが法定相続人に分配

実務上の注意点:CPFノミネーションは、結婚で自動的に取り消されます。一方で、離婚では原則として取り消されないため、離婚後は内容の見直しが重要です。シンガポールで働いていた被相続人がいる場合は、CPFボードに残高とノミネーション状況を確認することが重要です。

日本の相続税申告との関係

シンガポールには相続税がありませんが、日本の相続税申告では注意すべき点があります。

日本での課税関係

日本の相続税の課税範囲は、相続人・被相続人の“住所”や“国籍”“過去の居住状況”で決まります。
日本に住所がある場合などは、国外財産も課税対象となるのが原則です。

納税義務の判定については、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!をご参照ください。

申告期限との兼ね合い

日本の相続税の申告期限は、原則として“死亡を知った日の翌日から10か月以内”です。

シンガポールのプロベート完了を待っていると、申告期限に間に合わない可能性が高くなります。

実務上の対応
①銀行の残高証明書等で概算評価し、期限内に申告
②プロベート完了後、正確な金額で修正申告または更正の請求

外貨建て財産の評価

シンガポールドル建ての財産は、取引金融機関が公表する課税時期(死亡日)のTTBで円換算します。

詳しくは、【相続税申告】外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説をご参照ください。

国外財産調書

シンガポールの財産は「国外財産」に該当します。

年末時点で5,000万円超の国外財産を有する“居住者(非永住者を除く)”は、国外財産調書の提出が必要です。

詳しくは、国外財産調書制度を徹底解説!提出義務から書き方まで完全ガイドをご参照ください。

シンガポール相続でよくあるトラブル

トラブル①:口座の存在が把握できない

被相続人がどの銀行に口座を持っていたか分からないケースです。

シンガポールには日本のような預金照会制度がないため、心当たりのある銀行に個別に照会する必要があります。

トラブル②:CPFの存在を見落とす

シンガポールで勤務歴がある場合、CPFに残高がある可能性がありますが、遺族がその存在を知らないことがあります。

トラブル③:日本の申告期限に間に合わない

プロベートに時間がかかり、日本の相続税申告に必要な情報が揃わないケースです。

トラブル④:相続人間での意見対立

遺産管理人を誰にするかで揉めると、手続き全体が大幅に遅延します。

シンガポール相続に関するQ&A

Q1:シンガポールに不動産を持っています。日本の小規模宅地等の特例は使えますか?

A:使えません。

小規模宅地等の特例は、日本国内の土地にのみ適用されます。

詳しくは、国際相続における小規模宅地等の特例の留意点をご参照ください。

Q2:シンガポールの銀行口座の残高が少額でも、プロベートは必要ですか?

A:SGD 50,000以下であれば、Public Trusteeの簡易手続きで対応できます。

ただし、銀行によっては独自の基準を設けている場合があります。

Q3:日本で作成した遺言書はシンガポールでも有効ですか?

A:形式要件を満たしていれば有効です。

ただし、日本語の遺言書は英訳と認証が必要になります。

シンガポールに財産がある場合は、シンガポール法に基づく英文遺言書を別途作成しておくことをお勧めします。

Q4:相続人が日本にしかいない場合、シンガポールまで行く必要がありますか?

A:弁護士に委任すれば、渡航不要で手続きを進められます。

ただし、書類への署名は公証人の面前で行う必要があるため、日本の公証役場での手続きが必要になります。

Q5:シンガポールで相続税がかからないなら、日本で申告しなくてもバレませんか?

A:必ず申告してください。

CRS(共通報告基準)により、シンガポールの金融機関の口座情報は日本の税務当局に自動的に共有されます。

申告漏れは必ず発覚し、加算税・延滞税の対象となります。

海外財産の申告漏れリスクについては、海外に財産がある人必見!相続で発生する5つのリスクとデメリットをご参照ください。

まとめ:シンガポール相続は事前準備が重要

シンガポールの相続手続きについて解説しました。

この記事のポイント

  • シンガポールの相続ではGrant of ProbateまたはLetters of Administrationの取得が必須
  • SGD 50,000以下の少額遺産はPublic Trusteeの簡易手続きが利用可能
  • CPFは相続財産とは別枠で、ノミネーション制度で承継される
  • シンガポールには相続税がないが、日本で相続税の申告・納税が必要
  • プロベートには6ヶ月〜1年以上かかり、日本の申告期限との調整が課題

シンガポールに財産をお持ちの方の相続は、制度の違いにより複雑になりがちです。

生前の段階で財産の整理や遺言書の作成を検討しておくことで、相続発生時の負担を大幅に軽減できます。

当事務所では年間350件超の相続税申告を行っており、国際相続の実績も豊富です。

「シンガポールに財産があるが、どう手続きすればいいか分からない」
「日本の相続税申告との兼ね合いが心配」

そのようなお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください。

初回面談は無料です。

シンガポールの相続手続き完全マニュアル【税理士が実務ポイントを解説】の写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は350件。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

相続税の申告手続き、トゥモローズにお任せください

相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。

また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。

税理士法人トゥモローズでは、豊富な申告実績を持った相続専門の税理士が、お客様のご都合に合わせた適切な申告手続きを行います。

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