米国401k・IRAの相続税|日本居住者が知るべき課税と手続き
①401kと個人退職年金口座はアメリカの代表的な課税繰延型の退職年金口座である
②日本居住者がアメリカの退職年金を受け取る場合は日米租税条約の適用確認が重要である
③アメリカ側の源泉徴収を避けるには外国人用の税務書類の提出が重要である
④相続発生時はアメリカ側の相続手続と日本側の相続税申告を並行して進める必要がある
⑤受取方法や口座の種類によって日本での課税関係が変わるため事前設計が重要である
「アメリカで働いていた父が亡くなり、401kや個人退職年金口座が残っていることが分かった……」
このような相談は、国際相続の現場で非常に多くなっています。
アメリカの退職年金口座は、日本人駐在員や海外勤務経験者にとって身近な制度ですが、いざ相続が発生すると、日本とアメリカの税務や手続が複雑に絡み合います。
結論からいうと、401kや個人退職年金口座は、相続時にも受給時にも税務論点があり、日本側とアメリカ側を同時に整理しないと判断を誤りやすい財産です。
特に、日本居住者がアメリカの退職年金口座を相続・受給する場合は、日米租税条約の適用判断、日本での所得区分、相続税の評価、アメリカ側の相続手続を並行して検討しなければなりません。
この記事では、401kと個人退職年金口座の基本、日本での受給課税、相続時のアメリカ側手続、日本の相続税との関係、受給方法の選び方までを実務目線で整理して解説します。
国際相続の全体像は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!も先に確認しておくと理解しやすくなります。
目次
- 1 401kと個人退職年金口座とは何か
- 2 日米租税条約では退職年金は原則として居住地国課税になる
- 3 アメリカ側の源泉徴収を避けるには外国人用の税務書類が重要
- 4 日本での所得税は受取方法で考え方が変わる
- 5 為替換算は日本の相続税と所得税の両方で問題になる
- 6 相続発生時にはアメリカ側の相続手続も必要になる
- 7 アメリカの非居住者向け遺産税申告書は9か月以内
- 8 移転証明書がないと資産移転が止まることがある
- 9 日本の相続税では口座残高そのものが課税対象になる
- 10 ロス型個人退職年金口座は日本での扱いが難しい
- 11 被相続人の社会保障給付も別途検討が必要
- 12 相続人が複数いる場合は口座の分け方も論点になる
- 13 配偶者以外の相続人には10年以内の引出しルールが問題になる
- 14 401k・個人退職年金口座相続の実務スケジュール
- 15 よくある質問(FAQ)
- 16 まとめ
- 17 関連記事
401kと個人退職年金口座とは何か
401kと個人退職年金口座は、いずれもアメリカの代表的な課税繰延型の退職年金口座です。
基本的な考え方は、拠出時に優遇があり、運用中は課税を繰り延べ、引き出すときに課税するというものです。
日本の一般的な預金や証券口座とは税制の考え方が異なるため、相続時も受給時も日本側での再整理が必要になります。
401kと個人退職年金口座の違い
| 項目 | 401k | 個人退職年金口座 |
| 設定主体 | 勤務先が制度を用意する | 個人が金融機関で開設する |
| 拠出限度額(2025年) | 2万3,500ドル | 7,000ドル |
| 50歳以上の加算枠(2025年) | 7,500ドル加算 | 1,000ドル加算 |
| 勤務先の上乗せ拠出 | あり得る | なし |
| 投資選択 | 勤務先制度内の選択肢 | 比較的自由度が高い |
2025年の401kの拠出限度額は2万3,500ドル、個人退職年金口座は7,000ドルです。50歳以上は加算枠があります。米国内国歳入庁の公表でも確認できます。
伝統的な個人退職年金口座とロス型個人退職年金口座の違い
個人退職年金口座には、伝統的な口座とロス型の口座があります。
| 項目 | 伝統的な個人退職年金口座 | ロス型個人退職年金口座 |
| 拠出時 | 所得控除の余地がある | 原則として課税後資金で拠出する |
| 運用中 | 課税繰延 | 課税繰延 |
| 引出時(アメリカ側) | 通常は課税対象 | 一定要件を満たせば非課税扱いになり得る |
ここで重要なのは、アメリカで非課税扱いになるロス型個人退職年金口座でも、日本で同じように非課税になるとは限らない点です。
日本の税法上は、アメリカ側の非課税ルールがそのまま引き継がれるわけではないため、日本帰国後の受給では別途検討が必要です。
日米租税条約では退職年金は原則として居住地国課税になる
日本に住んでいる人がアメリカの退職年金を受け取る場合、日米租税条約の年金条項が重要になります。
基本的な考え方は、退職年金や年金に類する支払は、原則として受取人の居住地国で課税するというものです。
つまり、日本居住者がアメリカの401kや個人退職年金口座から支払を受ける場合、条約の適用関係によっては日本側で課税し、アメリカ側の源泉徴収を抑えられる可能性があります。 ([irs.gov](https://www.irs.gov/pub/irs-trty/japan.pdf)
ただし、条約は「自動的に使える」ものではありません。アメリカの支払者側に、条約適用のための税務書類を提出しておかなければ、アメリカ国内法に基づく源泉徴収がされることがあります。
アメリカ側の源泉徴収を避けるには外国人用の税務書類が重要
アメリカの退職年金を外国居住者に支払う場合、支払者は原則として30%の源泉徴収を行います。
ただし、正しい税務書類を提出して、租税条約による軽減や免除を主張できれば、源泉徴収を下げられる場合があります。
この場面で重要になるのが、外国人用の税務書類です。
アメリカの支払者は、受取人が外国人であり、租税条約による軽減を受ける資格があることを、適式な書類で確認できなければ原則30%徴収します。米国内国歳入庁は、年金や退職プランの分配について、外国人への支払には一般に30%の源泉徴収が必要であり、軽減税率を受けるには有効な書類が必要だと案内しています。 ([irs.gov](https://www.irs.gov/retirement-plans/plan-distributions-to-foreign-persons-require-withholding)
また、アメリカの支払者に租税条約上の軽減を求めるには、外国人用の税務書類に納税者番号を記載する必要があると米国内国歳入庁は案内しています。 ([irs.gov](https://www.irs.gov/businesses/the-taxation-of-foreign-pension-and-annuity-distributions)
相続発生後に慌てて書類対応をすると、いったんアメリカで源泉徴収された後に、還付請求や日本側の外国税額控除で調整することになり、手続が一気に複雑になります。できるだけ早い段階で支払先金融機関に必要書類を確認すべきです。
日本での所得税は受取方法で考え方が変わる
401kや個人退職年金口座を受け取るとき、日本での所得税の考え方は受取方法によって変わります。
分割で受け取る場合
年金のように継続的・定期的に受け取る場合は、一般に雑所得として整理することが多いです。
この場合、日本での課税関係は、受け取った年ごとに考えることになります。
しかも、日本国内で自動的に源泉徴収されるわけではないため、自分で確定申告を行う必要があることが多いです。
一時金で受け取る場合
一括で引き出す場合は、一時所得として扱う余地を検討することになります。
ただし、必ず有利になるとは限りません。
一時所得は2分の1課税の恩典がある一方で、受取額が大きいと他の所得との関係で税率が上がることもあります。
分割受取と一時金受取のどちらが有利かは、相続人のその年の所得状況、為替水準、将来の税率見通しまで含めて判断すべきです。
為替換算は日本の相続税と所得税の両方で問題になる
アメリカの口座残高や引出額はドル建てです。
そのため、日本で相続税申告や所得税申告をする際には、日本円に換算しなければなりません。
相続税では、被相続人の死亡日の対顧客直物電信買相場で換算するのが基本です。
一方で、受給時の所得税では、受取日の換算が問題になるため、相続時と受給時で円換算額が変わることがあります。
外貨建て財産の日本側評価は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点とあわせて整理しておくと実務で混乱しにくくなります。
相続発生時にはアメリカ側の相続手続も必要になる
被相続人がアメリカに401kや個人退職年金口座を残して亡くなった場合、相続人は日本側だけでなくアメリカ側でも手続を進める必要があります。
相続開始直後に必要な対応
まず、口座を管理している金融機関や運営会社に死亡の事実を通知し、必要書類の案内を受けます。
このとき、受取人指定がされているかどうかで手続の重さが変わります。
受取人指定が明確なら、遺産管理手続を経ずに比較的スムーズに進むことがあります。反対に、受取人指定がなければ、遺産管理や相続人全員の関与が必要になり、時間がかかります。
アメリカの納税者番号が必要になることがある
日本居住の相続人がアメリカの金融機関と相続手続を行う場合、アメリカの納税者番号が必要になることがあります。
この番号取得に時間がかかることもあり、口座解約や名義変更、送金の開始が遅れる一因になります。
アメリカの非居住者向け遺産税申告書は9か月以内
被相続人がアメリカ市民でも居住者でもない場合であっても、アメリカにある資産についてはアメリカの遺産税申告が問題になることがあります。
この場合に重要になるのが、アメリカの非居住者向け遺産税申告書です。
申告期限は死亡から9か月以内です。日本の相続税申告期限は10か月以内なので、アメリカ側の方が1か月早い点に注意が必要です。 ([irs.gov](https://www.irs.gov/instructions/i706na)
相続発生後に「日本の申告はまだ先だから大丈夫」と考えていると、アメリカ側の期限を先に落とすおそれがあります。
移転証明書がないと資産移転が止まることがある
アメリカにある資産については、税務当局が相続税の確認を行ったうえで、移転証明書の取得が必要になることがあります。
米国内国歳入庁は、アメリカ非居住者の死亡によるアメリカ資産の移転について、税務上の確認が終わるまで移転証明書を発行しないと案内しています。 ([irs.gov](https://www.irs.gov/businesses/small-businesses-self-employed/transfer-certificate-filing-requirements-for-the-estates-of-nonresidents-not-citizens-of-the-united-states)
つまり、相続人としては「金融機関に連絡すればすぐに日本へ送金してもらえる」とは限りません。
相続税申告、必要に応じたアメリカ側納税者番号の取得、書類収集、税務当局対応を経て、ようやく送金に進めることがあります。
401kや個人退職年金口座の相続では、相続発生から日本送金まで半年から1年以上かかることもあります。納税資金をその口座からすぐ捻出できる前提で動かない方が安全です。
日本の相続税では口座残高そのものが課税対象になる
401kや個人退職年金口座は、日本の相続税でも課税対象になります。
ここで重要なのは、将来の受給時課税とは別に、死亡時点の口座残高自体が相続税評価の対象になることです。
つまり、相続時には日本で相続税が問題になり、その後に実際に引き出すと所得税が問題になるという二段階の検討が必要になります。
ロス型個人退職年金口座は日本での扱いが難しい
アメリカでは、ロス型個人退職年金口座は一定要件を満たせば引出時非課税です。
しかし、日本ではアメリカの非課税制度がそのまま通用するとは限りません。
そのため、日本居住者がロス型個人退職年金口座を受け取る場合は、元本部分と運用益部分をどうみるか、日本でどの所得区分になるかを慎重に検討する必要があります。
アメリカで非課税だから日本でも非課税とは限らないというのが、この論点の核心です。
被相続人の社会保障給付も別途検討が必要
被相続人にアメリカの社会保障制度への加入歴がある場合、遺族が年金を受け取れる可能性があります。
この論点は、401kや個人退職年金口座とは別に検討する必要があります。
相続税の課税対象になるのか、受給時の所得税だけを考えればよいのか、条約上どう整理するのかは、制度ごとに切り分けが必要です。
アメリカの年金制度と日本の年金制度は同じではないため、日本の遺族年金と同じ感覚で処理しない方が安全です。
相続人が複数いる場合は口座の分け方も論点になる
相続人が複数いる場合、口座をどう分けるかも実務上の大きな論点です。
受取人指定がある場合はその指定に従うことが多いですが、指定がない場合は遺産分割協議や相続人全員の同意が必要になります。
しかも、アメリカの金融機関が日本の遺産分割協議書だけで足りると考えるとは限りません。
海外証券口座や海外金融機関の相続手続は、海外の証券口座の相続手続きを完全解説もあわせて確認してください。
配偶者以外の相続人には10年以内の引出しルールが問題になる
アメリカでは、相続した個人退職年金口座について、配偶者以外の受益者は原則として10年以内に全額引き出すルールが問題になります。
米国内国歳入庁も、一定の例外を除き、死亡後10年の終了時までに口座残高を引き出し終える必要があると案内しています。 ([irs.gov](https://www.irs.gov/retirement-plans/retirement-plan-and-ira-required-minimum-distributions-faqs)
つまり、「相続したからずっと寝かせておけばよい」というわけではありません。
日本での所得税の累進税率、為替の水準、将来の収入見通しを踏まえながら、どの年にいくら引き出すかを設計する必要があります。
401k・個人退職年金口座相続の実務スケジュール
| 時期 | 主な手続き |
| 相続発生直後 | 金融機関への死亡通知、必要書類の確認、口座凍結の把握 |
| 1〜2か月目 | アメリカ側納税者番号の要否確認、相続人情報の収集 |
| 3〜5か月目 | 金融機関への相続手続申請、受取人指定の確認、必要書類の提出 |
| 6〜8か月目 | アメリカの非居住者向け遺産税申告の準備 |
| 9か月以内 | アメリカ側の遺産税申告書の提出 |
| 10か月以内 | 日本の相続税申告・納付 |
| 10か月以降 | 移転証明書取得、資金移転、受給方法の具体化 |
米国の手続と日本の相続税申告を並行して進める必要があるため、相続発生後すぐに全体設計に着手することが重要です。
スケジュール管理の詳細は国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 401kを相続したらアメリカと日本の両方で税金がかかるのか?
A. 相続時には日本の相続税が問題になり、その後に受け取ると日本の所得税が問題になることがあります。さらに、アメリカ側では条約適用、源泉徴収、遺産税申告の論点が別に生じます。
Q. アメリカの源泉徴収は必ず30%かかるのか?
A. そのまま放置すると30%源泉徴収が問題になりやすいですが、租税条約の適用に必要な書類が整っていれば軽減できる場合があります。
Q. 一時金と分割受取はどちらが有利か?
A. 相続人の所得状況、為替、将来の税率見通しで変わります。一律にどちらが有利とはいえません。
Q. ロス型個人退職年金口座は日本でも非課税か?
A. アメリカで非課税でも、日本で当然に非課税とは限りません。個別に検討が必要です。
Q. 相続した口座はいつまでに引き出す必要があるのか?
A. 配偶者以外の受益者では、10年以内の引出しルールが問題になることがあります。口座の種類や受益者属性によって確認が必要です。
まとめ
まとめ
401kと個人退職年金口座は、相続時にも受給時にも税務と手続の論点が多い財産である。
日本居住者が受け取る場合は、日米租税条約の適用確認とアメリカ側の源泉徴収対策が重要である。
相続発生時にはアメリカ側の遺産税申告、日本側の相続税申告、移転証明書の取得を並行して進める必要がある。
ロス型個人退職年金口座や遺族給付は、日本での取扱いをアメリカと同じと考えない方が安全である。
受取方法、引出時期、納税資金の確保まで含めて、早い段階で全体設計を行うことが重要である。
税理士法人トゥモローズでは、国際相続に強い税理士が、アメリカの退職年金口座を含む相続税申告、海外資産評価、外国税額控除、受給後の所得税申告まで一貫してサポートしています。
「401kや個人退職年金口座を相続したが何から始めればよいか分からない」
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