日米相続税条約とは|二重課税を防ぐ仕組みと外国税額控除
①日米相続税条約はアメリカ資産の相続で二重課税を調整する重要な条約である
②日米相続税条約を使うと米国非居住者でも米国側の基礎控除を按分で使える場合がある
③アメリカの非居住者向け遺産税申告書は死亡から9か月以内に提出する必要がある
④日本の外国税額控除は控除限度額と5年の期限管理が重要である
⑤アメリカの州独自の遺産税や相続税は条約の対象外なので別途確認が必要である
「アメリカに不動産や預金がある場合、日本とアメリカの両方で相続税がかかるのか?」
「日米相続税条約を使うと、どれくらい税額が変わるのか?」
国際相続で最も心配される論点の一つが、二重課税です。
結論からいうと、アメリカに資産がある相続では、日米相続税条約を使えるかどうかで税負担が大きく変わります。
特に、日本に住む人がアメリカの不動産や預金、証券を持ったまま亡くなった場合、条約を使わなければアメリカ側の控除額が極めて小さくなり、高額の連邦遺産税が問題になることがあります。
一方で、日米相続税条約を適切に使えば、アメリカ市民や居住者向けの大きな基礎控除を、米国内財産の割合に応じて使える場合があります。
その結果、アメリカ側の遺産税がゼロになることも珍しくありません。
この記事では、日米相続税条約の基本、アメリカに資産がある場合の申告期限、日本の外国税額控除との関係、州税の注意点、相続後の売却まで見据えた実務対応を整理して解説します。
外国税額控除の基本は、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説も先に確認しておくと理解しやすくなります。
目次
日米相続税条約とは何か
日米相続税条約は、日本とアメリカの間で、相続や贈与に関する二重課税の回避と脱税防止を目的として締結されている条約です。
アメリカに不動産、預金、証券などの資産がある場合、日本とアメリカの両方で課税が問題になることがあります。
このとき、日米相続税条約を使うことで、アメリカ側の税負担を大きく軽減できる場合があります。
主に対象となる税
日本側:相続税、贈与税
アメリカ側:連邦遺産税、連邦贈与税、世代飛越移転税
重要なのは、この条約が主にアメリカの連邦レベルの税を前提にしている点です。州独自の遺産税や相続税は別途検討が必要です。
アメリカに資産がある非居住者でも、大きな基礎控除を使える場合がある
アメリカの連邦遺産税では、アメリカ市民や居住者には大きな基礎控除があります。
一方で、アメリカの非居住者が条約を使わない場合、遺産税計算上の控除は非常に小さく、一般に6万ドルしか認められません。
米国内に不動産や預金があるだけで、この金額を超えることは珍しくありません。
しかし、日米相続税条約を使うと、アメリカ市民や居住者向けの基礎控除を、米国内財産と全世界財産の割合で按分して使える場合があります。
| 区分 | 控除の考え方 |
| アメリカ市民・居住者 | 1,500万ドル(2026年) |
| アメリカ非居住者・条約なし | 6万ドル |
| アメリカ非居住者・条約あり | 1,500万ドル ×(米国内財産 ÷ 全世界財産) |
この差は極めて大きく、アメリカ不動産がある案件では税額に数千万円単位の差が出ることがあります。
日米相続税条約を使う具体的なイメージ
【前提例】
被相続人:日本居住の日本人
全世界財産:3,000万ドル
うち米国内財産:300万ドル
【条約を使わない場合】
アメリカ側の控除は6万ドルにとどまるため、300万ドルの米国内財産に対して連邦遺産税が問題になりやすい
【条約を使う場合】
1,500万ドル ×(300万ドル ÷ 3,000万ドル)= 150万ドル
按分後の控除額が大きくなるため、アメリカの連邦遺産税負担を大きく抑えられる可能性がある
このように、条約の有無で結果が大きく変わるため、アメリカ資産がある場合は条約適用の可否を最初に確認すべきです。
アメリカの非居住者向け遺産税申告書は9か月以内
アメリカに資産がある非居住者の遺産税申告では、通常、非居住者用の遺産税申告書を提出します。
重要なのは期限です。
被相続人の死亡から9か月以内に提出する必要があります。
日本の相続税申告期限は原則10か月以内なので、アメリカ側の方が1か月早い点に注意が必要です。
期限延長の注意点
申告期限の延長手続はありますが、延長されるのは主に申告期限です。
納税が見込まれる場合には、納税資金の手当てを先に考えておく必要があります。
また、アメリカ資産の名義変更や移転では、連邦遺産税に関する手続が先に問題になることがあります。
国際相続の全体スケジュールは、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説もあわせて確認してください。
日本側では外国税額控除で二重課税を調整する
アメリカで連邦遺産税を納めた場合、日本では相続税から一定額を控除できる可能性があります。これが外国税額控除です。
もっとも、外国で納めた税額をそのまま全額差し引けるわけではありません。
日本の相続税額のうち、外国財産に対応する部分が上限になります。
外国税額控除の考え方
控除額は、外国で納めた税額と、日本の相続税額のうち外国財産に対応する額のいずれか少ない方になる
そのため、アメリカで大きな税額を払っていても、日本側で控除しきれないことがあります。
5年の期限管理が重要
外国税額控除は、外国税額が後から確定する場合に更正の請求などで対応することがあります。
ただし、日本の相続税の申告期限から5年を過ぎると、手続上の対応が難しくなるため、期限管理が非常に重要です。
外国税額控除の仕組みは、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説で詳しく解説しています。
条約があっても州税までは救済されない
実務上よくある誤解が、日米相続税条約を使えばアメリカ側の課税をすべて抑えられるという考え方です。
しかし、日米相続税条約が直接問題にするのは、主として連邦レベルの課税です。
そのため、ニューヨーク州、ワシントン州、メリーランド州などで州独自の遺産税や相続税がある場合、そこは別途検討が必要です。
州税がある州の不動産や事業資産を相続する場合は、連邦税と州税を分けて試算しなければ、税額を大きく見誤る可能性があります。
アメリカ不動産を相続した後の売却税務にも注意が必要
アメリカ不動産では、相続時の遺産税だけでなく、相続後に売却したときの税金も重要です。
特に、アメリカ不動産の売却時には源泉徴収制度が問題になることがあります。
相続後の売却まで見据えるなら、相続税条約だけでなく、売却時の税務も一体で整理すべきです。
この点は、海外不動産を相続して売却した場合の税金|FIRPTA・外国税額控除を徹底解説もあわせて確認してください。
アメリカの高額な基礎控除は今後変動する可能性がある
アメリカの基礎控除額は法改正で動く可能性があります。
したがって、実務では「現在の基礎控除が将来も同じ」とは考えず、死亡時点の最新額を確認する必要があります。
特に高額資産を持つ人については、数年違うだけで税額が大きく変わる可能性があります。
日米相続税条約があるからといって完全に二重課税がなくなるわけではない
日米相続税条約は非常に強力ですが、完全な万能薬ではありません。
まず、条約を適用するためにはアメリカ側の申告を適切に行う必要があります。
次に、日本側では外国税額控除の控除限度額があるため、外国で納めた税額を全額差し引けるとは限りません。
さらに、州税は条約の対象外であるため、州税まで含めると二重課税が残ることがあります。
つまり、条約と外国税額控除を組み合わせても、案件によってはなお負担が残り得るという前提で設計する必要があります。
日米租税条約と相続税を混同しないことも重要
もう一つ重要なのは、通常の所得税に関する日米租税条約と、相続税に関する日米相続税条約を混同しないことです。
所得税の条約は、配当、利子、給与、年金などの課税調整を扱います。
一方で、相続時に問題になるアメリカの連邦遺産税や贈与税は、別の条約や別の国内法ルールで整理する必要があります。
同じ「日米条約」でも対象税目が異なるため、相談の初期段階で何の税目を検討しているのかを明確にすることが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. アメリカに預金や不動産があると、日米両方で必ず課税されるか?
A. 可能性はあります。
ただし、日米相続税条約を使うことで、アメリカ側の遺産税負担を大きく抑えられる場合があります。
Q. アメリカの非居住者向け遺産税申告はいつまでか?
A. 原則として死亡から9か月以内です。
日本の相続税申告より早いので、先にアメリカ側の期限管理が必要になることがあります。
Q. アメリカの基礎控除は将来も同じか?
A. 必ずしも同じではありません。
法改正や年度ごとの見直しで変わる可能性があるため、死亡時点の最新額を確認する必要があります。
Q. 日米相続税条約があれば州税も自動的に軽減されるか?
A. されません。
州独自の遺産税や相続税は別途検討が必要です。
まとめ
まとめ
アメリカとの相続では日米相続税条約の有無が税負担を大きく左右する。
アメリカの非居住者でも、条約を使えばアメリカ市民・居住者向け基礎控除を按分で使える場合がある。
アメリカ側の申告期限は死亡から9か月以内で、日本より早い点に注意が必要である。
日本側では外国税額控除による調整が重要だが、控除限度額と5年の期限管理が必要である。
州税や相続後売却まで見据えて、全体を一体で設計することが重要である。
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