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遺言書のデジタル下書きを作る意味|法的効力・清書・2026年改正

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行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)

大塚 英司


10秒でわかる この記事の要約

  • 2026年8月時点では、パソコンで作った下書き単体に遺言としての効力はありません。平時に使える普通方式は自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類です(民法967条)。
  • ただし2026年6月24日に改正法が公布され、電子データ等で作成し法務局で保管する「保管証書遺言」の創設が決まっています。施行はこれからです。
  • 自筆証書は全文・日付・氏名の自書と押印が要件ですが、財産目録だけは自書が不要です(同法968条2項)。各ページへの署名押印は必要です。
  • 作成した後でもいつでも撤回・変更できます(同法1022条)。ただし完成した遺言書に直接書き足すのは危険です。
  • 下書きが役に立つ理由は4つです。棚卸しが終わる・公証人との打ち合わせが速い・家族と話す材料になる・書き直しの土台になる

ここまでの2本で、パスワードの扱いと、口座一覧の作り方を書いてきました。

棚卸しが終わると、次に来るのが「では、誰に何を渡すのか」です。

そこで下書きを作る方が増えています。パソコンやスマートフォンのメモに、財産と渡す相手を書き出していく作業です。

この下書きに、法的な効力はありません。

ただ、実務で見ていると、下書きを作った方の遺言は明らかに早く、正確に仕上がります。

本記事では、なぜ法的効力のない下書きが役に立つのかを、民法上の要件と照らしながら、行政書士の実務目線で整理します。


平時に使える普通方式は3種類

まず、動かせない前提を確認します。

民法第967条は「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない」と定めています。

平時に使える普通方式は、この3種類です。

同条にはただし書があり、死亡の危急が迫った場合や船舶遭難時などの特別方式も認められています。

ただし、それは例外的な状況の話です。本記事は普通方式を前提に進めます。

なお、パソコンで作った文書に電子署名を付けても、現行法では遺言になりません。

ただし、この状況は変わることが決まっています。

令和8年6月24日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が公布されました。

法務省は、遺言制度について電子データ等で作成し、法務局において保管する「保管証書遺言」を創設すると説明しています。

施行はこれからです。

押印の任意化等は公布の日から1年、保管証書遺言の創設等は公布の日から3年を超えない範囲内で、それぞれ政令で定める日から施行されます。

本記事を書いている2026年8月時点では、いずれも未施行です。

つまり、今この瞬間に有効な遺言を作るなら、現行法の方式に従うことになります。

ここを取り違えると、せっかく作った文書が紙切れになります。


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自筆証書は「全文を自書」が要件

自筆証書遺言の要件は、民法第968条第1項にあります。

「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」

自書とは、遺言者本人が手で書くことです。

本文をワープロで打って印刷し、署名だけ手書きにしても、自筆証書の要件は満たしません。

録音や録画も同じです。方式に含まれていません。

なお、これは自筆証書の話です。

秘密証書遺言(民法970条)は、証書への署名押印と封印、公証人1人と証人2人以上への提出が要件で、本文の自書までは求められていません

パソコンで作った文書を印刷して使う道はあります。ただし実務での利用は多くありません。

なお、日付にも注意が必要です。

「令和8年8月吉日」のように日が特定できない書き方は、無効と判断されるおそれがあります。

書き間違えたときの直し方も決まっています。

同条第3項は、加除その他の変更について、場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、変更の場所に押印しなければ効力を生じないとしています。

この手順を踏むより、書き直したほうが確実です。

下書きがあれば、その書き直しが苦になりません。


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財産目録だけは自書しなくてよい

ここが、デジタルの出番です。

民法第968条第2項は、第1項の規定にかかわらず、自筆証書と一体のものとして相続財産の目録を添付する場合、その目録については自書することを要しないとしています。

2019年1月に施行された改正で加わった規定です。

つまり、財産目録はパソコンで作って印刷できます。

通帳のコピーや登記事項証明書のコピーを添付することもできます。

ただし条件があります。

同項は、遺言者が「その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない」と続けています。

自書によらない記載が両面にある場合は、両面に署名押印が必要です。

部分自書の要否必要なこと
遺言の本文必要全文・日付・氏名を自書し押印
添付する財産目録不要各ページに署名押印(両面なら両面)

口座一覧を作ってあれば、この目録はほぼできています。

作り方はネット銀行・ネット証券の一覧の作り方|通帳のない口座を遺すにまとめました。


下書きが役に立つ4つの理由

法的効力がないのに、なぜ下書きを勧めるのか。

実務で効いているのは、次の4点です。

理由1:財産の棚卸しが終わる

誰に何を渡すかを書こうとすると、まず何があるかを確定させる必要が出てきます。

下書きは、棚卸しを強制的に終わらせる装置になります。

理由2:公証人との打ち合わせが速くなる

公正証書遺言を作るとき、公証役場には財産の内容と渡す相手を伝えます。

手ぶらで行くと、何度もやり取りが往復します。

下書きがあれば、初回で論点が出そろいます。

理由3:家族に「考えている」ことが伝わる

完成した遺言は、通常、亡くなるまで内容を明かしません。

一方、下書きの段階なら、家族と話す材料にできます。

理由4:書き直しの土台になる

遺言は一度作って終わりではありません。

財産が変わり、家族の状況も変わります。

下書きが手元にあれば、変わった部分だけを直して作り直せます。

なお、下書きそのものを遺言だと誤解されないよう、「下書き」と大きく書いておいてください。

日付と署名を入れると、かえって紛らわしくなります。


下書きに書いておく8つの項目

下書きは、清書のための材料です。

次の8つを埋めておくと、そのまま本文の骨格になります。

項目書く内容
①財産の特定金融機関名・支店・口座番号、不動産は登記どおりの表示
②渡す相手氏名・生年月日・続柄。相続人以外なら住所も
③予備の指定渡す相手が先に亡くなっていた場合に誰へ渡すか
④残余財産の取得者書き漏れた財産、遺言後に増えた財産を誰が取得するか
⑤債務・ローン・保証誰が負担するか。財産を渡す相手と揃っているか
⑥納税資金・代償金不動産中心の分け方で現金が足りなくならないか
⑦遺言執行者手続きを進める人。預金解約や登記の権限まで書いておく
⑧付言なぜこの分け方にしたか。法的効力はないが争いを抑える

このうち③と④を書ける方は多くありません。

しかし実務では、ここが抜けていたために遺言の一部が使えなくなる例があります。

残余財産の条項がないと、書き漏れた財産について遺産分割協議が必要になります。

せっかく遺言を作ったのに、結局は話し合いが要る、という結果になります。

不動産の表示にも注意してください。

「自宅」と書くだけでは特定が不十分です。登記事項証明書のとおりに書きます。

ただし、個別の財産を細かく書くほど、変更に弱くなります。

銀行の合併や支店の統廃合、不動産の売却で、書いた財産が存在しなくなることがあるためです。

個別の記載に加えて「○○銀行に対する一切の預貯金」といった書き方や、④の残余財産の条項を組み合わせておくと、変化に耐えます。

なお、金額は書かなくて構いません。

残高は日々動きますし、書いた金額と実際が食い違うと、かえって解釈が割れます。

ただし、分け方によって相続税の負担は変わります。関連解説(税理士法人トゥモローズ)「遺言を書いて争族回避! 遺言書の作成方法、効力等をわかりやすく徹底解説!」もあわせてご確認ください。


デジタル下書きの保管と版管理

下書きには、財産と家族関係が全部そろいます。

遺言そのものより、扱いに気をつけるべき情報が集まっていると考えてください。

守ることは3つです。

1:遺言と間違われないようにする

ファイル名と全ページに「下書き・遺言書ではありません」と入れておきます。

2:どれが最新かを分かるようにする

更新日と版番号を入れてください。

古い下書きが複数残っていると、亡くなった後に「本当の意思はどれか」という争いの材料になります。

3:正式な遺言を作ったら、下書きを片づける

削除するか、「失効」と明記します。

あわせて、正式な遺言の方式・作成日・保管場所を別に記録しておきます。

なお、保管面では次の点に注意してください。

やることやってはいけないこと
暗号化して保存する平文のメールで送る
閲覧できる人を限定する共有フォルダに置きっぱなしにする
更新日と版番号を入れるパスワードや秘密鍵を書き込む

パスワードを書いてはいけない理由はパスワードの遺し方|エンディングノートに書いてはいけない理由にまとめました。


下書きから清書へ、実務上の主な2方式

下書きができたら、自筆証書と公正証書のどちらにするかを決めます。

自筆証書遺言公正証書遺言
作り方全文を自書し押印(目録は自書不要)公証人が作成。証人2人以上・口授(民法969条)
費用ほぼかからない公証人手数料がかかる
手間自分で書く負担公証役場との調整
方式の不備起こり得る起こりにくい

財産が多い方、相続人の関係が複雑な方は、公正証書を選ぶ方が安全です。

方式の不備で無効になるリスクを避けられます。

なお、2025年10月1日から公正証書の作成手続はデジタル化され、Web会議を利用した作成も順次可能になっています。

ただし、自分で作ったWordファイルがそのまま公正証書遺言になるわけではありません。公証人による本人確認と意思確認、証人の立会いは必要です。利用条件は公証役場へ確認してください。

自筆証書を選ぶ場合は、法務局の遺言書保管制度の利用も検討してください。

紛失や改ざんを防げますし、家庭裁判所の検認も不要になります。

なお、作成した後でも、やり直しは効きます。

民法第1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と定めています。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。

危険なのは、完成した遺言書に直接書き足したり、方式を満たさないメモで変更しようとすることです。

やり直すなら、あらためて方式を満たした遺言を作ります。

ただし、自筆なら全文の書き直し、公正証書なら手数料が再度かかります。

私見ですが、だからこそ下書きの段階で行政書士に見せていただくのが最も効率的だと考えています。


よくある質問(FAQ)

Q1. 下書きをそのまま法務局に預けられますか?

A. 預けられません。遺言書保管制度で預けられるのは、民法の方式を満たした自筆証書遺言です。用紙の様式や余白の指定もあります。下書きの段階では対象になりません。

Q2. 下書きを作ったことを、家族に伝えるべきですか?

A. 内容まで伝えるかは分けて考えてください。存在と保管場所を伝えておくと、完成した遺言が見つからないという事態を防げます。内容を先に明かすと、その時点で意見が対立することもあります。

Q3. 何年ごとに見直せばよいですか?

A. 年数より、出来事で決めるほうが確実です。財産の売却や購入、家族の結婚・離婚・死亡、相続人が増えたときが見直しどきです。あわせて年に一度、内容が現状と合っているかを確認してください。

Q4. 夫婦で1通の下書きにまとめてもよいですか?

A. 下書きの段階なら問題ありませんが、清書は必ず1人1通に分けてください。民法975条は2人以上が同一の証書で遺言をすることを禁じており、夫婦連名の遺言は無効になります。

Q5. 認知症の診断を受けた後でも下書きは作れますか?

A. 診断があるだけで遺言ができなくなるわけではありません。判断能力の程度によります。ただし後から争われる可能性があるため、医師の診断書を残す、公正証書にするなどの備えを検討してください。


遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。

残された家族を守る、公正証書遺言。行政書士法人トゥモローズの遺言作成サポート

まとめ

遺言は自筆証書・公正証書・秘密証書の3つでしか作れません。

パソコンで作った文書は、そのままでは遺言になりません。

ただし、財産目録だけは自書が不要です(民法968条2項)。各ページへの署名押印は必要です。

つまり、デジタルで作れる部分は法律上ちゃんとあります。

下書きが役に立つのは、棚卸しが終わり、公証人との打ち合わせが速くなり、家族と話す材料になり、書き直しの土台になるからです。

書いておくのは、財産の特定、渡す相手、予備の指定、遺言執行者、付言の5つです。

そして、清書する前にご相談ください。方式の不備は、書き上げた後では直せません。

行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、財産の棚卸しから遺言書の文案作成、公証役場との調整まで一体で対応しています。


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あわせて読みたい


根拠法令・公的資料

  • 民法第967条(普通の方式による遺言の種類・ただし書=特別の方式)
  • 民法第968条第1項(自筆証書遺言・全文、日付及び氏名の自書と押印)
  • 民法第968条第2項(添付する財産目録は自書を要しない・毎葉への署名押印)
  • 民法第968条第3項(加除その他の変更の方式)
  • 民法第969条(公正証書遺言・証人2人以上、口授)
  • 民法第970条(秘密証書遺言・本文の自書は要件ではない)
  • 民法第975条(共同遺言の禁止)
  • 民法第1022条(遺言の撤回・いつでも方式に従って撤回できる)
  • 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号・令和8年6月24日公布/保管証書遺言の創設・未施行)

公的機関・根拠リンク

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この記事の執筆者:大塚 英司

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)
税理士(東京税理士会新宿支部 登録番号 117702)

相続を専門に取り扱う行政書士・税理士。相続手続き・遺言・おひとりさま終活の実務に幅広く従事し、戸籍収集や遺産分割協議書の作成から、死後事務委任契約・任意後見契約といった生前対策の設計まで、ご相談者お一人おひとりの状況に応じて丁寧にサポートしている。