限定承認とは?相続放棄との違い・手続きの流れ・財産目録の作り方|借金と資産どちらが多いか不明な相続
10秒でわかる この記事の要約
- 限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の限度で、被相続人の借金や遺贈を弁済するという条件付きの相続の承認です(民法922条)。プラス財産を超える借金は返さなくてよく、余りが出れば相続できます。
- 「借金と資産のどちらが多いか分からない」「家業や自宅は残したいが借金が心配」という相続で選択肢になります。相続放棄が一切を承継しないのに対し、限定承認は差し引きプラスなら受け取れる点が異なります。
- 限定承認には、相続人全員が共同で・熟慮期間3か月以内に・財産目録を添えて家庭裁判所へ申述するという高いハードルがあります(民法923条・924条)。1人でも反対すると使えません。
- 見落とされやすいのが「みなし譲渡所得課税」です。限定承認をすると、被相続人が資産を時価で譲渡したものとみなされ、含み益に所得税がかかる場合があります(所得税法59条)。税務判断は税理士との連携が不可欠です。
親が亡くなり、財産を調べてみると「預貯金や不動産もあるが、借金や連帯保証もありそうだ。差し引きでプラスかマイナスか分からない」——。こうした相続で、相続放棄をすると自宅や事業用資産まで失ってしまう。かといって単純承認すると、後から出てきた借金を全額背負うかもしれないという板挟みに陥ることがあります。
この板挟みを解消する制度が限定承認です。相続で得たプラスの財産の範囲でだけ借金を返し、余ればもらえる——という「いいとこ取り」に見える制度ですが、相続人全員の共同申述・3か月の期限・複雑な清算手続き・みなし譲渡所得課税など、実務上のハードルが多く、利用件数は相続放棄に比べてはるかに少ないのが実情です。
本記事では、限定承認を、相続放棄・単純承認との違い・向いているケース・手続きの流れ・財産目録の作り方・みなし譲渡所得課税の落とし穴・専門家の役割分担まで、相続を専門に扱う行政書士の書類作成支援目線で7つのステップに整理して解説します。
なお、限定承認の家庭裁判所への申述書類の作成・提出は司法書士・弁護士の関わる領域で、みなし譲渡所得・準確定申告などの税務は税理士の領域です。行政書士は、相続財産の調査・財産一覧(財産目録の基礎資料)の整理・引継ぎ資料の作成支援・全体の進行管理を担い、各専門家と連携して進めます。
東京・八丁堀の行政書士法人トゥモローズは、限定承認を検討する相続の財産調査・財産一覧の整理・司法書士や税理士への引継ぎ資料の作成支援・全体の進行管理を全国オンラインで対応しています。
限定承認とは——単純承認・相続放棄との違い
相続が始まると、相続人は単純承認・限定承認・相続放棄の3つから選択できます。まず、この3つの違いを整理します。
3つの選択肢の違い
| 引き継ぐもの | 借金の責任 | |
|---|---|---|
| 単純承認 | プラス財産もマイナス財産も全部 | 相続人の財産でも無限に返済 |
| 限定承認 | プラス財産の限度で清算し、余れば承継 | プラス財産を超える分は返済不要 |
| 相続放棄 | 一切承継しない | 一切負わない |
限定承認の定義(民法922条)
限定承認とは、民法922条により、相続人が「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続を承認する」制度です。
つまり、被相続人に借金があっても、相続したプラスの財産の範囲でだけ返済すればよく、それを超える借金について相続人自身の財産で返す必要はありません。そして、プラスの財産で借金を清算した後に余りが出れば、その残りを相続できる点が、一切を承継しない相続放棄との決定的な違いです。
「いいとこ取り」に見えるが利用は少ない
限定承認は「借金が資産を超えなければ財産をもらえ、超えても自腹は切らない」という合理的な制度に見えます。しかし実際の利用件数は相続放棄に比べてごくわずかです。理由は、相続人全員の共同申述が必要・手続きが煩雑・清算に手間と時間がかかる・みなし譲渡所得課税という思わぬ税負担が生じ得るといったハードルの高さにあります。これらは後の見出しで順に解説します。
相続放棄との使い分けの基本
- 借金が資産を明らかに大きく上回ると分かっている → 手続きが簡単な相続放棄が一般的
- 借金と資産のどちらが多いか不明、または残したい特定の財産(自宅・事業用資産)がある → 限定承認が選択肢
相続放棄そのものの手続きは、相続放棄と管理義務の記事もあわせてご確認ください。
相続手続きの料金プランとサポート内容の全体像は、こちらにまとめています。
限定承認が向いているケース・向かないケース
限定承認が実際に選ばれるのは、限られた状況です。向いているケース・向かないケースを整理します。
限定承認が向いているケース
- 借金と資産のどちらが多いか分からない:連帯保証や事業債務があり、負債総額が確定できない場合。差し引きプラスなら受け取れる
- 残したい特定の財産がある:自宅や先祖代々の土地、事業用資産などを、後述の先買権を使って手元に残したい場合
- 後から借金が出てくる不安がある:被相続人の交友・事業関係が不透明で、想定外の債務が判明するリスクに備えたい場合
- 相続人全員の足並みが揃っている:全員が限定承認に同意できる場合(共同申述が必須のため)
限定承認が向かない・使えないケース
- 借金が資産を明らかに大きく上回る:素直に相続放棄する方が手続きが簡単で確実
- 相続人の1人でも反対している・非協力:全員共同でないと申述できない
- 相続人の中に既に単純承認した人がいる:財産を処分するなど法定単純承認(民法921条)に当たる行為をした相続人がいると、原則として限定承認できなくなる
- 含み益の大きい不動産・株式がある:みなし譲渡所得課税(後述)で、かえって税負担が生じる場合がある
- 3か月の熟慮期間が過ぎている:原則として申述できない(期間の伸長は後述)
判断は財産と負債の全体像を把握してから
限定承認・相続放棄・単純承認のどれを選ぶかは、プラス財産(預貯金・不動産・株式等)とマイナス財産(借金・連帯保証・未払金等)の全体像を把握したうえで判断します。相続開始から3か月という短い熟慮期間の中で財産調査を行う必要があるため、早い段階で相続財産の調査に着手することが重要です。相続放棄の熟慮期間3か月の考え方は、相続手続きの3か月の期限の記事もあわせてご確認ください。
限定承認の財産調査・財産一覧の整理から専門家連携まで、丁寧にサポート。
東京・八丁堀の行政書士法人トゥモローズが、限定承認を検討する相続について、相続財産の調査・財産目録の作成支援・戸籍収集・全体の進行管理・司法書士や税理士との連携を全国オンラインで対応します(家庭裁判所への申述は司法書士・弁護士、みなし譲渡所得・準確定申告などの税務は税理士と連携)。初回相談無料。
平日 9:00〜21:00 土日祝 9:00〜17:00
限定承認の手続きの流れ——3か月の申述から清算まで
限定承認の手続きは、家庭裁判所への申述から始まり、その後の債権者への公告・清算まで続く、比較的長い手続きです。一般的な流れを整理します。
ステップ1:相続財産の調査・財産一覧の整理
限定承認の申述には財産目録の添付が必要です(民法924条)。その前提として、被相続人のプラス財産(預貯金・不動産・株式・保険等)とマイナス財産(借金・連帯保証・未払金等)を調査し、財産一覧に整理します。この財産調査と財産一覧の整理支援は、行政書士が担える領域です。ただし、家庭裁判所に提出する限定承認申述書・財産目録の作成・提出は、司法書士・弁護士と連携して進めます。
ステップ2:相続人全員での家庭裁判所への申述(3か月以内)
相続の開始を知った時から3か月の熟慮期間内に、相続人全員が共同で、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ限定承認の申述をします(民法923条・924条)。申述書・財産目録・戸籍謄本等を提出します。この家庭裁判所への申述書類の作成・提出は、司法書士・弁護士が関わる領域です。
ステップ3:家庭裁判所による申述の受理
家庭裁判所が申述を受理すると、限定承認の効力が生じます。相続人が複数いる場合は、家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選任します(民法936条)。
ステップ4:債権者・受遺者への公告・催告
限定承認をした後、限定承認者は、原則として限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者・受遺者に対して、限定承認をした旨と、2か月以上の一定期間内に請求を申し出るべき旨を官報で公告します(民法927条)。共同相続で家庭裁判所が相続財産清算人を選任した場合は、民法936条により相続財産清算人の選任後10日以内に公告する扱いになります。知れている債権者・受遺者には個別に催告します。
ステップ5:相続財産の清算・弁済
公告期間の満了後、相続財産(プラスの財産)を換価し、相続債権者・受遺者へ弁済します。弁済にあたっては、公告期間内に申出をした債権者・知れている債権者・担保権や優先権のある債権者の有無を整理し、民法上の弁済順位・手続に従って処理します(単純に全債権者へ一律按分するのではありません)。この清算・弁済方法は、司法書士・弁護士と確認して進めます。不動産等は原則として競売により換価しますが、後述の先買権により、相続人が価額を弁済して特定の財産を手元に残すこともできます。
ステップ6:残余財産の承継
すべての債務・遺贈を弁済してもなお財産が余った場合、その残余財産を相続人が承継します。これが「差し引きプラスなら受け取れる」という限定承認の効果です。
所要期間の目安
申述から清算完了まで、公告期間(2か月以上)や換価・弁済の手続きを含めて、案件により半年〜1年以上かかることが一般的です。相続放棄(申述のみで完了)に比べて、手続きの負担は大きくなります。
相続人全員の共同申述という最大のハードル
限定承認が相続放棄に比べて利用されにくい最大の理由が、「相続人全員が共同でしなければならない」という要件です(民法923条)。
なぜ全員共同なのか
相続放棄は各相続人が単独でできますが、限定承認は相続財産全体を清算する手続きであるため、一部の相続人だけが限定承認し、他の相続人が単純承認する、という状態を認めると清算関係が複雑になります。そのため、限定承認は相続人全員が足並みを揃えて共同で申述することが求められます。
1人でも反対・非協力だと使えない
相続人の中に1人でも限定承認に反対する人、連絡が取れない人、非協力な人がいると、原則として限定承認はできません。相続人が多い、疎遠な相続人がいる、相続人間で意見が対立している、といった案件では、限定承認は現実的な選択肢になりにくいのが実情です。
相続放棄した人がいる場合は残りの全員で
ただし、相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、その人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、残りの相続人全員が共同すれば限定承認できます。「全員」とは、相続放棄した人を除いた相続人全員を指します。なお、相続放棄によって新たに相続人となる人(次順位の相続人)がいる場合は、その人にも自分が相続人になったことを知った時から3か月の熟慮期間があり、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれを選ぶかの判断が必要になります。
法定単純承認に注意
相続人の1人でも、相続財産を処分する、隠す、私的に費消するなどの行為をすると、その相続人は単純承認をしたものとみなされ(法定単純承認・民法921条)、限定承認ができなくなる場合があります。限定承認を検討している間は、相続財産に手をつけないことが重要です。法定単純承認に当たる行為の詳細は、相続放棄と管理義務の記事もあわせてご確認ください。
実務では相続人間の合意形成が鍵
限定承認を選ぶには、3か月という短い期間の中で、相続人全員が財産・負債の状況を共有し、限定承認で進めることに合意する必要があります。疎遠な相続人がいる場合は連絡・説明に時間がかかるため、初動での相続人の把握と合意形成が実務上の鍵になります。
みなし譲渡所得課税——限定承認で見落とされやすい税務の落とし穴
限定承認で最も見落とされやすく、かつ影響が大きいのが「みなし譲渡所得課税」です。これを知らずに限定承認すると、思わぬ税負担が生じることがあります。
みなし譲渡所得課税という落とし穴があることを知っておく
所得税法59条により、限定承認に係る相続があった場合、被相続人が相続開始時に、相続財産を時価で譲渡したものとみなされます。対象となるのは、主に不動産・株式など「譲渡所得の基因となる資産」です。これらに含み益(取得時より値上がりした分)があると、その含み益に対して被相続人に譲渡所得税が課される場合があります。現金・預貯金そのものに譲渡所得が生じるわけではなく、値上がりしうる資産があるかどうかがポイントです。
含み益の大きい財産があると、限定承認でかえって不利になり得る
先祖代々の土地や、取得時より大きく値上がりした不動産・株式がある場合、みなし譲渡所得税が高額になり、限定承認によってかえって税負担が増えることがあります。これは限定承認の損得を左右する決定的なポイントで、単純承認・相続放棄との比較にも影響します。そのため、限定承認を決める前に、含み益のある財産の有無と税額の試算を必ず確認します。
税額計算・準確定申告の詳細は税理士・TAX記事へ
みなし譲渡所得税の具体的な計算方法、被相続人の準確定申告(相続開始を知った日の翌日から4か月以内)、この所得税が限定承認の清算の中でどう扱われるか、相続税との関係といった税務の詳細は税理士の領域です。本記事は行政書士による手続き・財産目録の解説にとどめ、税額計算・申告の詳細は次の解説にゆずります。限定承認の準確定申告・相続税の具体的な計算・申告実務は、関連解説(税理士法人トゥモローズ)「限定承認をした場合の準確定申告や相続税について徹底解説」で詳しく解説されています。
行政書士による財産調査・財産一覧の整理と並行して、税理士によるみなし譲渡所得税の試算を早い段階で依頼するのが実務の要諦です。
財産目録の作り方と、行政書士・司法書士・税理士の役割分担
限定承認は、複数の専門家が関わる手続きです。財産目録の作り方と、各専門家の役割分担を整理します。
財産目録の作り方
限定承認の申述に添付する財産目録には、被相続人の財産を漏れなく記載します。調査・記載する主な項目は次のとおりです。
プラスの財産
- 預貯金(金融機関名・支店・口座番号・残高)
- 不動産(所在・地番・家屋番号・評価額)
- 有価証券(証券会社・銘柄・数量・評価額)
- 生命保険(受取人指定の有無に注意。受取人が指定された死亡保険金は、原則として受取人固有の財産であり相続財産に含まれません。相続財産に入る保険金か受取人固有の財産かを確認します)
- 自動車・貴金属・その他の動産
マイナスの財産
- 借入金(債権者・残高)
- 連帯保証・保証債務
- 未払いの税金・医療費・公共料金
- クレジットカードの未払残高
財産の調査は、通帳・郵送物・信用情報機関の開示・名寄帳などを組み合わせて行います。相続財産の調べ方は、相続財産の調べ方の記事もあわせてご確認ください。
行政書士の担当領域
- 相続財産の調査:預貯金・不動産・負債の洗い出し
- 財産一覧の整理・引継ぎ資料の作成支援:申述に添付する財産目録の基礎となる財産一覧を整理し、司法書士・弁護士が申述書類・財産目録を作成するための資料としてまとめる
- 戸籍謄本等の収集:相続人の確定に必要な戸籍の収集
- 全体の進行管理・専門家連携:司法書士・税理士との橋渡し
司法書士・弁護士の担当領域
- 家庭裁判所への申述書類の作成・提出:限定承認の申述書の作成
- 相続人間・債権者との紛争対応:意見対立や争いがある場合(弁護士)
- 清算手続き・不動産の換価:競売・先買権の対応
税理士の担当領域
- みなし譲渡所得税の試算:限定承認の損得判断の材料
- 準確定申告:被相続人の所得税の申告
- 相続税申告:相続税が発生する場合
初動での連携体制が重要
限定承認は3か月という短い期限の中で、財産調査・税額試算・申述書類作成を並行して進める必要があります。行政書士が財産調査・財産一覧の整理・進行管理を担い、司法書士・弁護士が家裁への申述書類・財産目録の作成・提出、税理士が税額試算を担う、という初動での役割分担と連携体制を早期に整えることが、限定承認を成功させる鍵です。
限定承認の実務トラブルと対処
限定承認を進める際によくある実務トラブルと対処を整理します。
トラブル1:3か月の熟慮期間に間に合わない
財産調査に時間がかかり、3か月以内に限定承認の判断ができないケースがあります。この場合、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます(民法915条)。3か月が経過する前に伸長を申し立てておくことが重要です。期限が迫っている場合は、早急に司法書士・弁護士に相談します。
トラブル2:相続人の1人が財産を処分してしまった
限定承認を検討している間に、相続人の1人が預貯金を引き出して使う、遺品を売却するなどの行為をすると、法定単純承認(民法921条)に当たり、限定承認ができなくなる場合があります。対処法は、限定承認の可能性がある間は相続人全員で相続財産に手をつけないことを共有することです。
トラブル3:みなし譲渡所得税で想定外の負担が生じた
含み益の大きい不動産・株式があり、限定承認後にみなし譲渡所得税が高額になるケースです。対処法は、限定承認を決める前に、税理士にみなし譲渡所得税を試算してもらい、相続放棄や単純承認と比較して有利かを判断することです。
トラブル4:自宅を残したいが競売にかかりそう
限定承認では相続財産を換価して債権者に弁済するため、自宅も競売の対象になり得ます。対処法は、先買権(民法932条ただし書)を使うことです。限定承認者は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を弁済することで、競売を止めて特定の財産(自宅等)を手元に残すことができます。先買権の行使には資金が必要なため、事前の資金準備が要ります。
トラブル5:相続人間で限定承認の合意が取れない
相続人の一部が単純承認したい、または相続放棄したいと考え、限定承認の合意が取れないケースです。対処法は、財産・負債の全体像と、各選択肢のメリット・デメリットを相続人全員で共有し、冷静に判断できる材料を揃えることです。合意形成が難しい場合、限定承認は断念し、各相続人が個別に相続放棄・単純承認を選ぶことになります。
トラブル6:公告・清算の手続きが煩雑で進まない
限定承認の受理後の官報公告・債権者への弁済・換価の手続きは煩雑で、相続人だけで進めるのは負担が大きいものです。対処法は、清算手続きを司法書士・弁護士に依頼し、行政書士が全体の進行管理・書類整理を支援する体制を組むことです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 限定承認と相続放棄は、どちらを選ぶべきですか?
A. 財産と負債の状況によります。借金が資産を明らかに大きく上回ると分かっている場合は、手続きが簡単な相続放棄が一般的です。一方、借金と資産のどちらが多いか分からない場合や、自宅・事業用資産など残したい特定の財産がある場合は、限定承認が選択肢になります。ただし限定承認は相続人全員の共同申述が必要で手続きも煩雑、みなし譲渡所得課税の可能性もあるため、財産調査と税額試算を踏まえて慎重に判断します。判断材料の整理は行政書士・税理士・司法書士と連携して進めます。
Q2. 相続人の1人が限定承認に反対したら、限定承認はできませんか?
A. 原則としてできません。限定承認は相続人全員が共同で申述することが要件です(民法923条)。1人でも反対する人、連絡が取れない人、非協力な人がいると、限定承認は使えません。ただし、反対している相続人が相続放棄をすれば、その人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、残りの相続人全員で限定承認できます。相続人が多い・疎遠な相続人がいる案件では、初動での相続人の把握と合意形成が重要になります。
Q3. 限定承認の費用はどれくらいかかりますか?
A. 限定承認には、家庭裁判所への申述費用(収入印紙・郵便切手)のほか、官報公告費用、財産の換価にかかる費用、専門家への報酬が発生します。専門家報酬は、財産調査・財産一覧整理・引継ぎ資料作成支援(行政書士)、家裁申述書類・提出用財産目録の作成(司法書士・弁護士)、みなし譲渡所得税の試算・準確定申告(税理士)と、複数の専門家が関わるため、相続放棄より高額になる傾向があります。清算手続きの内容・財産規模により総額は大きく変わるため、初動段階で各専門家から見積もりを取得します。
Q4. 限定承認で自宅を手元に残すことはできますか?
A. できる場合があります。限定承認では相続財産を換価して債権者に弁済するため、自宅も原則として競売の対象になりますが、先買権(民法932条ただし書)を使うことで、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を弁済して、競売を止め、自宅を手元に残すことができます。ただし先買権の行使には評価額を弁済するための資金が必要です。自宅を残したい場合は、先買権の活用と資金準備を、司法書士・弁護士と事前に相談します。
Q5. 相続開始から3か月を過ぎたら、もう限定承認はできませんか?
A. 原則として、限定承認は相続の開始を知った時から3か月の熟慮期間内に申述する必要があります(民法924条)。ただし、財産調査に時間がかかるなどの事情がある場合、3か月が経過する前に家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます(民法915条)。伸長が認められれば、期間内に判断すればよいことになります。期限が迫っている場合は、伸長の申立ても含めて、早急に司法書士・弁護士に相談することが重要です。
相続手続きの料金プランとサポート内容の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
限定承認は、相続によって得たプラスの財産の限度でのみ借金や遺贈を弁済し、余れば相続できるという条件付きの承認です(民法922条)。「借金と資産のどちらが多いか分からない」「自宅や事業用資産は残したい」という相続で選択肢になり、一切を承継しない相続放棄とは、差し引きプラスなら受け取れる点で異なります。
ただし、限定承認には相続人全員の共同申述・3か月の熟慮期間・財産目録の作成・煩雑な清算手続きという高いハードルがあり、利用件数は相続放棄に比べてごくわずかです。特に、みなし譲渡所得課税(所得税法59条)により、含み益のある不動産・株式があると思わぬ税負担が生じることがあるため、限定承認を決める前に、必ず税理士にみなし譲渡所得税を試算してもらうことが不可欠です。
限定承認は複数の専門家が関わる手続きです。家庭裁判所への申述書類の作成・提出は司法書士・弁護士、みなし譲渡所得・準確定申告などの税務は税理士の領域で、行政書士は相続財産の調査・財産一覧の整理・戸籍収集・引継ぎ資料の作成支援・全体の進行管理を担い、各専門家と連携して進めます。3か月という短い期限の中で、財産調査・税額試算・申述書類作成を並行するため、初動での役割分担と連携体制づくりが成功の鍵です。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、限定承認を検討する相続について、相続財産の調査・財産一覧の整理・戸籍収集・司法書士や税理士への引継ぎ資料の作成支援・全体の進行管理を、全国オンラインで対応しています。「借金と資産のどちらが多いか分からない」「自宅は残したいが借金が心配」といったご相談に、家庭裁判所への申述は司法書士・弁護士、みなし譲渡所得・準確定申告などの税務は税理士法人トゥモローズと連携して対応します。
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本記事は限定承認の手続き実務を、相続を専門に扱う行政書士の書類作成支援目線でまとめたものです。限定承認に伴うみなし譲渡所得・準確定申告・相続税などの税務判断については、税理士法人トゥモローズが公開している以下の記事もあわせてご確認ください。
根拠法令・公的資料
- 民法915条(相続の承認又は放棄をすべき期間・熟慮期間の伸長)
- 民法921条(法定単純承認)
- 民法922条(限定承認)
- 民法923条(共同相続人の限定承認)
- 民法924条(限定承認の方式・財産目録の作成と家庭裁判所への申述)
- 民法927条(限定承認における債権者・受遺者への公告及び催告)
- 民法932条(弁済のための相続財産の換価・先買権)
- 民法936条(相続人が数人ある場合の相続財産の清算人)
- 民法939条(相続の放棄の効力)
- 所得税法59条(みなし譲渡・限定承認に係る資産の時価譲渡とみなす課税)
