遺言書の押印はいつから不要?2026年民法改正の施行日と証人の欠格事由の拡大
10秒でわかる この記事の要約
- 2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)で、遺言の押印が不要になります。
- 対象は自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別の方式の遺言で、公正証書遺言は今回の押印任意化の対象条文に入っていません。
- 施行は公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日です(=2027年6月24日までのいずれかの日)。
- 附則第5条により、施行日前にした遺言は従前の例によります。現行法どおり押印して作ってある遺言がこの改正で無効になることはありませんが、施行日前に押印なしで作った自筆証書遺言は方式を欠いたままです。
- 成年被後見人の遺言に立ち会う医師の押印も見直されます(民法第973条第2項)。
- 見落とされやすいのが証人の欠格事由の拡大です。受遺者が推定相続人でない場合、その被用者も証人になれなくなります。法人が受遺者のときは、その被用者と役員も同じです。公正証書遺言の証人にも及びます。
- 危急時の遺言には、証人1人以上の立会いで、口授から承認までの一連の手順を同時に録音録画する方式ができます。動画を撮るだけでは足りません。
「遺言書に押した印鑑、実印じゃなくて大丈夫ですか」
遺言のご相談で、いちばん多い質問のひとつです。
この質問自体が、いずれ過去のものになります。
2026年6月24日、民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)が公布されました。
この改正で、遺言の押印が要件から外れます。
ただし、まだ施行されていません。
施行日は政令で決まります。
本記事では、何がいつから変わり、今から遺言を書く人は何をすればよいのかを、条文で確認します。
同じ改正で創設される保管証書遺言については、遺言書のデジタル下書きを作る意味でも触れています。
押印がいらなくなるのは、施行日以後にする遺言からです
まず、いちばん大事な点から確認します。
改正法は、まだ施行されていません。
公布されたのは2026年6月24日です。
公布は、成立した法律を官報に載せて国民に知らせる手続きです。
実際に効力を持つ日は、別に定められます。
遺言制度の見直しは、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。
法務省の資料が、そのように説明しています。
つまり、2027年6月24日までのどこかです。
具体的な日は、政令が出るまで分かりません。
同じ改正法でも、施行のタイミングは3つに分かれています。
| 内容 | 施行期日 |
|---|---|
| 遺言制度の見直し(押印の任意化等) | 公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日 |
| 成年後見制度の見直し | 公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日 |
| 保管証書遺言の創設等 | 公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日 |
押印の任意化は、いちばん早いグループです。
電子データで作る保管証書遺言は、いちばん遅いグループになります。
では、施行日をまたぐ遺言はどう扱われるのか。
改正法の附則第5条に、答えが書かれています。
附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日前にされた遺言については、第一条の規定(同号に掲げる改正規定に限る。次項において同じ。)による改正後の民法第九百六十八条、第九百七十条第一項、第九百七十三条、第九百七十四条、第九百七十六条第一項、第九百七十九条第一項及び第三項、第九百八十条から第九百八十二条まで並びに第九百八十四条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
「なお従前の例による」がポイントです。
施行日より前にした遺言は、現行法のルールで判断されます。
ここから、2つのことが言えます。
- 施行日より前に自筆証書遺言や秘密証書遺言を作るなら、現行法どおり押印が必要です
- すでに押印して作ってある遺言が、この改正で無効になることはありません
「改正されるらしいから、押印なしで書いておこう」は危険です。
施行日前に書けば、押印のない自筆証書遺言は方式を欠きます。
書き方の基本は、関連解説(税理士法人トゥモローズ)「【その遺言書は有効?】遺言書の書き方を文例付きでわかりやすく解説!」もあわせてご覧ください。
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
どの遺言の、どの押印がなくなるのか
次に、対象を条文で押さえます。
自筆証書遺言(民法第968条)から見ます。
現行の第1項は、こうです。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
改正後は、こうなります。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書しなければならない。
「これに印を押し」が消えました。
変わるのは第1項だけではありません。
第2項の財産目録も、現行は毎葉に「署名し、印を押さなければならない」ですが、改正後は「署名しなければならない」になります。
第3項の加除その他の変更も、現行は「署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ」効力を生じませんが、改正後は「署名しなければ」になります。
訂正印もいらなくなる、ということです。
自筆証書遺言でつまずきやすいのは、書き上げたあとに直したときの方式です。
押印が要件から外れれば、その分だけ形式面の失敗は減ります。
秘密証書遺言(民法第970条)も変わります。
こちらは、少し複雑です。
| 号 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 1号 | 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと | 遺言者が、その証書に署名すること |
| 2号 | 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること | 遺言者が、その証書に封をすること |
| 4号 | 公証人が…封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと | 公証人が…封紙に記載した後、これに印を押し、遺言者及び証人とともにこれに署名すること |
封印が「封をする」に変わります。
証書に押した印章と同じ印章で封印する、という縛りがなくなります。
一方、4号の公証人の押印は残ります。
遺言者と証人の押印はなくなりますが、公証人は封紙に印を押すことになっています。
秘密証書遺言そのものの手続きは秘密証書遺言とはにまとめました。
特別の方式の遺言も、押印がなくなります。
民法第976条第1項(死亡の危急に迫った者の遺言)、第979条第3項(船舶遭難者等の遺言)、第980条(伝染病隔離者・在船者の遺言の関係者の署名)が、いずれも「署名し、印を押さなければ」から「署名しなければ」に変わります。
第981条の見出しも、「署名又は押印が不能の場合」から「署名が不能の場合」になります。
成年被後見人の遺言に立ち会う医師の押印も見直されます。
民法第973条第2項は、現行では次のように定めています。
遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。
改正後は、その旨を「記載し、又は記録して」、「署名し、又は法務省令で定める署名に代わる措置を講じなければならない」となります。
秘密証書遺言では医師が封紙に記載して署名し、後に創設される保管証書遺言では遺言書保管官へ申述する方式が設けられます。
では、公正証書遺言はどうか。
ここは、押印・証人・作成方法の3つを分けて考える必要があります。
| 論点 | 今回の改正での扱い |
|---|---|
| 押印(民法第969条) | 今回の押印任意化の対象条文に入っていません |
| 証人(民法第974条) | 影響します。公正証書遺言の証人にも適用されます |
| 作成方法 | 今回の改正とは別に、2025年10月1日から原則として電磁的記録で作成されています |
押印については、第969条は対象外です。
新旧対照条文でも、第969条は第2項の法令番号の引用が整理されているだけです。
一方、証人は変わります。
第974条は「遺言の証人又は立会人」について定めた規定で、公正証書遺言の証人にも及びます。
施行日以後は、受遺者の被用者や、法人が受遺者である場合のその職員・役員を公正証書遺言の証人にすることはできません。
そして、作成方法はすでに変わっています。
日本公証人連合会は、令和7年10月1日に公証人法が改正され、同日以後に法務大臣が指定する公証人が作成する公正証書については原則として電磁的記録で作成されると案内しています。
PDF形式の電磁的記録に列席者が電子サインを付し、公証人が電子サインと電子署名を付したものが原本になります。
ただし、成年被後見人の遺言公正証書のように法律上書面で作成することが前提となっているものは、例外とされています。
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見落とされやすい、証人になれない人の拡大(民法第974条)
押印の話題に隠れがちですが、実務への影響はこちらのほうが大きいかもしれません。
民法第974条は、遺言の証人・立会人になれない人を定めています。
現行は、3つです。
- 一 未成年者
- 二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
改正後は、4つに分かれます。
- 一 未成年者
- 二 推定相続人並びにその配偶者及び直系血族
- 三 受遺者(推定相続人である者を除く。)並びにその配偶者、直系血族及び被用者(受遺者が法人である場合にあっては、その被用者及び役員)
- 四 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び被用者
推定相続人と受遺者が、別の号に分かれました。
そのうえで、受遺者側にだけ被用者が加わっています。
整理すると、こうです。
| 証人の候補 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 受遺者の配偶者・直系血族 | なれない | なれない |
| 受遺者に雇われている人 | その関係だけでは欠格でない | 受遺者が推定相続人でない場合はなれない |
| 遺贈を受ける法人の職員 | その関係だけでは欠格でない | なれない |
| 遺贈を受ける法人の理事・取締役など | その関係だけでは欠格でない | なれない |
表の2行目に、条文上の例外があります。
改正後の第3号は「受遺者(推定相続人である者を除く。)」としています。
つまり、受遺者がもともと推定相続人でもある場合、その被用者は「雇われている」という理由だけでは欠格になりません。
法人は推定相続人になりませんから、この例外はありません。
なお、候補者が他の号にも当たる場合は、当然に証人になれません。続柄だけで判断せず、その方自身が推定相続人や受遺者に当たらないかを確認してください。
影響が出やすいのは、法人へ遺贈するケースです。
お世話になった施設や団体へ財産を遺したい、というご相談は少なくありません。
その場で証人を手配しようとすると、受け取る側の職員に頼みたくなります。
改正後は、それができません。
遺贈を受ける法人の職員も役員も、証人になれないからです。
もうひとつ、身近な場面があります。
推定相続人ではない個人事業主に事業用の財産を遺贈する場合、その事業の従業員は証人になれなくなります。
現行法での証人の選び方は、次の記事にまとめました。
施行日以後に作る遺言では、改正後の第974条で判断してください。
証人選びは、無効の争いの入口になりやすいところです。
迷ったら、受け取る側と利害関係のない第三者を選ぶのが安全です。
公証役場に証人を紹介してもらう方法もあります。
危急時の遺言に「証人1人以上と、法定手順の同時録音録画」の方式ができます(民法第976条の2)
特別の方式の遺言にも、大きな追加があります。
まず、現行の死亡の危急に迫った者の遺言(民法第976条第1項)です。
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者は、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授してすることができます。
口授を受けた人が筆記し、遺言者と他の証人に読み聞かせるか閲覧させ、各証人が筆記の正確なことを承認して署名します。
問題は、証人3人です。
病室に、利害関係のない3人をすぐ集めるのは簡単ではありません。
そこで、新しい第976条の2が設けられます。
前条第一項の規定にかかわらず、次の各号に規定する状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録するときは、同項に規定する死亡の危急に迫った者は、証人一人以上の立会いをもって、遺言をすることができる。
録音と録画を同時にすることが条件です。
音声だけ、映像だけでは足りません。
そのうえで、証人は1人以上でよくなります。
記録する状況は、3つの号に書かれています。
| 号 | 記録すべき状況 |
|---|---|
| 一 | 証人の一人に遺言の趣旨を口授すること |
| 二 | 口授を受けた証人が、遺言の趣旨及び証人の氏名を書面に記載し、又は電磁的記録に記録すること |
| 三 | 前号の証人が、その書面又は電磁的記録に記録された情報の内容を表示したものを、遺言者に読み聞かせ、又は閲覧させ、遺言者がその記載又は記録の正確なことを承認すること |
さらに、証人はその場にいなくてもよくなります。
第2項は、遺言者と証人が「映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法」によって証人を立ち会わせることができる、としています。
ウェブ会議による立会いです。
口がきけない方は通訳人の通訳による申述で口授に代えられ、耳が聞こえない方には書面等の内容を通訳人が伝えて読み聞かせに代えられます。
通訳人も、同じ方法で参加できます。
ただし、家庭裁判所の確認は今までどおり必要です。
第6項が、第976条第4項と第5項を準用しているためです。
遺言の日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を得なければ、効力を生じません。
急いで作っても、その後の手続きが残る点は変わりません。
そして、「確認」と「検認」は別の手続きです。
ここを混同すると、確認を受けたから何もいらない、と誤解します。
| 手続き | いつ | 何のため |
|---|---|---|
| 確認 | 遺言をした後(死亡危急時は遺言の日から20日以内) | その特別方式の遺言が効力を生じるために必要 |
| 検認 | 遺言者が亡くなった後 | 遺言書の存在・内容・状態を明確にし、偽造や変造を防ぐため |
改正で、検認の対象に電磁的記録が加わります。
改正後の民法第1004条第1項は、「遺言書又は第九百七十九条の二第一項各号に規定する方法により記録された電磁的記録(以下この章において「遺言書等」という。)の保管者は…」として、第979条の2の方式で記録された録音録画のデータを検認の対象に加えています。
第976条の2のほうは、証人が遺言の趣旨等を書面または電磁的記録に記録する方式です。改正後の同条第3項は、その電磁的記録に記録されたときについて、保管者が複数いる場合に一人が請求すれば足りるという調整を置いています。
裁判所も、検認は遺言書の存在と内容を明確にして偽造・変造を防ぐ手続きであり、遺言の有効・無効を判断する手続きではないと説明しています。
現行の危急時遺言の流れは危急時遺言とはにまとめています。
なお、家庭裁判所への確認の請求に必要な書類の作成は、司法書士または弁護士の業務です。
重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所でも遺言ができます(民法第979条・第979条の2)
特別の方式には、もうひとつ大きな拡張があります。
現行の民法第979条は、船舶遭難者の遺言です。
船舶が遭難した場合に、その船の中で死亡の危急に迫った人は、証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言ができます。
「船の中」に限られていました。
改正後は、第1項に次の一文が加わります。
天災その他避けることのできない事変が発生した場合において、当該天災又は当該事変から生じた重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所に在って死亡の危急に迫った者についても、同様とする。
見出しも「船舶遭難者等の遺言」に変わります。
地震や水害など、船以外の災害の現場が入ってきます。
そして、新しい第979条の2が設けられます。
口頭で遺言をする方式が、2つ増えます。
| 号 | 方式 |
|---|---|
| 一 | 証人一人以上の立会いをもって、口頭で遺言をする状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録する方式 |
| 二 | 口頭で遺言をする状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録し、その使用する電子計算機を用いてその記録を特定の者に送信する方式 |
2号には、証人という言葉がありません。
口頭で遺言をする状況を録音録画し、それを特定の相手に送る方式です。
手元の機器で記録して送る、という場面が想定されます。
1号の場合は、証人がウェブ会議で立ち会うこともできます。
第2項が、映像と音声の送受信により相互に認識しながら通話できる方法での立会いを認めています。
こちらも、家庭裁判所の確認は必要です。
第5項は、証人の1人、第1項第2号の規定による送信を受けた者または利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得なければ効力を生じない、としています。
なお、特別の方式の遺言には、共通の落とし穴があります。
遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときは、その遺言は効力を生じません(民法第983条)。
危機を脱したら、あらためて作り直す必要があります。
作り直しの手順は遺言書を作り直す方法にまとめました。
施行までの間、どう備えておくか
ここまでを踏まえて、今できることを整理します。
まず、施行日前に自筆証書遺言や秘密証書遺言を作るなら、押印してください。
施行日前にした遺言は、附則第5条により従前の例によります。
押印がなければ、方式を欠くことになります。
「もうすぐ改正されるから待とう」も、おすすめしません。
施行日は、まだ政令で決まっていません。
その間に相続が起きれば、遺言がない状態で相続が始まります。
押印は、施行後も付けて構いません。
押印が禁止されるわけではなく、方式の要件から外れるだけだからです。
施行日以後に押印しても、それだけで方式違反になることはありません。
次に、証人の候補は改正後の基準で選んでおくと安心です。
施行日は政令次第なので、作成日が施行日をまたぐかどうかは事前に確定できません。
どちらでも通る人を選んでおけば、作り直しになりません。
具体的には、次の人は避けておきます。
- 遺贈を受ける法人の職員・役員
- 遺贈を受ける個人に雇われている人
- 受遺者・推定相続人の配偶者や親子
そして、押印がなくなった後の裏づけについて考えておくことです。
自筆証書遺言で本人が書いたことを示す手がかりは、改正後は自書された全文・日付・氏名になります。
印影という材料が、ひとつ減ります。
ですから、保管の方法がこれまで以上に意味を持ちます。
法務局の自筆証書遺言書保管制度に預けておけば、遺言書の存在と保管の事実が公的に記録されます。
家庭裁判所の検認も不要になります。
作成の過程を残しておくことも、有効です。
誰と相談し、どういう理由でその内容にしたのか。
付言に残しておく方法もあります。
最後に、改正の対象外である公正証書遺言について。
確実性を優先するなら、選択肢として変わらず有力です。
公証人が関与し、原本が公証人によって保管されるからです。
なお2025年10月1日以後、公正証書は原則として電磁的記録で作成され、その原本は日本公証人連合会が運営するシステム内で保存されます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 押印がいらなくなったら、遺言書のために印鑑を用意する必要もなくなりますか?
A. 施行日以後にする自筆証書遺言については、印鑑そのものを用意する必要がなくなります。現行法でも遺言書の押印は実印である必要はなく認印でも足りると解されていますが、改正後は押印自体が方式の要件から外れます。ただし施行日前に自筆証書遺言や秘密証書遺言を作る場合は現行法どおり押印が必要ですし、押印してはいけないという意味でもありません。なお、遺言の内容を実行する相続手続きの場面では、相続人や遺言執行者の印鑑証明書を金融機関等から求められることがあります。
Q2. 改正法の施行日は、いつ分かりますか?
A. 政令が公布された時点で分かります。遺言制度の見直しは、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されるため、2027年6月24日までのいずれかの日になります。政令は施行日より前に公布されるのが通例です。なお、同じ改正法でも成年後見制度の見直しは2年6月以内、電子データ等で作成する保管証書遺言の創設は3年以内と、施行のグループが分かれています。
Q3. 誰でも録音や録画で遺言を残せるようになるのですか?
A. なりません。録音録画による方式が認められるのは、疾病などで死亡の危急に迫った人の遺言(民法976条の2)と、船舶遭難や天災等による重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所にいて、死亡の危急に迫った人の遺言(民法979条の2)に限られます。いずれも特別の方式であり、家庭裁判所の確認を得なければ効力を生じません。また、普通の方式で遺言ができるようになった時から6か月間生存すると効力を失います(民法983条)。平常時は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言といった法定の方式によります。スマートフォンで遺言の動画を撮っただけでは、法律上の遺言にはなりません。なお公正証書は2025年10月1日以後、原則として電磁的記録で作成されています。
Q4. 改正を待たずに今作った遺言を、施行後に作り直すべきですか?
A. 今回の押印要件の改正だけを理由に、作り直す必要はありません。附則5条により施行日前にした遺言は従前の例によるとされているためです。ただし、その遺言が実際に有効かどうかは、押印以外の方式要件、遺言能力、内容などを含めて別に判断されます。作り直しを検討したほうがよいのは、財産の内容や渡したい相手が変わったとき、受遺者や遺言執行者に指定した方が先に亡くなったときなど、内容に関わる事情が生じた場合です。方式が変わったことは、それ自体では作り直しの理由になりません。
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)で、遺言の押印が要件から外れます。
対象は自筆証書遺言(民法第968条)、秘密証書遺言(第970条第1項)、特別の方式の遺言(第976条第1項・第979条第3項・第980条)のほか、成年被後見人の遺言に立ち会う医師の押印(第973条第2項)です。
公正証書遺言の第969条は、今回の押印任意化の対象条文に入っていません。
施行は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日です。
2027年6月24日までのいずれかの日になります。
附則第5条により、施行日前にした遺言は従前の例によります。
施行日前に自筆証書遺言や秘密証書遺言を作るなら現行法どおり押印が必要で、すでに押印して作ってある遺言がこの改正で無効になることはありません。
あわせて、証人になれない人が広がります(第974条)。
受遺者が推定相続人でない場合はその被用者が、法人が受遺者のときはその被用者と役員が、証人になれなくなります。
法人へ遺贈する場合に、その法人の職員へ証人を頼むことはできません。
危急時の遺言には、録音録画による新しい方式ができます。
第976条の2により証人1人以上でよくなり、ウェブ会議での立会いも認められます。
第979条は災害の現場に広がり、第979条の2で録音録画の方式が2つ加わります。
いずれも家庭裁判所の確認は必要で、普通の方式で遺言できるようになってから6か月間生存すると効力を生じません。
やることは、シンプルです。
今、自筆証書遺言や秘密証書遺言を作るなら、現行法どおり押印する。証人は改正後の基準でも通る人を選んでおく。
制度が変わる前に、まず1通あることのほうが大事です。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、遺言書の文案作成、公証役場との調整、遺言執行者の設計をお手伝いしています。
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平日 9:00〜21:00 土日祝 9:00〜17:00
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税務の観点もあわせてご確認ください
遺言の方式が変わっても、相続税の課税関係が変わるわけではありません。ただし、誰に遺すかによって税額は変わります。遺贈を受けた個人が被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含みます)および配偶者以外に当たる場合は、原則として相続税額の2割加算の対象です。また、配偶者が財産を取得し申告等の要件を満たす場合は、配偶者の税額軽減を使えます。内容を決める段階で、税務の見通しも確認しておくと安心です。
根拠法令・公的資料
- 民法第968条第1項(改正後)「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書しなければならない」※現行は「自書し、これに印を押さなければならない」
- 民法第968条第2項(改正後)財産目録の毎葉に「署名しなければならない」※現行は「署名し、印を押さなければならない」・第3項(改正後)加除その他の変更は「その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名しなければ、その効力を生じない」※現行は「署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ」
- 民法第970条第1項(改正後)一 遺言者が、その証書に署名すること/二 遺言者が、その証書に封をすること/四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、これに印を押し、遺言者及び証人とともにこれに署名すること※公証人の押印は残ります
- 民法第974条(改正後)「次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。一 未成年者/二 推定相続人並びにその配偶者及び直系血族/三 受遺者(推定相続人である者を除く。)並びにその配偶者、直系血族及び被用者(受遺者が法人である場合にあっては、その被用者及び役員)/四 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び被用者」※★第3号の「(推定相続人である者を除く。)」により、受遺者がもともと推定相続人でもある場合、その被用者は第3号の欠格者にはなりません。法人は推定相続人にならないため、法人受遺者の被用者・役員にこの例外はありません。※現行は「一 未成年者/二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族/三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人」の3号構成
- 民法第976条の2第1項(新設)「前条第一項の規定にかかわらず、次の各号に規定する状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録するときは、同項に規定する死亡の危急に迫った者は、証人一人以上の立会いをもって、遺言をすることができる」・第2項(遺言者及び証人が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人を立ち会わせることができる)・第6項(前条第4項及び第5項の規定を準用する=家庭裁判所の確認が必要)
- 民法第979条第1項(改正後)「船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。天災その他避けることのできない事変が発生した場合において、当該天災又は当該事変から生じた重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所に在って死亡の危急に迫った者についても、同様とする」
- 民法第979条の2第1項(新設)「一 証人一人以上の立会いをもって、口頭で遺言をする状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録する方式/二 口頭で遺言をする状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録し、その使用する電子計算機を用いてその記録を特定の者に送信する方式」・第5項(証人の一人、第1項第2号の規定による送信を受けた者又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない)
- 民法第980条(改正後)「第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名しなければならない」※現行は「署名し、印を押さなければならない」
- 民法第973条第2項(現行)「遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない」→ 改正後は、その旨を「記載し、又は記録して」、「署名し、又は法務省令で定める署名に代わる措置を講じなければならない」となります。秘密証書遺言では封紙に記載して署名し、保管証書遺言では遺言書保管官へ申述します
- 民法第1004条第1項(改正後)「遺言書又は第九百七十九条の二第一項各号に規定する方法により記録された電磁的記録(以下この章において「遺言書等」という。)の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない」※録音録画により記録された電磁的記録も検認の対象になります。家庭裁判所の「確認」(特別方式の遺言が効力を生じるために必要)とは別の手続きです
- 民法第983条(第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない)
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)附則第5条「附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日前にされた遺言については、第一条の規定(同号に掲げる改正規定に限る。次項において同じ。)による改正後の民法第九百六十八条、第九百七十条第一項、第九百七十三条、第九百七十四条、第九百七十六条第一項、第九百七十九条第一項及び第三項、第九百八十条から第九百八十二条まで並びに第九百八十四条の規定にかかわらず、なお従前の例による」
- ※施行期日は法務省の公表資料によります。遺言制度の見直し(押印の任意化等)は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」、成年後見制度の見直しは「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」、保管証書遺言の創設等は「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」です。本記事は現在施行されている制度を前提に、改正内容を新旧対照条文で確認して記載しています(当法人確認日 2026年9月2日)
- ※公正証書のデジタル化は、日本公証人連合会「公正証書のデジタル化について」によります。「令和7年10月1日に公証人法が改正され、同日以後に法務大臣が指定する公証人が作成する公正証書については、原則として電磁的記録で作成されることとなりました」「PDF形式の電磁的記録で作成され、嘱託人等の列席者がパソコンを使用して電子サインを付し、公証人が同じく電子サインと官職証明書による電子署名を付したものが原本となります」「電磁的記録で作成された公正証書原本は、日本公証人連合会が運営するシステムのそれぞれの公証人が管理する領域で保存されます」。ただし列席者の署名押印が義務づけられている成年被後見人の遺言公正証書などは書面で作成される例外とされています(当法人確認日 2026年9月2日)
- ※検認について、裁判所は遺言書の存在と内容を明確にして偽造・変造を防止する手続きであり、遺言の有効・無効を判断する手続きではないと説明しています(当法人確認日 2026年9月2日)
- ※家庭裁判所への確認の請求(民法第976条第4項・第979条第3項)に必要な書類の作成は司法書士・弁護士、相続税の申告は税理士の業務です。行政書士が行えるのは、遺言書の文案の作成、公証役場との調整、ご相談です
