信用取引 相続税評価と相続における注意点を徹底解説

最終更新日:

相続税申告

亡くなった人が信用取引をしていた場合にその相続人が信用取引についての知識を持ってないと相続税申告、相続手続きで困窮します。

・そもそも信用取引ってどんな取引?
・信用取引の相続税評価をどうすればいいのか?
・現物取引と異なり相続人が換価のタイミングを選べないため大損することもある?

信用取引の相続税評価、相続手続きを適切に理解するためには信用取引自体を理解しなければなりません。
したがって、前段の信用取引についての解説が長くなりますが、
最後までお読みいただければ信用取引の相続税評価、相続手続きが本当の意味で理解できると思います。

なお、相続税申告でお急ぎの方はお電話、またはLINEにてお問い合わせいただけます。

初回面談は無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。

タップで発信

0120-916-968

平日 9:00~21:00 土日 9:00~17:00

LINEで相談する

1.信用取引とは?

信用取引とは、資金や株式を借りて元手以上の売買を行う取引のことです。
信用取引の対義語としては現物取引です。
現物取引は自己資金で上場株式等を売り買いすることです。

最初に信用取引のポイントを箇条書きします。

(1)元手資金の約3倍の取引ができる
(2)委託保証金が必要
(3)「買建て」と「売建て」の2種類がある
(4)「制度信用取引」と「一般信用取引」の2種類がある
(5)配当金、株主優待を得る権利はない
(6)現物取引では発生しない諸経費、雑収入

(1)元手資金の約3倍の取引ができる

信用取引は元手資金以上の投資ができるというのが一番の特徴です。
現在の日本の信用取引制度だと元手資金の約3倍の取引が可能です。

例えば元手資金が100万円の人が現物取引で株を買うとしたら100万円までの株式しか買えません。
これに対し、信用取引の場合には約300万円まで株式を買うことができるということです。
投資金額が3倍にできるということは利益が出たときも現物取引の3倍の利益を得られるということです。

この3倍のことをレバレッジといいます。

なお、わかりやすく3倍と表現してますが、正確には、取引金額の30%の元手資金が必要となります。
すなわち、300万円の株を信用取引で購入したいときは300万円の30%である90万円の元手資金が必要ということです。
本当に正確に言うなら3.3333倍(90万円÷300万円)のレバレッジがあるということになります。

レバレッジは倍数のがわかりやすいためこのコラムでは小数点を省いてあえて3倍という表現にしています。

ちなみに、信用取引では3倍ですが、FXや先物取引は20倍以上のレバレッジがかけられる取引手法もあります。

(2)委託保証金が必要

信用取引は元手がゼロではできません。

必ず、証券会社に資金を預ける必要があります。
この預ける資金のことを委託保証金といいます。
上記(1)でレバレッジの話をしましたが、委託保証金の約3倍の株式取引をすることができるということです。

なお、委託保証金は現金ではなく有価証券で差し入れることもできます。
有価証券で差し入れた委託保証金のことを代用有価証券といいます。

なお、代用有価証券の場合にはその有価証券の株価によって信用取引できる金額も変更されますので注意が必要です。

信用取引で購入した銘柄の株価が下がった場合や代用有価証券の株価が下がった場合に最低限のレバレッジの維持率を下回ったときは、追加で委託保証金を差し入れる必要があります。
この追加で差し入れる保証金のことを追証(おいしょう)といいます。

聞いたことありますよね?

信用取引が怖いと言われている一つの原因がこの追証です!

追証の資金がなくて強制換金されてしまって全財産を失ったという話も聞いたことがあると思います。

追証が発生するケースを具体例で念のため確認しておきましょう。

委託保証金を90万円差し入れて、300万円の株式を購入しました。
株式の価格が250万円に下落した場合、委託保証金から損失50万円を差し引きますので実質的な委託保証金は40万円となります。
そうなると維持率としては40万円(現状の委託保証金)/300万円(当初借り入れた金額)=13%となり30%を切ってしまってます。
証券会社ごとに最低維持率というのが異なりますが、20%~25%のところが多いです。
維持率回復のために追証が必要になるということです。

(3)「買建て」と「売建て」の2種類がある

信用取引には「買建て」と「売建て」という2種類の取引があります。

①買建て:資金を借りて株式を買う取引
②売建て:借りた株式を売る取引

また、信用取引で買った株や借りた株で売った代金のことを建玉(たてぎょく)といいます。

この2種類についてもう少し詳しく説明しますね。

①買建て

投資家が資金を証券会社から借りて株式を買う取引です。
上記1で解説したように無限に借りられるわけではなく自己資金が30%は必要となります。
自己資金を委託保証金という形で拠出してその約3倍の株式を購入することができるということです。

委託保証金を100万円拠出して、300万円の株式を購入すること、これを買建ての信用取引といいます。

買建ては現物取引と同様に株価が上昇すれば利益が得られるというシンプルな仕組みです。

現物取引との違いは自己資金以上に投資ができるという点ですね。

②売建て

「信用取引といえば売建て取引のことだ」という人もいるくらい売建てが信用取引の真骨頂です。

売建てとあるように売りからスタートします。
すなわち、証券会社から借りた株式を売ることが取引のスタートなのです。

売建ては株価が下がれば下がるほど利益が出ます。

具体例で確認してみましょう。

証券会社からA銘柄を100株借りて1株あたり1万円で売ります。
これを「空売り」といいます。
空売りにより100万円の資金を手にします。

その後A銘柄が7,000円に下落したときに70万円を拠出して買い戻します。
買い戻したA銘柄を証券会社に返済します。

空売りで100万円の入金があって買い戻しで70万円支払っているので30万円の利益が出ます。(もちろん、利息やら手数料がかかるので純利益は30万円未満となりますが。。。)

これが売建てなのです。

現物取引や信用取引の買建てでは株価が上がりそうな銘柄にしか投資できませんが、
売建ての場合には株価が下がりそうな銘柄が投資対象になるのです。

売建ての信用取引をやることにより投資対象が広がるというのがポイントです。

(4)「制度信用取引」と「一般信用取引」の2種類がある

信用取引には制度信用取引と一般信用取引の2種類があります。

取引できる銘柄、返済期限、金利等のルールが異なります。

制度信用取引は、証券取引所がルールを決めて、一般信用取引は各証券会社がルールを決めています。

2種類の違いをサマリーでまとめてみますね。

制度信用取引 一般信用取引
取引ルール 取引所が決定 証券会社が決定
対象銘柄 少ない
(証券取引所が決める)
多い
(証券会社が決める)
返済期限 6ヶ月以内 無期限
金利 低い 高い
逆日歩 あり なし
貸借取引 可能 不可能

※1 逆日歩とは、売建てのときに生じる諸経費に一種です。後ほど詳しく説明します。
※2 貸借取引とは、証券会社が証券金融会社(金融商品取引法に基づいて免許を受けた証券金融専門の株式会社)から株式や資金を借りる取引をいいます。

一般信用取引のほうが融通が利いて多く利用されてそうに見えますが、実際は信用取引として多く利用されているのは制度信用取引となります。

(5)配当金、株主優待を得る権利はない

キャピタルゲイン(売却益)だけでなく、インカムゲイン(配当金、株主優待等)も株式投資の醍醐味ですよね。
信用取引ではインカムゲインを得ることができるのでしょうか?

まず、売建てについては、借りた株式を売却してしまいますのでインカムゲインという話はでてきません。

次に買建てですが、証券会社からの融資によって株を買っていることになるのでその株式の真の所有者は証券会社ということになります。
したがって、買建てにおいても配当金を受け取る権利はありません。もちろん、株主優待も対象外です。

ただし、買建てのときは配当落調整金という配当金から源泉所得税(15.315%)を控除した金額を受け取ることができます。
これに対し、売建てのときは配当落調整金を証券会社に支払う必要があります。制度信用と一般信用で支払う金額も異なります。
信用取引の配当落調整金、株主優待についてまとめると下記の通りです。

信用取引の種類 配当落調整金 株主優待
買建て 配当金額✕84.685%の受取 なし
売建て 制度信用取引:配当金額✕84.685%の支払
一般信用取引:配当金額✕100%の支払
なし

(6)現物取引では発生しない諸経費、雑収入

信用取引は投資資金や株式を証券会社から借りますので現物取引に比べ諸経費がかさみます。
また、現物取引では発生してこない雑収入もあります。
買建てと売建てに分けて解説していきます。

①買建ての諸経費・雑収入

【諸経費】

項目 内容
日歩
(ひぶ)
投資資金を借りたことにより証券会社に支払う利息のことです。

【計算式】
買建約定代金×利率(年利)×保有日数/365

※利率は証券会社ごとに異なります。
※制度信用取引より一般信用取引のほうが利率が高くなります。
※日割り計算は両端入れです。
管理費 建玉を管理するための事務的な費用です。

※建玉保有期間が1ヶ月未満の場合には発生しません。
※1株当たり1ヶ月毎に1,000円が上限となります。
名義書換料 権利確定日(本決算、中間決算等)をまたいで建玉を保有している際にかかる費用です。

※1売買単位当たり50円(税抜)としている証券会社が多いです。

【雑収入】

項目 内容
配当落
調整金
配当金の権利確定日をまたいで建玉を保有していたときにもらえる収入になります。
詳しくは、上記(5)をご参照ください。
逆日歩(品貸料) 売建ての注文が多くなり証券金融会社が用意できる株式が枯渇してしまった場合に証券金融会社が機関投資家等から新たに株式を調達する必要があります。
証券金融会社が機関投資家等に支払うコストが逆日歩(ぎゃくひぶ)です。
売建てと買建てを相殺してもまだ貸株のほうが多く、その分だけ株券を調達する必要があるもの、すなわち、株不足になったときに逆日歩が発生するということです。
したがって、株式を借りている人(売建て取引をした人=売り方)が逆日歩を負担することになります。
買建ての場合には株式は借りず、逆に株式を貸すケースがあるため逆日歩が収入になり得るのです。

※不定期に発生し、発生しないこともあります。
※一般信用取引では発生しません。
※日歩と異なり日割り計算は片端入れです。

②売建ての諸経費・雑収入

【諸経費】

項目 内容
貸株料 売建ては株式を借りることとなるのでそのレンタル料となります。

【計算式】
新規建約定代金×貸株料率(年利)×保有日数/365

※利率は証券会社ごとに異なります。
※制度信用取引より一般信用取引のほうが利率が高くなります。
※日割り計算は両端入れです。
逆日歩
(金利)
詳細は買建ての雑収入をご参照ください。
買建てでは逆日歩をもらうことができましたが、売建てでは厄介なコストになります。
管理費 買建てと同様です。
配当落
調整金
配当金の権利確定日をまたいで建玉を保有していたときに支払うコストになります。
詳しくは、上記(5)をご参照ください。

【雑収入】

項目 内容
日歩
(金利)
売建ては、株式を借りて売却した代金を証券会社に預けるため買建てとは反対に金利を受け取れます。

※現在の日本は低金利のため売建ての日歩の年利は0%の証券会社がほとんどです。すなわち、金利はもらえません。

2.信用取引のメリット・デメリット

信用取引の基本的な部分はご理解いただけたと思いますので簡単にメリットとデメリットを一度まとめておきたいと思います。

(1)信用取引のメリット

◯資金効率が良い(少ない資金で大きな利益を得られる)
◯下落相場の局面でも利益が狙える(売建てができる)

(2)信用取引のデメリット

✕現物取引では発生しない日歩、貸株料、管理費等の諸経費がかかる
✕身の丈以上の取引をすることになるため失敗したときのリスクが現物取引に比べ高い
✕信用取引ができる銘柄が限られている

3.信用取引と相続税評価

信用取引をしていた人が亡くなった場合において、相続税申告が必要なときは、信用取引について相続税を計算するために財産、債務の評価をしなければなりません。

買建てと売建てに分けて解説していきます。

(1)買建てをしていた場合の相続税評価

①財産計上すべきもの

項目 評価方法
買建て株式 通常の上場株式として評価
未収逆日歩 証券会社に相続開始日の残高を確認
未収配当落調整金 受け取り時期が証券会社により異なるため発生しているか否かを証券会社に確認
【計算式】
配当金額✕84.685%
委託保証金 相続開始日の残高を現預金として評価
※金額は証券会社の残高証明書に記載されます。
代用有価証券 通常の上場株式として評価
※銘柄、株数等は証券会社の残高証明書に記載されます。

①債務計上すべきもの

項目 評価方法
買建金額 買建約定単価✕建株数にて評価
※単価や株数は証券会社から発行された残高証明書に記載されます。
未払日歩 相続開始日の日歩を日割り計算します。
【計算式】
買建約定代金×利率(年利)×受渡日から相続開始日までの日数/365
※利率については証券会社に確認します。
※受渡日は約定日の2営業日後となります。
※日割り計算は両端入れです。
未払管理費 証券会社に相続開始日の残高を確認
未払名義書換料 証券会社に相続開始日の残高を確認

(2)売建てをしていた場合の相続税評価

①財産計上すべきもの

項目 評価方法
借株売却代金 相続開始日の残高で評価
※金額は証券会社の残高証明書に記載されます。
未収日歩 証券会社に相続開始日の残高を確認
※前述の通り現在の日本は低金利のため売建ての日歩の年利は0%の証券会社がほとんどです。
委託保証金 相続開始日の残高を現預金として評価
※金額は証券会社の残高証明書に記載されます。
代用有価証券 通常の上場株式として評価
※銘柄、株数等は証券会社の残高証明書に記載されます。

①債務計上すべきもの

項目 評価方法
借株 借株数✕相続開始日の終値
※株数は証券会社から発行された残高証明書に記載されます。
※通常の上場株式の相続税評価のような月平均等から選択はしません。
未払貸株料 相続開始日の貸株料を日割り計算します。
【計算式】
売建約定代金×利率(年利)×受渡日から相続開始日までの日数/365
※利率については証券会社に確認します。
※受渡日は約定日の2営業日後となります。
※日割り計算は両端入れです。
未払逆日歩 証券会社に相続開始日の残高を確認
未払管理費 証券会社に相続開始日の残高を確認
未払配当落調整金 支払時期が証券会社により異なるため発生しているか否かを証券会社に確認
【計算式】
制度信用取引:配当金額✕84.685%
一般信用取引:配当金額✕100%

4.信用取引と相続の留意点

信用取引をしていた人が亡くなった場合において、未決済の建玉があったときは、相続人はその建玉をそのまま引き継げるのでしょうか?

原則として建玉を引き継ぐことはできません。

強制的に反対売買により決済されてしまいます。

決済のタイミングは証券会社により異なりますが、基本的には相続関係書類が証券会社にて受理されたあと早いタイミングで強制的に決済されます。

したがって、相場が悪いタイミングで相続手続きをしてしまった場合には相続人にて大きな損失を被る可能性もあるでしょう。

また、建玉には期限があってその期限までに相続手続きをされなかった場合や委託保証金の維持率を下回った場合等にも強制決済されてしまう可能性があります。

すなわち、信用取引と相続は相性が悪いのです。
もし、相続の準備をしている人は相続人に迷惑がかからないように生前のうちに建玉をベストなタイミングで自身で決済しておいたほうが良いでしょう。

信用取引 相続税評価と相続における注意点を徹底解説の写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

相続税の申告手続き、トゥモローズにお任せください

相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。

また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。

税理士法人トゥモローズでは、豊富な申告実績を持った相続専門の税理士が、お客様のご都合に合わせた適切な申告手続きを行います。

初回面談は無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。

タップで発信

0120-916-968

平日 9:00~21:00 土日 9:00~17:00

お問い合わせ

採用情報