ジョイントテナンシー(合有不動産権)と相続税・贈与税の注意点
- ジョイントテナンシーは一方が死亡すると自動的に他方に権利が移転する海外の不動産所有形態
- 購入時に資金拠出と持分が一致しない場合、贈与税が課税される可能性がある
- 相続発生時には被相続人の持分が相続税又は贈与税の対象になる
- ジョイントアカウントと異なり、購入時に贈与税が課税されるリスクあり
- 日本人が海外でジョイントテナンシーを利用する際は慎重な検討が必要
目次
ジョイントテナンシーとは
アメリカやカナダなど英米法の国では、ジョイントテナンシー(合有不動産権)という不動産所有形態が一般的です。
日本では存在しない所有形態ですが、海外で不動産を購入する際に夫婦名義で取得する場合、このジョイントテナンシーという方法が採用されることが多くあります。
ジョイントテナンシーの特徴
ジョイントテナンシーの成立要件として下記4つが掲げられます。
①始期の同一
②譲受行為の同一
③持分の同一
④目的物全体の占有
上記の4つの特徴から各合有持分権者の持分割合は均一となるのです。
また、ジョイントテナンシーには、極めて重要な特徴があります。
それは生存者受取権(Right of Survivorship)と呼ばれる権利です。
ジョイントテナンシーの所有者のうち一人が亡くなった場合、その者の持分は遺産にはならず、自動的に生存している他の所有者に移転します。
この仕組みのおかげで、アメリカでの煩雑な遺産整理手続き(プロベート)を回避することができます。
したがって、夫婦でジョイントテナンシーの不動産を購入する人が非常に多いのです。
日本のコンドミニアムや持分との違い
日本の不動産では複数人での共有という概念がありますが、ジョイントテナンシーは共有とは異なります。
共有の場合、各共有者は自分の持分に対してのみ権利を有し、自分の持分は遺産の対象になります。
しかし、ジョイントテナンシーは、日本の共有のように物理的に区分された持分を前提とするのではなく、各共有者が等しい持分を有しつつ、分割されていない形で不動産全体について権利を行使する所有形態です。
そのため、一方が死亡すると他方が全体を自動取得する仕組みになっているのです。
ジョイントテナンシーと購入時の課税
ジョイントテナンシーの最大の問題点が、購入時の贈与税課税です。
この点が、ジョイントアカウントと大きく異なります。
ジョイントアカウントの詳しい解説は、ジョイントアカウント(共同名義口座) 相続税、贈与税はどうなる?をご参照ください。
購入時に贈与税が課税される理由
不動産の購入時に夫が全額を出資してジョイントテナンシーで取得したと仮定しましょう。
この場合、形式的には夫婦で各50%ずつの持分を取得することになります。
しかし、実際の資金拠出は夫のみです。
日本の税法では、対価を支払わないで利益を受けた場合は贈与があったものとみなすという相続税法9条の規定があります。
つまり、妻は何の出資もないのに50%の不動産の所有権を取得したことになり、これは夫から妻への贈与と判断されるのです。
購入時の贈与税の具体例
| 取引内容 | 妻が出資した金額 | 妻が贈与を受けたと みなされる金額 |
| ハワイのジョイントテナンシーを 夫が全額資金拠出をして4,000万円で購入 |
0円 | 2,000万円 |
上記の場合、妻は夫から2,000万円の贈与を受けたとみなされ、贈与税が課税される可能性があります。
基礎控除の110万円を超える部分についての贈与税が対象です。
購入時の出資割合による影響
購入時の贈与税課税を避ける方法があります。
それは、資金拠出の割合と不動産の持分割合を一致させることです。
例えば、4,000万円の不動産購入で夫が3,000万円、妻が1,000万円を出資した場合、ジョイントテナンシーではなく、テナンシー・イン・コモン(共有財産)で登記することで、各々が拠出額に応じた持分(夫75%、妻25%)を取得できます。
この場合、贈与税は課税されません。
アメリカではジョイントテナンシー、テナンシー・イン・コモン等の様々な共有制度があります。夫婦の状況に応じて適切な制度を選択すれば余計な課税は避けられるでしょう。
| 共有制度 | 持分割合 | 生存者受取権 | 単独での 持分処分 |
| joint tenancy (合有不動産権) |
均等 | あり (州により例外あり) |
可能 |
| tenancy in common (共有財産) |
任意 | 設定不可 | 可能 |
| tenancy by the Entirety (夫婦全部保有) |
均等 | 州法により異なる | 配偶者の合意がなければ不可 |
| community property (夫婦共有財産) |
均等 | 常にあり | 配偶者の合意がなければ不可 |
ジョイントテナンシーと相続時の課税
ジョイントテナンシーの所有者の一方が死亡した場合の生存者受取権は相続財産には該当しません。
残された共同名義人の固有の権利として整理されているのです。
したがって、そのままでは相続税法1条にいう「相続又は遺贈により取得した財産」には当たりません。
また、生命保険金や死亡退職金のように、相続税法4条〜8条で個別に列挙されている典型的なみなし相続財産にも該当しません。
しかし、共同名義人の一人が亡くなることで、残された名義人が被相続人持分に相当する利益を無償で取得しているという実態があります。
この「対価を支払わないで利益を受けた」点に着目し、国税庁はハワイ州の合有不動産権(ジョイント・テナンシー)について、相続税法9条の「みなし贈与」に該当するとしたうえで、相続税の課税対象とする取扱いを示しています。
国税庁HP 質疑応答事例 ハワイ州に所在するコンドミニアムの合有不動産権を相続税の課税対象とすることの可否
具体的には、下記の通りに整理します。
⬇️
したがって、「贈与による取得なのになぜ相続税?」という点については、いったん相続税法9条のみなし贈与で捉え、そのうえで相続税法19条の生前贈与加算により相続税の課税ベースに取り込むという二段構えで理解するとスッキリします。
生前贈与加算についての詳しい解説は、生前贈与がある場合の相続税申告をご参照ください。
ここで一つ問題が生じます。
この生前贈与加算は相続又は遺贈により財産を取得した人限定の規定です。
すなわち、共同名義人が相続又は遺贈により財産を取得していないと相続税ではなく贈与税の課税となってしまうのです。
課税関係をまとめると下記の通りです。
| 共同名義人 | 課税関係 |
| 相続又は遺贈により 財産を取得した者 |
生前贈与加算の対象となり 相続税の対象 |
| 上記以外の者 | 贈与税の対象 |
上記を原則としますが、実務上は、死因贈与と考えることもできるようです。
例えば、ジョイントテナンシーを相続人以外の第三者(例えば愛人(ジョイントテナンシー以外の財産を遺贈により取得していないものとする))と共同保有していた場合に、
そのジョイントテナンシーは夫から愛人への相続開始日のみなし贈与と解釈すれば贈与税の対象となります。
これに対し、夫から愛人への死因贈与と解釈すれば相続税の対象となるということです。
現在の実務ではどちらの解釈でも差し支えないこととなっています。詳しくは、前述の国税庁質疑応答事例【ハワイ州に所在するコンドミニアムの合有不動産権を相続税の課税対象とすることの可否】をご参照ください。
なお、愛人にしてみれば相続税(死因贈与と考える解釈)の方が有利だが、夫の妻や子などの相続人にすれば愛人に贈与税(みなし贈与と考える解釈)がかかった方が有利となるような利益相反のケースも想定されます。
このような混乱を避けるためにもどちらか一方の取り扱いに統一してもらいたいものです。
ジョイントアカウントとジョイントテナンシーの税務比較
ジョイントアカウント(共同名義口座)とジョイントテナンシーは名称が似ていますが、税務上の取扱いは大きく異なります。
混同しないよう、しっかり区別することが重要です。
購入時(開設時)の課税関係の違い
ジョイントアカウントの場合、開設時に夫が全額を入金しても、原則として贈与税は課税されません。
ジョイントアカウントは共同名義であっても、日本の税法上は資金拠出者の財産と考えるためです。
これに対し、ジョイントテナンシーの場合は、購入時に資金拠出と持分が一致しないと贈与税が課税される可能性があるというわけです。
この違いが最大のポイントです。
相続時の課税関係の違い
ジョイントアカウントの場合、資金拠出者が死亡すると、その資金拠出額が相続税又は贈与税の対象となります。
これに対し、ジョイントテナンシーの場合は資金拠出額に関係なくそのジョイントテナンシーの持分割合(共有者の均等割合、すなわち、夫婦の場合には50%)が相続税又は贈与税の対象となるのです。
購入時の課税関係の違いが相続時の課税関係にも大きく影響するということです。
日本人がジョイントテナンシーを利用する際の注意点
相続税申告の複雑性
日本人がアメリカでジョイントテナンシーを所有している場合でも、相続人が日本の相続税法上の「無制限納税義務者」に該当するかどうかによって、日本の相続税申告に含める必要があるかが変わります。
無制限納税義務者に該当する(例えば、被相続人または相続人が日本に住所を有している、あるいは過去10年以内に日本に住所があったなど)場合には、国内外を問わず全世界の資産が相続税の課税対象となるため、アメリカのジョイントテナンシー不動産も原則として申告対象に含まれます。
国際相続の場合の相続税の納税義務の詳しい解説は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!をご参照ください。
ジョイントテナンシーの場合、相続開始日時点での時価評価を行う必要があります。
日本国内の不動産のような財産評価基本通達による評価ができないため相当煩雑となります。
海外不動産の相続税評価についての詳しい解説は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をわかりやすく解説をご参照ください。
また、ドル建てで時価を算定した後に日本円への為替換算も必要となります。
外貨建て資産の為替換算の詳しい解説は、【相続税申告】 外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説をご参照ください。
名義変更が非常に煩雑
日本国内の不動産であれば司法書士等の専門家に依頼して簡単に不動産の名義変更(相続登記)が可能となります。
これに対し、海外不動産の名義変更は一筋縄ではいきません。
基本的には現地の法律に基づき処理する必要があるためです。
現地専門家への報酬も高額となります。
海外不動産の相続手続きの詳しい解説は、海外に財産がある人必見!相続で発生する5つのリスクとデメリット、アメリカの相続手続きと遺産税【税理士が完全ガイド】をご参照ください。
二重課税の回避
アメリカでも日本でも相続税が課税される可能性があります。
ただし、多くの場合、租税条約に基づいた外国税額控除により、二重課税を回避することができます。
この点は複雑ですので、国際相続に詳しい税理士の助言が不可欠です。
事前の検討の重要性
ジョイントテナンシーは、プロベート回避という大きなメリットがある反面、購入時の贈与税課税という重大なデメリットがあります。
不動産購入時に、事前に税務専門家に相談して、最適な所有形態(ジョイントテナンシー、テナンシー・イン・コモン、信託など)を検討することが極めて重要です。
まとめ
ジョイントテナンシーは、アメリカなど海外での不動産所有形態として一般的ですが、日本の税法との関係では複雑な問題が生じます。
最大のポイントは、購入時に贈与税が課税される可能性があるという点です。
ジョイントアカウント(共同名義口座)では購入時に原則として贈与税がかかりませんが、ジョイントテナンシーではかなり異なります。
資金拠出と持分が一致しない場合は、原則として相続税法9条の「みなし贈与」により贈与税の課税対象と考えられます。
そのため、購入時には資金拠出割合に応じた持分設定(テナンシー・イン・コモンなど)を検討すべきです。
また、相続時の課税についても、相続人か否かで取扱いが大きく変わります。
相続人の場合は相続税が、相続人以外の場合は贈与税が課税される可能性があるという点を理解することが重要です。
ジョイントテナンシーを利用する場合は、購入前に必ず国際相続に精通した税理士に相談し、最適な所有形態と税務計画を立案することをお勧めします。
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相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
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