国際相続の遺留分を徹底解説|準拠法の決定と各国制度の違い

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国際相続

国際相続の遺留分を徹底解説|準拠法の決定と各国制度の違い
10秒でわかる この記事の要約
・国際相続の遺留分は「準拠法」により適用の有無が決まる
・日本法では相続は被相続人の本国法が適用される(通則法36条)
・米国・英国には遺留分制度がなく、遺言による自由な財産処分が可能(配偶者を保護する制度等はあり)
・日本の遺留分は配偶者・子に相続財産の2分の1(直系尊属のみの場合は3分の1、兄弟姉妹に遺留分はない)

「父はアメリカ国籍ですが、日本の遺留分は請求できますか?」

国際相続において、遺留分の問題は非常に複雑です。

なぜなら、どの国の法律が適用されるかによって、遺留分が「ある」か「ない」かが根本的に変わるからです。

今回は、国際相続における遺留分について、準拠法の決定方法から各国の制度比較まで、詳しく解説します。

遺留分の基本については「遺留分 わかりやすく徹底解説!」をご覧ください。

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遺留分とは

日本の遺留分制度

遺留分とは、一定の相続人に保障された最低限の相続分のことです。

被相続人が遺言で「全財産を愛人に渡す」と書いても、配偶者や子供には遺留分を請求する権利があります。

日本の遺留分割合
・配偶者・子が相続人の場合:相続財産の2分の1
・直系尊属のみが相続人の場合:相続財産の3分の1
・兄弟姉妹には遺留分なし

例えば、相続財産が1億円で、相続人が配偶者と子1人の場合、各人の遺留分は以下のとおりです。

・配偶者の遺留分:1億円 × 1/2 × 1/2 = 2,500万円
・子の遺留分:1億円 × 1/2 × 1/2 = 2,500万円

遺留分についての詳しい解説は、遺留分 わかりやすく徹底解説!をご参照ください。

遺留分侵害額請求

遺留分を侵害された相続人は、「遺留分侵害額請求」を行うことで、侵害された金額の支払いを求めることができます。

2019年の民法改正により、遺留分は金銭債権化されました。遺産そのものではなく、金銭での支払いを請求することになります。

遺留分侵害額請求がある場合の相続税申告については「遺留分侵害額請求がされている場合の相続税申告をパターン別に徹底解説」をご参照ください。

国際相続における準拠法の決定

国際相続では、まず「どの国の法律を適用するか」を決める必要があります。
この適用される法律を「準拠法」といいます。

日本の国際私法(通則法)

日本では、「法の適用に関する通則法」(通則法)により、国際相続の準拠法を定めています。

通則法第36条は「相続は、被相続人の本国法による」と規定しています。

つまり、日本の裁判所で争われる場合、被相続人の国籍がある国の法律が相続全体に適用されます。

準拠法の詳細は「国際相続があった場合の準拠法」をご覧ください。

反致の問題

ただし、「反致」という例外があります。

例えば、アメリカ人(被相続人)の相続を日本で処理する場合:
1. 通則法により「被相続人の本国法」であるアメリカ法を見る
2. しかし、アメリカ法は一般に、不動産は所在地法、動産は住所(ドミサイル)法の考え方を採る州が多い
3. 被相続人が日本に居住していた場合、アメリカ法は「動産は日本法」と指定する
4. この場合、日本法に「戻される」(反致)

通則法第41条により、外国法が日本法を指定している場合は、日本法が適用されます。

国籍と準拠法の関係については「国際相続 国籍についてわかりやすく徹底解説」も参考にしてください。

相続統一主義と相続分割主義

各国の国際私法は、「相続統一主義」と「相続分割主義」の2つに大別されます。

主義 内容 採用国
相続統一主義 動産・不動産を区別せず、一つの法律で相続を処理 日本、ドイツ、韓国、イタリア
相続分割主義 不動産は所在地法、動産は住所地法で処理 アメリカ、イギリス、中国

相続分割主義の国では、1つの相続でも財産ごとに異なる法律が適用されるため、処理が複雑になります。

各国の遺留分制度の比較

遺留分制度がある国

日本
前述のとおり、配偶者・直系卑属に相続財産の2分の1、直系尊属のみの場合は3分の1の遺留分が認められます。

ドイツ
遺留分(Pflichtteil)制度があり、法定相続分の2分の1が保障されます。金銭請求権として構成されている点は日本と同様です。

フランス
子がいる場合、子の数に応じて財産の2分の1から4分の3が遺留分として保護されます(Reserve Hereditaire)。配偶者には遺留分がないのが特徴です。

韓国
日本とほぼ同様の制度があり、直系卑属・配偶者に法定相続分の2分の1が保障されます。

遺留分制度がない国

アメリカ・イギリスには、日本のような遺留分制度がありません。(ただし配偶者等の救済制度あります)

アメリカ
「遺言の自由」が原則であり、被相続人は遺言で自由に財産を処分できます。ただし、配偶者には「選択的相続分」(Elective Share)という最低限の権利が認められている州があります(多くの州で相続財産の3分の1程度)。子には遺留分に相当する権利はありません。

イギリス
同じく「遺言の自由」が原則です。ただし、「相続法(遺族への財産承継)法」(Inheritance (Provision for Family and Dependants) Act 1975)により、扶養を受けていた家族等が裁判所に「合理的な財産承継」を求めることができます。これは日本の遺留分とは異なり、裁判所の裁量により決定されます。

オーストラリア
イギリス法を基礎としており、遺留分制度はありません。ただし、各州の「Family Provision」法により、扶養を受けていた者が裁判所に申立てを行うことで、遺言を変更してもらえる可能性があります。

シンガポール・香港
イギリス法の影響を受けており、シンガポール・香港には固定割合の遺留分はありませんが、一定の家族・扶養者が裁判所に生活保障(maintenance / reasonable provision)を求められる制度があります。

各国の遺留分比較表

遺留分制度 権利者 割合
日本 あり 配偶者・直系卑属・直系尊属 2分の1(尊属のみ3分の1)
ドイツ あり 配偶者・子・両親 法定相続分の2分の1
フランス あり 子(配偶者には原則なし) 子の人数により2分の1~4分の3
アメリカ なし 配偶者に選択的相続分(州による) 約3分の1(州により異なる)
イギリス なし 扶養家族等(裁判所の裁量) 裁判所が決定
韓国 あり 配偶者・直系卑属・直系尊属 法定相続分の2分の1

遺言書と遺留分の準拠法

遺言の方式の準拠法

遺言の「方式」(形式的有効性)については、「遺言の方式の準拠法に関する法律」が適用されます。

この法律では、以下のいずれかの法律に適合していれば、遺言は方式上有効とされます。

1. 行為地法(遺言を作成した場所の法律)
2. 遺言者の国籍国法(遺言時または死亡時)
3. 遺言者の住所地法(遺言時または死亡時)
4. 遺言者の常居所地法(遺言時または死亡時)
5. 不動産に関する遺言は、その不動産の所在地法

英文遺言の作成については「国際相続で有効な英文遺言書の作成方法と注意点」をご覧ください。

遺言の実質的成立要件

遺言の「内容」(実質的有効性)については、相続の準拠法が適用されます。

つまり、通則法36条により被相続人の本国法が適用されます。

遺言の方式と内容で異なる準拠法が適用される可能性があるため、注意が必要です。

EU相続規則(EU Succession Regulation)

EU加盟国(デンマーク・アイルランドを除く)では、2015年から「EU相続規則」が適用されています。

EU相続規則の特徴

原則:常居所地法
被相続人の死亡時の「常居所」(habitual residence)がある国の法律が、相続全体に適用されます。

例外:本国法の選択
被相続人は、遺言により自国の法律を準拠法として選択することができます。

相続統一主義
EU相続規則は相続統一主義を採用しており、動産・不動産を区別せず一つの法律で処理します。

日本人への影響

日本人がEU加盟国に居住し、その地で亡くなった場合、原則としてその国の法律が適用されます。

例えば、フランスに居住していた日本人が亡くなった場合、フランス法が適用され、フランスの遺留分制度が適用される可能性があります。

ただし、遺言で日本法を選択していた場合は、日本法が適用されます。

実務上の注意点

遺留分を考慮した遺言作成

国際相続では、遺言を作成する際に以下の点を検討すべきです。

1. どの国の法律が準拠法となるか
2. その国に遺留分制度があるか
3. 遺留分を侵害しない内容の遺言となっているか
4. 複数国の法律に適合する遺言の方式を選択しているか

特に、遺留分制度のない国(米国・英国等)の国籍を持つ方が、日本に不動産を保有している場合は注意が必要です。

相続分割主義の国では、日本の不動産には日本法が適用される可能性があり、その場合は日本の遺留分制度が適用されます。

遺留分放棄の活用

日本法が適用される場合、相続開始前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することも選択肢の一つです。

遺留分放棄については「【生前からできる相続放棄の代替案】遺留分放棄をわかりやすく解説!」をご覧ください。

家族信託の活用

遺留分対策として、家族信託を活用する方法もあります。

ただし、家族信託と遺留分の関係については議論があり、信託財産が遺留分算定の基礎財産に含まれるかどうかは、ケースバイケースで判断されます。

詳しくは「家族信託は遺留分対策に有効?!」をご参照ください。

よくある質問

Q1. アメリカ人の父が亡くなりました。日本の遺留分は請求できますか?

原則として、アメリカ法が適用されるため、日本の遺留分は請求できません。ただし、父が日本に常居所を有していた場合や、日本に不動産がある場合は、反致や相続分割主義により日本法が適用される可能性があります。具体的な判断は専門家にご相談ください。

Q2. 日本人ですが、アメリカに長年住んでいます。私の相続にはどの国の法律が適用されますか?

日本の裁判所で争われる場合、原則として日本法が適用されます(通則法36条)。ただし、アメリカの裁判所で争われる場合は、アメリカの相続分割主義により、不動産は所在地法、動産は住所地法が適用される可能性があります。

Q3. 遺言で「遺留分を認めない」と書くことはできますか?

いいえ、遺留分は強行法規であり、遺言で排除することはできません。遺留分を侵害する遺言は無効ではありませんが、遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行えば、その限度で効力を失います。相続開始前であれば、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄してもらうことは可能です。

Q4. 遺留分制度のない国の国籍を取得すれば、遺留分を回避できますか?

理論的には、被相続人がアメリカやイギリス国籍を取得し、日本の裁判所でその本国法が適用されれば、遺留分を回避できる可能性があります。ただし、国籍取得には厳格な要件があり、また日本に不動産がある場合は相続分割主義により日本法が適用される可能性もあります。節税目的での国籍変更は現実的ではありません。

Q5. 遺留分侵害額請求の時効は何年ですか?

日本法が適用される場合、遺留分侵害額請求権は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」または「相続開始の時から10年」で時効により消滅します。国際相続では手続きに時間がかかることが多いため、早めの対応が重要です。

まとめ:国際相続の遺留分は準拠法が鍵

国際相続における遺留分は、適用される準拠法によって結論が大きく異なります。

押さえておくべきポイント
□ 日本法では「被相続人の本国法」が相続の準拠法となる
□ 相続分割主義の国では、財産ごとに異なる法律が適用される
□ 米国・英国には日本のような遺留分制度がない
□ EU加盟国では「常居所地法」が原則だが、本国法を選択可能
□ 遺言の方式と内容で準拠法が異なる場合がある

国際相続の遺留分問題は、法律の専門家との連携が不可欠です。

当事務所では、国際相続に強い弁護士とも連携し、税務・法務の両面からサポートしております。
遺留分を含む国際相続でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属 
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は350件。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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