オーストラリアに相続税はない|プロベートと日本の相続税申告の注意点

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国際相続

オーストラリアの相続手続きを完全解説|プロベート・税金・回避策【税理士解説】
10秒でわかる この記事の要約
・オーストラリアの相続では、資産の名義等によって裁判所手続(プロベート)が必要になることがある
・日本の検認とは性質が異なり、遺言の有効性確認や執行者(Executor)の権限付与が中心
・期間・費用は州や案件によって幅があり、長期化しやすい点に注意
・相続税・贈与税は基本的にない一方、売却時の課税(CGT等)が論点になり得る

「父がオーストラリアに不動産を持っていましたが、どのように相続手続きを進めればよいでしょうか?」

オーストラリアの相続手続きは、日本とは大きく異なります。

最も重要な違いは、資産の名義や種類によっては裁判所による「プロベート」手続きが必要になるという点です。

すべての相続で必要になるわけではありません。たとえばニューサウスウェールズ州最高裁は、プロベートを取得する法律上の義務がすべての場合にあるわけではなく、被相続人の資産がすべてジョイントテナンシー(合有)で保有され、共有者が生存している場合にはプロベートは不要だとしています。一方、不動産が被相続人の単独名義、またはテナンシー・イン・コモン(持分共有)である場合には、その資産を扱うためにプロベートが必要です(NSW州最高裁「Applying for a grant of probate」/2026年9月10日確認。州により運用は異なります)。

今回は、オーストラリアに財産がある場合の相続手続きについて、プロベートの流れから税金まで、詳しく解説します。

各国のプロベート比較については「プロベートとは?国別の費用・期間・手続きを徹底比較【税理士解説】」をご覧ください。

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オーストラリアの相続制度の概要

なお、オーストラリア税務当局(ATO)は「オーストラリアには相続税・遺産税は存在しない」と明示しています。ただし相続した資産を売却したときにはキャピタルゲイン課税(CGT)の対象になり得ます(ATO「If you are a beneficiary of a deceased estate」/2026年9月10日確認)。

コモンロー(英米法)に基づく制度

オーストラリアは、イギリスのコモンロー(英米法)を基礎とした法制度を持っています。

相続においても、イギリスと同様に「プロベート」と呼ばれる裁判所の検認手続きが中心となります。

州ごとの法律の違い

オーストラリアは連邦国家であり、相続に関する法律は州ごとに異なります。

主な州の相続関連法は以下のとおりです。

州 主要な法律
NSW(ニューサウスウェールズ) Succession Act 2006
VIC(ビクトリア) Administration and Probate Act 1958
QLD(クイーンズランド) Succession Act 1981
WA(西オーストラリア) Administration Act 1903

準拠法(相続分割主義)

オーストラリアは相続分割主義を採用しています。

・不動産(Real Property):所在地法(オーストラリア法)
・動産(Personal Property):被相続人の住所地法(Domicile)

したがって、日本人がオーストラリアに不動産を持っていた場合、その不動産についてはオーストラリア法が適用されます。

準拠法の基本については「国際相続があった場合の準拠法」をご参照ください。

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プロベート手続きの詳細

プロベートとは

プロベート(Probate)とは、裁判所が遺言の有効性を確認し、遺言執行者に遺産管理の権限を付与する手続きです。

遺言がある場合は「Grant of Probate」、遺言がない場合は「Letters of Administration」が発行されます。

オーストラリアの不動産の名義変更には、通常グラント(Grant of Probate/Letters of Administration)が必要です。銀行預金については、各行が定める金額や条件を満たせば、グラントを提出せずに払い戻しを受けられる場合があります。

プロベートが必要なケース

プロベートが必要となる主なケース
・不動産がある場合
・一定額以上の銀行預金がある場合(大手4行はおおむね10万豪ドルを基準にしていますが、CBAは「超える場合」、ANZは「以上の場合」、WestpacはWestpacグループ全体の口座価額、NABは払い戻す利用可能資金の合計と、数え方が異なります。NABは、海外に住む遺産代表者が5万豪ドル以上を払い戻す場合にオーストラリアで取得したグラントを求めます。金額を下回っても、担保付きの借入やEstate of the Late trust accountの開設を希望する場合などに求められることがあります)
・株式や有価証券がある場合

金融機関によっては、少額の預金であればプロベートなしで対応してくれることもありますが、不動産が単独名義(またはTenancy in Commonの持分)なら、通常はプロベート等のGrantが必要になりやすいです。
一方、Joint Tenancyなら生存者帰属で移転し、プロベートを省略できることがあります。

プロベートの流れ

ステップ1:遺言の確認と遺言執行者の特定

まず、被相続人が遺言を残しているかを確認します。
遺言がある場合、遺言で指定された遺言執行者(Executor)が手続きを進めます。

ステップ2:財産・債務の調査

オーストラリア国内の財産と債務を調査し、一覧表(Inventory)を作成します。

ステップ3:申請予定の告知(公告)

オンラインで“申請予定の告知”を出し、少なくとも14日経過してから申請します(州により運用が異なるため要確認)。

ステップ4:プロベート申請

財産所在地の州の最高裁判所(Supreme Court)にプロベートを申請します。

申請に必要な書類は以下のとおりです。

・死亡証明書(Death Certificate)
・オリジナルの遺言書
・遺言執行者の宣誓供述書(Affidavit)
・財産一覧表(Inventory of Assets)
・申請費用

ステップ5:Grant of Probate発行

異議がなければ、裁判所からGrant of Probate(遺言検認証明書)が発行されます。

ステップ6:遺産の管理・分配

遺言執行者は、債務の清算、税金の支払い、受遺者への分配を行います。

海外銀行口座の解約については「海外銀行口座の相続解約で失敗しない!5つの落とし穴と対策【税理士解説】」も参考にしてください。

所要期間と費用

裁判所でのグラントの取得と、遺産全体の清算・分配は別の段階です。

グラントの取得までの期間は州や案件によって異なります。そのうえで、財産の調査、債務の清算、税務、分配まで含めると、1年以上かかることもあります。異議申立てや争いがある場合はさらに長くなります。

下記の費用は目安であり、州、遺産の内容と規模、依頼先、争いの有無によって大きく変わります。

費用項目 目安
裁判所申請費用 数百~数千豪ドル(財産額による)
弁護士費用 5,000~20,000豪ドル
その他(翻訳、認証等) 1,000~5,000豪ドル
合計目安 案件により大きく異なる(弁護士に見積りを依頼してください)

オーストラリアの税制(相続税・CGT)

相続税・贈与税は存在しない

オーストラリアには相続税(Inheritance Tax)と贈与税(Gift Tax)がありません。

オーストラリアでは1979年に連邦レベルで、1980年代に全州で相続税が廃止されました。

したがって、オーストラリアの財産を相続しても、オーストラリアでは相続税は課税されません。

ただし、日本の居住者が相続する場合は、日本で相続税が課税されます。

キャピタルゲイン税(CGT)の注意点

相続税はありませんが、相続した資産を売却する際にはキャピタルゲイン税(CGT)が課税されます。

重要なポイントは以下のとおりです。

CGTの重要ポイント
・1985年9月20日以降に取得した資産が対象
・相続人は被相続人の取得価額を引き継ぐ
・非居住者にはCGT50%割引(12か月以上保有)が原則適用されない
・居住用不動産の非課税特例は、非居住者には原則適用されない

例えば、被相続人が1990年に50万豪ドルで購入した不動産を、相続人が100万豪ドルで売却した場合:

・キャピタルゲイン:100万 – 50万 = 50万豪ドル
・非居住者の場合、50%割引なし
・50万豪ドル全額が課税対象

日本での相続税

国外にある財産が日本の相続税の課税対象に含まれるかは、被相続人と財産を取得した人の住所、国籍、過去の居住状況などで判定します(国税庁タックスアンサーNo.4138)。課税対象に含まれることと、基礎控除や特例を踏まえて申告・納税が必要かどうかは別の問題です。

申告が必要な場合、期限は原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(同No.4205)。プロベートの完了を待たず、税理士への確認を並行して進めてください。

海外財産の評価方法については「海外不動産の相続税評価の方法と注意点をわかりやすく解説」をご覧ください。

プロベートを回避する方法

プロベートは時間と費用がかかるため、生前対策として回避する方法を検討することも重要です。

Joint Tenancy(合有不動産権)

最も一般的なプロベート回避策が、Joint Tenancy(合有不動産権)です。

Joint Tenancyとは、複数人で不動産を共同所有する形態の一つで、「生存者帰属権」(Right of Survivorship)という特徴があります。

Joint Tenancy所有者の一人が亡くなると、その持分は自動的に生存している共有者に移転します。プロベートを経由せず、名義変更だけで手続きが完了します。

詳しくは「ジョイントテナンシー(合有不動産権)と相続税・贈与税の注意点」をご参照ください。

ただし、日本の税務上は、持分移転時に相続税または贈与税の課税対象となる可能性があるため、注意が必要です。

Tenancy in Common(共有不動産権)との違い

項目 Joint Tenancy Tenancy in Common
持分の割合 全員均等 各自の持分を設定可能
死亡時の持分 生存者に自動移転 相続人に相続される
プロベート 不要 必要
遺言での処分 不可 可能

リビングトラスト(Living Trust)

信託を活用してプロベートを回避する方法もあります。

生前に信託を設定し、不動産を信託財産として移転しておけば、プロベートなしで受益者に財産を移転できます。

リビングトラストについては「リビングトラストとは?相続税の取扱いと日本の税務上の注意点【税理士解説】」をご覧ください。

Family Provision(遺族扶養請求)

オーストラリアには日本のような「遺留分」制度はありませんが、Family Provision(遺族扶養請求)という制度があります。

Family Provisionとは

被相続人から適切な扶養を受けられなかった遺族が、裁判所に対して遺産からの給付を求める制度です。

請求できるのは、配偶者、子、被相続人と同居していた者などで、州によって範囲が異なります。

日本の遺留分と異なり、一定割合が保障されるわけではなく、裁判所が「適切な扶養」を判断します。

国際相続の遺留分については「国際相続の遺留分を徹底解説|準拠法の決定と各国制度の違い」をご参照ください。

申請期限

Family Provisionの申請には期限があります。

・NSW州:死亡日から12か月以内
・VIC州:原則としてGrant of probate(またはletters of administration)の日から6か月以内
・QLD州:死亡後6か月以内に通知+9か月以内に申立て

期限を過ぎると、原則として申請できなくなります。

必要書類と手続きの実務

日本側で準備する書類

・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
・相続人の戸籍謄本
・相続人の印鑑証明書
・遺産分割協議書(該当する場合)

これらの書類は、英語に翻訳し、公証・認証を受ける必要があります。

認証手続きについては「相続でアポスティーユが必要な場合の取得方法を完全解説【税理士監修】」をご覧ください。

オーストラリア側で必要な書類

・Death Certificate(死亡証明書)
・オリジナルの遺言書(ある場合)
・財産に関する書類(権利証、銀行残高証明等)
・遺言執行者または管理人の身分証明書

現地弁護士の選定

オーストラリアでのプロベート手続きは、現地の弁護士(Solicitor)に依頼するのが一般的です。

弁護士選びのポイントは以下のとおりです。

・国際相続の経験がある事務所を選ぶ
・日本語対応可能な事務所があれば便利
・費用の見積もりを事前に確認する
・コミュニケーション方法(メール、オンライン会議等)を確認する

「国際相続に強い税理士・弁護士の選び方【失敗しない5つのポイント】」も参考にしてください。

よくある質問

Q1. オーストラリアの銀行口座だけでもプロベートは必要ですか?

銀行が定める条件を満たせば、グラントを提出せずに解約できる場合があります。大手4行はおおむね10万豪ドルを基準にしていますが、合計の数え方が異なり、NABは海外に住む遺産代表者が5万豪ドル以上を払い戻す場合にオーストラリアで取得したグラントを求めます。金額を下回っても、担保付きの借入やEstate of the Late trust accountの開設を希望する場合などに求められることがあるため、取引銀行に確認してください。不動産がある場合は、金額にかかわらずグラントが必要になるのが通常です。

Q2. 遺言がない場合はどうなりますか?

遺言がない場合は、「Letters of Administration」という手続きになります。プロベートと同様に裁判所への申請が必要で、州法に基づく法定相続分に従って遺産が分配されます。配偶者と子がいる場合、州によって配分割合が異なりますが、一般的に配偶者が優先されます。

Q3. プロベートの期間中、不動産を売却することはできますか?

原則として、Grant of Probateが発行されるまで不動産の売却はできません。ただし、遺産管理の必要性から、裁判所の許可を得て売却できる場合もあります。売却を急ぐ事情がある場合は、現地弁護士に相談してください。

Q4. オーストラリアで支払った費用は、日本の相続税から控除できますか?

弁護士費用などの手続き費用は、原則として相続税法上の債務控除の対象にはなりません。ただし、不動産を売却した場合の譲渡費用として、譲渡所得の計算において控除できる可能性があります。

Q5. オーストラリアに住んでいる相続人がいる場合、日本の相続税はどうなりますか?

オーストラリアに居住する相続人が、日本の相続税の納税義務者に該当するかどうかは、その相続人の住所、国籍、過去の居住歴などによって判定されます。「国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!」をご参照ください。

海外口座のお金、日本のご遺族へ|国際相続サポート(行政書士法人トゥモローズ)

まとめ:オーストラリア相続は早めの準備が重要

オーストラリアの相続手続きは、プロベートに時間と費用がかかるため、早めの準備が重要です。

オーストラリア相続のポイント
□ プロベート手続きが必要(1年~1年半、100万円以上)
□ 相続税はないが、売却時にCGTが課税される
□ Joint Tenancyを活用すればプロベート回避可能
□ Family Provision(遺族扶養請求)に申請期限あり
□ 日本では相続税が課税される

生前対策として、Joint Tenancyへの変更やリビングトラストの設定を検討することをお勧めします。

当事務所では、オーストラリアの弁護士とも連携し、日本とオーストラリア双方の税務・手続きをサポートしております。
オーストラリアに財産がある相続でお困りの方は、お気軽にご相談ください。





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この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属 
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は300件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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