小規模宅地の特例における「相当の対価」について徹底的に解説します

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小規模宅地の特例

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この記事の執筆者:角田 壮平

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

こんにちは。
相続税専門の税理士法人トゥモローズです。

小規模宅地の特例において重要なキーワードとして、「相当の対価」というものがあります。貸付事業用宅地にするために生前にすべきこと!の記事にも記載しましたが、貸付事業用宅地等に該当するかどうかの判定でも重要な要素となります。
また、特定同族会社事業用宅地等の判定においても被相続人所有の土地や建物を特定同族会社に「相当の対価」で貸し付けていなければなりません。

以上のように、「相当の対価」で貸し付けているかどうかで小規模宅地の特例の適用が出来るか否かが決まるため、この「相当の対価」を深く理解する必要があります。

この「相当の対価」は、第三者に貸し付けている物件についてはあまり問題にはなりません。問題になるケースとしては、親族や同族会社に貸し付けている場合です。このようなときには市場の原理が働かないためある意味自由に賃料を決めることが出来てしまいまい、その賃料の相当性が争点となるのです。したがって、以下の解説は、親族や同族会社などの特殊関係者間での賃貸借を前提にしているとイメージして御覧ください。

なお、借地権の判定で「相当の地代」というキーワードがありますが、「相当の地代」と「相当の対価」は全く別物ですので混合しないように注意してください。
相当の地代との関係は、小規模宅地の特例 借地権との関係を徹底解説!を参照してください。

小規模宅地等の特例の詳しい解説は、小規模宅地等の特例をわかりやすく解説。相続した土地にかかる相続税を最大80%減額をご参照ください。

貸付事業用宅地等の詳しい解説は、【小規模宅地の特例】貸付事業用宅地等とは?50%減額可能!をご参照ください。

1. 基礎知識

「相当の対価」の定義は小規模宅地の特例関連の法令や通達には規定されていません。法令や通達に規定されていない場合には、過去の判例や裁決を確認します。私の調べたところ3つの判例、裁決事例が存在しました。

事例①【東京地裁 平成10年4月30日判決】

租税特別措置法69条の3(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)にいう事業用宅地と認められるためには、被相続人が行っていた行為が、相続開始の直前における客観的な状況からみて、営利性、有償性を有していたと認められることが必要である。そして、宅地の購入代金を銀行などから借り入れた上、購入に係る当該宅地を他に賃貸する場合においては、地代収入はもちろん、その増額の見込み、権利金等の授受の有無、金額、その維持管理にかかる費用、貸付けをした資産の減価償却費、固定資産税その他の必要経費を総合的に判断して、相当な対価を受領していて現実に利益をあげているか、仮に利益を上げていないとした場合においても、客観的にみて事業として利益を上げることを志向していると認められるか否かといった観点から判断すべきである。

事例②【札幌国税不服審判所 平成9年11月19日裁決】

「相当の対価を得て」については、貸付け等の用に供している資産の賃貸料が、貸付け等の用に供している資産の固定資産税その他の必要経費を回収した後において、相当の利益を生ずるような対価を得ていることと解され、相当の対価を得ていたかどうかについては、相続開始の直前において、相当の対価を現実に得ていたかどうかという客観的事実により判断するものと解される。

事例③【国税不服審判所 平成7年1月25日裁決】

本件B物件のEに対する賃貸に伴う賃貸料は、1平方メートル当たり4,825円であるから、上記Cの周辺地域における賃貸料1平方メートル当たり13,447円及び18,181円並びに上記Dに記載のEが本件B物件を月ぎめ駐車場として第三者に賃貸している賃貸料と比較して著しく低廉と認められるので、当該賃貸借は、相当な対価を得て行われたものとはいえない。

事例①、②と事例③では、相当の対価の捉え方が違うのがわかると思います。すなわち、判例や裁決においても相当の対価の定義が定まっていないのです。実務上は上記判例及び裁決を基に利益アプローチ(事例①及び②)と近隣相場アプローチ(事例③)を複合的に考慮して判定することとなります。
また、所得税の特定事業用資産の買換えに係る通達にて、下記のように規定されています。

措置法通達37-3(事業に準ずるものの範囲)

措置法第37条第1項に規定する「事業に準ずるもの」とは、措置法令第25条第2項の規定により事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものをいうのであるが、その判定については、次の点に留意する。

(1) 「不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為」とは、措置法第37条第1項の表の各号に掲げる資産の賃貸その他その使用に関する権利の設定(以下この項において「貸付け等」という。)の行為をいう。
(2) 「相当の対価を得て継続的に行う」とは、相当の所得を得る目的で継続的に対価を得て貸付け等の行為を行うことをいう。
この場合には、次のことに留意する。
イ 相当の所得を得る目的で継続的に対価を得ているかどうかについては、次による。
(イ) 相当の対価については、その貸付け等の用に供している資産の減価償却費の額(当該資産の取得につき措置法第37条第1項(同条第3項及び第4項において準用する場合を含む。)の規定の適用を受けているときは、措置法第37条の3第1項の規定により計算した取得価額を基として計算した減価償却費の額)、固定資産税その他の必要経費を回収した後において、なお相当の利益が生ずるような対価を得ているかどうかにより判定する。
(ロ) その貸付け等をした際にその対価を一時に受け、その後一切対価を受けない場合には、継続的に対価を得ていることに該当しない。
(ハ) その貸付け等をした際に一時金を受け、かつ、継続的に対価を得ている場合には、一時金の額と継続的に受けるべき対価の額とを総合して(イ)の相当の対価であるかどうかを判定する。
ロ 継続的に貸付け等の行為を行っているかどうかについては、原則として、その貸付け等に係る契約の効力の発生した時の現況においてその貸付け等が相当期間継続して行われることが予定されているかどうかによる。

なお、こちらは所得税関連の通達であって、小規模宅地の特例は相続税の論点であり、税目が違うためあくまで参考程度となります。

2. パターン別検証

以上の判例や裁決を踏まえると「相当の対価」に該当するか否かは、①賃料から経費を差し引いて相当の利益がでていること(利益アプローチ)、②近隣相場と比較して相当の乖離がないこと(近隣相場アプローチ)の2つの側面から判定する必要があります。
賃料から固定資産税等、減価償却費、その他の経費を控除して相当の利益(全ての経費を控除してトントンではダメ)が出ているケースを「利益◯」と表現します。その逆は「利益☓」とします。
また、近隣相場と比較して、相当の乖離がある場合(例えば1/2以上の乖離があるなど)には、「近隣相場☓」と表現します。その逆は「近隣相場◯」とします。

① 利益◯ かつ 近隣相場◯

「相当の対価」に該当
こちらは、全く問題無いですね。相当の利益も出ていて、近隣相場と比較しても遜色ない場合です。

② 利益☓ かつ 近隣相場◯

「相当の対価」に該当
利益が出ていなくても近隣相場と比較して乖離がないような場合には、「相当の対価」と認められます。

③ 利益◯ かつ 近隣相場☓

「相当の対価」に該当
こちらは、若干悩む部分ではありますが、近隣相場という概念が若干不安定な部分もありますので明らかに利益が出ている対価の設定であれば、近隣相場から乖離があったとしても「相当の対価」と認められると考えます。ただし、近隣相場に比較し、著しく低い場合には相当の対価に該当しない可能性もありますので注意が必要です。

④ 利益☓ かつ 近隣相場☓

「相当の対価」に該当しない
こちらの場合には、「相当の対価」とは言えないため賃料を見直したほうが良いでしょう。

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