予備的遺言とは|受遺者・相続人が先に亡くなった場合に備える書き方
10秒でわかる この記事の要約
- 予備的遺言(補充遺贈)とは、財産を渡す相手が自分より先に亡くなった場合に備え、「次は誰に渡す」と次順位の承継先を定めておく遺言。
- 第三者への遺贈では、受遺者が先に死亡すると遺贈は失効する(民法第994条)。相続人への「相続させる」遺言でも、指定相続人の子が当然に引き継ぐとは限らない。
- 失効した部分の財産は、遺言で別の定めがなければ相続人に帰属し、遺産分割に戻る(民法第995条)。予備的遺言があればこれを防げる。
- 「配偶者に全部相続させる」遺言ほど、配偶者の先死に備える予備的定めの重要度が高い。
予備的遺言とは、財産を渡す予定の人が遺言者より先に亡くなっていた場合などに備えて、「その人が先に死亡しているときは、次は誰に渡す」と次順位の承継先をあらかじめ定めておく遺言のことです。 第三者や団体への遺贈について定める場合は「補充遺贈」「予備的遺贈」と呼ばれることもあります。相続人に「相続させる」遺言でも、同じように予備的な定めを置くことが重要です。
遺言を作るとき、多くの方は「自分が先に亡くなる」前提で配分を考えます。しかし、配偶者や兄弟姉妹など、受遺者も高齢である場合、順番が前後する可能性は十分にあります。本記事では、遺言を専門に扱う行政書士法人トゥモローズが、予備的遺言の必要性と書き方を解説します。なお、遺言の有効性をめぐる紛争への対応は弁護士の業務のため、提携弁護士と連携してご案内します。
受遺者が先に亡くなると遺贈は失効する(民法第994条)
遺言の見落としで最も多いのが、この論点です。まず「遺贈」と「相続させる遺言」を分けて理解しましょう。
第三者や団体への遺贈では、受遺者が遺言者より先に、または同時に死亡した場合、その遺贈は効力を生じません(民法第994条)。さらに、受遺者の子などが当然にその地位を引き継ぐ(代襲する)わけではありません。遺贈には原則として代襲のしくみがないためです。遺贈が失効した部分の財産は、遺言に別段の定めがなければ相続人に帰属し、遺産分割の対象に戻ります(民法第995条)。
相続人に「相続させる」と定めた遺言でも、考え方は同じです。指定された相続人が遺言者より先に死亡した場合、特段の事情がない限り、その相続人の子が当然にその指定を引き継ぐわけではありません。「長男に自宅を相続させる」と書いていても、長男が先に亡くなっていれば、その自宅は相続人全員の協議に戻ってしまいます。だからこそ、相続人を承継先にする場合でも予備的な定めが重要です。
予備的遺言で「次の承継先」を決めておく
この失効を防ぐのが予備的遺言です。第一順位の承継先に続けて、「その人が先に死亡しているときは、次は誰に」を定めておきます。
| 予備的遺言がない場合 | 予備的遺言がある場合 |
|---|---|
| 承継予定者の先死で、遺贈や「相続させる」指定が機能しなくなる → 対象財産は法定相続・遺産分割へ戻る可能性 | あらかじめ定めた次順位の人へ承継される |
| 想定外の人に渡る・協議が必要になる | 遺言者の意思どおりに財産が動く |
| 相続人間の争いの火種になりやすい | 不確実性を減らし、争いを予防できる |
寄付(遺贈寄付)を予定している場合も同じです。寄付先の団体が将来解散・統合する可能性に備え、予備の寄付先を定めておくと、想いを確実に実現できます。なお、団体の解散・合併・名称変更があった場合の取扱いは、受遺者の死亡とは別の論点になるため、定期的に寄付先の状況を確認しておくことも大切です。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):遺言で寄付をすると相続税が非課税に!?(相続と寄付の関係 遺贈寄付編)
予備的遺言を入れておくべきケース
次のような場合は、予備的遺言の優先度が高いといえます。
- 承継予定者が高齢: 配偶者・兄弟姉妹など、財産を渡す予定の相手も高齢で死亡順が読めない
- 「配偶者に全部」型の遺言: 配偶者の先死で遺言全体が機能しなくなるリスクが大きい
- 特定の人・団体に確実に渡したい: お世話になった方、内縁の相手、寄付先など
- おひとりさまの遺贈先指定: 承継先の候補が限られるため、先死時の代替先を決めておきたい
特に「配偶者にすべて相続させる」というシンプルな遺言は、配偶者が先に・同時に亡くなると、そのままでは承継の指定が機能せず、財産が法定相続・遺産分割の対象に戻る可能性が高くなります。子や孫への予備的な定めを添えるだけで、遺言の確実性が大きく高まります。
遺言書の準備、お済みですか?
公正証書遺言作成サポートなら、
原案作成から公証役場の調整・
証人手配まで一括対応。
税理士法人との連携で
相続税試算までワンストップ。
平日 9:00〜21:00 土日祝 応相談
予備的遺言の書き方と文例
書き方の基本は、第一順位の承継先 → 先死の条件 → 次順位の承継先の順で、一義的に読める形にすることです。
文例1:相続人に「相続させる」場合
第1条 遺言者は、遺言者の妻◯◯(昭和◯年◯月◯日生)に、遺言者の有する一切の財産を相続させる。
第2条 遺言者の妻◯◯が遺言者より先に、または遺言者と同時に死亡したときは、前条の財産を、長女△△(昭和◯年◯月◯日生)に相続させる。
文例2:第三者・団体へ「遺贈する」場合
第1条 遺言者は、友人◯◯(住所・氏名・生年月日)に、金500万円を遺贈する。
第2条 友人◯◯が遺言者より先に、または遺言者と同時に死亡したときは、前条の金500万円を、公益法人△△に遺贈する。
ポイントは、相続人へは「相続させる」、第三者・団体へは「遺贈する」と書き分けること、「先に、または同時に死亡したとき」と条件を明確にすること、次順位の承継先を続柄・氏名・生年月日(団体は名称・所在地)で特定することです。条件分岐があいまいだと、相続発生後に「どちらが有効か」という解釈の争いになります。
予備的遺言と「後継ぎ遺贈」は別物
混同しやすいのが、いったん財産を取得した人の「その後の承継先」まで指定する後継ぎ遺贈・後継ぎ指定です。予備的遺言とは別の論点で、有効性や実現可能性に注意が必要です。
| 項目 | 予備的遺言 | 後継ぎ遺贈・後継ぎ指定 |
|---|---|---|
| 使う場面 | 第一順位の承継先が遺言者より先に死亡していた場合に備える | 第一順位の人が遺言者の死亡後に取得し、その人の死亡後の承継先まで指定したい場合 |
| 例 | 「妻が先に死亡していたら長女に相続させる」 | 「妻に相続させ、妻の死亡後は長女に渡す」 |
| 実務上の安定性 | 比較的使いやすい | 有効性・実現可能性に注意が必要 |
| 代替手段 | — | 家族信託などを検討 |
「先に死亡していた場合の備え」が予備的遺言、「取得後の次の承継先の指定」が後継ぎ遺贈、と区別して設計します。
▶ 関連解説(税理士法人トゥモローズ):【遺言執行者が必要な場合はどんな時?】遺言執行者を選任するメリット
公正証書遺言で正確に条文化するのが安全
予備的遺言は、条件分岐を含むため、書き方の難易度が高い部類に入ります。自筆証書遺言で複雑な条件を書くと、方式不備や解釈の争いのリスクが高まります。
当法人では、公正証書遺言での作成をおすすめしています。公証人の関与のもと、予備的な定めを正確に条文化し、遺言全体の整合性を確認できるためです。承継予定者・相続人の年齢や関係を踏まえ、どこに予備的な定めを置くべきかを設計の段階から整理します。
作成時にあわせて検討したいこと
予備的遺言を入れるときは、次の点もあわせて確認します。
- 遺言執行者の指定: 予備的な承継が発生しても、執行者がいれば手続きがスムーズです。
- 遺留分への配慮: 予備的な承継先が決まっても、遺留分そのものはなくなりません。全体のバランスを検討します。
- 定期的な見直し: 受遺者・予備の承継先の状況が変われば、遺言の作り直しを検討します。
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 予備的遺言を入れると公証人手数料は高くなりますか?
A. 条項が増えるため多少の影響はありますが、予備的な定めを加えるだけで手数料が大きく上がることは通常ありません。手数料は主に、誰にいくら渡すか(目的の価額)で決まります。正確な費用は、内容を伝えて公証役場で見積りを取ると分かります。
Q2. 孫やさらに次の人まで予備的に指定できますか?
A. できます。たとえば「妻が遺言者より先に、または同時に死亡していた場合は長女に相続させる。長女も先に、または同時に死亡していた場合は孫〇〇に相続させる」のように、第二順位・第三順位まで定められます。ただし、「妻に相続させ、妻の死亡後は子に渡す」というように、いったん取得した人の死亡後の承継先まで指定するのは、予備的遺言ではなく後継ぎ遺贈・家族信託などの別論点です。確実に設計したい場合は、遺言だけで足りるか慎重に検討します。
Q3. 予備的に指定した人も先に亡くなっていたらどうなりますか?
A. 予備の承継先まで亡くなっていると、その部分の定めが機能せず、財産が遺産分割に戻ってしまうことがあります。これを防ぐには、さらに次の承継先を定めるか、定期的に遺言を見直すことが有効です。受遺者の状況が変わったら、遺言を更新するのが確実です。
Q4. 予備的に「相続させる」のと「遺贈する」のは同じですか?
A. 渡す相手が相続人か、相続人以外かで使い分けます。相続人へは「相続させる」、相続人以外(孫が代襲相続人でない場合や第三者・団体)へは「遺贈する」と書きます。予備の承継先が相続人かどうかで表現が変わるため、正確に書き分けることが大切です。
Q5. すでに作った遺言に、予備的な定めを後から足せますか?
A. 足せます。新たに遺言を作成し、予備的な定めを加える形になります。自筆証書遺言なら方式に従って書き加える(または作り直す)、公正証書遺言なら作り直します。既存の遺言との関係があいまいにならないよう、全体を整理して作り直すのが安全です。
まとめ
予備的遺言は、第三者・団体への遺贈で受遺者が先に亡くなった場合の遺贈失効(民法第994条)や、相続人に「相続させる」と指定した相手が先に亡くなった場合に備える、見落とされがちな設計です。失効した財産は、別段の定めがなければ相続人に帰属し、遺産分割に戻ることがあります(民法第995条)。「配偶者に全部」型やおひとりさまの承継先指定では特に重要で、条件分岐を正確に条文化するには公正証書遺言での作成が安全です。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、予備的な定めを含む公正証書遺言の作成をサポートしています。「今の遺言が受遺者の先死に備えられているか」の点検だけでも、初回無料相談をご利用ください。
遺言書の準備、お済みですか?
公正証書遺言作成サポートなら、
原案作成から公証役場の調整・
証人手配まで一括対応。
税理士法人との連携で
相続税試算までワンストップ。
平日 9:00〜21:00 土日祝 応相談
関連記事
税務の観点もあわせてご確認ください
予備的な承継先や遺贈寄付を定める際の相続税については、グループの税理士法人トゥモローズの解説記事もご参照ください(相続税の試算・申告は税理士法人トゥモローズが対応します)。
根拠法令・公的資料
- 民法第960条(遺言の方式)
- 民法第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
- 民法第995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
- 最高裁平成23年2月22日判決(「相続させる」旨の遺言で指定相続人が遺言者より先に死亡した場合、特段の事情がない限り効力を生じない)
- 民法第1006条(遺言執行者の指定)
- 民法第1022条(遺言の撤回)
- 民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)・第1046条(遺留分侵害額の請求)
