名義預金の最新裁決事例【令和4年2月15日裁決】 相続専門税理士の解説付き
みなさんこんにちは
相続専門税理士の角田です。
今回のブログでは国税不服審判所で令和4年9月29日に新たに公表された名義預金の裁決事例を相続専門税理士の解説付きでご紹介します。
なお、名義預金の詳しい解説は、名義預金とは?税務調査で指摘されないために意義と対策を徹底解説をご参照下さい。
目次
1.事案の概要
税務署が相続税申告で漏れていた「被相続人やその家族名義の預貯金の口座から出金された現金」、「家族名義の預貯金」は相続財産であると指摘したのに対し、納税者がその現金や家族名義の預貯金は、被相続人の配偶者の財産であり相続財産に当たらないとして税務署の処分の全部の取り消しを求めた事案です。
2.本件相続の概要
相続開始日:平成30年2月◯日
被相続人 父
相続人 配偶者、長男、二男
3.時系列
①配偶者による現金の引出し
平成26年2月12日から相続開始日まで下記預金口座から合計85,774,000円を現金で引出した。(以下「本件出金」)
被相続人名義のP信用金庫
被相続人名義のQ銀行
配偶者名義のN銀行
長男名義のR銀行
二男名義のR銀行
②相続開始
被相続人が平成30年2月◯日死亡
③遺産分割協議
遺産分割協議は平成30年8月15日、同年10月30日の2回にわたって行われた。
それぞれの日付で遺産分割協議書を作成。
④相続税申告書の提出
申告期限(平成30年12月◯日)までに相続税申告書(以下「本件申告書」)を税務署に提出。
長男が税理士であったため配偶者と二男は長男を税務代理人として申告した。
本件申告書には、本件出金により引き出された現金(以下「本件出金現金」)の一部である6,000,000円(以下「本件申告計上現金」)が計上されていた。
また本件申告書には下記預金(以下「本件申告計上預貯金」)が相続財産として計上されていた。
配偶者名義の預貯金 86,867,241円
長男名義の預金 19,514,336円
二男名義の預金 20,463,220円
長男の長女(以下「本件孫」)名義の預金 14,695,398円
⑤税務調査
令和元年11月25日に本件相続税の調査(以下「本件調査」)に着手して被相続人の自宅に臨場して配偶者と長男と面接。
調査官から本件出金現金の行方について配偶者に確認したところ現金65,000,000円の提示があった。
長男は調査官に対して下記各書面を提出。
□被相続人財産形成貢献度検討
□(資料1)比較者データ
□(資料2)被相続人生涯給与からの資産形成額推計
□(資料3)参考データ
□(資料4)参考データ(その2)
□被相続人妻財産形成貢献度検討(株式売買益除く)
長男は、令和元年12月11日に新たに現金12,000,000円が見つかったとしてその現金の画像データを調査官に提示した。
⑥更正処分
調査官は、令和2年4月21日に長男に対して、調査結果の内容の説明を行い、下記財産の申告漏れを指摘した。
配偶者名義のR銀行○○支店の定期預金 10,626,918円(以下「本件定期預金」)
二男名義のN銀行の貯金 9,500,000円(以下「本件貯金1」)
二男名義のN銀行の貯金 3,000,000円(以下「本件貯金2」)
※二男名義の上記N銀行の2つの貯金を以下「本件各貯金」
上記申告漏れ財産(以下「本件現金等」)につき税務署は令和2年5月25日付で長男らに対して更正処分、過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
⑦審査請求
長男らは令和2年8月19日に本件更正処分等を不服として審査請求をした。
4.争点1(本件調査手続に本件各更正処分等を取り消すべき違法があるか否か。)
この争点は傍論のため概要だけ解説します。
そもそも国税の調査手続きに瑕疵があるというだけで課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はない。
ただし、課税処分は「調査により」行う旨を規定しているため調査なしに課税処分がされた場合には取消事由に該当する可能性はある。
この調査なしという概念は、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続きに重大な瑕疵があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれると解される。
これを本件に当てはめると本件の証拠収集手続きは適法性に影響を及ぼすものではないから長男の主張する事情は、更正処分の取消事由となるものではない。
結果として争点1は納税者の主張は認められない。
5.争点2(本件各更正処分等は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由の提示の要件を欠いているか否か。)
争点2についても傍論のため概要だけ解説します。
行政手続法第14条第1項の本文には、不利益処分をする場合にはその理由を示さなければならない旨が規定されていて、長男は、本件処分理由が適正に行われていないと主張している。
ちなみに、本件課税処分の理由は下記リンクの通りです。
処分の理由(本件配偶者分) 国税不服審判所HP
処分の理由(本件長男分) 国税不服審判所HP
処分の理由(本件二男分) 国税不服審判所HP
上記処分の理由は、行政手続法第14条第1項本文に規定する理由の提示の要件を欠くものではないと判断された。
結果として争点2も納税者の主張が認められなかった。
6.争点3(本件現金等は本件被相続人に帰属する相続財産であるか否か。)
本件裁決の主論がこの争点3となりますので詳しく確認していきましょう!
(1)税務署の主張
①本件現金の出捐者
本件現金は、本件申告計上預貯金口座から出金されたものであり、本件申告計上預貯金が本件被相続人に帰属するものとして本件申告に反映されていることからすると、その出捐者は、被相続人である。
なお、本件現金が、本件出金現金の一部であることは、本件配偶者の申述等から明らかである。
②本件定期預金の出捐者
本件定期預金については、本件長男が、本件申告書を作成した当時、その存在を知らなかったものの、税務署からの事前通知後に通帳が確認できたとし、本件被相続人及び本件配偶者の管理下にあった財産として把握漏れがあった旨述べていることからすれば、本件定期預金は、本件被相続人又は本件配偶者のいずれかに帰属する財産であり、その出捐者は、本件被相続人又は本件配偶者であると認められる。
③本件各貯金の出捐者
本件各貯金は、本件配偶者がその存在を把握しておらず、本件二男も、その存在、作成経緯や通帳の所在を知らず、その原資を拠出していない旨申述していることから、出えん者は本件被相続人であると認められる。
④被相続人の生涯収入
Zが作成した○○○○及び本件被相続人の勤務先であったT市U局の回答書によれば、本件被相続人への給与支給総額及び退職金支給額の合計は112,130,714円であり、Z等の回答書によれば、年金支給総額は93,284,982円であるから、本件被相続人の生涯収入は205,415,696円である。
⑤配偶者の生涯収入
Zが作成した○○○○によれば、本件配偶者への給与支給総額は252,000円であり、Z等の回答書によれば、年金支給総額は9,845,585円であるから、本件配偶者の生涯収入は10,097,585円である。
なお、請求人らが提出した本件配偶者がSの事務服を着た姿で撮影された写真は、本件配偶者の勤務事実及び収入があったことを裏付ける証拠とは認められず、また、請求人らが主張する本件配偶者の株式投資を裏付ける事実も確認できない。
⑥税務署の結論
上記によれば、本件被相続人及び本件配偶者の生涯収入の比率は、本件被相続人が95.31パーセント、本件配偶者が4.69パーセントとなるから、本件被相続人又は本件配偶者のいずれかに帰属する金融資産のほとんどは本件被相続人の出捐により形成されていたといえる。
なお、上記金融資産のうち4.69パーセントは本件配偶者の原資であるものの、本件配偶者の生涯収入の内訳は、そのほとんどが年金収入であるところ、本件年金受給口座の預金は、本件配偶者の財産として、本件申告書に計上されていない。
そして、本件認定金融資産(申告書に計上済みの預貯金、現金、本件現金等、配偶者の年金口座の合計、すなわち、本件相続に関わる被相続人、親族名義の預貯金、現金の合計額305,358,110円)に、本件被相続人の生涯収入の比率を乗じた金額は291,036,815円となり、本件申告計上現金、本件申告計上預貯金及び本件現金等の合計額を上回る。
また、本件配偶者の生涯収入の比率を乗じた金額は14,321,295円となり、本件年金受給口座の預金の金額を下回ることから、生涯収入比の検討においても、本件現金等の帰属の判断に齟齬はない。
請求人らは、本件申告書に計上されている本件名義預貯金についても本件配偶者の財産が一部原資として含まれている旨主張するが、そのような事実は認められない。
以上の事情を総合的に考慮すると、本件現金等は、本件被相続人に帰属する財産である。
(2)納税者の主張
①本件現金の出捐者
本件申告計上預貯金の原資には、本件被相続人及び本件配偶者の収入が混在しているし、本件名義預貯金の発生時期は古くその原資の負担者を明確に特定できないのであるから、本件現金の原資が本件出金現金であることをもって、本件現金の出捐者が本件被相続人であるとはいえない。
また、本件調査時に本件現金があったことをもって、本件相続開始日に本件現金が存在したとはいえない。
②本件定期預金の出捐者
本件定期預金には、本件被相続人及び本件配偶者の収入が混在していることから、原資の負担者を明確に特定することはできない。
③本件各貯金の出捐者
本件各貯金は、原処分庁が主張する事情をもっても、原資の負担者を明確に特定することはできず、出捐者が本件被相続人であるとはいえない。
なお、本件各貯金の作成手続は本件配偶者又は本件二男が行っており、その存在を失念していただけである。
④被相続人の生涯収入
原処分庁が主張する給与支給額は、本件被相続人の当時の給与支払者であるT市の号給の積算額にすぎないことに加えて、賞与や通勤手当等の諸手当は加算されておらず、実際の「支給額」とはかけ離れた数値である。
また、原処分庁は、Zが作成した○○○○に記載がないことを理由に、本件被相続人がT市U局を退職した後の勤務先に係る勤務事実を確認することができないとして給与を加算していない。しかしながら、平成28年10月より前の勤務について、短時間労働者が厚生年金保険の被保険者期間を有しないのは法律上当然のことであって、そのことをもって勤務実績がなかったと判断することはできない。
⑤配偶者の生涯収入
原処分庁が主張する給与支給額は、厚生年金基金給与月額に月数を乗じただけの推計額にすぎず、実際の「支給額」とはいえない。
また、原処分庁は、Zが作成した○○○○に記載がないことを理由に、本件配偶者の内職やパート等に係る勤務事実を確認することができないとして給与を加算していない。しかしながら、平成28年10月より前の勤務について、短時間労働者が厚生年金保険の被保険者期間を有しないのは法律上当然のことであって、そのことをもって勤務実績がなかったと判断することはできない。
なお、原処分庁は、本件配偶者の勤務先の一つであるSでの勤務事実を裏付ける証拠として、請求人らが提出した写真の存在を無視し、さらに、請求人らが主張した本件配偶者自身の資金により得た株式運用益及びそれにより得た資金を加えた預貯金運用益を勘案せず、捨象・排斥することにより原処分庁に都合の良い結論を導き出している。
⑥納税者の結論
原処分庁は、本件現金及び本件各貯金の出捐者が本件被相続人である旨主張するが、上記のとおり、原処分庁の主張する事実をもって、本件現金等の出捐者が本件被相続人であるとはいえない。
原処分庁は、本件被相続人及び本件配偶者の生涯収入の比率により本件被相続人に帰属する相続財産の額を計算しているが、上記のとおり、原処分庁が主張する生涯収入は推計額であることに加えて、実態とかけ離れた数値が混在しており、合理性が担保されていない。
加えて、本件名義預貯金には本件配偶者の収入が原資として含まれているにもかかわらず、請求人らは、本件名義預貯金を本件申告書に計上しているが、これは、本件名義預貯金が本件被相続人に帰属すると判断したからではなく、本件配偶者が管理する預貯金通帳のうち本件被相続人名義以外のものについて、いずれも原資が不明であったことから、金融財産形成への貢献度を斟酌して、そのような申告をしたにすぎない。
以上によれば、原処分庁の主張には理由がなく、本件現金等が本件被相続人に帰属するとはいえない。
(3)国税不服審判所の認定事実
①各預貯金の原資について
被相続人、配偶者、長男、二男、孫名義の預貯金の原資については、いずれもその口座の開設時期や作成の時期が古く、原資を特定することができない。
また、本件定期預金及び本件貯金1は、いずれもその口座の開設時期や作成の時期が古く、原資を特定することができない。
本件貯金2は、平成28年5月30日に、本件配偶者が現金を持ち込み作成したものであったが、その現金の原資を特定することはできない。
②預貯金等の管理及び運用の状況について
配偶者は、自身の収入や資産とともに、被相続人の収入や資産を管理しており、名義預金の通帳や印鑑も自宅で保管していた、すなわち、各口座の管理運用は配偶者が実施していた。
また、各口座から引出した本件出金にかかる現金は自宅において配偶者が保管していた。
③本件被相続人及び本件配偶者の収入等について
被相続人は、40年弱にわたって地方公務員として勤務し、定年後も、再就職して収入を得ていた。
配偶者は、勤務期間等は不明であるが、S等において勤務をして収入を得ていたこともあった。
④本件被相続人及び本件配偶者からの贈与について
被相続人が、配偶者、長男、二男、孫に贈与したことはない。
配偶者が、長男、二男、孫に贈与したことはない。
⑤既に申告書に計上してある現金や名義預金を相続財産に計上した経緯
税理士である本件長男は、本件申告に先立ち、本件配偶者が管理していた預貯金通帳等及び取引していた銀行との取引履歴を確認したところ、本件相続開始日において、本件被相続人名義の預貯金の残高が47,529,896円であり、請求人ら及び本件孫の名義の各預貯金に係る残高の合計(本件定期預金及び本件各貯金を含まず、本件名義預貯金の残高141,540,195円に本件年金受給口座の預金の残高16,161,101円を加算した金額)が157,701,296円であったこと、平成26年2月12日から本件相続開始日までの間に、別表1のとおり、本件配偶者が管理する預貯金の口座から現金が引き出されていたこと(本件出金)を把握した。
本件長男は、上記の事実に加え、本件出金により引き出された多額の現金の行方が不明であったことから、本件被相続人及び本件配偶者の過去の収入等を考慮し、両者の資産形成への貢献度を検討した上、口座名義にかかわらず、本件被相続人名義の預貯金の残高47,529,896円に本件名義預貯金141,540,195円及び本件申告計上現金6,000,000円を加算した金額(195,070,091円)を本件申告書に計上して、本件申告を行った。
(4)相続専門税理士角田のまとめ
様々な用語や数字が出てきていて複雑になっているので結論をお伝えする前に簡単に今までの事実を私なりに自分の言葉でまとめます。
①相続開始時点で存在する現金、預貯金
現金:77,000,000円(配偶者が生前から引出した現金の合計(本件出金)は、85,774,000円であるが、差額8,774,000円は引き出し時点から相続開始時点までに生活費等で費消されたと推定)
被相続人名義預貯金:47,529,896円
配偶者名義の預貯金:113,655,480円(当初申告計上済預貯金86,867,241円+申告漏れ定期預金10,626,918円+配偶者の固有預貯金(年金口座)16,161,321円(推定))
長男名義の預貯金:19,514,336円
二男名義の預貯金:32,963,000円(当初申告計上済預貯金20,463,220円+申告漏れ貯金12,500,000円)
孫名義の預貯金:14,695,398円
上記の合計である305,358,110円の現金、預貯金が相続開始時に存在していました。
このうち、被相続人に帰属する財産と配偶者に帰属する財産がそれぞれいくらなのかが争われた事例なのです。
②当初申告書に計上された現金、預貯金
現金:6,000,000円
被相続人名義預貯金:47,529,896円
配偶者名義の預貯金:86,867,241円
長男名義の預貯金:19,514,336円
二男名義の預貯金:20,463,220円
孫名義の預貯金:14,695,398円
上記合計である195,070,091円を当初申告書に現金、預貯金として相続財産に計上して当初申告をしました。
納税者からしたら、3.05億円のうち、1.95億円である約64%は被相続人に帰属するであろうと推定して当初申告をしたわけです。
この推定が誤っているという立証は税務署がしなければならないのです。
逆に当初申告で3.05億円で申告して、その後、納税者が1.95億円で更正の請求をしたならば1.95億円の確からしさの立証を納税者がしなければならないのです。
立証責任がどちらに及ぶかが名義預金等の評価方法が明確に定まっていないグレーな財産評価ではとても重要になります。
③税務署が申告漏れを指摘した現金、預貯金
現金:71,000,000円
配偶者名義の定期預金:10,626,918円
二男名義の貯金:12,500,000円
上記合計である94,126,918円を新たに相続財産に計上すべきと税務署は指摘しました。
したがって、税務署は、当初申告済の現金、預貯金195,070,091円に上記申告漏れ財産94,126,918円を加算した289,197,009円を被相続人の財産と認定したのです。
上記①の相続開始時点の全ての現金、預貯金合計305,358,110円の約95%です。
税務署の主張通り、本件現金、預貯金はほぼ被相続人が外から稼いできたものだから配偶者が稼いできたものはほとんどないんだという強い主張が伺えます。
④被相続人と配偶者の生涯年収
税務署が調査した結果、被相続人の生涯年収は205,415,696円、配偶者の生涯収入は10,097,585円となる。
ただし、この生涯年収は不確定な部分が多い。特に配偶者の生涯年収は網羅的に把握できていない。
(5)国税不服審判所の結論
結論としては、納税者の主張がすべて認められました。
この結論になった一番大きな理由は、被相続人と配偶者の生涯年収の把握が客観的なものでなかったことでしょう。
国税不服審判所も生涯年収比により按分する方法の合理性は認めていますが、その元となるデータの信憑性が欠如していると判断しました。
また、相続開始時点の現金、預貯金の合計(約3億円)が税務署が調査した被相続人の生涯年収(約2億円)を大きく上回っていたのも信憑性を失う大きな理由でしょう。
この結論を拝読すると、やはり、立証責任がどちらに分担されているかが非常に重要であることを再認識できました。
この立証責任の分担を常に意識して相続税申告の実務に臨みたいと思います!
念のため国税不服審判所の結論の詳しいものを参考までに下記に転載しますので興味ある人はご覧ください。
①本件現金について
本件申告計上預貯金口座は、
①本件申告計上預貯金口座で管理運用されていた預貯金の原資が特定できないこと、
②本件申告計上預貯金と本件出金現金を合わせると約3億円に近い金額となり、地方公務員であった本件被相続人の生涯収入から合理的に推認される金額よりも多額であり、不自然な点があること、
③本件配偶者も収入を得ていたと認められること、
④本件配偶者は、本件被相続人名義及び本件配偶者名義に加え、本件長男等の家族名義の口座も利用して、本件配偶者自身の収入や資産とともに、本件被相続人の収入や資産の管理及び運用を行っており、両者の収入や資産が明確に区別されていたことを示す証拠がないこと、
⑤本件長男、本件二男及び本件孫は、本件申告計上預貯金のうち同人らが名義人となっている各預金の原資を出えんしておらず、また、同人らは、本件相続開始日までそれらの各預金の存在すら認識していなかったこと、
⑥本件相続開始日までに同人らに対して、これらの各預金が贈与された事実もないこと
等の事情からすると、本件申告計上預貯金口座から出金された本件現金は、本件被相続人及び本件配偶者が得た各収入が混在したものである可能性を否定できない。
上記のような場合においては、本件現金を本件被相続人と本件配偶者との収入比率を用いてあん分する方法で、いずれに帰属するものであるかを推認することにも一定の合理性が認められる。
しかし、本件調査において、本件被相続人が地方公務員として勤務していた当時の正確な収入の額や、本件配偶者の具体的な勤務状況や収入の額を確認することはできなかった。
また、当審判所の調査によっても、本件被相続人及び本件配偶者の各生涯収入の金額を確認できず、客観的合理性を有する方法により当該各生涯収入の金額を推認することができない。
これらのことから、本件においては、あん分計算の前提となる本件被相続人及び本件配偶者の各生涯収入に基づく適切な収入比率を求めることができず、その他に本件被相続人の財産と本件配偶者の財産とにあん分する方法も見当たらないため、客観的合理性を有するあん分計算の方法により本件現金の帰属を決定することはできない。
他方で、請求人らは、本件申告計上現預金について、本件被相続人に係る遺産分割の対象として分割を行い、かつ、申告納税制度の下において、本件相続税の課税対象となる財産として本件申告を行ったのであり、本件申告計上現預金を、本件被相続人の相続財産として認識していたことがうかがわれる。
こうした事情に加え、請求人らが本件申告において、本件申告計上現預金を相続財産とした経緯を踏まえると、本件申告計上現預金の合計額である約2億円に近い預貯金及び現金は、本件被相続人と本件配偶者との収入が混在して形成された金融資産のうち、本件被相続人に帰属する部分の財産として、請求人らの合意によりあん分されたものと認められる。
このような、本件被相続人及び本件配偶者の金融資産への貢献度を考慮したあん分方法や、当該方法により算出された本件申告計上現預金については、必ずしも客観的合理性が担保されたものではないが、当該あん分方法やこれにより算出された本件申告計上現預金を積極的に否定する証拠関係は認められず、不合理なものとまではいえない。
以上のように、本件においては、本件申告計上預貯金口座の名義が必ずしも真の帰属を表すものではなく、本件被相続人と本件配偶者との収入比率を用いたあん分計算により財産の帰属を特定する方法には合理性が認められるものの、当審判所において合理的なあん分計算を行うこともできず、また、そのような中で、本件申告における請求人らによるあん分方法及びこれにより算出された本件申告計上現預金の金額につき、これを不合理なものとして積極的に否定する証拠がないことからすると、本件申告計上現預金の額を超えて、本件現金についても、本件被相続人に帰属する相続財産として存在していたものと断定することはできず、本件申告計上現預金の金額をもって、本件被相続人に帰属していたものと見ることもやむを得ない。
②本件定期預金及び本件各貯金について
本件定期預金及び本件各貯金についても、原資を特定することはできず、また、本件配偶者によって、本件申告計上預貯金口座と同様に、管理及び運用されていたものであることからすると、本件被相続人の収入がその原資に混在している可能性を否定できない。もっとも、本件においては、当審判所において、本件被相続人と本件配偶者の財産について、客観的合理性を有する方法であん分計算を行うことができないから、請求人らによって本件被相続人の相続財産とされた本件申告計上現預金に加えて、さらに本件定期預金及び本件各貯金についても、本件被相続人に帰属する相続財産であると断定することはできない。
国税不服審判所の裁決事例のページは、国税不服審判所 (令和4年2月15日裁決)をご参照下さい。
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