【家族信託の税務】借入金は相続税の債務控除ができるのか?

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家族信託

みなさんこんにちは!
相続専門の税理士法人トゥモローズです。

家族信託をした場合に信託した不動産等に紐づく借入金があったときは、その借入金について相続税の債務控除ができない可能性があります。

相続の生前対策として家族信託を導入したにも関わらず相続税の負担が重くなっては本末転倒です。
このようなことにならないように家族信託を組成するときには税金のチェックが欠かせません。

今回は、家族信託をした場合の相続税の債務控除についてわかりやすく解説していきます。

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相続税の債務控除とは?

債務控除とは、亡くなった人が亡くなったときに残していた借入金、未払金、預り金等の負債を相続財産からマイナスできるという納税者有利の制度となります。

債務控除のポイントは、相続開始時において確実と認められるものかどうかという点です。

債務控除についての詳しい解説は、【相続税申告】債務控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

家族信託の借入金とは?

賃貸不動産を家族信託の信託財産とした場合、その賃貸不動産に借入が残っていたときや新たに借り入れをするときの借入金の扱いは下記の二通りが考えられます。

1. 信託外借入
2. 信託内借入

一つ一つ詳しく解説していきます。

1. 信託外借入

信託外借入とは、家族信託の契約の範囲外の借入金のことをいいます。

信託外借入になるケースというのは、どのようなケースが想定されるでしょうか?

家族信託前と後で検討してみましょう。

【家族信託前】
□不動産所有者 父
□債務者 父
【家族信託後】
□委託者 父
□受託者(不動産所有者) 子
□受益者 父
□債務者 父

上記のケースで債務者を父のままにしたケースが信託外借入です。
これに対し、債務者を受託者である子にしたケースがこれから説明する信託内借入です。

信託外借入とするか信託内借入とするかのキーパーソンは債権者である銀行です。

借入金が残っている賃貸不動産を信託する場合に、債務者の名義を委託者(父)のままにするのか受託者(子)にするのかという論点です。

賃貸不動産を信託した場合には、所有者が受託者となり、賃料収入が入金される口座も受託者名義の口座にするのが通例です。
となると債務者を委託者のままにした場合には賃料の入金口座名義と借入金返済口座の名義が異なることとなり、銀行としては借入金の返済が滞らないか心配です。
このような問題があるため信託外借入の場合には債権者である銀行の承諾を得る必要があるのです。
なお、実際には抵当権の効力は対象不動産のみならずその不動産が生み出す賃料にも及びますので賃料入金口座と借入金返済口座の名義が異なったとしても銀行にとってはリスクが大きいわけではないため、信託外借入の承諾を受けることも可能なケースもあります。

2. 信託内借入

信託内借入とは、家族信託の契約に基づき受託者が借入を行うことをいいます。
信託外借入と同様に家族信託前と後で検討してみましょう。

【家族信託前】
□不動産所有者 父
□債務者 父
【家族信託後】
□委託者 父
□受託者(不動産所有者) 子
□受益者 父
□債務者 

信託外借入と異なり、債務者の名義も受託者に変更するのが信託内借入です。
そもそも借入金という債務を信託財産に含めることはできるのでしょうか?
答えは、出来ません!
信託財産はあくまでプラスの財産に限られます。
債務は信託財産には含めることは出来ないのです。

では、受託者を債務者に変更する信託内借入というのはどのように実現するのでしょうか?
委託者から受託者へ債務引受をすれば良いのです。

債務引受とは、債務をその同一性を失わせないで債務引受人(受託者)に移転することをいいます。
債務引受には、「併存的債務引受」と「免責的債務引受」の2つがあります。

「併存的債務引受」:引受人は新たに同一内容の債務を負担するが、債務者も依然として債務を負担し、債務者と引受人が連帯債務関係に入ること
「免責的債務引受」:債務者は債務を免れて、引受人が新債務者としてこれに代わって同一内容の債務を負担すること

信託内借入だと受託者名義の口座に家賃が入金され、返済口座もその家賃が入金された受託者名義の口座となるため、銀行の安心感が増すことから家族信託スキームの承諾を得やすくなります。

家族信託の借入金の債務控除の可否

家族信託の借入金には信託外借入と信託内借入が存在することはご理解いただけたと思います。
そこでまずは債務控除の可否について結論から申し上げます。

信託外借入 債務控除
信託内借入 ケースにより異なる

1. 信託外借入の債務控除

信託外借入は通常の借入金と同様のため当然のこととして債務控除が可能となります。

2. 信託内借入の債務控除

問題は信託内借入の債務控除です。

パターンごとに結論から申し上げます。

信託契約の内容 債務控除可否
受益者連続型信託
一代限り信託 信託財産 > 信託内借入
信託財産 ≤ 信託内借入

(1)受益者連続型信託

受益者連続型信託とは、委託者の死亡時だけでなく第二受益者、第三受益者の死亡時の財産の引継ぎを定めている信託契約をいいます。
例えば、父が委託者で父が死亡したときは、第二受益者を母とし、母が死亡したときの第三受益者を長男とするような信託契約です。

この受益者連続型信託では、債務控除の適用が可能となります。
根拠としては、相続税法第9条の2第2項及び相続税法第9条の2第6項となります。

念のため条文を転載しますが、読み飛ばしても問題ないです。

相続税法第9条の2第2項

受益者等の存する信託について、適正な対価を負担せずに新たに当該信託の受益者等が存するに至つた場合(第四項の規定の適用がある場合を除く。)には、当該受益者等が存するに至つた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して受益者等が存するに至つた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

相続税法第9条の2第6項

第一項から第三項までの規定により贈与又は遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利又は利益を取得した者は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなして、この法律(第四十一条第二項を除く。)の規定を適用する。(以下省略)

第6項の文末において信託の受益者が信託内債務を承継したものとみなすと規定されています。
また、第6項の文頭において「第一項から第三項までの規定により」と相続税法第9条の2の第1項~第3項に限定されています。
すなわち、相続税法第9条の2の第1項~第3項に規定する信託については、債務控除が可能ということです。
受益者連続型信託は第2項に規定されていますので債務控除が確実に認められるということです。

(2)一代限り信託

一代限り信託とは、次の受益者の定めのない信託契約をいいます。
例えば、下記のような信託です。

□信託期間が受益者の死亡までとなっている信託
□信託期間が設定されていてその期間中の受益者に変更がない信託
□信託期間中に受益者が死亡した場合には信託が終了することとなっている信託

①信託財産 > 信託内借入

一代限り信託でも信託財産の価額が信託内借入の金額が信託財産の価額より小さければ債務控除の問題は出てきません。
例えば、信託内借入が4,000万円で信託財産の価額が1億円だったとします。
この場合には純額の6,000万円にて評価することになるため債務控除という概念も出てこずに実質的に債務控除が可能なのです。

すなわち、信託内が資産超過になっていれば債務控除の問題にはならないのです。

②信託財産 ≤ 信託内借入

例えば、信託内借入が1億円、信託財産の価額が6,000万円であったときの差額の4,000万円が他の遺産からマイナスできるかという点です。

一代限り信託は相続税法第9条の2第4項の規定が適用されます。

相続税法第9条の2第4項

受益者等の存する信託が終了した場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となる者があるときは、当該給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた時において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた者は、当該信託の残余財産(当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であつた場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。)を当該信託の受益者等から贈与(当該受益者等の死亡に基因して当該信託が終了した場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

前述の相続税法第9条の2第6項の文頭において「第一項から第三項までの規定により」と相続税法第9条の2の第1項~第3項に限定されています。
すなわち、一代限り信託の第4項が含まれていないから一代限り信託については相続税の債務控除が出来ないのでは?と思われているのです。
もちろん信託しただけで債務控除できなくなるのは趣旨的におかしいとして債務控除が可能であるとの見解の専門家も多くいます。

ただし、この点について国税庁から正式見解は出ていません。

したがって、家族信託において確実に債務控除したい場合には、信託外借入にするか、信託内借入で受益者連続型信託にするかのいずれかが宜しいかと思います。

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この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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