アメリカの相続手続きと遺産税【税理士が完全ガイド】

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国際相続に強い税理士が解説 アメリカの相続手続きと相続税
10秒でわかる この記事の要約

  • アメリカの相続は「プロベート」という裁判手続きが必要で、相続完了まで1〜3年かかる
  • アメリカの相続税(遺産税)は被相続人に課税され、2025年の基礎控除額は1,399万ドル(約20.6億円)
  • 日本人がアメリカに資産を持つ場合、日米租税条約により控除額が拡大する特例がある
  • アメリカ非居住者の相続税申告は「Form 706-NA」を死亡から9ヶ月以内に提出
  • 日米で二重課税を避けるため、「外国税額控除」制度を活用できる

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はじめに〜アメリカでの相続はなぜ複雑なのか〜

グローバル化が進む現代、アメリカに不動産や金融資産を持つ日本人が増えています。

しかし、アメリカと日本では相続制度や相続税制が大きく異なるため、国際相続のケースではトラブルが発生しやすくなっています。

特に、アメリカの相続手続きは日本と比べて複雑で時間がかかるだけでなく、相続税(アメリカでは「遺産税」と呼ばれます)の仕組みも根本的に異なります。

この記事では、アメリカの相続手続きと相続税制について詳しく解説し、日本との違いや対策方法を紹介します。

国際相続に関わる可能性がある方は、ぜひ参考にしてください。

アメリカと日本の相続制度の違い

アメリカと日本の相続制度は根本的に異なるシステムを採用しています。

まずは両国の違いを理解しましょう。

日本の相続制度:遺産分割協議が基本

日本の相続制度では、被相続人(亡くなった方)の財産は、相続開始と同時に自動的に相続人の財産となります。

相続人同士で遺産分割協議を行い、話し合いで財産の分配を決めるのが基本です。

通常は裁判所は関与せず、相続人間の話し合いがうまくいかない場合に初めて、遺産分割調停という形で裁判所が関わります。

相続税についても、相続人が相続割合に応じて各自が納税する義務があります。

アメリカの相続制度:裁判所が関与するプロベート制度

一方、アメリカでは「管理清算主義」という制度を採用しています。

これは、相続人間の話し合いだけでは遺産分割ができず、「プロベート(Probate)」と呼ばれる裁判手続きを経ることが必要とされる制度です。

プロベートの流れは以下のようになります。

ステップ 内容
裁判所への申立 遺言書や死亡証明書などを裁判所に提出
資産管理人の任命 裁判所がPersonal Representative(PR)を選任
資産の調査と評価 PRが遺産の内容を調査、価値を評価
債権者への通知と支払い 債権者に通知し、債務を支払う
遺産税の申告と納付 必要に応じて遺産税を申告・納付
残余財産の分配 相続人に残った財産を分配

この手続きは裁判所の監督下で進められるため、終了までに少なくとも1年から長い場合は3年程度かかることが一般的です。

また、現地弁護士を起用する費用も高額になりがちで、相続人にとって大きな負担となります。

アメリカの相続手続き(プロベート)の詳細

アメリカでの相続手続きをより詳しく見ていきましょう。

プロベート手続きとは

プロベートとは、遺言の有効性を法的に確認し、遺産を適切に分配するための裁判手続きです。

この手続きが必要となるのは、被相続人の名義で所有されていた資産です。

ただし、下記のような一部の資産はプロベートを経ずに直接受取人に移転することができます。

・生命保険(受取人指定あり)
・ジョイントテナンシー(共同保有財産)
・信託内の資産
・受取人指定のある退職金口座

プロベート手続きの流れ

プロベート手続きは一般的に以下の4つのステップで進められます

ステップ1:申立て

まず、被相続人の遺言書(ある場合)と死亡証明書を添えて、被相続人が最後に居住していた地域の裁判所にプロベートの申立てを行います。
必要な書類は、州やケースによって異なりますが、死亡証明書・遺言書に加え、遺産についての情報(名義証書、明細書)、過去の税金申告書などが必要となります。

資産管理人は以下の業務を行います。なお、資産管理人は、遺言執行人(Executor)や遺産管理人(Administrator)とも呼ばれます。

・被相続人の不動産、銀行口座などへのアクセス
・資産内容の調査と価値の評価
・相続人や債権者の特定
・債権者への通知

ステップ3:債務の支払い

資産管理人は、遺産から以下の支払いを行います。

①葬儀費用
②相続管理費用(資産管理人の報酬、弁護士費用など)
③遺産税・所得税
④債権者への支払い

これらの支払いを終えた後に残った財産が、相続人に分配される資産となります。

ステップ4:資産の分配

すべての債務の支払いが完了したら、資産管理人は残りの財産を相続人に分配します。
分配方法は次の通りです。

遺言がある場合:遺言の指示に従って分配
遺言がない場合:州法で定められた法定相続(intestacy)のルールに従い分配

分配が完了したら、資産管理人は裁判所に最終報告書を提出し、プロベートの終了を申し立てます。

アメリカの相続税(遺産税)制度

アメリカでは相続税を「遺産税(Estate Tax)」と呼び、日本の相続税とは課税方式が大きく異なります。

日米の相続税制の根本的な違い

日本とアメリカの相続税制の最も大きな違いは、課税対象者です。

日本の相続税 アメリカの遺産税
納税義務者 相続人 被相続人(遺産財団)
課税対象 各相続人の取得財産に課税 遺産総額に課税
基礎控除
(非課税枠)
3,000万円+600万円×法定相続人数 アメリカ市民・居住者:1,399万ドル※1
アメリカ非居住者:6万ドル※2

※1 アメリカ市民・居住者の基礎控除は毎年異なり2025年が1,399万ドルとなります。
※2 日本との日米租税条約の適用を受ける場合、米国市民・居住者と同様の基礎控除額(2025年は1,399万ドル)を、全世界の遺産総額に占める米国資産の割合に応じて按分した金額が適用されます。詳しくは、後述の日本人がアメリカに資産を持つ場合の相続税をご参照ください。

アメリカの遺産税の基礎控除額

被相続人がアメリカ市民やアメリカ居住者の場合、連邦の遺産税には大きな基礎控除額が設けられています。

2025年の控除額は1,399万ドルとなっています。

これは夫婦の場合、合計2,798万ドルの控除が受けられることになります。

この控除額は、2025年末までの時限措置であり、2026年以降は「約500万ドル+インフレ指数加算」に引き下げられる予定です。

アメリカでは一般家庭の相続では、この高額な基礎控除のおかげで遺産税がかからないケースが多いです。

遺産税率

基礎控除額を超える部分には、課税対象額に応じて18%~40%の税率が適用されます。

州の相続税

連邦の遺産税とは別に、州によっては独自の税を課している場合があります。これには、被相続人の遺産全体に課税する「州遺産税(State Estate Tax)」と、財産を受け取った相続人ごとに課税する「州相続税(State Inheritance Tax)」の2種類が存在します。相続財産が所在する州の税制を確認することが重要です。

日本人がアメリカに資産を持つ場合の相続税

日本人がアメリカに不動産や銀行口座などの資産を持っていて死亡した場合、アメリカの遺産税が課税される可能性があります。

アメリカ非居住者の基礎控除額

アメリカ非居住者(非米国市民で、アメリカに居住していない人)の場合、遺産税の基礎控除額は原則として60,000ドル(約840万円(1ドル140円の場合))と非常に低い金額に設定されています。

しかし、日本人の場合は日米租税条約により、控除額が拡大される特例があります。

日米租税条約による控除枠の拡大

日本に居住する日本国籍の方には、日米租税条約によって米国遺産税の基礎控除額が以下の計算式で拡大されます。

米国遺産税の基礎控除額 = 1,399万ドル ×(米国遺産税課税対象財産額 ÷ 全世界遺産総額)

つまり、被相続人が所有していた全資産のうちアメリカ所在の割合分だけ、アメリカ人と同じように控除を受けられる制度です。

計算例

例えば、日本に1億円、アメリカに1億円、合計2億円の資産がある場合:

1,399万ドル × 1億円 ÷ 2億円 = 699.5万ドル

この場合、約10億円(1ドル140円の場合)の基礎控除額となりますので、アメリカの遺産税はかからないことになります。

日米租税条約と二重課税の防止

日本人がアメリカに資産を持つ場合、日本とアメリカ両国で相続税が課税されると、二重課税の問題が発生します。

二重課税の可能性

例えば、次のようなケースでは二重課税の可能性があります。

・被相続人が日本国籍で、アメリカに居住していた場合
・日本国籍の被相続人がアメリカに不動産を所有していた場合
・日本国籍の被相続人がアメリカの金融機関に預金を持っていた場合

これらのケースでは、日本の相続税とアメリカの遺産税の両方が課税される可能性があります。

外国税額控除の活用

このような二重課税を避けるため、日本の相続税法では「外国税額控除」という制度が設けられています。

外国税額控除は、アメリカで支払った遺産税を日本の相続税から差し引く制度です。

具体的には、以下の2つのうち少ない金額が控除されます。

①アメリカで課税された額
②日本の相続税額×(アメリカにある財産価額÷相続人の相続財産額)

この制度を活用することで、二重課税の問題をある程度回避することが可能です。

外国税額控除の詳しい解説は、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

アメリカでの相続に関わる税金手続き

アメリカでの相続に関わる税金の諸手続きについて解説します。
被相続人が日本居住であるケースがほとんどであるためそれを前提として下記ケースに分けて解説します。

1 被相続人が日本居住、相続人が米国居住で日本の財産を相続する場合
2 被相続人が日本居住、相続人も日本居住でアメリカの財産を相続

1 被相続人が日本居住、相続人が米国居住で日本の財産を相続する場合

(1)IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)への報告義務

年間10万ドルを超える非居住外国人からの相続による財産移転を受けた米国居住者はIRSへの報告義務が生じます。
具体的には、Form3520を翌年4月15日までにIRSに提出します。

例えば、日本人である被相続人から米国居住者である相続人が1億円の遺産を相続した場合にはこの報告が必要となるのです。
この報告をしない場合には、1万ドル以下のペナルティが科される可能性があるので注意が必要です。

(2)米国財務省への報告義務

米国居住者が国外金融資産の年度内最高残高が1万ドルを超える場合には米国財務省への報告義務が生じます。
具体的には、FinCEN Form114を毎年10月15日までに米国財務省に提出します。

例えば、日本人である被相続人から米国居住者である相続人が日本の預金口座1,000万円を相続した場合にこの報告が必要となるのです。
この報告をしない場合には、1万ドル以下のペナルティが科される可能性があるので注意が必要です。

2 被相続人が日本居住、相続人も日本居住でアメリカの財産を相続

被相続人も相続人も日本居住で被相続人が保有していたアメリカの財産を相続した場合にもアメリカに一定の申告が必要となります。
その申告のことをForm 706-NAといいます。

Form 706-NAとは

アメリカ非居住者が所有するアメリカの資産に対する遺産税申告には、「Form 706-NA」という申告書を使用します。

このフォームは、米国非居住の非市民(NRNC:Nonresident Not a Citizen)の遺産税を計算するためのものです。

申告が必要なケース

Form 706-NAの提出が必要なのは、被相続人の米国内の資産価値が60,000ドル(約840万円(1ドル140円の場合))を超える場合です。

ただし、日米租税条約による控除拡大を受ける場合、実質的に申告が不要になるケースも多くあります。

申告期限

Form 706-NAの提出期限は、被相続人の死亡から9ヶ月以内です。

期限内に申告が困難な場合は、Form 4768を提出することで、最大6ヶ月の延長が可能です。

必要書類

Form 706-NAの申告には、以下の書類が必要です。

・遺言書のコピーとその翻訳文
・日本における相続税申告書のコピー
・相続人全員の同意書
・被相続人の死亡証明書
・アメリカ所在の資産を証明する書類

アメリカでの相続手続きのポイント

アメリカでの相続手続きを円滑に進めるためのポイントをまとめます。

事前準備の重要性

アメリカでの相続手続きは複雑で時間がかかるため、事前準備が非常に重要です。

特に以下のポイントに注意しましょう。

・遺言書の作成(日米両国で有効な形式で)
・信託の活用によるプロベート回避の検討
・相続人への情報共有(資産情報、必要手続きなど)
・専門家(弁護士、税理士)へのコンサルティング

米国弁護士の起用

アメリカでの相続手続きには、現地の法律に詳しいアメリカの弁護士の起用が必要不可欠です。

弁護士を選ぶ際は、以下の点に注意しましょう。

・国際相続の経験が豊富か
・日本語対応が可能か(または通訳サービスはあるか)
・費用体系は明確か(タイムチャージの場合、時間単価はいくらか)
・コミュニケーションはスムーズに取れるか

プロベート回避の方法

プロベート手続きは時間とコストがかかるため、以下のような方法でプロベートを回避することも検討に値します。

1. 共同所有

不動産などを生存者権付共有(joint tenancy with right of survivorship)の形で所有することで、一方の死亡時に自動的に生存者に所有権が移転します。

2. 生前信託(リビングトラスト)の活用

信託に入れた資産はプロベートを経由せずに受益者に移転できます。

3. 受取人指定

銀行口座や投資口座に受取人(Payable on Death/Transfer on Death)を指定する方法も有効です。

アメリカの相続に関するよくある質問

アメリカと日本の両方で相続税の申告は必要ですか?

被相続人が日本国籍の場合、原則として日本の相続税の申告が必要です。アメリカの資産が60,000ドル(約840万円(1ドル140円の場合))を超える場合は、アメリカでも遺産税の申告が必要になる可能性があります。ただし、日米租税条約による控除拡大を受けられれば、実質的にアメリカでの申告が不要になるケースもあります。二重課税については、外国税額控除の制度を活用できます。

プロベート手続きを行わないとどうなりますか?

プロベート手続きを行わないと、アメリカにある資産の名義変更ができません。銀行口座や不動産などの資産を相続人が利用・処分することができなくなります。プロベート手続きは必ず現地の法律に従って行う必要があります。

アメリカの遺産税はいつまでに納付する必要がありますか?

アメリカの遺産税は、被相続人の死亡から9ヶ月以内に申告・納付する必要があります。しかし、アメリカでの相続手続き(プロベート)が9ヶ月では終わらないケースが多いため、相続税の原資を他で調達しないといけないケースも見受けられます。期限内の納付が難しい場合は、延納の申請も検討しましょう。

日米租税条約による控除拡大はどのように申請すればよいですか?

日米租税条約による控除拡大を受けるには、Form 706-NAの申告時に日米租税条約の適用を明示的に申請する必要があります。また、全世界の遺産総額を証明する書類(日本の相続税申告書のコピーなど)を添付することが重要です。専門家のサポートを受けながら手続きを進めることをお勧めします。

まとめ:アメリカの相続手続きと相続税制

アメリカの相続手続きと相続税制は日本とは大きく異なり、特に以下の点が重要です。

1. プロベート手続きの必要性
アメリカでは裁判所の監督下で行われるプロベート手続きが必要で、1〜3年の期間がかかります。
2. 遺産税の仕組み
アメリカでは相続人ではなく遺産自体に課税され、2025年は1,399万ドル(約20.6億円)の基礎控除があります。
3. 日米租税条約の活用
日本人のアメリカ資産相続では、日米租税条約による控除拡大と外国税額控除を活用することで、税負担を軽減できます。
4. 専門家の起用
国際相続は複雑なため、日米両国の相続法・税法に詳しい専門家のサポートを受けることが重要です。

アメリカに資産をお持ちの方は、生前から相続対策を行い、万が一の際にスムーズに手続きが進むよう準備しておくことをお勧めします。

国際相続の詳細については、国際相続カテゴリの記事もぜひご参照ください。

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この記事の執筆者:大塚 英司

東京税理士会新宿支部所属
登録番号:117702

埼玉県所沢市出身、東日本税理士法人、EY 税理士法人を経て、税理士法人トゥモローズ代表社員就任。相続に関する案件は、最新情報を駆使しながらクライアント目線を貫き徹底的な最適化を実現します。

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