火災と相続税:鎮火時刻で課税が変わる

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相続税申告

火災と相続税:鎮火時刻で課税が変わる
10秒でわかる この記事の要約
□火災の鎮火と死亡のタイミングによって課税関係が大きく異なります。
□家屋が火災のより全焼した場合には家屋の評価はゼロとなります。
□火災保険は死亡前鎮火のときは相続税の対象になりますが、死亡後鎮火の場合には対象外です。
□家屋が火災により滅失しても一定の場合には小規模宅地の特例適用が可能になります。
□時系列の把握が相続税申告において極めて重要な論点です。

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火災により死亡した場合の相続税は「タイミング」が全て

火災によって自宅が焼失した場合の相続税の課税関係は、一つの要素で大きく変わります。
それは被相続人の死亡時点と火災の鎮火時点の前後関係です。

同じ火災でも、死亡前に鎮火したのか、死亡後に鎮火したのかで、相続財産の範囲と相続税額が劇的に異なります。

このため、鎮火日時と死亡日時は正確な時刻の記録が不可欠です。

具体的には、鎮火日時と死亡日時は下記の書類で確認します。

■鎮火日時:消防署が発行する火災調査書、回答書
■死亡日時:死体検案書、戸籍謄本

単に「火災の日に亡くなった」という曖昧な理解では、税務申告時に大きなトラブルが生じる可能性があるため正確な日時の把握が非常に重要です。

パターン1:死亡⇒鎮火のケース

家屋の相続税評価

被相続人が亡くなった後に火災が鎮火した場合、相続開始時点で家屋はまだ存在していた状況となります。

すなわち、延焼中の家屋ということです。

延焼中の家屋の評価について具体的に国税庁から通達や質疑応答事例は公表されていませんが、相続税法22条の時価の解釈から下記の取扱で良いと私見では考えています。

■死亡後に全焼した場合:家屋はゼロ評価
■死亡後に部分焼だった場合:焼失割合に応じて評価

部分焼の場合であっても建物の価値をゼロとする考え方もあります。ケース・バイ・ケースでの対応が必要となります。
なお、家屋の一部を評価する場合には、災害減免法の適用が可能となりますので、下記計算書にて被災額を計算し、相続税申告書に添付します。
国税庁HP 災害減免法第6条の規定による相続税・贈与税の財産の価額の計算明細書
相続税の災害減免措置についての詳しい解説は、国税庁HP 相続税又は贈与税の災害減免措置についてをご参照ください。

火災保険請求権

火災保険の請求権が確定するのは火災の鎮火後とされています。
なぜかというと、全焼か部分焼かにより保険金額が変動するため鎮火後でないと保険金額が確定しないためです。

さて、死亡後に火災が鎮火したケースで火災保険が相続税の対象となるのか否か確認しましょう。

死亡後に鎮火していることから被相続人に帰属する火災保険請求権はありません。死亡時には火災保険請求権が顕在化していないということです。
すなわち、死亡後に火災が鎮火したケースでは火災保険は相続税の対象とはならないのです。

この場合の火災保険請求権は相続人に帰属することとなります。
そして、この場合の火災保険は非課税所得(所得税法9条1項18号)に該当するため所得税はかかりません。

結果として、死亡後に鎮火した場合には、相続税も所得税もかかりません。

パターン2:鎮火⇒死亡のケース

家屋の課税評価

被相続人が生存しているうちに火災が鎮火した場合、被相続人が亡くなった時点で家屋はすでに焼失しています。

この場合、亡くなった時点での現況を反映した評価が必要です。

全焼している場合、家屋そのものが存在しないため、ゼロ評価となります。

部分焼の場合は、残存部分の評価をすべきですが、実務では「残存部分の経済的価値を判断し、必要に応じてゼロ評価を検討する」という柔軟な対応が求められます。

火災保険請求権

鎮火時点では被相続人は存命中のため火災保険請求権は被相続人に帰属します。

死亡時に火災保険金が入金されていれば預貯金の評価に含まれ、未入金であれば未収火災保険請求権として評価することとなります。

すなわち、鎮火⇒死亡のケースでは火災保険が相続税の対象となるのです。

なお、被相続人が取得した火災保険は非課税所得(所得税法9条1項18号)に該当するため所得税はかかりません。

近隣住民に対する損害賠償金

近隣住民に対する損害賠償金が債務控除の対象となるかの論点です。

死亡日において法的債務が確定しているか否かにより債務計上可能かどうかが決まります。

相続開始日に損害賠償義務が確定:債務控除可能
相続開始日に損害賠償義務が不確定:債務控除不可

なお、失火原因が被相続人であっても重過失の事実が認められない限り近隣住民に対する損害賠償責任を負う必要はないとされています。

残存家屋の取り壊し費用、撤去費用

火災後の残存家屋の取り壊し費用や残存物の撤去費用が債務控除の対象となるかどうかの論点です。

上記の近隣住民に対する損害賠償金と同様に相続開始日に取り壊し費用等の支払い義務が確定していれば債務控除は可能と考えられます。

小規模宅地等の特例との関係

火災で焼失した自宅敷地について、小規模宅地等の特例の適用を検討することもあります。

小規模宅地等の特例の詳しい解説は、小規模宅地等の特例をわかりやすく徹底解説!をご参照ください。

火災によって建物が焼失した場合、特例適用に当たり一つの課題が生じます。

それは申告期限までの居住継続要件です。

建物が存在しないためそこに居住するのは不可能です。
したがって、状況だけで判断すると小規模宅地等の特例の適用は難しいという結論になってしまいます。

ただ、火事という不幸な状況でなおかつ小規模宅地等の特例の適用ができないというのは流石に酷すぎます。

そのような状況を回避するため下記の通達が用意されています。

租税特別措置法通達69の4-17(災害のため事業が休止された場合)

措置法第69条の4第3項第1号イ又はロの要件の判定において、被相続人等の事業の用に供されていた施設が災害により損害を受けたため、同号イ又はロの申告期限において当該事業が休業中である場合には、同号に規定する親族(同号イの場合にあっては、その親族の相続人を含む。)により当該事業の再開のための準備が進められていると認められるときに限り、当該施設の敷地は、当該申告期限においても当該親族の当該事業の用に供されているものとして取り扱う。(平20課資2-1、課審6-1、平22課資2-14、課審6-17、徴管5-10改正)

(注) 措置法第69条の4第3項第2号イ及びハ、同項第3号並びに同項第4号イ及びロの要件の判定については、上記に準じて取り扱う。

上記は特定事業用宅地の通達ですが、最後の(注)書きで特定居住用宅地にも準用されています。

ポイントとしては、居住のための準備が進められていると認められるかどうかです。

「居住のための準備」とは、家屋を再建築する計画が具体的に進行していること、すなわち、建築会社と請負契約をしていることや建築のための資金調達の準備をしていることなどが該当します。

まとめ

火災と相続が同時に発生する場合、被相続人の死亡時刻と火災の鎮火時刻の前後関係が相続税課税関係の全てを決定します。

死亡後に鎮火した場合は、火災保険請求権は相続財産に含まれず、相続人が取得する非課税所得として扱われます。

一方、死亡前に鎮火した場合は、火災保険請求権が相続財産に計上され、支払われた保険金が相続税の課税対象となります。

加えて、焼失した自宅敷地の小規模宅地特例適用については、居住継続の準備が重要な要件です。

火災という緊急事態の中での相続手続きは、単に法律的な困難だけでなく、税務的な複雑さも伴います。

相続財産の評価、火災保険請求権の処理、災害減免法の適用、特例の要件確認など、複数の判断が錯綜するため、早期から専門家への相談が不可欠です。

正確な時系列の把握と適切な税務処理により、遺族の負担を最小限に抑えることが可能になります。

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この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は350件。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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