国際結婚の相続対策|配偶者の国籍別に注意点を解説
①国際結婚の相続では被相続人の国籍や財産所在地によって適用法が変わることがある
②外国人配偶者でも法律上の配偶者であれば日本の配偶者の税額軽減を使える
③子が二重国籍でも日本国籍を有していれば日本国籍ありとして納税義務を判定する
④国際結婚では公正証書遺言と海外財産の一覧化が特に重要である
⑤海外財産や海外相続人がいる場合は日本の申告期限より前に必要書類の準備を始めるべきである
国際結婚をしている夫婦の相続では、通常の国内相続にはない複雑な問題が生じます。
どの国の法律で相続を進めるのか、外国人配偶者に日本の税額軽減が使えるのか、子の国籍が将来の相続税にどう影響するのか、海外財産をどう把握するのかといった論点が同時に出てきます。
結論からいうと、国際結婚の相続では、準拠法、相続税、国籍、海外財産管理を生前からセットで整理しておくことが不可欠です。
相続が起きてから考えると、遺産分割協議、翻訳、公証、海外送金、海外不動産の名義変更などが一気に重なり、10か月の申告期限に間に合わなくなるおそれがあります。
この記事では、国際結婚で特に問題になりやすい準拠法、外国人配偶者への税額軽減、子の国籍、遺言、海外財産整理、夫婦間贈与、共有財産制度、離婚と相続権までを実務目線で整理して解説します。
国際相続全体の生前対策を広く整理した記事として、国際相続の生前対策|相続人の負担を軽くする7つの方法もあわせてご覧ください。
目次
- 1 準拠法の問題|国際結婚ではどの国の法律で相続するかが最初の論点になる
- 2 外国人配偶者が被相続人になると、日本法と違う相続分になることがある
- 3 外国人配偶者でも日本の配偶者の税額軽減は使える
- 4 子の国籍問題は将来の相続税に直結する
- 5 遺言書の作成|国際結婚では公正証書遺言の重要性が一段高い
- 6 海外財産の生前整理をしていないと、相続発生後に詰む
- 7 国際結婚の相続で特に問題になる5つの場面
- 8 国際結婚の生前対策チェックリスト
- 9 夫婦間贈与は国際結婚の方が論点が多い
- 10 共有財産制度のある国では「半分はそもそも遺産ではない」可能性がある
- 11 離婚と相続権の関係も国際結婚では単純ではない
- 12 相続開始後は翻訳・公証・認証で時間を失いやすい
- 13 海外財産の把握と相続税申告は並行して進める必要がある
- 14 国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
- 15 よくある質問(FAQ)
- 16 まとめ
- 17 関連記事
準拠法の問題|国際結婚ではどの国の法律で相続するかが最初の論点になる
国際結婚の相続でまず確認すべきなのは、どの国の法律で相続を進めるかという問題です。
日本の国際私法では、相続は原則として被相続人の本国法によって決まります。
そのため、日本人が亡くなれば日本法、外国籍の配偶者が亡くなればその人の本国法が問題になります。
ここで重要なのは、夫婦のどちらが先に亡くなるかで、相続人の範囲や法定相続分が変わる可能性があるという点です。
たとえば、日本人の夫が先に亡くなれば日本法で処理しやすくても、外国籍の妻が先に亡くなった場合には、その国の法律が準拠法となり、日本法とは異なる相続分や相続人の順位になることがあります。
準拠法の基本は、国際相続があった場合の準拠法で詳しく解説しています。
外国人配偶者が被相続人になると、日本法と違う相続分になることがある
外国籍の配偶者が被相続人になる場合、日本人の感覚で「配偶者が2分の1、子が2分の1」と考えてしまうのは危険です。
国によっては、配偶者の取り分が日本より少ないことがあります。
逆に、親や兄弟姉妹が相続人に入る範囲が日本より広い国もあります。
さらに、アメリカやイギリスの一部の地域のように、不動産と動産で適用法の考え方が分かれる制度もあります。
そのため、国際結婚では、夫婦双方について「死亡したときにどの国の法律が適用されるか」を生前に整理しておくことが重要です。
国際結婚では、夫婦双方が遺言書を作成しておくことを強く推奨します。準拠法の違いがある案件ほど、遺言がない状態での遺産分割は難航しやすくなります。
外国人配偶者でも日本の配偶者の税額軽減は使える
国際結婚でよくある誤解が、「外国人配偶者には日本の配偶者の税額軽減は使えないのではないか」というものです。
これは誤りです。
法律上の婚姻関係がある配偶者であれば、国籍を問わず、日本の配偶者の税額軽減を使えます。
つまり、外国人配偶者であっても、1億6,000万円または法定相続分相当額までについては、日本の相続税がかからない仕組みを利用できます。
ただし、事実婚や内縁関係では使えません。法律上の婚姻が成立していることが前提です。
この点は、外国人配偶者の相続|1.6億円まで非課税にする方法で詳しく整理しています。
子の国籍問題は将来の相続税に直結する
国際結婚で生まれた子は、出生地や親の国籍によっては二重国籍になることがあります。
ここで重要なのは、日本の国籍法では、二重国籍者が18歳未満で重国籍になった場合は20歳までに、18歳以降に重国籍になった場合はその時から2年以内に国籍選択をすることになっている点です(2022年4月施行の改正国籍法)。
もっとも、相続税の納税義務判定では、単純に「まだ選択していないから外国籍だけ」とは扱われません。
二重国籍者のうち日本国籍を有している場合は、日本国籍ありとして扱われるため、将来の国際相続では課税範囲に直接影響します。
つまり、国際結婚の子が将来海外に住んでいても、日本国籍を持っていることで全世界財産課税の判定に入る可能性があります。
国籍と納税義務の関係は、国際相続 国籍についてわかりやすく徹底解説、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!もあわせて確認してください。
遺言書の作成|国際結婚では公正証書遺言の重要性が一段高い
国際結婚では、遺言がない場合の負担が国内相続より格段に大きくなります。
海外に住む相続人との連絡、署名証明、翻訳、公証、現地法との整合確認などが必要になり、遺産分割協議が長期化しやすいからです。
そのため、国際結婚では公正証書遺言を強く推奨します。
国際結婚で公正証書遺言が重要な理由
① 遺産分割の方針を明確にできる
② 海外にいる相続人との協議負担を減らせる
③ 海外資産がある場合の整理方針を先に決められる
④ 相続開始後の翻訳・認証・説明コストを下げやすい
海外に財産がある場合は、日本の遺言書だけでなく、現地で有効性が認められやすい英文遺言書などを別途整備した方がよいこともあります。
英文遺言書については、国際相続で有効な英文遺言書の作成方法と注意点をご参照ください。
海外財産の生前整理をしていないと、相続発生後に詰む
国際結婚では、配偶者の母国に財産があるケースが多く、相続発生後にその全容を把握するのは非常に困難です。
日本国内の相続ですら財産調査は大変ですが、海外財産が絡むと、どこの銀行に口座があるのか、どの不動産を持っているのか、誰に連絡すればよいのかが分からないまま時間だけが過ぎることがあります。
そのため、生前に次の情報を整理しておくことを強く推奨します。
生前に整理しておきたい情報
・銀行口座情報(金融機関名、支店、口座番号)
・不動産情報(所在地、権利証の保管場所)
・保険契約情報(保険会社、証券番号)
・年金情報(加入制度、受給権の有無)
・現地の弁護士、税理士、会計士の連絡先
・オンライン口座や資産管理情報
外貨建て財産の評価や海外不動産の評価は、日本の相続税申告で別途問題になります。
この点は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点も確認してください。
国際結婚の相続で特に問題になる5つの場面
国際結婚の相続対策は、通常の相続とは異なる場面で問題が起きやすいです。
特に次の5つは、生前から想定しておくべき典型場面です。
場面①:外国人配偶者が先に亡くなったケース
日本人夫と外国人妻の夫婦で、外国人妻が先に亡くなった場合、その妻の本国法が準拠法の出発点になります。
たとえば、アメリカ国籍の妻であれば、州法や財産の所在地によって適用法が変わる可能性があります。
不動産と動産で考え方が異なる制度を採る国もあるため、財産の種類ごとに適用法が分かれることがあります。
場面②:海外の財産が見つからないケース
外国人配偶者が母国に財産を持っていたが、遺された日本人配偶者がその全容を把握していないケースは非常に多いです。
生前に財産目録を作成し、夫婦で共有しておくことが最も効果的な対策です。
何がどこにあるかが分からなければ、名義変更も解約も相続税申告も進みません。
場面③:子の国籍選択が未了のケース
国際結婚で生まれた子が二重国籍のまま成人し、国籍選択をしていないケースがあります。
相続税の観点では、日本国籍を有している限り、日本国籍ありとして納税義務が判定されるため、「まだ選択していないから有利になる」とは考えない方が安全です。
場面④:検認裁判が必要な国に財産があるケース
アメリカやイギリスなど、検認裁判が問題になる国に財産がある場合、相続手続に半年から1年以上かかることがあります。
日本の相続税申告期限は原則10か月なので、海外手続が終わるのを待っていると日本の申告期限に間に合わなくなるおそれがあります。
このような国の財産については、共有名義、生前信託、受取人指定などで手続を簡素化できる場合があります。
共有不動産権については、ジョイントテナンシー(合有不動産権)と相続税・贈与税の注意点をご参照ください。
場面⑤:配偶者の在留資格が問題になるケース
外国人配偶者が在留資格に基づいて日本に滞在している場合、日本人配偶者の死亡により在留資格の問題が発生することがあります。
相続と在留資格は別問題ですが、現実には同時並行で進むため、相続税申告と在留資格対応を切り分けて管理する必要があります。
外国籍の相続人の実務全般は、外国籍の相続人がいる場合の相続手続き完全ガイドもご参照ください。
国際結婚の生前対策チェックリスト
国際結婚の夫婦には、少なくとも次の対策を推奨します。
遺産分割の方針を明確にし、海外相続人との協議負担を減らす
□ 英文遺言書の作成(海外に財産がある場合)
現地法上の有効性を意識した遺言書も検討する
□ 財産目録の作成と共有
国内外の財産、保管場所、連絡先を一覧化する
□ 受取人指定の確認
保険、年金、証券口座などの受取人指定を見直す
□ 子の国籍選択の検討
相続税への影響も踏まえて整理する
□ 納税資金の確保計画
海外財産の換金が遅れる前提で日本国内の資金手当てを考える
夫婦間贈与は国際結婚の方が論点が多い
国際結婚の夫婦間贈与は、国内婚姻より複雑な論点が生じます。
日本の贈与税における配偶者控除
婚姻期間が20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与は、2,000万円まで贈与税が非課税となる制度があります。
この特例は、配偶者の国籍を問わず適用可能ですが、法律上の婚姻関係があることが前提です。
日本に婚姻届が出ていないケースや、外国法上は有効でも日本側資料が整っていないケースでは、先に婚姻関係の証明を整理すべきです。
アメリカの非市民配偶者への贈与は別ルールがある
アメリカでは、配偶者がアメリカ市民でない場合、配偶者間贈与に関する非課税枠が制限されます。
2025年は、アメリカ市民でない配偶者に対する年間非課税枠は19万ドルです。
これを超える贈与は、アメリカ側で贈与税の論点が生じます。
したがって、日米の夫婦では、日本だけで贈与税を考えると不十分です。配偶者の国籍や居住国によっては、相手国側の贈与税も同時に検討しなければなりません。
共有財産制度のある国では「半分はそもそも遺産ではない」可能性がある
アメリカの一部の州やヨーロッパの一部の国では、婚姻中に取得した財産を夫婦の共有財産として扱う制度があります。
この制度が適用される場合、被相続人の死亡時に遺産に含まれるのは共有財産の2分の1だけ、という整理が問題になることがあります。
日本の民法は夫婦別産制ですが、国際結婚では常に日本法だけで考えるわけにはいきません。
被相続人の住所地法や不動産所在地法によって、そもそも遺産に入る範囲が変わる可能性があります。
国際結婚で海外に不動産や金融資産がある場合は、遺産分割の前に「その財産が本当に被相続人単独の財産か」を確認する必要があります。
【夫婦財産制】コミュニティプロパティと別産制の相続税、贈与税
離婚と相続権の関係も国際結婚では単純ではない
国際結婚の離婚は、どの国の法律で離婚が成立するかという問題が先にあります。
そのため、離婚後の相続権についても、日本法だけで単純に考えない方が安全です。
日本法が適用される場合、離婚が成立すれば元配偶者は相続権を失います。
ただし、外国法が準拠法となる場合には、離婚後も一定の扶養請求権や類似の権利が残る国があります。
また、離婚協議中に相続が発生した場合は、法律上の婚姻が続いている以上、相続権が問題になります。
別居中であっても、配偶者として法定相続分や税額軽減の適用が論点になるため、感覚論で排除できません。
相続開始後は翻訳・公証・認証で時間を失いやすい
国際結婚の相続では、日本語以外の資料、海外で作成された婚姻証明や出生証明、相続人の署名証明などが必要になりやすいです。
この段階で「どの書類に翻訳が必要か」「どこまで公証や認証が必要か」が分からず、数か月失うことがあります。
翻訳・公証・認証の流れは、相続で必要な翻訳・公証・認証手続きを完全解説をご参照ください。
海外財産の把握と相続税申告は並行して進める必要がある
海外の金融口座、不動産、保険、年金は、日本の相続税申告でも漏れなく把握する必要があります。
海外財産の評価は、日本の財産のように固定資産税評価額や路線価で済むわけではありません。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、被相続人の死亡日の対顧客直物電信買相場で日本円に換算します。
債務は対顧客直物電信売相場で換算します。
海外不動産の評価
海外不動産は、現地の不動産鑑定評価や売買実例などをもとに時価を算定します。
日本の路線価方式や倍率方式は使えません。
詳しくは海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
海外口座情報の把握
海外の金融口座情報は、国際的な情報交換制度により把握される仕組みがあります。
「海外だから分からない」は通用しにくくなっています。
この点は、CRS(共通報告基準)と相続も確認してください。
国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
日本の相続税申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月です。
しかし、国際結婚の相続では、海外手続、翻訳、公証、認証、海外不動産評価などに時間がかかるため、実際にはかなり前倒しで動かなければ間に合いません。
| 期限 | 主な手続き |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の選択 |
| 4か月以内 | 被相続人の準確定申告 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 |
国際結婚の相続では、海外手続が終わってから日本の申告準備を始めるのでは遅いことが多いです。
国際相続の全体スケジュールは、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説もご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 外国人配偶者と事実婚の場合、配偶者の税額軽減は使えるか?
A. 使えません。配偶者の税額軽減は法律上の婚姻関係がある配偶者に限られます。事実婚の場合は、遺言による承継を別途考える必要があります。
Q. 国際結婚で子が二重国籍のまま相続が発生したらどうなるか?
A. 日本国籍を有していれば、日本国籍ありとして納税義務が判定されます。二重国籍のままでも、日本国籍があることの影響を無視することはできません。
Q. 外国人配偶者でも1億6,000万円の非課税枠を使えるか?
A. 法律上の婚姻関係がある配偶者であれば、国籍を問わず使えます。
Q. 国際結婚では遺言書は必須か?
A. 法律上必須ではありませんが、実務上はほぼ必須と考えた方が安全です。遺言がないと海外相続人との協議や海外財産の処理が極めて困難になります。
まとめ
まとめ
国際結婚の相続対策は、準拠法、国籍、遺言、海外財産整理を一体で考える必要がある。
外国人配偶者でも法律上の配偶者であれば日本の配偶者の税額軽減を使える。
子が二重国籍の場合は、日本国籍があることが将来の納税義務判定に影響する。
海外財産や海外相続人がいる案件では、翻訳、公証、認証、評価に時間がかかる。
夫婦双方が元気なうちに公正証書遺言を作成し、財産目録を共有しておくことが最も重要な生前対策である。
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