インドの相続手続き|承継証明書と日本の税務
①インドには現在相続税がなく日本居住者の相続では日本の相続税が中心になる
②インドの相続は宗教ごとに適用法が分かれるため被相続人の宗教確認が重要になる
③遺言がない場合は承継証明書などの裁判所手続が問題になりやすい
④インドの銀行口座や不動産は名義変更や海外送金に時間がかかることが多い
⑤インド財産がある相続では日本の申告期限から逆算した早期着手が不可欠である
インドは日本との経済的な結びつきが強く、在日インド人の増加に伴って相続案件も少しずつ増えています。
もっとも、インドの相続は日本の感覚で考えると誤りやすい分野です。
相続税がないことだけを見て安心すると、相続法の違い、宗教ごとのルール、裁判所手続、送金規制、不動産名義変更などで大きくつまずくことがあります。
結論からいうと、インド相続では税金よりも、準拠法の判定、必要書類の整備、現地での手続設計の方が実務上のハードルになりやすいです。
そのうえで、日本居住者が相続人になる場合は、日本の相続税申告を並行して進める必要があります。
この記事では、インド特有の相続制度、日本の相続税との関係、銀行口座や不動産の相続実務、送金規制、必要書類の整え方までを実務目線で整理して解説します。
国際相続全体の進め方は、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説、準拠法の基本は国際相続があった場合の準拠法もあわせてご覧ください。
目次
- 1 インドには現在相続税がない
- 2 インドの相続法は宗教ごとに分かれている
- 3 ヒンドゥー承継法では配偶者と子が重要な相続人になる
- 4 日本居住のインド人が亡くなった場合も、まず本国法を確認する
- 5 遺言がある場合はプロベートが問題になる
- 6 遺言がない場合は承継証明書が問題になりやすい
- 7 インドには日本の戸籍のような制度がない
- 8 インドはアポスティーユに対応している
- 9 インドの銀行口座には指名受取人制度がある
- 10 インドから日本への送金には規制がある
- 11 インド不動産は相続税がなくても手続が簡単とは限らない
- 12 農地は取得制限に注意が必要
- 13 ヒンドゥー未分割家族の財産は通常の相続と別に考える必要がある
- 14 インドでは相続税がなくても日本では相続税がかかる
- 15 外貨建て財産と海外不動産は日本側で再評価する必要がある
- 16 インドには相続税条約がないため、日本側では条約より国内法対応が中心になる
- 17 海外財産は把握される前提で考えるべき
- 18 よくある質問(FAQ)
- 19 まとめ
- 20 関連記事
インドには現在相続税がない
インドでは、かつて遺産税がありましたが、現在は廃止されています。
そのため、インド国内で日本の相続税のような相続税が課される前提ではありません。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、相続税がないことと、相続手続が簡単であることは別問題だという点です。
不動産や銀行口座を引き継ぐには、相続人の確定、裁判所手続、公証書類、送金規制など、税金以外の論点が多くあります。
また、相続で取得した財産をその後に売却すれば、インド側で譲渡益課税が問題になることがあります。
インドの相続法は宗教ごとに分かれている
インド相続で最も特徴的なのは、相続法が一つではないことです。
被相続人の宗教に応じて、適用される相続法が変わります。
宗教ごとの主な適用法
ヒンドゥー教徒・仏教徒・ジャイナ教徒・シク教徒:ヒンドゥー承継法
イスラム教徒:イスラム系の属人法
キリスト教徒・パールシー教徒・その他:インド継承法
インド人の相続では、国籍確認だけでなく宗教確認が必要になるのが、日本の相続と大きく違う点です。
日本の相続では戸籍から相続人を追う感覚が強いですが、インドでは「どの相続法が適用されるか」が先に問題になります。
そのため、在日インド人の相続では、被相続人の宗教を確認しないまま法定相続人を決めると誤るおそれがあります。
ヒンドゥー承継法では配偶者と子が重要な相続人になる
ヒンドゥー承継法では、配偶者、息子、娘などが上位の法定相続人として扱われます。
2005年改正以後、娘の地位は息子と平等に整理され、女性の相続権が強化されました。
そのため、インド相続では「長男が中心」などの古いイメージで考えるのは危険です。
現在の実務では、娘も重要な共同相続人になります。
日本居住のインド人が亡くなった場合も、まず本国法を確認する
日本の国際私法では、相続は原則として被相続人の本国法によります。
したがって、日本に住んでいたインド国籍の方が亡くなった場合でも、まずインド法を出発点に準拠法を考えます。
ただし、財産の種類や所在地、さらにインド法側の考え方によって、日本法が関係する場面もあります。
この点は、単純に「外国人だから全部外国法」とは整理できません。
準拠法の考え方は、国際相続があった場合の準拠法で詳しく整理しています。
遺言がある場合はプロベートが問題になる
インドでは、遺言がある場合でも、そのまま直ちに自由に名義変更できるとは限りません。
地域によっては、裁判所でのプロベートが問題になります。
特に、ムンバイ、コルカタ、チェンナイの旧高等裁判所管轄区域では、遺言のプロベートが重要になります。
それ以外の地域でも、銀行や登記実務の側で、実質的にプロベートやそれに準じる書類を求められることがあります。
つまり、遺言があるから手続がすぐ終わる、とは限りません。
インドに財産がある場合は、遺言の有無だけでなく、どの地域に財産があるかまで確認する必要があります。
遺言がない場合は承継証明書が問題になりやすい
遺言がない場合、銀行口座や有価証券などの動産の承継では、承継証明書が必要になることがあります。
この証明書は裁判所で取得するため、すぐには終わりません。
案件によっては、半年から1年以上かかることもあります。
そのため、インド財産がある相続では、日本の相続税申告期限10か月より前に、現地側の必要書類を動かし始める意識が重要です。
インドには日本の戸籍のような制度がない
在日インド人の相続で日本側実務が難しくなる大きな理由の一つが、インドには日本の戸籍のように、家族関係を一つの制度で一元管理する仕組みがないことです。
そのため、相続関係の証明には、複数の書類を組み合わせていく必要があります。
実務で問題になりやすい主な書類
① 出生証明書
② 婚姻証明書
③ 死亡証明書
④ 国民番号カードなどの本人確認書類
⑤ 家族関係に関する宣誓供述書
日本での相続手続に使う場合は、翻訳、公証、認証、アポスティーユの整理が必要になります。
この点は、相続で必要な翻訳・公証・認証手続きを完全解説も確認してください。
インドはアポスティーユに対応している
インドは、外国公文書の認証を簡素化するアポスティーユ制度に対応しています。
そのため、日本の公文書をインドで使う場合、またインドの公文書を日本で使う場合には、従来の領事認証ではなく、アポスティーユで足りる場面があります。
もっとも、すべての書類が一律に同じ流れになるわけではありません。
私文書や銀行実務上の独自書類などは、別途の確認が必要になることがあります。
アポスティーユや公証の実務は、相続で必要な翻訳・公証・認証手続きを完全解説に内部リンクを付けて詳しく整理しておくのが有効です。
インドの銀行口座には指名受取人制度がある
インドの銀行口座では、指名受取人を設定していることがあります。
この制度があると、金融機関実務上は口座残高の受取りがスムーズになることがあります。
ただし、ここで重要なのは、指名受取人がそのまま最終的な相続権者になるとは限らないことです。
実務上は、銀行から資金を受け取る窓口として機能しても、最終的には本来の相続人へ分配すべき立場にとどまると整理されることがあります。
そのため、日本の相続税申告では、単に銀行から受け取った人だけでなく、準拠法に基づく真の相続人を見て判断する必要があります。
インドから日本への送金には規制がある
インドから日本へ相続財産を送金する場合、外国為替管理のルールが問題になります。
特に、非居住インド人向け口座の種類によって送金の自由度が異なります。
一般に、非居住外貨口座や外貨建て口座は比較的送金しやすい一方、通常の口座や国内収入管理用口座では送金上限や追加書類が問題になります。
非居住インド人向け口座の典型例
外貨をルピーで保有する口座
インド国内収入の管理用口座
外貨建てのまま保有する口座
口座種類によって送金制限が異なるため、相続発生後に「全部まとめて日本へ送れる」とは考えない方が安全です。
インド不動産は相続税がなくても手続が簡単とは限らない
インドでは相続税がないため、「税金がないなら不動産相続も簡単」と思われがちです。
しかし実務では逆で、権利関係の確認や名義変更が難しいことがあります。
インドの不動産登記制度は州によって運用差があり、権原の確認が非常に重要です。
日本のように全国一律の実務で考えると危険です。
相続した不動産に権原上の問題がないか、現地弁護士に確認してもらうことが実務上極めて重要です。
日本の相続税申告では、その不動産を日本円換算のうえ時価評価します。
この点は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
農地は取得制限に注意が必要
インドの農地は、外国人が自由に取得できる財産ではありません。
一般の外国人にとっては取得が制限されるのが基本で、非居住インド人や海外市民権保有者でも扱いに注意が必要です。
そのため、インドの財産に農地が含まれている場合は、通常の住宅や商業用不動産と同じ感覚で処理しない方が安全です。
ヒンドゥー未分割家族の財産は通常の相続と別に考える必要がある
インド特有の論点として、ヒンドゥー未分割家族の財産があります。
これは通常の個人名義財産とは異なり、家族全体の共有財産的な性質を持つことがあります。
管理者が死亡しても、そのまま家族単位で存続し、次の管理者が管理を引き継ぐことがあります。
日本の相続税法にはこれに対応する明確な規定がないため、どこまでを被相続人個人の相続財産とみるかは、事実関係の整理が不可欠です。
この論点は、日本の家族信託とも似て非なるものであり、安易に日本の制度へ置き換えて理解しない方が安全です。
インドでは相続税がなくても日本では相続税がかかる
ここも非常に重要です。
インドに相続税がないからといって、日本居住者がインド財産を相続したときに、日本でも非課税になるわけではありません。
日本の相続税の納税義務がある人であれば、インドの不動産や預金も日本の相続税の課税対象になります。
つまり、インドでは相続税がなくても、日本側では通常どおり相続税申告が必要になり得るということです。
外貨建て財産と海外不動産は日本側で再評価する必要がある
インド財産を日本で申告する場合は、日本円換算のうえ、日本の相続税ルールに沿って時価評価します。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、被相続人の死亡日の対顧客直物電信買相場で円換算するのが基本です。
債務は対顧客直物電信売相場で換算します。
海外不動産の評価
インド不動産は、日本の路線価方式や倍率方式では評価できません。
現地の鑑定評価や売買実例などを踏まえて時価を算定する必要があります。
詳しくは、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
インドには相続税条約がないため、日本側では条約より国内法対応が中心になる
日本とインドの間には、所得税に関する租税条約はありますが、相続税に関する条約はありません。
もっとも、インドには現在相続税がないため、現時点で典型的な二重課税は起きにくいです。
ただし、将来制度が変わる可能性は否定できないため、長期で財産を持つ場合は制度改正動向も確認すべきです。
海外財産は把握される前提で考えるべき
海外の金融口座情報は、国際的な情報交換制度により、日本の税務当局に共有される仕組みがあります。
そのため、インド財産の申告漏れは、以前より発見されやすくなっています。
「海外だから分からない」は通用しにくい前提で考えるべきです。
詳しくは、CRS(共通報告基準)と相続をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. インドには相続税がないなら、日本でも税金はかからないのか?
A. かかることがあります。日本居住者に日本の相続税の納税義務があれば、インド財産も日本の相続税の対象になります。
Q. インド相続では最初に何を確認すべきか?
A. 被相続人の宗教です。宗教によって適用される相続法が変わるため、ここを確認しないと相続人の範囲や必要書類の整理を誤るおそれがあります。
Q. インドの銀行口座の指名受取人がいれば相続手続は終わるのか?
A. 終わりません。指名受取人は銀行実務上の受取窓口として機能しても、最終的な相続人への分配問題は別に残ります。
Q. インド不動産は日本の相続税でどう評価するのか?
A. 日本の路線価は使えません。現地鑑定や売買実例をもとに時価を算定し、日本円換算して申告します。
まとめ
まとめ
インド相続では、相続税の有無よりも、宗教ごとの相続法と現地手続の違いが重要になる。
遺言がない場合は承継証明書が問題になり、銀行口座や不動産の名義変更にも時間がかかる。
インド財産は日本居住者にとって日本の相続税の対象になり得るため、日本側申告も並行して進める必要がある。
銀行口座の指名受取人制度やヒンドゥー未分割家族の財産は、日本の感覚で単純に理解しない方が安全である。
準拠法、書類、送金、評価を早めに整理することが最も重要な実務対策である。
税理士法人トゥモローズでは、国際相続に強い税理士が、インド財産を含む相続税申告、準拠法の整理、海外不動産評価、必要書類の確認まで一貫してサポートしています。
「インド財産があるが日本の相続税でどう扱うか分からない」
「承継証明書やインド送金の手続をどう進めればよいか知りたい」
「宗教ごとの相続法の違いを踏まえて整理したい」
という場合は、お気軽にご相談ください。
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