【相続税申告】債務控除をわかりやすく徹底解説

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相続税申告

相続税は不動産、現預金、有価証券などプラスの財産に対して課税されますが、借入金、未払金などの負債が亡くなった時点で存在する場合には、その負債をプラスの財産から控除することができます。これを「債務控除」といいます。今回はこの債務控除について具体例を交えながら解説します。

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債務控除とは?

債務控除とは、亡くなった人が亡くなったときに残していた借入金、未払金、預り金等の負債を相続財産からマイナスできるという納税者有利の制度となります。
債務控除は、相続税法第13条と14条に規定されています。
念のため条文を転載しますが、読み飛ばしていただいて問題ありません。

相続税法第13条

相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
2 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第一項第三号又は第四号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 その財産に係る公租公課
二 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
三 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務
四 その財産に関する贈与の義務
五 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
3 前条第一項第二号又は第三号に掲げる財産の取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、前二項の規定による控除金額に算入しない。ただし、同条第二項の規定により同号に掲げる財産の価額を課税価格に算入した場合においては、この限りでない。
4 特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が当該特別寄与者に係る課税価格に算入される場合においては、当該特別寄与料を支払うべき相続人が相続又は遺贈により取得した財産については、当該相続人に係る課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から当該特別寄与料の額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。

相続税法第14条

前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。
2 前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税、相続税、贈与税、地価税、再評価税、登録免許税、自動車重量税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油石炭税及び印紙税その他の公租公課の額で政令で定めるものを含むものとする。
3 前項の債務の確定している公租公課の金額には、被相続人が、所得税法第百三十七条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)(同条第二項の規定により適用する場合を含む。第三十二条第一項第九号イにおいて同じ。)の規定の適用を受けていた場合における同法第百三十七条の二第一項に規定する納税猶予分の所得税額並びに同法第百三十七条の三第一項及び第二項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)(これらの規定を同条第三項の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用を受けていた場合における同条第四項に規定する納税猶予分の所得税額を含まない。ただし、同法第百三十七条の二第十三項の規定により当該被相続人の納付の義務を承継した当該被相続人の相続人(包括受遺者を含む。以下この項及び同号において同じ。)が納付することとなつた同条第一項に規定する納税猶予分の所得税額及び当該納税猶予分の所得税額に係る利子税の額(当該納税猶予分の所得税額に係る所得税の同法第百二十八条(確定申告による納付)又は第百二十九条(死亡の場合の確定申告による納付)の規定による納付の期限の翌日から当該被相続人の死亡の日までの間に係るものに限る。)並びに同法第百三十七条の三第十五項の規定により当該被相続人の納付の義務を承継した当該被相続人の相続人が納付することとなつた同条第四項に規定する納税猶予分の所得税額及び当該納税猶予分の所得税額に係る利子税の額(当該納税猶予分の所得税額に係る所得税の同法第二編第五章第二節第三款(納付)の規定による納付の期限の翌日から当該被相続人の死亡の日までの間に係るものに限る。)については、この限りでない。

債務控除のポイントは、相続開始時において確実と認められるものかどうかという点です。
この曖昧な表現が実務上悩ませます。
本コラムでは実務で頻出する具体的な項目ごとに債務控除に該当するかどうかを一つ一つ確認していきたいと思います。

なお、広義の債務控除には葬式費用も含まれますが、葬式費用の詳しい解説は、葬式費用に該当するもの、しないものを項目ごとに徹底解説!をご参照ください。

これって控除できる? 債務控除一覧

1. 借入金

債務控除OK
被相続人の借入金で亡くなった時点で残債のあるものは債務控除の対象となります。

【これに注意!】

① 親族からの借入金

金融機関のような第三者からの借入金の場合には通常の経済活動における客観的な債務として問題なく控除の対象となりますが、親族などの特殊な関係のある者からの借入金については、税務署は下記のような確認を欠かしません。
・借入の経緯
・契約の内容や契約書の有無
・借入時の預金の動き
・返済の状況
上記状況に照らし適正に借入が存在していれば親族からの借入であっても当然のこととして債務控除の対象となります。

② 連帯債務

被相続人が連帯債務者であるときの債務控除については、被相続人の負担すべき金額が明らかとなっているときは、その明らかになっている金額が債務控除の対象となります。なお、被相続人以外の連帯債務者が弁済不能の状態にある場合で、その者に請求することができないようなときはその弁済不能部分のうち被相続人が負担すべき金額についても債務控除の対象となります。

③ 保証債務

被相続人が他者の債務の保証人となっているケースがあります。これを保証債務といいますが、この保証債務は債務控除の対象にはなりません。ただし、主たる債務者が弁済不能の状態にある場合で、その者に請求することができないようなときはその弁済不能部分については債務控除の対象となります。

④ 団体信用生命保険付きの住宅ローン

住宅ローンについても金融機関の借入金ですので当然のこととして債務控除の対象となります。ただし、団体信用生命保険(通称、団信)が付いているような住宅ローンについては、死亡と同時に保険金により住宅ローンの残債が補填されますので債務控除の対象とはなりません。ちなみに、団信は死亡保険金とは別の性質のものなのでみなし相続財産にも該当しません。

2. 未払い医療費

債務控除OK
被相続人の亡くなった後に支払った被相続人に係る医療費は債務控除の対象となります。

【これに注意!】

① 死亡診断書

最後の入院費等と一緒に死亡診断書の文書料を支払うケースもあります。この文書料も債務控除の対象となります。正確には「債務」というよりも「葬式費用」として債務控除の対象とします。

② 生計一親族の医療費

被相続人の生計一親族に係る医療費を被相続人死亡後に支払った場合には、その支払は被相続人に直接関係する支払ではないため債務控除の対象とはなりません。

③ 医療費控除との関係

被相続人の準確定申告や相続人の確定申告における医療費控除と債務控除の関係については下記の通りとなります。

相続税の債務控除

亡くなる前に支払った医療費については被相続人及び生計一親族に係るものは被相続人の準確定申告において医療費控除の対象になります。

亡くなった後に支払ったものについては被相続人の準確定申告において医療費控除の対象とはできませんので注意が必要です。ただし、亡くなった後に支払ったものであっても被相続人と相続人が生計一の場合には、被相続人に係る医療費をその生計一である相続人の確定申告にて医療費控除の対象とすることができます。

3. 固定資産税

債務控除OK
被相続人が亡くなった後に納付した固定資産税・都市計画税(以下、固定資産税等)については、債務控除の対象となります。

【これに注意!】

① 共有不動産の場合

共有不動産に係る固定資産税等については、その共有持分割合に応じて債務控除の対象とします。例えば、50万円の固定資産税等を死亡後に納付した場合において、被相続人の共有持分が1/2だったときは、25万円のみ債務控除の対象とします。

② 延滞金、督促手数料

被相続人に係る固定資産税等の納付を納付期限までに支払わなかった場合にはペナルティーである延滞金等が別途賦課されます。この延滞金や督促手数料は債務控除の対象となるのでしょうか?
相続人の責任で納付が遅れた場合の延滞金等は債務控除できません。これに対し被相続人の責任で納付が遅れた場合の延滞金等を死亡後に請求されたものについては債務控除の対象となります。

4. 準確定申告所得税・消費税

債務控除OK
被相続人の準確定申告に係る所得税や消費税も債務控除の対象となります。

【これに注意!】

① 相続税申告後に所得税や消費税額が変更となった場合

相続税の申告後に税務調査等により準確定申告に係る所得税や消費税の金額が変更された場合には相続税申告も修正申告や更正の請求をすることとなります。

5. 住民税

債務控除OK(亡くなる前年の住民税)
住民税はその年の12月末に日本に住所がある人に対してその翌年に賦課される税金です。すなわち、年の途中で亡くなった場合にはその翌年の住民税は賦課されないのです。所得税のような準確定申告という制度はありません。
以上のことから住民税が債務控除の対象となるケースとしては、亡くなる前年の所得に対する亡くなった年の住民税の納付が亡くなった時点で納付できていない場合に限られます。

6. 預り敷金

債務控除OK
賃貸不動産を所有している場合、入居の際に賃借人から敷金を預かるケースが多いと思います。この預かった敷金も立派な債務ですので、債務控除の対象となります。

【これに注意!】

① 不動産管理会社が存在する場合

エンドのテナントに直接貸し付けるのではなく不動産管理会社等を通して貸し付けることもあると思います。そのような場合において、テナントからの敷金を不動産管理会社等が預かっていたときは、被相続人の債務としては控除できません。

② 共有不動産の場合

共有の賃貸不動産に係る敷金の債務控除について悩むケースもあるかもしれませんが、固定資産税等とは異なり、実際に預かっている人が債務控除することとなります。例えば、被相続人と相続人が各1/2所有している賃貸アパートに係る敷金を全て被相続人の口座で預かっていた場合にはその全額を被相続人の債務として控除できると考えます。

7. 前受金

債務控除NG
一般的に、家賃は当月分を前月末日までに支払うという契約が多いと思います。所得税申告上はこのような前受家賃を前受金として負債として経理処理することも認められています。では、この前受家賃は債務控除の対象となるのでしょうか?
答えは、前受家賃は返還すべき義務があるようなものではないため債務控除の対象とはなりません。

8. 水光熱費

債務控除OK
被相続人が居住していた家屋に係る水道光熱費については、被相続人が亡くなる前の部分に係るものについては債務控除の対象となります。亡くなった後の水光熱費は相続人が負担すべきものですので債務控除の対象とはなりません。

9. 電話料金

債務控除OK
電話料金についても上記の水光熱費と同様に考えます。

10. 火災保険料

債務控除NG
被相続人が亡くなった後に被相続人が所有していた家屋の火災保険料を支払うことがありますが、火災保険料は通常前払いであるため債務控除の対象とはなりません。

11. 非課税財産の未払金

債務控除NG
被相続人が生前に墓地などの非課税財産を購入し、その代金の支払が未払いのまま亡くなってしまったときは、その未払金は相続税の非課税財産に係るものであるため債務控除の対象とはなりません。

12. 遺言執行費用

債務控除NG
遺言執行費用は、相続開始後に発生する費用なので債務控除の対象となるかもと考えられがちですが、債務控除はあくまで被相続人に係る費用に限定されます。遺言執行費用は被相続人に係る費用ではなく相続人が負担すべき費用ですので債務控除の対象とはなりません。

13. 原状回復費用

ケースにより異なる
被相続人が老人ホーム等に入居していた場合に死亡により退去することとなりますが、その退去の際に相続人が原状回復費用を負担するケースがあります。
この退去費用である原状回復費用が債務控除の対象となるか否かですが、入居契約等において、死亡時に原状回復費用を負担すべき条項が設けられているような場合には債務控除が可能と考えます。

14. 建築、リフォーム等の工事代金の未払金

ケースにより異なる
工事代金の未払金は、相続がいつ発生したかにより債務控除と認識できるかどうか変わってきます。
例えば、発注だけして工事未着手の場合には、債務控除できる金額はないです。
これに対し、工事の引き渡しが完了して代金だけ未払いの状態で相続が発生した場合には未払いの工事代金の全額が控除できます。
一番悩ましいのが工事期間の途中で相続が発生した場合です。
進捗度合、手付金等の支払い状況等に応じて前払金として財産計上するか、未払金として債務控除することになるでしょう。

15. 暦年贈与財産からの債務控除

債務控除NG
相続開始前7年以内(改正前は3年以内)に贈与された財産は相続財産に加算する必要がありますが、その加算された贈与財産から債務控除できるかどうかという論点です。
結論としては、債務控除はできません。

例えば、相続人Aが遺産分割により預金100万円を取得し、借入金200万円を承継したとします。
また、相続人Aには生前贈与加算が300万円あったとします。
この場合、Aの相続税の課税価格は下記のように計算します。

① 預金100万円△借入金200万円=△100万円⇒ゼロ(赤字のときはゼロ)
② 生前贈与加算300万円
③ ①+②=300万円

結果的に生前贈与財産から債務控除は控除できていないということになります。

生前贈与があった場合の相続税申告についての留意点は、生前贈与がある場合の相続税申告をご参照ください。

16. 相続時精算課税適用者の債務控除

ケースにより異なる
相続時精算課税の適用を受けた者が債務控除の適用を受けることができるかどうかは、下記の通り状況により異なります。

(1)相続又は遺贈により財産を取得した相続時精算課税適用者
①相続人又は包括受遺者
債務控除OK
※制限納税義務者の場合には一定の公租公課等の相続税法第13条第2項に掲げる債務のみ

②相続人以外の特定受遺者(特定遺贈を受けた被相続人の孫や相続放棄をして生命保険金を受け取った相続人など)
債務控除NG

(2)相続又は遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者
①相続人
債務控除OK
※相続開始の時において日本に住所がない者の場合には一定の公租公課等の相続税法第13条第2項に掲げる債務のみ

②相続人以外
債務控除NG

相続時精算課税制度についての詳しい解説は、相続時精算課税制度をわかりやすく徹底解説(令和5年改正論点更新)をご参照ください。

17. 家族信託に係る借入金(信託内借入金)

ケースにより異なる
信託財産である賃貸不動産に借入金が紐付いている場合には、その借入金も受益者が引き継ぐこととなります。
この引き継いだ借入金について債務控除が可能でしょうか?
答えとしては、家族信託の契約内容により下記の通り債務控除ができるかどうか異なります。

契約内容 債務控除
適用可否
受益者連続型信託 債務控除可能
一代限り信託 債務控除できない可能性あり

受益者連続型信託とは、自分の死亡時だけでなく自分の相続人等の死亡時の財産の引継ぎまで決めた信託契約をいいます。
一代限り信託とは、自分の死亡時の財産の引継ぎのみを決めた信託契約をいいます。

家族信託の債務控除についての詳しい解説は、【家族信託の税務】借入金は相続税の債務控除ができるのか?をご参照ください。

【相続税申告】債務控除をわかりやすく徹底解説の写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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