相続時精算課税制度をわかりやすく徹底解説
相続時精算課税制度とは、読んで字の如く、「過去の贈与を相続のときにすべて精算するよ」という贈与制度の一つです。
贈与制度はこの相続時精算課税と暦年贈与の二つの制度があります。
暦年贈与は、亡くなる前3年間の贈与のみを相続時に精算しますが、相続時精算課税制度は、過去の贈与のすべてが精算の対象のため10年以上前の贈与であっても相続時に相続財産に加算する必要があるのです。
将来の相続税申告で精算されてしまうため暦年贈与に比較すると相続税の節税効果は薄いです。
したがって、平成15年に制度創設以来、精算課税制度の適用件数も低調に推移しています。
暦年課税の適用件数が年間約40万件程度で推移していますので、精算課税制度はその10分の1程度となっています。
なお、精算課税制度が令和6年度より改正されます。
改正内容の詳しい解説は、生前贈与は7年が相続税の対象へ! 令和5年(2023年)税制改正速報をご参照ください。
目次
1. 相続時精算課税制度のわかりやすい解説!
(1)適用対象者
精算課税制度の適用を受けることのできる者は、下記の通りです。
受贈者:20歳以上の直系卑属である推定相続人又は孫
Q&A
A 贈与の年の1月1日時点で上記年齢以上である必要があります。
A 贈与者の相続人のうち最も先順位の相続権(代襲相続権を含む)のある人です。
A 適用できません。義父と養子縁組をした場合には直系卑属である推定相続人になりますので適用が可能となります。
A 贈与日現在で判断します。
A 養子でも適用可能です。
A 養子縁組解消しても引き続き精算課税の適用は可能です。
(2)非課税枠
精算課税の非課税枠は、2,500万円となります。
Q&A
A 1年単位ではなく一生涯で2,500万円が上限です。
A 2,500万円の非課税枠は期限内申告の場合にのみ適用が可能です。したがって、期限後申告の場合には贈与額に20%を乗じた贈与税を収める必要があります。
(3)適用対象財産
相続時精算課税制度の適用対象財産には制限はありません。
したがって、不動産、現預金、有価証券、非上場株式、金銭債権等どのような財産を贈与しても適用が可能です。
Q&A
A 相続税申告の場合の評価と同様に相続税評価を採用します。
A 小規模宅地等の特例は、贈与税申告では適用できません。
(4)税額計算
2,500万円を超えた金額に一律20%を乗じて計算します。
暦年贈与のような累進税率ではありません。
Q&A
A 精算課税贈与の申告をしたとしても住民税は別途かかりません。
A 不動産を贈与した場合には登録免許税や不動産取得税がかかるケースがあります。
(5)申告手続
相続時精算課税を選択しようとする受贈者は、精算課税による贈与を受けた最初の年の翌年の確定申告期限までに税務署に相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。
また、精算課税の適用ができる受贈者の要件を満たすかどうかを判定するために受贈者(子や孫)の戸籍の謄本又は抄本や贈与者(父母や祖父母)の戸籍の謄本又は抄本の添付が必要となります。
Q&A
A 暦年贈与と異なり、非課税枠以下であっても申告が必要です。
A 精算課税を選択してしまうと暦年贈与には一生戻れません。選択する際は慎重に判断しましょう。
A 精算課税は贈与者ごとに選択できますので祖母からの贈与は暦年贈与のままでも大丈夫です。もちろん、祖父からも祖母からも精算課税贈与とすることもできます。
A 受贈者(子、孫)の住所地を所轄する税務署です。
(6)相続税申告
精算課税贈与を受けた後にその贈与者が死亡した場合には、贈与者の相続財産に精算課税による贈与の全額を加算する必要があります。
計算の結果、相続税<贈与税だった場合には、過去に納めた贈与税の一部が還付されます。
Q&A
A 贈与時点の評価額を採用します。
その他の評価時点の詳しい解説は、遺産分割、相続税申告、特別受益、遺留分、生前贈与加算などの評価基準日(評価時点)を徹底解説はご参照ください。
A ご指摘の通り、暦年贈与の場合には相続又は遺贈により財産を一切取得していない場合には3年間の贈与を持ち戻す必要はありません。
詳しくは、相続開始前3年以内の贈与加算をわかりやすく徹底解説!をご参照ください。
これに対し、精算課税贈与は相続又は遺贈により財産を一切取得していなかったとしても過去に受けた精算課税贈与を相続財産に加算する必要があります。
A 精算課税制度により贈与を受けた財産については小規模宅地等の特例の適用はできません。
A 代襲相続人に該当しなければ2割加算の対象になります。
A 更正の請求の期限を徒過しているため還付の請求はできません。納税した相続税の更正の請求の期限は、ご指摘の通り、相続税の申告期限から5年ですが、精算課税の贈与税の還付を受けるための更正の請求期限は相続開始日から起算して5年までとなります。すなわち、本件の場合だと令和4年1月までに還付しないといけませんでした。
A 確かに贈与税の除斥期間が経過しているため精算課税贈与の期限後申告は今からしても受け付けてもらえません。ただし、10年前の500万円の贈与は相続財産に加算する必要があります。
なお、暦年贈与の場合には贈与が成立していれば10年前の贈与は贈与税申告をしていなかったとしても相続財産に加算する必要はありません。
A 精算課税贈与の申告の修正は確かに受け付けてもらえませんが、相続税申告では今回適切に計算した贈与時の評価額を採用します。したがって、除斥期間が経過した精算課税贈与の評価額が誤っていた場合には贈与税申告書に記載された評価額は訂正できませんが、相続税申告時に改めて適切な評価額にて計算し直す必要があります。
A 税務署に対して過去の申告書等を確認する手続きとしては、下記の二つがあります。
①申告書等閲覧サービス
②個人情報開示請求
または、他の相続人に相続税法49条の開示請求をしてもらう方法もあります。
詳しくは、生前贈与がある場合の相続税申告 ■贈与税の申告内容の開示をご参照ください。
A できません。
A できます。
精算課税贈与でも3年以内加算贈与でも相続財産の課税価格に算入された財産を譲渡した場合には取得費加算の特例の適用が可能です。
もちろん、贈与を受けた財産を相続税申告前に譲渡したとしても取得費加算の特例は適用できません。
取得費加算の特例についての詳しい解説は、相続税の取得費加算の特例をわかりやすく徹底解説をご参照ください。
A 平成20年当時は住宅取得資金贈与については特例的に精算課税の非課税枠を1,000万円上乗せできるという制度(旧措置法70の3の2(住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例))がありました。この制度は平成21年12月31日までで廃止されています。
したがって、今回の相続税申告で相続財産に加算すべき金額は2,500万円ではなく3,500万円となります。
当時の申告書を紛失した場合や1,000万円の上乗せか住宅取得資金の非課税かの判別が難しい場合には、前述の相続税法49条の開示請求をすれば確実に相続財産に加算すべき金額が判明するでしょう。
旧措置法70の3の2(住宅取得資金特別控除の特例)に似た制度として租税特別措置法第70条の3(特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例)というのがあります。
こちらは、現行制度であり廃止されていませんが、60歳未満の直系尊属であっても住宅取得資金なら精算課税の適用をしても良いよという制度になります。
住宅取得資金贈与の3つの制度を改めてまとめます。
措置法70条の2 (住宅取得等資金の非課税) |
措置法70条の3 (相続時精算課税選択の特例) |
旧措置法70の3の2 (住宅取得資金特別控除の特例) |
|
制度の内容 | 一定金額まで非課税で贈与できる | 60歳未満でも住宅取得資金を精算課税で贈与できる | 精算課税贈与に1,000万円上乗せできる |
精算課税 OR 暦年贈与 |
暦年贈与 | 精算課税 | 精算課税 |
相続財産への加算 | 不要 | 必要 | 必要 |
適用期間 (いつの贈与から(まで)適用できるのか) |
平成21年創設 現行制度 |
平成15年創設 現行制度 |
平成15年創設 平成21年末廃止 |
2. メリット・デメリット
相続時精算課税制度のメリットとデメリットを確認しましょう。
メリット | デメリット |
□一度に多額の贈与ができる □収益を生む財産を贈与した場合には贈与後の収益が受贈者に帰属するため相続税の節税になる □将来値上がりする財産を贈与した場合には相続税の節税になる □将来相続税が基礎控除以下の場合には早期に財産を移転できるし税負担が増加することもない |
□暦年贈与に戻れない □贈与した財産が値下がりした場合に相続税の負担が重くなる □受贈者が先に死亡した場合に税負担が重くなる □贈与財産は小規模宅地等の特例の適用ができない □相続に比べ流通税(不動産取得税、登録免許税)負担が重くなる |
3. 暦年贈与との比較
暦年贈与と精算課税贈与の比較をしましたので是非ご確認ください。
暦年贈与 | 精算課税贈与 | |
贈与者 | 制限なし | 60歳以上の父母又は祖父母 |
受贈者 | 制限なし | 20歳以上の直系卑属である 推定相続人又は孫 |
非課税枠 | 年間110万円 | 一生涯2,500万円 |
税率 | 10%~55%の累進税率 | 一律20% |
非課税枠以下の申告義務 | 申告不要 | 申告必要 |
届出義務 | 不要 | 相続時精算課税選択届出書 が必要 |
相続財産に加算する金額 | 3年間のみ | 過去の贈与すべて |
受贈者が先に死亡 | 特に論点なし | 受贈者の相続人が承継 |
贈与税額控除 | 還付なし | 還付あり |
相続開始年 の贈与 |
相続財産に加算 (相続又は遺贈により財産を取得していない人は贈与税申告) |
相続財産に加算 |
4. 相続時精算課税贈与を適用すべきケース
デメリットやリスクが多い相続時精算課税制度ですが適用したほうが良いケースを最後にまとめて終わりにしたいと思います。
逆に下記に該当しない人は精算課税贈与を適用しないほうが良いでしょう。
(1)将来の相続税が基礎控除以下で早期に財産を移転したい場合
将来の相続税が基礎控除となることが見込まれている場合で、かつ、早めに財産を子や孫世代に移転したい場合には、精算課税贈与が最適でしょう。
暦年贈与の場合には110万円までしか無税で一度に移転できませんが、精算課税贈与であれば2,500万円もの財産を無税で次世代に移転できます。
(2)将来確実に値上がりする財産を保有している場合
将来確実に値上がりするなんてことはわかりませんが、もしそのような財産がある場合には精算課税贈与を活用すれば相続税の節税に繋がります。
例えば、贈与時に3,000万円、相続時に5,000万円の財産を贈与せずに相続のときに移転した場合には当然5,000万円に相続税が課税されますが、精算課税贈与をしておけば3,000万円に相続税が課税されるため、ある意味評価額を固定化できるのです。
逆に値下がりする財産を精算課税贈与をするのはご法度です。
(3)収益を生む財産を保有している場合
家賃を生む賃貸不動産や配当がある有価証券を贈与した場合には贈与後の収益が受贈者に帰属するため相続税の節税に繋がります。
すなわち、贈与せずにそのまま親が保有していたら家賃や配当が親の預金を増やすことになりますが、子に移しておけば家賃や配当は子の預金の増加に寄与します。
相続税だけでなく所得税の節税になることもあるので収益を生む財産を保有している人は検討の余地があるでしょう。
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相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
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