遺産分割、相続税申告、特別受益、遺留分、生前贈与加算などの評価基準日(評価時点)を徹底解説

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相続税申告

相続法

みなさんこんにちは。
相続専門の税理士法人トゥモローズです。

遺産に不動産や上場株式などの時価が変動する財産があった場合、その時価はいつ時点のものを採用すればよいか迷うと思います。
相続には遺産分割、相続税申告、特別受益など様々な論点が存在し、その論点ごとに評価時点が異なります。
今回は相続における各論点の評価時点について徹底解説します。

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遺産分割の財産評価基準日

評価時点

遺産分割時

解説

相続手続きで一番重要と言ってもいいくらい重要な手続きが「遺産分割」です。
遺産分割とは遺産をどのように相続人に帰属させるかを決める手続きです。
この遺産分割においては、相続財産の評価額が非常に重要となります。
その評価額を算定する上での基準日(いつの時点の時価を採用するのか)も重要となります。
考えられる基準日は、「死亡時」か「遺産分割時」ですが、結論としては「遺産分割時」の時価を採用します。
具体例で考えてみましょう。

被相続人 母
相続人 長男、二男
相続財産 預貯金(死亡時1億円、遺産分割時1億円)、上場株式(死亡時1億円、遺産分割時2億円)

仮に現預金を長男、上場株式を二男が相続すると決めた場合、死亡時の時価であれば同じ価値ですが、遺産分割時の時価であれば二男が2倍も多い財産を取得することとなります。もしこの兄弟が均等に相続することを望んでいるのならば、上場株式のうち5,000万円は長男が相続するべきでしょう。
上記の事例からもどの時点で相続財産を評価するのかは非常に重要なのです。

民法では遺産分割時を評価基準日とすることとなっていますので相続財産合計3億円(預貯金1億円、上場株式2億円)を兄弟二人で分割することとなります。

上場株式等は日々時価が変動する財産となります。遺産分割協議日の時価を実際に採用するのは実務上不可能になります。
実務上は、特定の一定時点の株価(遺産分割日の前日の終値等)ではなく、遺産分割日近くの一定期間を定めて、その期間の終値の平均値を評価額として採用することが一般的です。

また、時価が変動する財産だけでなく預貯金についても死亡時の残高でなくて遺産分割時の残高で遺産分割をします。
仮に特定の相続人が死亡時から遺産分割時までの間に預金を勝手に引き出していたとします。
その場合でも原則として遺産分割時の残高で遺産分割をしなければならないのです。
引き出された預金は遺産分割とは別の行為である不当利得返還請求を引き出した相続人に対して行う必要があります。

なお、この点について相続法改正がありまして、引き出した相続人以外の相続人全員の合意があれば死亡時の預貯金残高で遺産分割が出来るようになったのです。わざわざ別の不当利得返還請求という行為をしなくて良くなりました。

相続税申告の財産評価基準日

評価時点

相続開始時(死亡時)

解説

上記の遺産分割とは異なり、相続税申告上の財産評価基準日は死亡時となります。
仮に上記の遺産分割の様に相続人が任意に評価基準日を決めることが出来ると実務現場は混乱しますし、課税の公平性も損なわれるため当然の決まりと言えます。

特別受益の生前贈与財産の評価基準日

評価時点

相続開始時(死亡時)

解説

特別受益とは特定の相続人が生前贈与や遺贈を受けていた場合に他の相続人との公平性を担保するためにその生前贈与等を相続財産に加算するという考え方です。
なお、遺贈は基本的には特別受益に該当しますが、生前贈与については、「婚姻、養子縁組のための贈与」と「生計の資本としての贈与」に限り特別受益に該当します。
特別受益の詳しい解説は、特別受益をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

本題の評価基準日の話に入ります。
この特別受益に該当した生前贈与財産につき、いつの時点の時価を採用するかですが、想定できるのは下記3つでしょうか。

□贈与時
□死亡時
□遺産分割時

諸説ありますが、現状の実務では死亡時の時価を採用します。

しかし、この説だと不条理なケースも想定できます。
例えば、会社経営者の父から非上場株式1億円の生前贈与を長男が受けました。
その後経営を父から譲り受けた長男は二代目社長として会社を成長させて非上場株式の時価を10億円にしました。
父が亡くなったときに相続財産に持ち戻す特別受益は1億ではなく10億なのです。長男からしたら不条理ですよね。

また、生前贈与を受けた財産が死亡時に減価しているケースもあります。
建物なんて最たるものです。贈与時に2,000万円の賃貸アパートが死亡時には減価償却によって200万円になっているケースもあります。
その場合でも200万円で相続財産に持ち戻します。賃貸アパートの贈与を受けた相続人がとても得をしますよね。

このような不条理な状況であっても現状の実務では死亡時の時価を採用することとなっています。もちろん、相続人全員の合意があれば別の時点の時価を採用することも出来るでしょう。

遺留分算定上の生前贈与財産の評価基準日

評価時点

相続開始時(死亡時)

解説

遺留分侵害額請求がされたときはその侵害額を算定する必要があります。
遺留分侵害額を算定する上で相続人以外に対する生前贈与や相続人対する特別受益に該当する生前贈与がある場合には、遺留分算定基礎財産位その生前贈与財産の金額を加算します。
その生前贈与財産につき、いつの時点の時価を採用するかですが、想定できるのは下記4つでしょうか。

□贈与時
□死亡時
□遺留分確定時
□遺産分支払時

諸説ありますが、現状の実務では死亡時の時価を採用します。

遺留分に関する詳しい説明は、遺留分とは? わかりやすく徹底解説!を参照してください。

また、遺留分侵害額請求がされている場合の相続税申告の詳しい説明は、遺留分侵害額請求がされている場合の相続税申告をパターン別に徹底解説を参照してください。

遺留分の民法特例である固定合意があった場合の遺留分算定上の生前贈与財産の評価基準日

評価時点

贈与時

解説

平成20年5月に成立した「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「円滑化法」)は中小企業の事業承継を支援すべき、①税制支援(事業承継税制)、②金融支援、③遺留分の民法特例という主に3つの新たな制度を定めています。
この中で③の遺留分の民法特例というのが評価時点に関する制度なのです。
前述の通り、本来ならば遺留分侵害額請求がされた場合の遺留分基礎財産算定上の生前贈与財産の時価は相続開始時点で評価することとなっています。
しかし、事前に一定の手続きを経ることにより生前贈与財産の時価を贈与時の時価で計算することが出来るのです。
それを固定合意といいます。

詳しくは、中小企業庁HPを参照してください。

相続税申告の3年以内生前贈与加算財産の評価基準日

評価時点

贈与時

解説

相続又は遺贈により財産を取得した者※が亡くなる前3年間の間に被相続人から生前贈与を受けていた場合にはその生前贈与財産は相続財産に加算されます。
※相続人に限りませんし、相続人であっても財産を取得していなければ加算の対象にはなりません。

この生前贈与財産の評価基準日は贈与時となります。民法の特別受益や遺留分の場合とは異なるので注意しましょう。

3年以内の生前贈与加算について詳しく知りたい人は、相続開始前3年以内の贈与加算 パターン別に徹底解説!を参照してください。

相続税申告の相続時精算課税贈与財産の評価基準日

評価時点

贈与時

解説

相続時精算課税制度により贈与を受けた場合には、その生前贈与財産を相続財産に加算しなければなりません。
この場合も3年以内生前贈与加算同様、贈与時の時価で相続財産に加算することになります。
相続時精算課税について詳しく知りたい人は、国税庁HPを参照してください。

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この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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