【小規模宅地の特例】更正の請求ができるパターンとできないパターン

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小規模宅地の特例

10秒でわかる この記事の要約

  • 小規模宅地の特例には申告要件(措置法69条の4第7項)があり、原則として更正の請求では適用できない
  • 例外は、未分割申告で所定の書類を出し、分割確定から4ヶ月以内に請求するケースのみ
  • 分割見込書の失念は宥恕の余地があるが、承認申請書の失念や4ヶ月の徒過は救済されない
  • 当初申告で適用しなかった土地への追加適用や、有利な宅地への選択替えは認められない
  • 更正の請求では選択替えできないが、修正申告になる場合は選択替えが可能

小規模宅地の特例は、最大80%もの減額ができる強力な特例です。
しかし「申告のあとで気づいても、更正の請求でやり直せばいい」と考えていると、取り返しがつかないことがあります。
この特例には申告要件があり、更正の請求では原則として適用できないからです。

本記事では、相続税専門の税理士が、小規模宅地の特例について更正の請求が「できるパターン」と「できないパターン」を、実務でよくある8つのケースに分けて整理します。
当初申告の段階で何に気をつければよいかが分かります。

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小規模宅地の特例は、原則として更正の請求では適用できない

はじめに、結論の前提となる「申告要件」を押さえておきます。

小規模宅地の特例は、租税特別措置法第69条の4第7項において、相続税の申告書に特例を受ける旨を記載し、計算明細書などを添付した場合に限って適用すると定められています。
この第7項の対象は「当初申告(期限内申告)・期限後申告・修正申告」であり、更正の請求は含まれていません。
そのため、いったん特例を適用せずに申告してしまうと、あとから更正の請求で特例を上乗せすることは、原則としてできないのです。

特例そのものの要件や計算方法は、小規模宅地等の特例とは?最大80%減額の要件と計算方法【税理士が図解で解説】で詳しく解説しています。
更正の請求という制度の全体像は、【更正の請求とは?】制度の趣旨・改正の経緯をわかりやすく解説をご参照ください。

例外的に更正の請求が認められるのは、次のチャートのとおり限られた場面だけです。

小規模宅地の特例で更正の請求ができるかの判定図(できる・宥恕・できないの整理)

8つのケース早見表

本記事で解説する8つのケースの結論を、先に一覧で示します。

ケース 可否 ポイント
1. 未分割申告後、適正に手続き できる 分割見込書・承認申請書を提出し、分割確定から4ヶ月以内に請求
2. 分割確定から4ヶ月超で請求 できない 4ヶ月の期限を徒過。配偶者の税額軽減なら5年以内で可
3. 分割見込書の添付を失念 原則不可 やむを得ない事情があれば宥恕の余地(措置法69条の4第8項)
4. 承認申請書の提出を失念 できない 宥恕規定がなく救済されない
5. 遺贈で取得した土地に未適用 できない 取得者が確定済の土地は当初申告で適用しないと機を逸する
6. 遺留分侵害額請求に伴う取得 できない 代物弁済による原始取得のため対象外
7. 適用可→適用可の選択替え できない 計算誤りがなく更正の請求の要件を満たさない
8. 適用不可→適用可の選択替え できない 更正の請求では不可。ただし修正申告になる場合は適用可

1.未分割申告後、適正に手続きしている場合

【概要】
当初申告において遺産分割が確定しておらず未分割申告とした場合に、遺産分割確定後4ヶ月以内に更正の請求をしたときは、その更正の請求時に小規模宅地の特例の適用は認められますか。

【回答】
小規模宅地の特例の適用は可能です。

【解説】
当初申告において申告期限後3年以内の分割見込書(以下「分割見込書」)を添付し、かつ、申告期限から3年以内に分割が固まらない場合には遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書(以下「承認申請書」)を提出して承認を得た場合に限り、小規模宅地の特例の適用が可能です。
すなわち、適正に手続きをしている場合にのみ、例外的に更正の請求でも特例の適用ができるということです。
これは相続税法32条による更正の請求であり、計算誤りを正す通常の更正の請求とは根拠が異なります。
未分割申告そのものの進め方は、【相続税】申告期限までに遺産分割が決まらない場合の未分割申告もあわせてご覧ください。

2.分割確定から4ヶ月以内に更正の請求をしなかった場合

【概要】
当初申告において未分割申告をして、その4年後に遺産分割が確定したため更正の請求をしましたが、遺産分割確定から6ヶ月経過していました。
この場合に、その更正の請求時に小規模宅地の特例の適用は可能ですか。承認申請書の手続きは適正にしています。

【回答】
小規模宅地の特例の適用はできません。

【解説】
分割確定日から4ヶ月以内に更正の請求をした場合のみ、例外的に小規模宅地の特例の適用を認めていますので、その期限を徒過した場合には適用はできません。
なお、配偶者の税額軽減については、この4ヶ月という期限を徒過したとしても、相続税の申告期限から5年以内であれば更正の請求が可能です。
似たような特例なのに小規模宅地の特例はダメで配偶者の税額軽減は認められるのは、小規模宅地の特例の適用が措置法69条の4第7項で原則として期限内申告・期限後申告・修正申告に限定されているためです。
配偶者の税額軽減にはこのような限定がない(相続税法19条の2第3項参照)ため、4ヶ月を過ぎた更正の請求であっても適用が可能となるのです。
こちらの相続税法基本通達32-2にも記載があるので参照してみてください。

かつて、ある国税OB税理士が、配偶者の税額軽減と同様に小規模宅地の特例も5年以内なら分割確定後4ヶ月を経過しても更正の請求ができる、という趣旨の説明を研修会でしていました。
しかし、下記の公表裁決事例が出てからは、そのようなことも言わなくなったようです。
国税不服審判所 令和3年6月22日裁決

3.分割見込書の添付を忘れた場合

【概要】
未分割の当初申告書に分割見込書を添付しないで申告書を提出してしまいました。
その後3年以内に分割が確定し、更正の請求をする際に小規模宅地の特例の適用は可能ですか。

【回答】
原則として小規模宅地の特例の適用はできません。

【解説】
未分割申告書を提出する場合に分割見込書の添付を失念したときは、原則として小規模宅地の特例の適用を受けることはできません。
ただし、その添付がなかったことについてやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、適用できる可能性があります。
分割見込書を忘れた場合には、租税特別措置法第69条の4第8項において宥恕規定が用意されているためです。
もっとも、やむを得ない事情がなければ発動されませんので、ただの失念程度では宥恕規定は適用されないと考えられます。

4.承認申請書の提出を忘れた場合

【概要】
未分割申告をした後、3年を経過しても遺産分割が固まらない場合には、その3年経過後2ヶ月以内に承認申請書を税務署に提出し、その承認を受けなければならないとのことですが、その承認申請書の提出を忘れてしまいました。
なんとかなりませんか。

【回答】
小規模宅地の特例の適用はできません。

【解説】
承認申請書の提出に関しては、宥恕規定(税務署長がやむを得ない事情があると認める場合に緩やかに考えてもらえる規定)が設けられていません。
そのため、提出を失念した場合には、どうあがいても小規模宅地の特例の適用はできません。
分割見込書には宥恕の余地があるのに対し、承認申請書にはそれがない、という違いに注意が必要です。

5.遺贈により取得した土地について小規模宅地の特例をしなかった場合

【概要】
父が「長男に自宅の土地と建物を相続させる」旨のみの遺言を残して死亡しました。
父は自宅以外に貸駐車場も所有していましたが、こちらは長女と長男で遺産分割が確定していないため未分割として申告しています。
自宅については、当初申告で小規模宅地の特例の適用をせず、すべての遺産分割が固まった後の更正の請求時に、貸駐車場と合わせて小規模宅地の特例を適用しようと考えていました。
この場合に、遺産分割確定後の更正の請求時に自宅について小規模宅地の特例の適用は可能ですか。

【回答】
自宅については小規模宅地の特例の適用はできません。

【解説】
何度も解説しているように、小規模宅地の特例には申告要件が存在します。
当初申告において自宅は長男が相続することが決まっており、未分割財産には該当しないため、当初申告の時に小規模宅地の特例を適用しなければ機を逸してしまいます。
なお、当初申告で未分割財産とした貸駐車場については、更正の請求時に小規模宅地の特例の適用が可能です。
同じ相続でも、取得者が確定している土地と未分割の土地で取扱いが分かれる点がポイントです。

6.遺留分侵害額請求に伴う更正の請求の場合

【概要】
被相続人である父は、すべての土地を長男に、その他の財産を次男に相続させる旨の遺言を残して死亡しました。
その遺言に基づいて長男および次男は相続税申告書を期限内に提出しています。土地評価合計が5億円、その他の財産評価合計が5,000万円程度です。
長男が相続した土地にはA土地(特定居住用宅地)とB土地(貸付事業用宅地)があり、いずれも小規模宅地の特例の要件を満たしています。長男は当初申告においてA土地につき小規模宅地の特例を適用しています。
この場合に、次男が遺留分侵害額請求をし、金銭の代物弁済としてB土地を取得したときは、次男はB土地につき小規模宅地の特例の適用は可能でしょうか。

【回答】
小規模宅地の特例の適用はできません。

【解説】
遺留分侵害額請求があった場合には、遺留分権利者は原則として遺留分侵害額につき金銭で交付を受けることになります。
ただし、受遺者との話し合いで金銭以外により遺留分侵害額の交付を受けることも、実務上は想定されます。
その場合、交付を受けた財産は代物弁済により受けた財産となり、今回の相続とは別取引として原始的に取得したことになるため、小規模宅地等の特例は適用できません。
詳細は、国税庁 質疑応答事例 遺留分侵害額の請求に伴い取得した宅地に係る小規模宅地等の特例の適用の可否をご参照ください。
遺留分の基本は遺留分とは?割合・計算方法・侵害額請求を税理士がわかりやすく解説、相続税申告の実務は遺留分侵害額請求がされている場合の相続税申告をパターン別に徹底解説で解説しています。

7.適用可能な宅地から適用可能な宅地へ選択替えをする場合

【概要】
当初申告においてA宅地について小規模宅地の特例を適用していましたが、申告期限後にB宅地の方が有利であることに気付きました。
更正の請求は可能ですか。

【回答】
小規模宅地の特例の適用(選択替え)はできません。

【解説】
当初申告に計算誤りはありませんので、国税通則法第23条(更正の請求)の要件を満たしません。
したがって、有利な宅地への選択替えを求める更正の請求は認められません。
この点は裁判でも確認されており、東京地裁令和6年1月25日判決は、当初申告で選択した宅地から別の宅地への選択替えを求める更正の請求は「特例の適用を拡大することを求めるもの」であり、国税通則法23条1項の更正の請求の事由に当たらないとして、納税者の請求を退けています。
通常の更正の請求の要件は、国税通則法23条1項の更正の請求(通常の更正の請求)をわかりやすく解説もご参照ください。

8.適用不可能な宅地から適用可能な宅地へ選択替えをする場合

【概要】
当初申告においてC宅地について小規模宅地の特例を適用していましたが、申告期限後にC宅地は特例の要件を満たさないことが判明しました。
C宅地の替わりにD宅地を適用すると相続税が減少することになりました。
この場合に更正の請求は可能ですか。

【回答】
更正の請求による小規模宅地の特例の適用はできません。

【解説】
小規模宅地の特例は、上記1に掲げる更正の請求(相続税法32条による更正の請求が認められるケース)以外の更正の請求では認められていません。
措置法69条の4第7項で、当初申告・期限後申告・修正申告に限定されているためです。
したがって、当初申告に計算誤りがあって国税通則法の更正の請求が認められるような状況であったとしても、小規模宅地の特例の適用はできないため、結果的に更正の請求ができないのです。
ただし、措置法69条の4第8項の宥恕規定により、税務署長がやむを得ない事情があると認めた場合には、更正の請求ができる可能性があります。

ここで実務上の重要なポイントがあります。
C宅地からD宅地に選択替えをした場合に、小規模宅地の特例の適用額が減少して修正申告になるときは、D宅地に対する小規模宅地の特例の適用は可能です。
更正の請求のときは適用できませんが、修正申告になる場合には適用可能なのです。
同じ「申告のやり直し」でも、税額が減る方向(更正の請求)と増える方向(修正申告)で結論が逆になります。

更正の請求と修正申告で小規模宅地の選択替えの可否が逆になることを示す図

なお、C宅地からD宅地への選択替えで更正の請求になるということは、当初申告において有利選択を誤っていたということです。
そもそも当初申告の段階で正しい有利判定をしておくことが、何より重要だといえます。
選択替えそのものの可否は、小規模宅地の特例 選択換えができる場合、できない場合でもケース別に整理しています。

よくある質問

Q1.期限後申告でも小規模宅地の特例は使えますか?
A.使えます。
措置法69条の4第7項の対象には、期限内申告書だけでなく期限後申告書・修正申告書も含まれているためです。
ただし、申告書をまったく提出していない(無申告の)場合は、第8項の宥恕規定により、税務署長がやむを得ない事情を認めたときに限り適用できます。

Q2.自分で申告して小規模宅地の特例を適用し忘れました。あとから更正の請求で適用できますか?
A.原則としてできません。
申告要件を満たしていないためで、宥恕規定も「やむを得ない事情」が必要となり、単なる適用忘れでは認められないのが通常です。
だからこそ、提出前に特例の適用漏れがないかを確認することが大切です。
自分で申告する場合の注意点は相続税申告は自分でできるがデメリット大!申告手続きの手順を税理士が解説で解説しています。

Q3.土地を過大に評価していた場合は、更正の請求で相続税を取り戻せますか?
A.取り戻せる可能性があります。
これは特例の「選択替え」ではなく、当初申告の評価額の誤り(計算誤り)を正すものなので、国税通則法23条1項の更正の請求の対象になります。
適用済みの宅地の評価額が下がれば、課税価格の再計算により相続税が還付されることがあります。
土地の評価見直しによる還付は払いすぎた相続税は戻る|相続税還付の条件と手続きを相続専門税理士が解説をご覧ください。

Q4.更正の請求が認められた場合、相続税はどのように還付されますか?
A.更正の請求書を提出すると、税務署の審査を経て、認められれば減額更正が行われ、還付加算金を付して相続税が還付されます。
審査にかかる期間は事案によって異なります。
手続きの詳細は【更正の請求とは?】制度の趣旨・改正の経緯をわかりやすく解説をご参照ください。

Q5.遺産分割が終わっていない段階で、先に小規模宅地の特例を適用して申告できますか?
A.できません。
小規模宅地の特例は、その宅地を誰が取得するかが確定していないと適用要件を判定できないため、未分割の宅地には適用できません。
いったん法定相続分で取得したものとして申告し、分割見込書を添付しておき、後日分割が確定したときに更正の請求で適用します(前記ケース1)。
分割見込書の書き方は「申告期限後3年以内の分割見込書」の書き方で解説しています。

まとめ

小規模宅地の特例には申告要件があり、更正の請求では原則として適用できません。
更正の請求でやり直せる例外は、未分割申告で分割見込書・承認申請書を適正に提出し、分割確定から4ヶ月以内に請求するケースに限られます。
それ以外の「適用し忘れ」や「有利な宅地への選択替え」は、計算誤りがあっても認められないのが原則です。

つまり、最大80%減額という大きな効果を確実に受けるためには、当初申告の段階で正しく有利判定をして適用しておくことがすべてです。
判断に少しでも迷う場合は、申告期限内に相続税に強い税理士へ相談することをおすすめします。
東京・新宿・横浜の税理士法人トゥモローズでは、小規模宅地の特例の有利判定や、提出済み申告のセカンドオピニオンにも対応しています。





【小規模宅地の特例】更正の請求ができるパターンとできないパターンの写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属 
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は350件。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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