老人ホーム入居者が亡くなった場合の相続税申告

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相続税申告

老人ホーム入居中に亡くなる人が年々増加しています。
私も実務をやっていると3件に1件くらいは、亡くなった人が老人ホームに入居していました。

今回は老人ホーム入居者が亡くなった場合の相続税申告の論点を網羅的、縦断的に解説します。

老人ホーム入居者が亡くなった場合の相続税申告上重要な論点は下記の通りです。

1. 入居一時金
2. 利用料の債務控除
3. 小規模宅地の特例

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1. 入居一時金

入居一時金が誰を負担したかによって税金の取り扱いが異なります。
想定できるのは下記2つの場合です。

(1)入居者と入居一時金負担者が同じ場合
(2)入居者と入居一時金負担者が異なる場合

(1)入居者と入居一時金負担者が同じ場合

入居者と入居一時金負担者が同じであれば難しいことはありません。

入居一時金の全部又は一部が相続開始時に相続人等に返還される場合にはその返還金について相続税がかかるだけです。
入居一時金返還金の評価額としては実際に相続人等に返還された金額を相続財産に計上すれば終わりです。

なお、蛇足になりますが、入居一時金返還金の受取人が相続人以外の場合に厄介な取り扱いになっていた時期がありました。
現在の実務では、入居一時金返還金は本来の相続財産となるため入居一時金の受取人が相続人以外の場合でも問題は生じません。
せっかくなので、簡単に経緯を説明します。
興味のない人は、本コラムのメインテーマである「(2)入居者と入居一時金負担者が異なる場合」まで読み飛ばしてしまって大丈夫です。

厄介な取り扱いになる原因となった裁決が、国税不服審判所 平成25年2月12日裁決です。
念のため、裁決要旨を転載しておきます。

国税不服審判所 平成25年2月12日裁決

請求人は、被相続人の死亡に伴い請求人の弟に支払われた被相続人が入居していた老人ホームの入居一時金に係る返還金は相続税の課税対象とはならない旨主張する。しかしながら、請求人の弟は、被相続人が死亡時の老人ホームの入居一時金に係る返還金受取人であり、その入居契約により、受益者として、入居者である被相続人の死亡を停止条件として当該ホーム設置会社に対して直接、入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利を取得したものであるところ、この取得原因についてみると、本件における入居契約の内容のみをもって、被相続人と請求人の弟との間に入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利を贈与する旨の死因贈与契約が成立していたと認めることはできないし、その他当審判所の調査の結果によっても、相続開始時より前に、当該当事者間でその旨の死因贈与契約が成立していた事実や、被相続人がその旨の遺言をしていた事実を認めることはできないものの、入居一時金の原資は被相続人の定期預金の一部であると認められることからすれば、実質的にみて、請求人の弟は、第三者(請求人の弟)のためにする契約を含む入居契約により、相続開始時に、被相続人に対価を支払うことなく、同人から入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利に相当する金額の経済的利益を享受したというべきである。したがって、請求人の弟は、当該経済的利益を受けた時、すなわち、相続開始時における当該利益の価額に相当する金額を被相続人から贈与により取得したものとみなす(相続税法第9条)のが相当である。そして、請求人の弟は、被相続人から相続により他の財産を取得していることから、被相続人から贈与により取得したものとみなされる当該利益の価額は、相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項の規定により、当該他の財産に加算され、相続税の課税対象となる。

こちらの裁決はある意味革新的な内容であり、私自身も初めてみたとき関心した記憶があります。
すごーく簡単に内容を説明すると
老人ホームの入居一時金の返還金は被相続人(契約者)から受取人に対する相続開始日におけるみなし贈与である
という裁決内容でした。
すなわち、受取人が相続人であれば相続開始前3年以内贈与として相続税の課税価格を構成しますが、相続人以外(正確には相続又は遺贈により財産を取得した者以外)の場合には、相続税ではなく多額の贈与税がかかってしまうのです。また、生命保険のように受取人固有の財産と考えるため遺産分割の対象とならないこととなります。

当時、実際に私の担当している案件で相続人以外が入居一時金返還金の受取人になっているものがあって、この裁決のせいで相当頭を悩ませました。
何故かと言うと、その入居一時金返還金が2,000万円くらいあったからです。それ以外の相続財産は5,000万円くらいしかなく小規模宅地の特例を使えば相続税がほぼかからないという案件でした。
入居一時金返還金が相続人以外の受取人が取得すると考えると贈与税が700万円くらいかかってしまうのです。
私はクライアントに誠実にリスク等を説明してこの入居一時金返還金を相続人以外へのみなし贈与ではなく相続財産に含めて相続税申告をしました。
この案件はその後税務調査にも入られることはなかったです。

画期的な裁決ではありましたが、上記の通り、実務上あまりにも酷な状況になり得るパターンもあるため私は当時リスクをクライアントに説明の上、当該裁決事例の課税方法(みなし贈与)を採用しませんでした。

その後、この裁決が訴訟に発展して東京地裁平成27年7月2日判決、東京高裁平28年1月13日判決を経て、最終的には上記裁決のような「みなし贈与」という結論ではなく「本来の相続財産」として整理されることとなりました。

したがって、現在の相続実務上は、単純に相続開始後に実際に返還された入居一時金を相続財産として課税価格に算入すれば良いこととなります。もちろん、本来の相続財産に該当するため遺産分割の対象となります。

(2)入居者と入居一時金負担者が異なる場合

例えば、妻が老人ホーム入居する際に夫の預金から入居一時金を負担するケースなどです。
実務上はよくありますよね。

ただ、このように入居者と入居一時金負担者が異なる場合には思わぬ課税の負担が生じる可能性もあるため注意が必要なのです。

①入居時の課税関係

老人ホームの契約や事例により下記の2通りの課税関係が考えられます。

ア. 入居一時金負担者から入居者へのみなし贈与
イ. 入居一時金負担者の財産

ア. 入居一時金負担者から入居者へのみなし贈与

この考え方の場合には入居者に多額の贈与税が課税される可能性があります。
なお、過去の裁決事例でも判断が分かれており、老人ホームの入居一時金は扶養義務者相互間の生活費の贈与だから贈与税は非課税であると判断したものもあれば、通常の生活費を超えているから贈与税の対象だと判断した事例もあります。

老人ホームの入居一時金が贈与税非課税の生活費に該当するか否かは下記項目を総合的に考慮して判断することになります。

□入居者が要介護状態となり自宅での介護が困難であるため老人ホームに入居することになったのかどうか
□入居者に老人ホームの入居一時金を負担する資力がないかどうか
□老人ホームへの入居は自宅での介護を伴う生活費の負担に代わるもの相当であるかどうか
□老人ホームは介護の目的を超えた贅沢な施設ではなく自宅での生活状況と同程度かどうか

上記判断基準の根拠となった具体的な過去の裁決事例を確認していきましょう。

【贈与税が非課税とされた事例】
老人ホームの入居一時金は、日常生活に必要な生活費の範囲内と判断された事例です。
ちなみに、本件裁決事例の入居一時金は約900万円でした。

国税不服審判所平成22年11月19日裁決

原処分庁は、本件被相続人の配偶者(本件配偶者)が介護付有料老人ホーム(本件老人ホーム)へ入居する際の入居金(本件入居金)を本件被相続人が支払ったことについて、本件入居金のうち定額償却部分については、生活保持義務の履行のための前払金的性格を有するものであり、本件配偶者はその履行に係る役務提供を受けていない部分について返還義務があるから、本件被相続人は本件配偶者に対して金銭債権を有している旨主張する。しかしながら、本件配偶者は、本件被相続人が本件入居金を支払ったことにより、本件老人ホームに入居し介護サービスを受けることができることになったところ、本件配偶者には本件入居金を一時に支払うに足る資産がないこと等にかんがみれば、本件入居金は、本件被相続人がこれを支払い、本件配偶者に返済を求めることはしないというのが、本件被相続人及び本件配偶者間の合理的意思であると認められるから、本件入居金支払時に、両者間で、本件入居金相当額の金銭の贈与があったと認めるのが相当である。加えて、本件配偶者は高齢かつ要介護状態にあり被相続人による自宅での介護が困難になり、介護施設に入居する必要に迫られ本件老人ホームに入居したこと、本件入居金を一時に支払う必要があったこと、本件配偶者には本件入居金を一時に支払う金銭を有していなかったため本件被相続人が代わりに支払ったこと、本件被相続人にとって本件入居金を負担して本件老人ホームに本件配偶者を入居させたことは、自宅における介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であると認められること及び本件老人ホームは本件配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであったことが認められることからすれば、本件入居金相当額の金銭の贈与は、本件においては、介護を必要とする本件配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるものであると解するのが相当である。したがって、本件入居金相当額の金銭は、相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号に規定する贈与税の非課税財産に当たるから、その贈与が本件相続の開始前3年以内に行われているとしても、同法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》の規定が適用されるものでもない。

【贈与税が課税された事例】
日常生活に必要な生活費とは認められず贈与税の非課税範囲には含まれないとの判断された事例です。
ちなみに、本件裁決事例の入居一時金は1億円以上であり、超富裕層向けの老人ホームでした。

国税不服審判所平成23年6月10日裁決

請求人は、請求人及び本件被相続人が本件相続開始の約2か月半前に入居した老人ホーム(本件老人ホーム)の入居金(本件入居金)を本件被相続人が支払ったことについて、本件入居金の性質は終身利用権の対価であり、請求人は本件被相続人から終身利用権を死因贈与により取得したことになるところ、終身利用権は一身専属権であるから贈与税の対象とはならず、したがって本件相続税において、相続開始前3年以内の贈与として課税価格に加算されない旨主張する。しかしながら、本件被相続人は、自らに支払義務のない請求人に係る入居金のうちの一部に相当する金額を支払ったものであり、これによって請求人は、入居金全額の支払によって初めて取得することのできる施設利用権を、低廉な支出によって取得したものと認められることからすると、請求人は著しく低い対価で本件老人ホームの施設利用権に相当する経済的利益を享受したものということができ、本件被相続人と請求人との間に実質的に利益の移転があったことは明らかであるから、相続税法第9条により、請求人は、その利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を本件被相続人から贈与により取得したものとみなすのが相当である。なお、本件入居金は極めて高額であり、請求人に係る居室面積も広く、本件老人ホームの施設の状況等をかんがみれば、本件老人ホームの施設利用権の取得のための金員は、社会通念上、日常生活に必要な住の費用であるとは認められないから、相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号の規定する「生活費」には該当せず、贈与税の非課税財産に該当しない。したがって、贈与により取得したものとみなされた金額は、相続開始前3年以内の贈与として本件相続税の課税価格に加算されることとなる。

イ. 入居一時金負担者の財産

この考え方の場合には贈与税の課税関係は生じません。
入居一時金負担者の相続時に返還金を相続財産に計上すれば終わりです。

この考え方の根拠となっている裁決事例は下記となります。

国税不服審判所平成18年11月29日裁決

請求人らは、有料老人ホームに夫婦で入居していた被相続人が相続時点で有していた権利は、①有料老人ホームの施設を終身利用できる権利であって、入居一時金、追加入居一時金及び健康管理費(以下「入居一時金等」という。)の返還請求権ではないこと、②当該返還請求権は、終身利用権が消滅して初めて発生するものであるから、終身利用権に返還請求権が内包しているとは解されないこと、③終身利用権は、民法上の一身専属権であることなどから、被相続人が有料老人ホーム入居時に支払った入居一時金等に関する返還金及び返還見込額は、相続税法第2条に規定する本来の相続財産に該当しない旨主張する。 しかしながら、有料老人ホーム入居契約(以下「本件契約」という)の内容等によれば、被相続人及びその妻(以下「被相続人ら」という。)は、契約締結日時点において、今後、契約に定める有料老人ホームの居室等を終身にわたって利用し、各種サービスを享受する権利とともに、被相続人らの死亡又は解約権の行使を停止条件とする金銭債権を有していると認められ、当該金銭債権は、金銭に見積もることができる経済的価値のある権利であり、身分法上の権利とも性質を異にするから、一身専属的権利ということはできない。  そして、被相続人が死亡したことにより、本件契約に基づき生じる入居一時金等に関する金銭債権の一部は、被相続人に係る相続財産であり、被相続人の妻は、被相続人が死亡したことにより、死亡時点で当該金員を本件契約の内容等により取得したと認めるのが相当であるから、請求人らの主張は採用できない。

②相続時の課税関係

上記①アの考え方であれば、相続開始前3年(改正後は7年)以内の贈与だと相続財産を構成します。
贈与税を納めていれば贈与税額控除の適用もあります。
詳しい解説は、生前贈与がある場合の相続税申告をご参照ください。

上記①イの考え方であれば、前述の通り、相続開始時の返還金相当額を入居一時金負担者の相続財産に加算すれば大丈夫です。

2. 利用料の債務控除

こちらについては何も難しい論点はなく、相続開始後に支払った被相続人に係る老人ホームの利用料が相続財産からマイナスできる(債務控除)というだけです。

なお、相続開始に支払った利用料のうち医療費控除の対象となるものは被相続人の準確定申告で所得税を減額できます。
また、相続開始に支払った利用料のうち医療費控除の対象となるものは被相続人の生計一親族の所得税を減額できます。
すなわち、相続開始に支払った利用料は相続税(債務控除)と相続人の所得税(医療費控除)のダブルで節税効果があるのです。

債務控除をもう少し詳しく知りたい人は、相続税申告 債務控除一覧 注意点を含めて解説!を是非御覧ください。

3. 小規模宅地の特例

亡くなった人が住んでいた土地について、一定の要件を満たす場合には、その土地の評価額を80%オフできる特例があります。
それを小規模宅地の特例といいます。
それでは、老人ホームに入居後に亡くなってしまった人が元々住んでいた土地について小規模宅地の特例は適用できるのでしょうか?

結論としては、老人ホームに入居していたとしても下記の要件を満たす場合には小規模宅地の特例が適用可能です。

① 被相続人が亡くなる直前において要介護認定等を受けていたこと
② 被相続人が「老人福祉法等に規定する老人ホーム」に入居していたこと
③ 被相続人が住んでいた建物を老人ホーム入居後に『事業の用』又は『「被相続人」、「被相続人の生計一親族」、「老人ホーム入居直前に被相続人と生計を一にし、かつ、その建物に引き続き居住している被相続人の親族」以外の居住の用』に供さないこと

この論点の詳しい内容は、小規模宅地の特例 老人ホーム論点をパターン別に徹底解説!を参照してください。

また、相続税申告には直接関係ないですが、老人ホームに入居していた場合のその他の税金の論点は下記コラムをご参照ください。
【空き家の3,000万円控除】と【小規模宅地の特例】の要件を徹底比較
相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除(空き家特例)を徹底解説

老人ホーム入居者が亡くなった場合の相続税申告の写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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