特別受益の持ち戻し免除をわかりやすく徹底解説

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名義財産・生前贈与

相続法

みなさんこんにちは!
相続専門の税理士法人トゥモローズの角田です。

特別受益があった場合でも遺言者がその特別受益を考慮しないでほしいと意思表示をすれば持戻し免除をすることができます。
また、特別受益の持戻し免除の意思表示をしなくても配偶者に対する一定の居住用財産の贈与の場合にはその意思表示があったものと推定します。
今回は特別受益の持ち戻し免除についてわかりやすく徹底解説します。

特別受益についての詳しい解説は、特別受益をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

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特別受益の持ち戻し免除とは?

特別受益の持ち戻し免除とは、遺言者(被相続人)が、特定の相続人に財産を多く分け与えたい場合に、過去の贈与や遺贈を加味しないで残った遺産だけを遺産分割の対象としてねと相続人にお願いすることです。
なお、特別受益の詳しい解説は、特別受益をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

そもそも特別受益の制度は、相続人間で公平な遺産分割をしてもらうために、過去の贈与や遺贈もすべて含めた上で遺産分割協議をすべきことを要請するものとなっています。
これに対し、特別受益の持ち戻し免除は、相続人間の公平ではなく、遺言者の意思を尊重するために設けられた制度です。
したがって、特別受益と持ち戻し免除は相反する制度なのです。

特別受益で相続人間の公平を担保し、持ち戻し免除で遺言者の意思を尊重する。
矛盾している制度が隣り合って成り立っています。
要するに法定相続よりも遺言相続が優先されるということです。

なお、特別受益の持ち戻し免除には、下記の2種類あります。

①持ち戻し免除の意思表示
②持ち戻し免除の意思表示の推定規定

①持ち戻し免除の意思表示とは、遺言者が持ち戻し免除してくださいと遺言等に意思表示することです。
②持ち戻し免除の意思表示の推定規定とは、遺言者は持ち戻し免除の意思表示はしていないけども、配偶者に対する一定の居住用財産の贈与があった場合には、持ち戻し免除の意思表示をしていなくてもその意思表示があったものと推定して持ち戻し免除をすることです。

念のため、民法条文を認してみしょう。専門家以外の人は読み飛ばしてください。

民法第903条(特別受益者の相続分)

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

第3項が「持ち戻し免除の意思表示」です。
第4項が「持ち戻し免除の意思表示の推定規定」です。

以下に順番に解説していきます。

持ち戻し免除の意思表示

過去の贈与等の持ち戻しを免除するとは具体的にどのような手続きを経ればよいのでしょうか?

持ち戻し免除の意思表示の方式に制限はありません。
遺言書のように形式的な要件があるものではないのです。

一般的に持ち戻し免除の意思表示の方法には下記の二つがあります。

□明示の意思表示
□黙示の意思表示

□明示の意思表示

明示の意思表示とは、被相続人が特定の贈与について、持戻しを免除するという書面を作成して残しておけば大丈夫です。
この書面についてはどんな書面でも大丈夫です。

贈与契約書でも遺言書でもそれ以外の書面でも大丈夫です。

実務上は、遺言書に生前贈与財産を特定し、その財産を贈与した旨と持ち戻し免除をする旨を記載しておくケースが多いです。

また、遺言書の本文ではなく付言事項に持ち戻し免除の記載をすることもできます。

以上のことから明示の意思表示がされている場合に持ち戻し免除を争点として争われることはあまりありません。
実務上は、次の黙示の意思表示について持ち戻し免除の意思表示があったかどうかで争いになります。

□黙示の意思表示

持ち戻し免除の意思表示は、書面で残すことが要件とはされていません。
したがって、書面で残っていない黙示の意思表示であっても持ち戻し免除が認められることもあります。

持ち戻し免除の意思表示は実務上、書面で残されていないことがほとんどです。

黙示の意思表示があったかどうかの判定が非常に難しいのです。

「贈与に至った経緯や動機」
「被相続人と受贈者の関係」
「被相続人と他の相続人の関係」
等を総合的に判断して黙示の意思表示があったかどうか判断します。

持ち戻し免除の意思表示の推定規定

平成30年の相続法改正により、持ち戻し免除の意思表示の推定規定が設けられました。
具体的な要件は下記の通りです。

①婚姻期間が20年以上
②受贈者は配偶者
③居住用の建物又は土地の遺贈又は贈与

すなわち、20年以上連れ添った配偶者に居住用不動産を贈与したとしてもその贈与は遺産分割時に加味しないで配偶者固有の財産と整理して遺産分割をしてくださいという規定です。

平成30年の相続法改正では、残された配偶者を保護する規定がいくつか新設されました。
その一つが配偶者居住権、そして、この持ち戻し免除の意思表示の推定規定です。

この規定は、贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)の規定とよく似ています。
両者の制度を比較したコラムは、「居住用不動産の持戻し免除の意思表示」と「贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)」の異同点を徹底解説をご参照ください。

持ち戻し免除と遺留分の関係

被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていたと認められたとしても遺留分算定の基礎財産には当該特別受益を含めなければなりません。
つまり、持ち戻し免除意思表示は遺留分には対抗できないのです。

平成30年相続法改正前の持ち戻し免除の意思表示の条文は下記の通りでした。

民法第903条第3項

被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

旧条文では、「遺留分に関する規定に違反しない範囲内」となっています。
すなわち、いくら持ち戻し免除の意思表示をしていたとしても遺留分には勝てないのです。
新法では当該文言が削除されていますが、遺留分の金銭債権化による文言削除であり、解釈に変わりはなく改正後も従前同様遺留分の規定が優先します。

最後に特別受益と遺留分の異同点については、下記をご参照ください。

遺留分 特別受益
主な登場場面 遺言があるとき 遺言がないとき
割合 遺留分割合
(原則法定相続分の半分)
法定相続分
特別受益の持戻免除 不可 可能
特別受益財産の評価時点 相続開始時点 相続開始時点
特別受益の期間制限 相続人⇒相続開始前10年
相続人以外⇒相続開始前1年
期間制限なし
過去の贈与をすべて持ち戻す

遺留分について詳しく知りたい人は、遺留分 わかりやすく徹底解説!をご参照ください。

特別受益の持ち戻し免除をわかりやすく徹底解説の写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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