これで完璧!海外居住の方が日本の相続不動産を売却する方法・注意点
「海外に居住しながら日本で相続した不動産を売却することは出来るのだろうか」
「海外居住者特有の手続き上や税金上の注意点はあるのだろうか」
「海外にいながらも条件よく売却するためにはどうすれば良いのだろうか」
あなたは日本国内で相続した不動産の売却について、このような事に不安を感じているのではないでしょうか?
海外居住者の方が日本国内で相続した不動産を売却する場合、通常とは異なる手続き方法や、税金上の論点があります。
それらを間違えると、余計な手間がかかったり、税金を軽減する特例が適用出来なくなったりします。
また、海外居住者の方の不動産売買に慣れていないエージェントに依頼すると、スムーズに売買手続きが進められなかったり、場合によっては買主とのトラブルに発展することもあります。
信頼のおけるエージェントに出会えれば一番良いですが、信頼できるかどうか判断するにも、売却方法や流れ、税務面や手続き上の論点はご自身でもしっかりと抑えておくべきです。
この記事を読むことで、海外に居住しながらも日本で相続した不動産を「ミスなく」「極力手間も掛けることなく」、売却することが出来るようになると思います。是非お役立てください。
目次
1.海外に居住しながら日本で相続した不動産を売却することは可能か
海外に居住しながら、日本で相続した不動産を売却することは可能です。更に言うと、一度も日本に来ることなく、売却することが可能です。
なお、本記事では海外居住者=非居住者として解説しております。
非居住者とは、「海外在住歴が1年以上の方」や「海外に1年以上在住する予定で日本国を出国した方」が主に該当します。
2.海外居住者が日本で相続した不動産を売却する7つのステップ
2-1.相続人及び相続財産の調査を行う
①調査は専門家に依頼しましょう
相続が発生した場合、「相続人が誰か」及び「相続財産は何か」を調査する必要があります。調査方法としては、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本を集めたり、不動産・預貯金・有価証券・FX・仮想通貨等、遺産となりうるものがどれだけあるか、正確に調べる必要があります。手続きも複雑であり、調査が正しく行えなかった時のリスクを考えると、専門家に依頼してしまった方が良いでしょう。
以下、各専門家が対応できる分野をまとめました。
税理士 | 弁護士 | 行政書士 | 司法書士 | |
相続人の調査 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続財産の調査 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
不動産の相続登記 | × | △ | × | 〇 |
相続税申告 | 〇 | △ | × | × |
〇→対応も可能であり、日常的に行っている
△→対応は可能だが、日常的に行っているケースはほとんど無い
✕→対応不可である
②相続税申告が必要な場合は税理士に依頼しましょう
相続税申告において、弁護士も法律上取り扱いは可能ですが、実務的には税理士が行っているケースがほとんどです。また、税理士は税金取り扱いのプロです。相続税を軽減できる特例の活用等、納税者にとって最も有利な申告方法をコンサルティングしてもらえます。余計な税負担を発生させないよう、相続税の申告が必要な場合は税理士に依頼しましょう。
③不動産の相続登記(名義変更)が必要な場合は司法書士に依頼しましょう
こちらも、弁護士も法律上取り扱いは出来るのですが、実務的には司法書士が行っているケースがほとんどです。相続登記手続きは複雑で必要書類等も多いので、登記のプロである司法書士に依頼しましょう。
④相続人間で紛争等が起こっている場合は弁護士に依頼しましょう
相続人間で紛争等が起こっている場合については、各専門家の中でも弁護士だけにしか対応出来ないことがあります。既に紛争等が起こっている場合はもちろん、これから起こりそうな場合は、弁護士に依頼する必要があります。
■専門家依頼時のワンポイントアドバイス■
相続税申告が必要な場合は、まず税理士を探しましょう。
専門家と言えども、得意・不得意分野があります。特に相続税については、対応する税理士のレベルによって、税金額が変わったり、追徴課税等のリスクをどれだけ軽減出来るかが変わる可能性があります。また、専門家同士は横のつながりも広いので、依頼する税理士が決まったら、その税理士から、相続に詳しい司法書士や弁護士を紹介してもらうようにすると、間違いないでしょう。
2-2.相続登記(名義変更)を行う
司法書士に依頼し、相続登記(名義変更)を行います。
司法書士の指示に従い、必要書類を収集し司法書士に発送したら、後は司法書士が手続きを進めてくれます。
司法書士に依頼することで、一般的には10万円前後の司法書士報酬が掛かりますが、負担の軽減や手続きのミス等により発生するリスクを考えると、依頼してしまった方が良いでしょう。
2-3.不動産会社に売却を依頼する
①不動産会社に依頼する時は、相続不動産及び海外居住者の取り扱いに長けている会社に任せましょう。
但し、1社1社話を聞いて判断するのでは手間もかかるので、冒頭で相続財産の調査等を依頼した専門家
から、紹介してもらうようにすると良いでしょう。
②2社を競わせるようにして高値を追求しましょう
不動産会社は特定の1社のみに売却依頼するのではなく、2社に声を掛けることがお薦めです。そうすることで、2社が競い合うように高値を追求することが出来ます。なお、ポイントは2社であることです。これが3社・4社と増えると、初めから成約を諦めて販売活動に時間も労力も割かない会社が出てきます。高値追及が難しくなる可能性が高くなりますので、2社に依頼するのがお薦めです。
③販売活動や現地案内時の注意点
・売却機会を損失しないように、物件の鍵は不動産会社に預け、対応を任せましょう
・室内に遺品等が多く残っている場合、販売活動開始前に片づけるかそのままにするべきかは、室内の状態や購入ターゲットが個人か法人か等でも異なります。不動産会社に確認して進めましょう。
2-4.代理人に手続きを委任する
①代理人に手続きを委任するとは
日本に在住している個人や法人を代理人とし、売買契約等の手続きを委任する方法です。代理人に委任をすることで、一度も日本に行くことなく、売買契約等の手続きが出来るようになります。
②誰を代理人にするべきか
原則、親族関係の方に委任することを推奨しています。お願い出来る人がいない場合は、司法書士や弁護士、またはそれら士族のグループ内でコンサルティング会社等があれば、そういったところにお願いしても良いでしょう。取引の安全性を担保するため、出来る限り関係性のある人を選ぶようにし、利益相反関係にあたるような方は避けるべきです。
③委任する際の手続き方法
誰を代理人にするかが決まったら、以下書類を用意します。
・署名証明書(サイン証明書)
・写真付き身分証明書の写し
そして、不動産会社から所定の委任状を送ってもらい、署名した後、上記書類と合わせて不動産会社に提出頂くだけで委任の手続きは完了です。
2-5.売買契約の締結
①売買契約当日の流れ
不動産会社の事務所等に、代理人・買主・仲介会社担当者が集まり、以下1~5の流れで手続きします。
1.重要事項説明
2.売買契約書説明
3.各書類署名捺印
4.手付金授受・領収証手交
5.解散
その後遅滞なく、代理人が受領した手付金を名義人様の指定口座に送金してもらいます。
②売買契約書類は必ず事前確認しましょう
代理人の行った効果は原則本人に帰属します。そのため、手続きは代理人が行っているとはいえ、何かあった場合はご本人様が対応する必要が出てきます。想定外のリスクを被ることの無いよう、契約書類は事前に必ず確認し、不明な点は不動産会社に確認しましょう。
■売買契約におけるワンポイントアドバイス■
以下事項を契約内容に定めるとリスク回避に繋がるので、盛り込むようにしましょう。
・契約不適合責任の免責・・・瑕疵や欠陥が発覚しても売主は保証責任を負わないとする内容
・買主が源泉徴収する旨の特約(該当する場合)・・・売主が非居住者であるため買主において源泉徴収の対応が必要であるといった内容(詳細は4章1で解説)
・室内遺品関係の取り扱いについて定める
2-6.決済引渡し
①決済引渡し当日の流れ
買主指定の場所(一般的には購入資金の借入先銀行)に、代理人・買主・不動産会社担当者・司法書士が一堂に会し、以下1~5の流れで手続きします。
1. 司法書士による登記必要書類の確認
2. 融資実行
3. 残代金等の支払い
4. 着金確認
5. 解散(解散後、司法書士が登記申請を行う)
その後遅滞なく、代理人が受領した残代金等を名義人様の指定口座に送金してもらいます。
お金の流れは【買主→代理人→名義人】となります。
2-7.確定申告
決済・引渡し後の翌年(2月16日~3月15日)に原則、確定申告を行う必要があります。
この手続きを行うには【納税管理人】を選任する必要があります。納税管理人とは、簡単に言うとご本人様の代わりに納税の手続きを行う者です。
この納税管理人は個人でも法人でも構いません。出来れば、今回の取引で関わった税理士を選任すると間違いないでしょう。
3.売却時必要書類一覧
相続登記から不動産売却完了(決済引渡し)までにおいて、売主様がご用意するべき書類は以下の通りです。
【日本国籍の場合】
・在留証明書1通
・署名証明書(サイン証明書)1通
・写真付身分証明書(パスポート等)
・司法書士所定の委任状等
・不動産会社所定の委任状等
【外国籍の場合】
・在留証明書1通
・署名証明書(サイン証明書)1通
・宣誓供述書1通
・写真付身分証明書(パスポート等)
・司法書士所定の委任状等
・不動産会社所定の委任状等
在留証明書、署名証明書、宣誓供述書は、相続登記時に各書類原本1通ずつを司法書士に提出します。ここで提出した原本は還付を受けられますので、それをそのまま不動産売買時に流用出来ます。
司法書士や不動産会社所定の委任状については、メールでもらい、印刷したものに署名し郵送で返送いただくといった流れになります。
なお、遺産分割協議を行う際には別途「在留証明書」及び「署名証明書」の原本が1通ずつ追加で必要になります。
何度も取得しに行くのも大変だと思いますので、一度にまとめて取得出来るよう、依頼する専門家に確認しましょう。
4.海外居住者特有の税務上注意4つ
海外居住者が日本国の不動産を売却する場合、税務上4つの注意点があります。余計な負担やトラブルを回避するため、事前に確認しておきましょう。
4-1.非居住者に該当し、特定の取引を行う場合には源泉徴収が発生する
①源泉徴収とは
買主から売主に手付金や残代金等を支払う度に、支払う金額に対して10.21%に相当する額を、支払った日の翌月10日までに買主が税務署に納付することです。
②源泉徴収が発生する場合の取引要件
下記いずれか1つでも該当する場合は源泉徴収が発生します。
・買主が法人である
・買主本人(または親族)居住用ではない
・売買価格が1億円を超える(固定資産税等清算金も含みます)
4-2.仲介手数料に消費税はかからない
非居住者の方が不動産会社に支払う仲介手数料に消費税はかかりません。これは税法における「輸出免税」という取引に該当するためです。知らずに消費税を請求する不動産会社も多いと聞きますので、ご注意ください。
4-3.契約書に貼付する印紙税はかからないケースもあるが現実的ではない
印紙税は負担するものと考えておいた方が良いでしょう。厳密に言うと、売買契約書の署名等が海外で完了した場合、印紙税の負担は不要(印紙の貼付義務なし)とされています。つまり、日本にいる買主が先に売買契約書に署名等をし、海外に発送→海外で売主が署名等をした場合は印紙税の負担はかかりません。
但し、実務的にはスケジュール的な問題や買主の意向、万が一の郵送トラブル等を考慮し、そのような対応は見受けられません。やはり、代理人を選任し手続きを委任する方法が良いでしょう。
4-4.相続不動産売却時、適用可能か検討するべき税金特例2つ
特例名称 | 概要 | 詳細説明URL |
空き家の3,000万円特別控除 | 相続した空き家を売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除することが出来る特例 | 相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除(空き家特例)を徹底解説 |
相続税の取得費加算の特例 | 相続した不動産を売却した場合、かかった相続税の一部を取得費に加算し、譲渡税を軽減できる特例 | 相続税の取得費加算の特例をわかりやすく徹底解説 |
※上記は重複適用が不可となっています。
5.海外居住者特有の取引上注意点3つ
次に、見落としがちな3つの取引上の注意点について解説します。手続きをスムーズに進めるためにも予め確認しておきましょう。
5-1.売買代金(手付金・残代金)の着金確認方法
買主→代理人に売買代金の支払いがあり、代理人が着金確認をすれば売買取引自体はそこで成立します。
そのあと、代理人→売主に受領していた売買代金を送金します。代理人から売主への送金は、日本国内の銀行口座でも、海外口座を指定しても構いません。
なお、海外口座を指定される場合は、主に以下情報を代理人に伝える必要があります。
①銀行名
②支店名
③支店住所
④ルーティングナンバー
⑤アカウントナンバー
⑥SWIFTコード
着金確認に数日を要することが一般的です。
5-2.3,000万円超の取引には日本銀行への報告が必要になる
①送金者からの報告
海外送金が3,000万円を超える場合、送金者から「支払又は支払の受領に関する報告書」という書類を日本銀行に提出する必要があります。実際には送金元となる銀行に当該報告書を提出し、送金元の銀行から日本銀行に提出といった流れになります。こちらは送金日から10日以内の手続きが必要です。
②買主からの報告
取引額が3,000万円を超える場合、買主からも「支払又は支払の受領に関する報告書」を日本銀行に提出する必要があります。こちらは取引完了日の翌月20日までの手続き期限となります。
具体的な手続き内容等につきましては日本銀行の電話窓口【03-3277-1382】にご確認ください。
5-3.固定資産税やマンション管理費等の請求先を変更しておく
固定資産税や、相続不動産がマンションの場合はマンションの管理費等について、請求先を変更する手続きが必要です。固定資産税の支払いやマンション管理費等の支払いが滞ると売買取引に支障が出ることもあります。固定資産税については相続不動産が存する市区町村役場、マンション管理費等についてはマンション管理会社に問い合わせを行いましょう。
6.まとめ
海外居住者の方が日本で相続した不動産を売却する場合の流れや注意点等について解説しました。
「海外居住者であること」、「相続不動産であること」によって、手続きが複雑化し、通常の売買に比べて注意点が多くなります。余計な費用負担が発生したり、買主とのトラブルに巻き込まれることの無いように、まずは相続税に精通した税理士を探し、そのうえで海外居住者の不動産売買に長けている不動産会社を探しましょう。信頼して任せられるパートナーを見つけることが一番の成功への近道です。
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相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
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