贈与契約書の書き方完全ガイド|作成メリットから注意点までを徹底解説


- 贈与契約書は贈与の証拠となり、税務調査対策や家族間トラブル防止に役立つ
- 書面による贈与は契約書締結日に成立し、原則として撤回できなくなる
- 贈与契約書には贈与者・受贈者の情報、贈与財産、贈与日などを明記する
- 年間110万円を超える贈与には贈与税の申告が必要
- 贈与成立後は受贈者が自由に管理できる状態にすることが重要
目次
贈与契約書とは?作成する目的と必要性
贈与契約書とは、ある財産を無償で譲り渡す「贈与」という行為を書面化した契約書です。
民法第549条では、贈与について「当事者の一方がある財産権を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」と定められています。
つまり、贈与は「あげます」と言って「ありがとう、もらいます」と答えるだけで成立する契約なのです。
しかし、口頭だけの贈与契約は後々トラブルの原因になることがあります。
贈与契約書を作成する主な目的は以下の3つです。
民法第550条では「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない」と規定されています。
すなわち、口頭による贈与は、実際に財産を渡す前であれば撤回できるのに対し、書面による贈与は契約書を作成した時点で原則として撤回できなくなるという大きな違いがあります。
贈与契約書を作成することで、贈与者の意思を明確にし、後日のトラブルを防止できるのです。
贈与の成立時期 – パターン別の解説
贈与の成立時期は贈与税の申告時期を判断する上で重要です。
贈与の方法や財産の種類によって、成立時期は以下のように異なります。
贈与の方法 | 成立時期 |
口頭による贈与 | 贈与実行時(財産の引渡し時) |
書面による贈与(原則) | 贈与契約書締結時 |
書面による贈与(例外:不動産など) | 登記時 |
停止条件付贈与 | 条件成就時 |
農地の贈与 | 農業委員会等の許可時 |
口頭による贈与
口頭による贈与は、贈与者と受贈者の合意があっても、実際に贈与対象物を引き渡す前は撤回できます。
例えば「この車をあげるよ」「ありがとう」と言っただけでは、まだ車を引き渡していなければ撤回可能です。
したがって、口頭による贈与の成立時期は実際に財産を渡した「贈与実行時」となります。
書面による贈与(原則)
書面による贈与の場合、贈与契約書を締結した日が贈与成立日となります。
例えば、9月30日に「10月5日に100万円を贈与する」という契約書を作成した場合、贈与成立日は9月30日です。
これは、書面による贈与は契約書締結後に撤回できないためです。
書面による贈与(例外)
不動産などの登記・登録が必要な財産については、例外的に登記または登録された時に贈与が成立したと認定される可能性もあります。
贈与税の時効を成立させる悪質な事例が過去にあったことから念のため例外として記載しています。
贈与税の時効についての詳しい解説は、贈与税の時効は6年! 申告が必要な場合には速やかに期限後申告を!をご参照ください。
贈与成立時期のより詳しい解説は、贈与の成立時期はいつなのか? パターン別に徹底解説!をご参照ください。
贈与契約書の作成で得られる4つのメリット
贈与契約書を作成することで、以下の4つのメリットが得られます。
1. 贈与の撤回ができなくなる
前述の通り、書面による贈与は契約締結後に撤回できません。
そのため、受贈者は確実に贈与を受けられるというメリットがあります。
2. 贈与の証拠となる
贈与契約書は、贈与が適正に行われたことを証明する重要な証拠となります。
特に税務署の税務調査における「名義預金」の指摘に対抗する際に役立ちます。
名義預金についての詳しい解説は、名義預金は相続税の対象?!判断基準や対策、遺産分割協議書の書き方など徹底解説をご参照ください。
3. 相続トラブルを防止できる
将来の相続時に、「実は生前に多額の資産を贈与していた」といった事実が判明すると、相続人間でトラブルになることがあります。
贈与契約書があれば、いつ、どのような財産を、いくら贈与したかが明確になり、相続人間のトラブル防止につながります。
4. 税務調査への対策になる
相続税の税務調査では、故人から生前に受け取った資金の流れが厳しくチェックされます。
贈与契約書があれば、不明な資金移動について「適正な贈与だった」と主張できます。
贈与税の申告漏れについての詳しい解説は、贈与税の申告漏れ 税務署にばれる理由と怖いペナルティをご参照ください。
贈与契約書の書き方 – 6つのポイント
贈与契約書を作成する際の重要なポイントを6つ紹介します。
1. 贈与者・受贈者の情報
契約書の冒頭に、贈与者(財産を与える人)と受贈者(財産を受け取る人)の氏名・住所を明記します。
通常は以下のような文言で始まります。
2. 贈与財産の詳細
贈与する財産の内容を具体的に記載します。
現金の場合は金額を、不動産の場合は所在地・地番・地目・地積(建物なら種類・構造・床面積)などを明記します。
3. 贈与の条件
条件付きの贈与の場合は、その条件を明確に記載します。
例えば「結婚した場合に贈与する」といった停止条件付贈与の場合、その条件を明記します。
4. 贈与の時期
贈与財産をいつ引き渡すかを明記します。
例えば「令和○年○月○日までに、乙が指定する銀行預金口座に振り込む」といった形で記載します。
5. 署名捺印
贈与契約書の末尾に、贈与者と受贈者が自筆で署名し、押印します。
印鑑は認印でも構いませんが、できれば実印を使用するとより信頼性が高まります。
未成年者への贈与の場合は、受贈者の親権者も署名捺印します。
6. 収入印紙
現金や預金の贈与の場合、収入印紙は不要です。
不動産の贈与の場合、金額の記載がなければ200円の収入印紙を貼付します。
金額を記載する場合は、その金額に応じた収入印紙が必要です。
贈与契約書のひな形・テンプレート
以下に、現金贈与と不動産贈与の基本的な贈与契約書のひな形を紹介します。
現金贈与の契約書例
贈与契約書
贈与者○○○○(以下「甲」という)は、受贈者○○○○(以下「乙」という)と、下記条項により贈与契約を締結する。
記
第1条 甲は、現金○○○万円を乙に贈与するものとし、乙はこれを承諾した。
第2条 甲は、第1条に基づき贈与した現金を、令和○年○月○日までに、乙が指定する銀行預金口座に振り込むものとする。
この契約を締結する証として、この証書2通を作成し、甲乙双方が記名捺印のうえ、各1通を保有するものとする。
令和○年○月○日
(甲)住所 ○○○○○○○○○○
氏名 ○○○○ 印
(乙)住所 ○○○○○○○○○○
氏名 ○○○○ 印
不動産贈与の契約書例
贈与契約書
贈与者○○○○(以下「甲」という)と、受贈者○○○○(以下「乙」という)は、以下の通り贈与契約を締結した。
第1条 甲は、乙に対し、甲の所有する下記の不動産(以下「本件不動産」という)を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。
(土地)
所在 ○○県○○市○○
地番 ○番○号
地目 宅地
地積 ○○.○○㎡
第2条 甲は、令和○年○月○日までに、本件不動産を乙に引き渡し、また、その所有権移転登記を行う。所有権移転登記手続に要する一切の費用は乙の負担とする。
第3条 本件不動産に係る公租公課は、所有権移転登記の日までに相当する部分は甲の負担とし、その翌日以降に相当する部分は乙の負担とする。
以上を証するため、甲及び乙は、本書を2部作成し、記名、押印のうえ、各1部を保有する。
令和○年○月○日
甲 ○○県○○市○○○○
○○○○ 印
乙 ○○県○○市○○○○
○○○○ 印
未成年者への贈与の場合
未成年者が受贈者の場合、親権者が法定代理人として契約に関与する必要があります。
未成年者が受贈者の場合、以下のいずれかの方法で対応します。
未成年者本人が署名できない場合:親権者が「○○○○ 法定代理人 ○○○○」と署名押印する
未成年者への贈与についての詳しい解説は、乳児・幼児、認知症の人の贈与契約って有効!?をご参照ください。
名義預金と認定されない生前贈与の方法
相続税の税務調査では、生前の資金移動が「名義預金」として否認されることがあります。
名義預金とは、形式上は子や孫の名義となっている預金でも、実質的には親や祖父母が管理・支配している預金のことです。
名義預金と認定されないための4つのポイントを紹介します。
1. 贈与契約書の作成
贈与契約の内容を明確にした贈与契約書を作成しましょう。
契約書には贈与金額、贈与の方法、贈与契約日などを明記し、贈与者と受贈者が自署・押印します。
2. 贈与の実行
贈与契約に基づいて、実際に財産を引き渡す必要があります。
金銭贈与の場合は、現金ではなく預金振込など客観的な記録が残る方法で行うことをお勧めします。
3. 贈与後の管理支配
贈与後は、受贈者が贈与された財産を自由に管理・支配できる状態にすることが重要です。
贈与者が引き続き贈与財産を管理し続けると、名義預金と認定されるリスクが高まります。
実務上のアドバイスとしては、受贈者が普段から使用している既存の普通預金口座に振り込むのが最も安全です。
4. 贈与税の申告
年間110万円を超える贈与を受けた場合は、翌年の3月15日までに贈与税の申告が必要です。
贈与税の申告をすることで、贈与の事実を税務署に伝えることになり、名義預金と認定されるリスクを低減できます。
贈与契約書に関するQ&A
贈与契約書はいつまでに作成すべき?
贈与契約書は、贈与を行う前に作成するのが理想的です。しかし、贈与後に作成することも可能です。ただし、税務調査などでは「後付けで作成されたのではないか」という疑いを持たれるリスクがあるため、できるだけ贈与と同時に作成しましょう。
未成年者への贈与は有効?
未成年者へも有効に贈与できます。その場合、未成年者の法定代理人(通常は親権者)が未成年者に代わって贈与契約を結びます。10歳くらいまでの子どもは一般的に意思能力がないと考えられるため、親権者が代理で契約する必要があります。
認知症の人から贈与を受けることはできる?
認知症患者からの贈与は、原則として難しいと考えるべきです。認知症患者は法律行為が制限されており、贈与という法律行為も有効に成立しない可能性があります。認知症の症状には個人差があるため個別判断が必要ですが、リスクを避けるなら認知症と診断される前に贈与を完了させておくことをお勧めします。
贈与契約書に電子データを使える?
民法の2017年改正では、贈与契約書の「書面」には電子データは含まれないと整理されています。保証契約や消費貸借契約では電子データでもよいことが明記されていますが、贈与契約では書面であることが要求されます。そのため、紙の契約書を作成し、署名・押印することをお勧めします。
贈与税の時効は?
贈与税の時効は原則として6年です。つまり、贈与税の申告期限(贈与を受けた年の翌年3月15日)から6年経過すれば、税務署から贈与税を請求されることはなくなります。ただし、贈与税がかかることを知りながら故意に申告しなかった場合は、時効が7年に延長されます。
まとめ
贈与契約書は、贈与の事実と内容を明確にする重要な書類です。
書面による贈与は契約書締結時に成立し、撤回できなくなるという特徴があります。
贈与契約書を作成することで、贈与の証拠となり、税務調査対策や家族間トラブルの防止に役立ちます。
贈与契約書の作成時には、以下の点に注意しましょう。
また、贈与後は受贈者が自由に財産を管理できる状態にすることが重要です。
贈与者が引き続き管理し続けると、「名義預金」として否認されるリスクがあります。
年間110万円を超える贈与を受けた場合は、翌年の3月15日までに贈与税の申告が必要です。
適切な贈与契約書を作成し、贈与を実行することで、円滑な財産移転と税務リスクの低減を実現しましょう。
相続税の申告手続き、トゥモローズにお任せください

相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
税理士法人トゥモローズでは、豊富な申告実績を持った相続専門の税理士が、お客様のご都合に合わせた適切な申告手続きを行います。
初回面談は無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。
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